F値とボケ量

 

1)ボケ量の要因

 

ボケ量を決める要因は、画角、距離、F値です。

 

スタジオや結婚式場のポートレートでは、距離は、2m前後で固定です。

 

この条件では、ボケ量は、画角で決まります。

 

F値の影響は、画角より小さいので、F値の改善効果は少ないです。

 

このため、スタジオや結婚式場のポートレートでは、フルサイズセンサーのカメラを使います。

 

APS-CとMFTは、スタジオや結婚式場のポートレートのマーケットを持っていません。

 

これは、プロのカメラマンのマーケットの半分以上をしめていますので、プロ用のマーケットの半分を持っていないと考えてビジネスをする必要があります。

 

これは、クロップセンサーのカメラの性能の問題ではあません。

 

子ども寝顔を撮影するような距離では、モデルさんを撮影できないということです。

 

2)最大ボケ量

 

最大ボケ量は、F値よりも、距離で決まります。

 

換算50mmは、昔から、標準画角と言われて、単焦点レンズの最初の1本に推奨されてきました。

 

ズームレンズが普及する前には、キットレンズに採用されていました。

 

OMDSは、25㎜(換算50mm)の2種類のレンズを販売しています。

 

25mmF1.8と25㎜F1.2です。

 

プロ向けの標準ズームとしては、12-40㎜F2.8を販売しています。

 

これから、25㎜で撮影する場合には、次の3つの選択があります。

 

L1) 25mmF1.8

L2) 25mm F1.2

L3) 25mmF2.8

 

L3)は、ズームレンズを25㎜に固定して、撮影する場合です。

 

フィルム時代であれば、ズームレンズの画質が、単焦点レンズの画質の優ることは考えられませんでした。

 

MFTの場合、クロップセンサーが小さいので、レンズのサイズを大きくとれば、レンズの周辺の画質劣化は起こりにくいです。

 

また、特殊レンズの価格がさがり、特殊レンズを多用できるようになりました。

 

さらに、ミラーレスでは、電子補正が前提です。

 

その結果、12-40㎜F2.8は、フィルム時代の基準でみれば、ほぼ、欠点のないレンズに仕上がっています。

 

MFTのレンズレビューをみると、安価な単焦点レンズの画質が、高価なズームレンズの画質に劣るという評価がなされていることがあります。

 

さて、3本のレンズの最大ボケ量(被写界深度)は、以下になります。

 

    レンズ     F値   最短距離    被写界深度

L1) 25mmF1.8    1.8             25cm                    10.81mm

L2) 25mm F1.2              1.2             30cm                   10.38mm

L3) 25mmF2.8              2.8              20cm                   10.76mm

 

最大ボケ量の差は、mmオーダーで、実質は、差がありません。

 

3)マーケティングの問題

 

もちろん、最短距離でなければ、F値が効いてきます。

 

次は、1mの距離の場合です。

 

離れれば、ボケ量自体が小さく(被写界深度が大きく)なります。

 

しかし、12-40mmF2.8のズームレンズをもっていれば、40㎜の画角で撮影すれば、同じボケ量を得ることができます。

 

    レンズ     F値   距離     被写界深度

L1) 25mmF1.8    1.8             100cm                 174mm

L2) 25mm F1.2              1.2             100cm                 115mm

L3) 25mmF2.8              2.8              100cm                 237mm

L3) 40mmF2.8              2.8              100cm                 105mm

 

OMDS のビジネスモデルは、実績を反映していません。

 

F値の明るいレンズ=よいレンズ=高価なレンズ」という伝説にのっています。

 

12-40mmF2.8のズームレンズは、お化けレンズで、これで、大抵の撮影が可能です。

 

ズームレンズなので、サイズが大きくなりますが、ぞれでも、フルサイズセンサーのカメラのレンズに比べれば、とても小さいです。

 

12-40mmF2.8のズームレンズから切り替えて、25mmF1.8、または、25mm F1.2を使うメリットは、少なくなります。

 

25mmF1.8は、キットレンズにも採用していますので、ある程度は売れています。

 

OMDSのHPを見ると、入門用ズームレンズのあとで、25mmF1.8、45㎜F1.8、17mmF1.8を購入することを推奨しています。

 

これは、モデルケースのレンズ販売法です。

 

しかし、25mmF1.8、45㎜F1.8、17mmF1.8の3本を購入するお金があれば12-40mmF2.8のズームレンズが、購入できます。

 

25mmF1.8は、入門用ズームレンズよりは、良い写りをしまが、12-40mmF2.8のズームレンズより、良い写りをするとは言えません。

 

モデルケースのレンズ販売法には、無理があります。

 

価格COMの売れ筋データは、カメラ店のもので、プロやハイアマの志向を反映しています。

 

