「因果推論の科学」と書評

パール先生は、「因果推論の科学」のHPを作っています。

 

JUDEA PEARL AND DANA MACKENZIE THE BOOK OF WHY: THE NEW SCIENCE OF CAUSE AND EFFECT

https://bayes.cs.ucla.edu/WHY/

 

ここには、正誤表がのっています。

 

しかし、驚くべきことに、「因果推論の科学」の37本の書評のリストが載っています。

 

ウィキペディアの英語版には、「因果推論の科学」の見出しがあります。

 

内容の要約が載っています。

 

ここには、37本の書評のうちの次の3本の書評に要約が載っています。

The Book of Whyはニューヨークタイムズ紙のジョナサン・ニーによってレビューされた。レビューは肯定的で、ニーはこの本を「illuminating(啓発的)」と呼んだ。しかし、彼はこの本の一部が「challenging(挑戦的)」であると述べ、「著者の方程式への愛着を共有しない読者にとって、この本は必ずしも完全に理解できるものではない」と述べた。

 

ティム・モードリンはボストン・レビュー誌でこの本を賛否両論の批評で「因果分析の最新技術の素晴らしい概要」と評した。しかし、モードリンは「因果の梯子」の別の段として「反事実」が含まれていることを批判し、「反事実は因果の主張と非常に密接に絡み合っているため、因果的に考えながら反事実的に考えないということは不可能である」と述べている。モードリンはまた、自由意志に関するセクションが「不正確で哲学文献に精通していない」と批判している。最後に彼は、パールと同様の考えを展開した数人の科学者(クラーク・グリモアを含む)の研究を指摘し、「パールはこの研究について知っていれば、文字通り何年もの労力を節約できただろう」と主張している。パールは反論の中で、当時はこの研究をよく知っていたと述べている。(注1)

 

ゾーイ・ハケットは、Chemistry World に寄稿し、The Book of Why に肯定的なレビューを与えたが、「テキストで提示された複雑な統計的問題に取り組むには、集中力と勤勉な努力が必要である」という但し書きを付けた。レビューの結論は、「この本は、科学哲学を真剣に学ぶ学生なら誰でも必読であり、学部 1 年生の統計学の授業で必読であるべき」である。

 

書評は、要約ではありません。

 

「因果推論の科学」は入門書ですが、実際には、入門書でない部分もあります。

 

筆者は、疫学を「WHOの標準疫学」で学びましたが、そこには、ヒルの基準が出てきます。もちろん、ヒルの基準は、理解不能です。しかし、教科書に書いてあることについて、間違いではと尋ねることは困難です。「因果推論の科学」には、ヒルの基準の経緯、問題点が説明されています。

 

このように、事前に学習して、疑問に思った事柄が解消される部分が多くあります。中級レベルの人にも多くの発見があります。

 

また、多くの統計用語をパール先生は定義しなおしています。この部分を読み流すと、内容が理解できなくなります。

 

上記の書評には次のように書かれています。

「著者の方程式への愛着を共有しない読者にとって、この本は必ずしも完全に理解できるものではない」

 

「テキストで提示された複雑な統計的問題に取り組むには、集中力と勤勉な努力が必要である」

 

つまり、かなり、難解です。

 

「ここ数年で一番読むのに時間がかかった」と書いている人もいます。

 

さて、37本の書評をみて、いったい、日本に書評はあるのかと思い検索してみました。

 

無料でアクセスできる部分では、書評は見つかりませんでした。

 

内容の要約、感想を書いたものばかりです。

 

感想の多くには、正しい理解と間違った理解が含まれています。

 

特に、因果モデルは主観であるという点は理解されていない場合が多いです。



「因果推論の科学」で、パール先生は、あえて、ホイッグ史観をとると宣言して、因果推論を否定する学問を、なぎ倒しています。喧嘩を売っているような本です。

 

ニューヨークタイムズ紙のニーはこの本をこの本を「illuminating(啓発的)」で、一部が「challenging(挑戦的)」であるといいます。

 

簡単に言えば、パール先生は、多くの研究者の方法論は間違いであると主張しています。

 

パール先生は、賛否両論がでることを確信して執筆しています。

 

書評には、「多くの研究者の方法論は間違いであるという主張」が触れられるはずだと、パール先生は考えていると思われます。

 

その基準でみると、日本には、書評がないように見えます。

 

注1:

パール先生の第3段階の反事実は、単数を対象にしています。

 

「反事実は因果の主張と非常に密接に絡み合っているため、因果的に考えながら反事実的に考えないということは不可能である」という指摘は、複数を対象にしているようにも見えます。RCTたルービンの反事実は、複数を対象にしています。