第4のシナリオとロックダウンの課題~コロナウィルスのデータサイエンス(その38)

アジア・オセアニアの謎

世界のデータを見ていると、中東より東のアジアとオセアニア(以下アジア・オセアニア)の感染者数、感染率は、発生源の中国に近いにも関わらず、少なくなっています。現在、封じこめに成功したとする中国、台湾、ニュージーランドだけで、この地域にあります。

感染者数の違いを説明する要因の候補には次があります。

気温が高いとウィルスが弱体化する。

人種的に、ウィルスのかかりやすさや死亡率に差がある。

しかし、この地域は、気温や人種が様々で、こうした要因では説明できません。

アジア・オセアニアの封じ込めに成功していない国でも、欧米より感染率は低いのです。

しかし、その原因は不明です。

シナリオ分析

つぎに、前回のシナリオを復習します。

明示されてはいませんが、コロナウィルス対策が、終了するのはワクチンが接種できる場合と集団免疫ができる場合だけです。ワクチンができるまでは1年以上かかります。集団免疫ができる場合には、発生する患者数を抑えないと医療崩壊になってしまいます。

いすれにしても、1年間の間の感染を制御して拡大をゼロにするか速度を抑えること課題になります。

これに対する対策シナリオは2つしかありません。

  1. 鎖国状態にして海外からウィルスが侵入するのを防ぐ。仮に、ウィルスが国内に入ってもロックダウンや経路追跡で排除する。

  2. 国内のウィルスを排除できない場合には、ロックダウンなどで、人の接触を制御して、感染拡大速度を制御する。

国内のウィルスを排除できない状態とは、経路不明の感染者を排除できない状態のことです。つまり、日本政府は「鎖国状態にして海外からウィルスが侵入するのを防ぐ。」シナリオ1に失敗してしまったので、シナリオ2しか残されていないことになります。

欧米は、シナリオ1にに失敗してしまったので、社会的コストの大きなシナリオ2が選択されています。

シナリオ1が成功した国は、中国、台湾、ニュージーランドで、韓国もはいるかもしれません。こうして国でもロックダウンが行われていますが、その目的は、経路不明の感染者を排除することであって、感染拡大速度を制御することではありません。この場合のロックダウンは経路不明感染者がゼロになった時点で解除が可能です。

シナリオ1の場合には、ワクチンができるまで、とにかく1年我慢することになりますが、鎖国状態で経済が持つのかはよくわかりません。

シナリオ2の場合には、ロックダウンの目的が、感染拡大速度を制御にあります。ドイツは、ロックダウンの解除に動き出していますが、これは、「感染拡大速度が制御」できているということを言っています。ここでは、感染者が毎日発生することは織り込み済みです。現在、シナリオ2でロックダウンを解除している場合には、感染者の比率がかなり高くなっています。つまり、抗体をもっていて、ロックダウンを解除しても、感染しないと人の割合が高くなってからのロックダウンの解除になります。

第2のシナリオで、日本がロックダウン解除できる状態を考えると、感染速度は医療崩壊が起きない程度に抑えることができたとしても、感染しないと人の割合が高くなるまで、感染者を徐々に増やしていかなければならないです。そうすると、第2、第3のロックダウンを繰り返さなければならなくなります。これは壊滅的なシナリオです。ですから、日本が欧米に順じたロックダウンを中心としたシナリオ2をとれば、経済が崩壊してしまうことが帰結として得られます。

そこで、これ以外のシナリオを探索しなければなりません。

シナリオ3:根拠は全くありませんが、ロックダウンが可能になる最大感染率が欧米より低いという仮定を設けます。つまり、最大感染率が10%未満、例えば、5%でロックアウト解除しても、感染がそれ以上拡大しないというシナリオです。これは、言い換えれば、第1回のロックダウンを行って解除すれば、原因は不明であるが感染拡大は非常に緩やかなままにとどまっていることを意味します。これは、冷静に考えればありえないと思いますが、現在の日本のロックダウン政策が破綻しないシナリオはこれしかないと思います。