BCNランキングのデータの方が、販売実態に近いと思われます。

 

そのバイアスをいったん、無視して考えます。

 

価格COMの売れ筋データをみれば、10万円超えの単焦点レンズで売れているレンズは、超望遠のようにズームレンズでカバーできない画角に限定されます。

 

価格COMの売れ筋データにのるMFTの単焦点レンズは、6万円以下に限定されます。

 

明らかに、25mm F1.2のビジネスモデルは、破綻しています。

 

カメラメーカーがレンズのライアップを拡充しても、売れないレンズを抱えれば、カメラメーカーは、開発費が回収できなくなります。売れなければ、新製品レンズの価格が割高になり、ますます、売れなくなるという悪循環に陥ります。

 

MFTをみると、安価な入門用のカメラのランアップはなくなってしまっています。

 

これは、既に、開発経費が回収できない悪循環に陥っていることを示しています。

 

さて、話題を、25mmF1.8に戻します。

 

12-40mmF2.8のズームレンズではなく、25mmF1.8を使うメリットはあるのでしょうか。

 

OMDSは、この点を明確にしていません。

 

 

 

写真1 25mmF2.8(12-40mmF2.8)

 

写真2 25mmF2.8(25mmF1.8)

 

2枚の写真は、25㎜F2.8で撮影しています。

 

写真1が、12-40㎜F2.8のズームレンズで撮影しています。

 

写真2が、25mmF1.8の単焦点レンズで撮影しています。

 

写真1のほうが、クセのない写りです。

 

写真2のほうが、丸ボケが目立ちます。

 

つまり、丸ボケを生かした写真を撮るのであれば、25mmF1.8の単焦点レンズを、そうでなければ、12-40㎜F2.8のズームレンズを使うべきです。

 

紫陽花本体の写りについては、単焦点レンズを選択したことによる画質の改善効果はありません。

 

12-40㎜F2.8のズームレンズは、汎用レンズとして設計されています。

 

マクロも、人物も、風景も破綻せずに撮影できることを確認しながら、開発されています。

 

25mmF1.8の単焦点レンズは、ポートレートに特化されています。

 

このレンズは収差を残して設計されていて、風景を撮影することは期待されていません。

 

このような個性的な単焦点レンズには、存在価値があると思います。

 

しかし、汎用でなければ、使用できる範囲が限定されるので、市場の大きなフルサイズのポートレートを例外として、高価な単焦点レンズを作っても売れないと思われます。

 

また、メーカーは、汎用ではなく、個性的なレンズであることを宣伝すべきです。

 

OMDSは、25mmF1.8の単焦点レンズを、「ポートレートからテーブルフォト、風景までさまざまなシーンで活躍する高画質標準レンズです」と宣伝しています。

 

この宣伝は、入門ズームレンズを使っている人には、魅力がありますが、12-40㎜F2.8のズームレンズを使っている人には、購入不要というメッセージになります。

 

4)サイズの問題

 

ここまで、検討してこなかった課題に、サイズの問題があります。

 

12-40㎜F2.8に比べて、25mmF1.8の単焦点レンズびサイズをどう考えるという問題です。

 

あるいは、MFTのカメラとレンズのサイズは、どうあるべきという問題です。

 

実は、この問題は放置されています。

 

パナソニックが、2013年にUMIX DMC-GM1を発売したときには、MFTのカメラとレンズは小さいことに意義があるというメッセージでした。

 

しかし、2024年現在、このメッセージは否定されています。

 

GM1とセットで開発されたパンケーキズーム12-32㎜が生き残っていますが、MFTのパンケーキレンズ(30mm未満)は、これと20㎜F1.7の2本だけです。

 

OMDSは、パンケーキレンズを製造していません。

 

OMDSは、MFTが、フルサイズに比べて、小型軽量であると宣伝していますが、小型のカメラ本体はありません。

 

また、小型軽量を目指すのであれば、12-40㎜F2.8は、プラボディで軽くすべきです。

 

上記で比較した3本のレンズの被写界深度の最小値が、約10㎜です。

 

被写界深度がこれより浅くなると、ボケを表現に使うことが難しくなります。

 

1万円の中華レンズを購入すれば、「F値の明るいレンズ=よいレンズ=高価なレンズ」という伝説が間違いであることが確認できます。

 

写真3は、TTArtisan35mmF1.4で撮影しています。距離は28cmです。

 

この丸ボケの大きさは、25㎜F1.2より大きくなっています。

 

ここまで、ボケが大きいと表現に使うことが困難になります。

 

今後も、「F値の明るいレンズ=よいレンズ=高価なレンズ」という伝説にとらわれたカメラメーカーが行き詰まる可能性があります。

 

 

 

写真3 TTArtisan35mmF1.4(被写界深度5.37mm)