政策の評価

(なぜ政策に効果がないかを考えます)

 

こども家庭庁は2024年5月9日、こども家庭審議会の部会で、今後5年程度の子ども関連施策を盛り込んだ「こどもまんなか実行計画」の素案を示しました。

 

「こどもまんなか実行計画」を例に、政策の評価の方法を考えてみます。

 

なお、筆者は、「こどもまんなか実行計画」を、例にとりあげただけで、この計画に各段の思い入れはありません。

 

以下の議論は、企業でいえば、5年間の経営改善計画等にも、そのまま、あてはまります。

 

企業が、自社の経営改善計画を議論する場合には、実際に働いている人の雇用が、経営計画にバイアスをかけて、議論が進まないことがあります。

 

「こどもまんなか実行計画」を例に、経営計画は、どのようにあるべきかの演習をしてみることは、バイアスのない計画の立て方のトレーニングになると思います。




1)検証法



1-1)単純検証法

 

科学的な政策評価のアプローチは、評価項目を設定して、モニタリング結果をみる方法です。

 

単純検証法は、やってみて効果を計測する方法です。

 

「こどもまんなか実行計画」は、過去の政策と同じように、評価項目を明示していませんので、この方法は使えません。

 

単純検証法の問題点は、「こどもまんなか実行計画」が終了した5年後に、効果が出ていなかった場合には、手遅れになっている可能性がある点です。

 

つまり、政策の評価には、事前評価と検証法のような事後評価がありますが、事前評価がより重要な問題になります。

 

なお、事後評価は、結果主義、実績主義につながります。

 

統計学では、結果主義は、バイアスを補正しない限り使えないことになっていますので、事後評価にも問題があります。

 

読者が、パン屋さんを経営していて結果の売り上げが1年前の2倍になったとします。

 

その結果から、パン屋さんの経営戦略が良かったという結論を出すことは間違いです。

 

1年間の間にパン屋さんの間に、新幹線の駅が開業を開始して、人通りが増えれば、経営計画の変更より、新幹線の駅の効果の方が大きくなります。

 

新幹線は、目に見えますが、気温や降水量のような目に見えない環境の変化も、パンの売り上げに影響します。こうしたバイアスは、補正しないと営業計画の評価はできません。

 

2023年に、トヨタは、過去最大の売り上げを達成しました。しかし、売り上げの拡大の最大の原因は、新幹線の駅のような円安効果です。

 

ディーラーには、入荷待ちの自動車の膨大なストックがあります。自動車の国内販売は大きな問題を抱えています。円安効果を補正した経営計画の効果を分析する必要があります。

 

このような統計学的に意味のある数字がまったく出てこないことは、日本の社会に蔓延する統計学リテラシーの欠如を示しています。

 

1-2)比較検証法

 

検証法が手遅れにならないためには、複数の政策を並行して実施して、効果のある政策を抽出する方法があります。

 

新薬の開発では、複数の新薬の候補物資を並行して評価します。

 

効果の検証されていない政策を1つに絞って実施することは、新薬の開発を考えれば、無茶であると言えます。

 

2)事前評価法

 

以下では、政策の事前評価法を考えます。

 

以下の説明では、分類が重複する部分があるので、注意してください。

 

2-1)代替法

 

事後評価法の比較検証法では、評価項目を計測して比較します。

 

事前評価法の代替法では、評価項目の結果を予測して比較します。

 

この方法は、予測結果に大きな差が想定される場合にしか使えません。常に、使えるわけではありません。

 

効率法:

 

代替法の評価項目の推定では、政策の効率を考える効率法を使うことができます。

 

「こどもまんなか実行計画」では、補助金をばら撒きます。

 

代替政策を減税にとった場合、補助金の効率は、減税の半分程度と思われます。

 

補助金には、税金の徴収コスト(税務署職員の人件費)、補助金配布の事務コスト(こども家庭庁と関連部署の職員の人件費)、通信費などの事務費がかかります。

 

また、減税の場合には、受益者の事務手続きは不要ですが、補助金の受給するためには、受益者は、書類を作成する必要があります。DXの遅れは、この負担を増大させています。

 

一般に、補助金よりも、減税がはるかに効率性の高い代替政策になります。

 

増税して、補助金を増やすことは、経済を停滞させ、収入を減らして、少子化を促進します。

 

「こどもまんなか実行計画」の補助金の増額が、少子化に対して、プラスか、マイナスか評価されていない点に注意しましょう。

 

2-2)改善法

 

2013年にアベノミクスは、第3の矢として、構造改革を提示しました。

 

10年以上経ちましたが、構造改革は進んでいません。

 

構造改革が進んでいたと仮定すれば、その場合には、マイナンバーカードはなくなってスマホの処理になっていたはずです。

 

第3の矢が失敗した原因は、公式には、分析されていません。

 

第3の矢が失敗した原因を取り除く政策も実施されていません。

 

問題解決には、次が必要です。

 

政策が失敗した原因を、公式に分析します。

 

政策が失敗した原因を取り除く政策を実施します。

 

以上を、改善法と呼ぶことにします。

 

改善法は、自動車でいえば、リコールに相当します。

 

改善法を実施しないことは、自動車でいえば、不良個所があるにもかかわらず、リコールで部品を交換しないで走り続けている状態に相当します。

 

政策実施において、事故や故障が多発することは当然と言えます。

 

過去の少子化対策は失敗しています。

 

少子化対策が失敗した原因を、公式に、分析する必要があります。

 

少子化対策が失敗した原因を取り除く政策を実施する必要があります。

 

「こどもまんなか実行計画」は、改善法の条件を満たしていません。

 

2-3)動機法

 

アベノミクスの第3の矢の構造改革は失敗しました。

 

構造改革の失敗原因を、「構造改革によって利益を得る人が少なかった」と考えることが出来ます。

 

構造改革に伴い次の2種類の人が生まれます。

 

A:構造改革によって利益を得る人

 

B:構造改革によって損失を被る人

 

Aの人数をn人であると仮定すれば、各人の利益Ap(i)(1=1,..n)のベクトルを得ることができます。

 

同様に、Bの人数をm人であると仮定すれば、各人の損失Bm(i)(1=1,..m)のベクトルを得ることができます。

 

AとBの人の権力係数をAx、Bxとすれば、構造改革が実現する条件は、以下になります。

 

権力係数とは、政治的な影響の強度を表わす係数です。

 

ΣAp(i) x Ax(i) + ΣBm(i)  x Bx(i) > 0

 

年功型雇用では、Aの構造改革によって利益を得る人は、若年層になり、Bの構造改革によって損失を被る人は高齢者になります。

 

したがって、構造改革が実現する条件は、みたさず、構造改革には動機がないことになります。

 

DXの補助金は、Ap(i)、Bm(i)に影響を殆ど与えないので、構造改革が実現する条件は変わりません。

 

「こどもまんなか実行計画」についても、同様に、動機の数値化をすれば、政策評価が可能です。

 

3)まとめ

 

以上のように、合理的な政策の事前評価法を構築することは可能です。