さて、シナリオ1,2,3には現在のデータが政策決定に使えるという暗黙の前提があります。どうして、理不尽なシナリオ3がでてくるのかといえば、アジア・オセアニアの封じ込めに成功していない国でも、欧米より感染率は低いことに根拠があります。つまり、現在のデータでは、アジア・オセアニアの封じ込めに成功していない国でも、欧米より感染率は低いことが説明できないのです。

このブログの視点はデータサイエンスであると申し上げました。

以下は推理小説のような展開です。犯人は、アジア・オセアニアの封じ込めに成功していない国でも、欧米より感染率は低い犯罪を犯しました。証言は、データが示す通りです。ここで、誰かが嘘をついている(どれかのデータが信頼できない)と考えないと、犯人が見つからないのではないでしょうか。

つまり、第4のシナリオは、間違ったデータを修正して、政策決定を行うことになります。

データの信頼性分析は多様で、第4のシナリオは複数の分岐するかもしれません。ここでは、これ以上は深入りしません。

ロックダウンの課題

最後に、ロックダウンの問題点だけは指摘しておきたいと思います。

日本では、ロックダウンでシナリオ1を選択することはもはやできません。そうするとロックダウンの目的は、感染拡大速度を制御することになります。

ロックダウンには、純正のロックダウンと似非ロックダウンがあります。

  • 純正ロックダウン:経済活動を一旦停止で、人の接触を極端に減らして、感染拡大の速度を急激に下げる。または、感染をゼロにする。

  • 似非ロックダウン:ロックダウンとは名ばかりで、基本的には、通常の経済活動をできるだけ維持したまま、人の接触を減らす。感染拡大を抑える効果は低いが、経済的なダメージは小さい。

日本の社会は、死亡に対するトレランスが非常に低いです。死体の写真を目にすることはありません。

日本では、ウィルスで死者が出ると、組織はそれなりの対応を迫られます。マスコミは、毎日、ウィルスで死者が出ると大騒ぎします。しかし、ドイツでロックダウンを解除している場合の死者の数は4月24日から27日でも100人を超えています。同時期の日本の死者は20人以下です。人口は日本の方が多いのです。日本は、死者数でみれば、ロックダウンが必要なほど深刻ではありません。死者数や感染者数が余り小さいときにロックダウンをかけると「オオカミ少年」効果が発生するリスクが高まります。

ここで考えるべきは、似非ロックダウンではないでしょうか。社会はどうしても死者を受け入れがたいのであれば、万難を排してシナリオ1をとるべきです。しかし、そのチャンスは失われてしまったと思います。だとすれば、感染拡大速度の制御しか残されていません。この場合には、ある程度の死者数は容認することになります。その場合、現在の死者数では、似非ロックダウンで十分と思われます。死者数が欧米並みに増えれば、その時に純正ロックダウンに切り替えるべきです。純正ロックダウンは経済に大きなダメージを与えますから、基本は1回しか使えない政策と思います。専門家会議や政府は、現在のロックダウンにシナリオ1を期待していないでしょうか。この点に不安がのこります。

一番悪いロックダウンは、経済面では純正ロックダウンで、感染拡大の抑制効果は、似非ロックダウンになる場合です。これは、経済にも、感染予防にも、大きなダメージを与えます。現状をみていると、今のロックダウンはこの方向にいっていると思われます。

追記:

記事をかいてから、よく考えたら、現在の非常事態宣言は、ロックダウンではないようです。

なので、用語の混乱があったので、一部のロックダウンを非常事態宣言と読み替えてください。

ロックダウンをするには、法改正が必要なので、

法改正は間に合わないー>日本では、非常事態宣言で海外のロックダウンの代わりをしている

と勝手に解釈していました。

ただ、非常事態宣言で既に、財政的には、大判振る舞いをしてしまったので、仮に、今後法改正して、ロックダウンをした場合の財源が持つとはとても思われません。

そのそも非常事態宣言の法律を作った際に、ロックダウンの条項が入っていないかったのであれば、何のための法改正であったかわかりません。