フット投票の拡張(1/24)

(フット投票概念の拡張を考えます)

 

1)フット投票




英語版のウィキペディアは、フット投票を次のように説明しています。

 

フット投票(Foot voting)とは、活動、グループ、またはプロセスに自発的に参加したり、参加を辞退したりすることによって、自分の行動を通じて自分の好みを表現することです。特に、嫌いな状況から離れるため、またはより有益であると思われる状況に移動するための物理的な移動です。足で投票する人は「足で投票する(vote with their feet)」と言われます。

 

この概念は、ロナルド・レーガン前大統領が提唱したアメリカの州間移動(advocated migration)による地域の不満足な状況の解決策とも関連( associated with)があります。

 

徒歩投票の最も明確な例の 1 つは、フリー・ステート・プロジェクト(Free State Project)です。フリー・ステート・プロジェクト(FSP)は、州をリバタリアンの拠点にするために、単一の人口の少ない州(ニューハンプシャー州が2003年に選ばれた)に移住する少なくとも2万人のリバタリアンを募集するために2001年に設立されたアメリカの政治移民運動です。2022 年 5 月の時点で、約 6,232 人の参加者が自由州プロジェクトのためにニューハンプシャー州に移住しました。

 

日本語のウィキペディア、「足による投票( vote with their feet)」と呼んでいますが、英語版のウィキペディアでは、フット投票(Foot voting)と「足で投票する(vote with their feet)」は、異なる単語なので、ここでは、フット投票を使います。



2)拡張フット投票概念

 

Boyd, Robert; Richerson, Peter J.は、理論生物学のモデルは、足投票と人間の文化的特徴の普及との因果関係を解明するために適用しました。

<< 引用文献

Boyd, Robert; Richerson, Peter J. (21 March 2009). "Voting with your feet: payoff biased migration and the evolution of group beneficial behavior". Journal of Theoretical Biology. 257 (2): 331–339. Bibcode:2009JThBi.257..331B.

>>

 

フリー・ステート・プロジェクトは、リバタリアンの政治信条のために、移住する場合です。

 

フリー・ステート・プロジェクトは特定の政党を支持していませんが、小さな政府を目指す政治信条です。

 

参加者が、ニューハンプシャー州に移住するのは、これから、ニューハンプシャー州で、小さな政府を実現するためです。

 

理論生物学のモデルは、生息に適した生態系に移動する生物を扱います。

 

生物の移動(migration)は、政治信条とは関係がありません。

 

フリー・ステート・プロジェクトが、ニューハンプシャー州に移住するのは、ニューハンプシャー州が住みやすい環境だからではなく、人口の少ないニューハンプシャー州が、小さな政府を目指すための良い条件であると考えたためです。

 

アメリカの投票は、これから、政治が何をするか(公約)を評価して行います。

 

アメリカは、2大政党ですので、過去の政治の実績を、共和党の部分と、民主党の部分に分離することはできません。

 

有権者の関心は、これから何をするかに関わります。

 

議員や大統領候補者の過去の公約の実現率は評価対象になりますが、政党レベルでの評価はできないと思います。バイデンが、オバマがといった個人評価になります。

 

日本では、自民党が日本経済を成長させてきたので、自民党に投票するという高齢者もいるようですが、過去の実績を中心に評価する経験主義は、科学的に間違っていますので、アメリカでは、評価の対象になりません。

 

さて、生物は、住みやすい環境を求めて移動します。

 

これは、本来のフット投票ではありませんが、拡張したフット投票(拡張フット投票)と見ることもできます。

 

日本語のウィキペディアの「足による投票」には、英語版の「フット投票(Foot voting)」にはない、次の記載があります。

 

足による投票の最も明確な例の1つは、カリフォルニア州から他の州へ向けた引っ越しの大量流出である。2020年には650,000人がカリフォルニア州を離れ、135,000人の純減となった。カリフォルニア州から他の州への移住を促した動機には、低い税金や手頃な価格の住宅、企業に対する規制の緩和などがある。

 

