注:これは、ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー「因果推論の科学―「なぜ?」の問いにどう答えるか」のコメントです。
(5)エスティマンド
図1のレベル2の検討の前に、エスティマンド(Estimand)について、説明します。
1)RCTの問題
エスティマンドは、製薬の試験で問題になっています。
製薬の試験では、基本的には。RCTを使います。
RCTを使って、試験をした場合に、途中で、ドロップアウトが起こります。
指定された薬(プラシボを含む)を飲まなかった人、病気にかかって、別の薬を飲んだ人がでます。
こうしたドロップアウトが多数になると出来上がったデータは、RCTではなくなってしまいます。
そこで、ドロップアウトの処理も含めて、何をするのかを最初に記述しておく必要があります。こうした処理手続きを書いた物がエスティマンドです。問題解決の手順書になります。
この説明のエスティマンドは、非常にわかりにくいです。
2)パール先生のエスティマンド
パール先生のエスティマンドは、単純です。
パール先生は、コンピュータ科学者です。
コンピュータ科学者にとって、ある問題が理解できたという意味は、コードを書いて実装できることを指します。
エスティマンドの実体は、コードまたは、コードに展開できる数式になります。
因果推論は、基本的には、介入を伴います。介入せずに、観察研究だけで問題解決できる場合もありますが、例外です。
エスティマンドを作成してから、データを収集します。これは、前向き研究になります。
RCTで考えれば、エスティマンドは、実験計画に相当します。
例をあげます。
少子化対策問題があります。
この問題を因果推論で処理する場合を考えます。
最初に、「出生率を上げるにはどうしたらよいか」、「婚姻率を上げるにはどうしたらよいか」、「結婚年齢をさげるにはどうしたらよいか」といった問いを考えます。
この問いは、因果モデルの結果と対になります。メンタルモデルを使って、アブダクションによって、原因を推定して、因果モデルの候補を作成します。消去法によって、価値のない因果モデルを取り除きます。
この段階では、複数の原因の候補が残り、なおかつ、どの原因が、大きな影響を与えているかはわかりません。そこで、因果推論エンジンを使って、どの原因が、大きな影響を与えているかを検討します。
因果ダイアグラム(パス図)を使って、因果推論をするコードを作成します。これが、エスティマンドです。
エスティマンドが出来ない場合もありますが。エスティマンドが出来れば、あとは、データを集めれば、「どうしたらよいか」(問いの答え、推定値)得ることができます。
3)比較
3-1)政府の手順
効果がありそうな政策を実施してみるが、効果がない状態が繰り返されている。
何が効果があるかは、政策を実施してみないとわからない。
3-2)パール先生の因果推論
(ST1)政策実施に必要な問いを準備する。
(ST2)因果ダイアグラム(パス図)を作成する。
(ST3)因果推論エンジンをつかって、エスティマンドを作成する。
この時点で、解決策が得られるか、解決策がないかが、判別できています。
(ST4)前向き研究で、介入によってデータを集めます。
(ST5)エスティマインドにデータを読ませて、問いの答えを得ます。
この時点では、政策に効果があることが保証されています。
もちろん保証の強さ(確率)はデータに依存します。
(ST6)政策を実施する。
3-3)まとめ
政府の手順(レベル0)では、10年たっても、どの政策が有効かわからずに、試行錯誤を繰り返しています。
パール先生の因果推論を使えば、政策を実施する前に、政策の効果は確率として、担保されています。
因果推論ができるか否かは、国と企業の盛衰を決定します。
政策効果は、実施する前に判定しているのが、普通になります。