これは、 拡張フット投票です。

 

拡張フット投票は、政治信条のために移住している訳ではありませんが、移住後に、普通の投票に参加しますので、移住は、政治に反映されます。

 

レーガン前大統領は、地域の不満足な状況の解決策として、アメリカの州間移動を提唱しました。これは、フット投票と関係があります。

 

カリフォルニア州から他の州へ向けた人口移動は、拡張フット投票になります。

 

アメリカの場合、州の独立性が高いので、同じ比較を日本に持ち込むことには、問題があり、修正が必要になります。

 

とはいえ、自治体別の人口移動を、拡張フット投票と考えるアイデアは共通して使えます。

 

拡張フット投票でみれば、過疎地域は、その自治体の政策が、住民によって支持されなかった結果、人口が減少したことになります。

 

繰り返しますが、補正が必要ですが、ここでは、現在の人口移動データが補正後のデータであるという単純化の仮定をしています。

 

この単純化を前提とすれば、過疎の自治体は、拡張フット投票で、政策が支持されなかった自治体になります。

 

そう考えると、地方再生は、拡張フット投票に反することになります。

 

一票の格差は是正されませんが、これは、拡張フット投票に反します。

 

マスコミは、人口増加率の高い自治体をとりあげて、成功している自治体は、子育て支援が優れていると書きます。

 

しかし、自治体の人口増加は、ゼロサムゲームです。成功している自治体は、他の自治体に比べて、子育てがしやすいから、人口が増えています。全ての自治体が同じ政策をしても、人口は増えません。

 

レーガン前大統領は、地域の不満足な状況の解決策として、アメリカの州間移動を提唱しています。過疎地域から、人口周密地域への移住の促進です。

 

拡張フット投票が採用されない理由は、企業の政治献金による投票が行われているためと思われます。

 

人権思想は、個人を対象とします。

 

生活に困窮した個人と、倒産しそうな企業があった場合、人権思想で、救済の対象となるのは、個人だけです。

 

コロナウイルス対策の雇用助成金は、個人ではなく、企業に支払われました。

 

これは、人権を無視して、ソンビ企業を温存し、経済成長を減速させ、賃金の上昇を抑えました。

 

フリー・ステート・プロジェクトのようなリバタリアンは、過剰な課税は、財産権の侵害であると考えます。年金の医療費も、誰かの税負担です。自分の負担は、自分で稼ぐのがリバタリアンの考えです。

 

従って、賦課金方式の年金は、人権侵害になります。

 

四元 伸三氏は、ドイツでは、レストランの水を無料にすると、水は不要だから値引きを求められるといいます。

 

ただほど、高いものはないという考えです。

 

医療費が減らないのは、リバタリアンは、財産権の侵害をするからだと考えます。

リバタリアンが、貧富の差に無頓着という訳ではありません。社会貢献のために、寄付をする文化があります。

 

寄付は、主体的に行なうもので、財産権の侵害にはなりません。

 

<< 引用文献

ドイツ人が「無料でも」お茶や水の提供を断るなぜ 2024/01/23 東洋経済 四元 伸三

https://toyokeizai.net/articles/-/729503

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3)拡張フット投票と人権の確保

 

フット投票(Foot voting)とは、活動、グループ、またはプロセスに自発的に参加したり、参加を辞退したりすることによって、自分の行動を通じて自分の好みを表現するための物理的な移動を指します。

 

これは、人権が確保されない状態であると判断すれば、移動することで、人権が確保されることを意味します。

 

ジョブ型雇用であれば、ブラック企業から転職(拡張フット投票)することで、人権を確保できます。

 

一方、年功型雇用では、拡張フット投票ができません。ネットで検索すると、<「転職は裏切り」と考えるザンネンな企業>といった表現が多く見られます。

 

「転職は裏切り」は、人権侵害なのですが、経営者や同僚には、人権侵害(イジメ)であるという意識はなさそうです。

 

これは、心が、法度制度のミームに感染していることを意味しています。

 

フランスの人権宣言( 1789 年 8 月 26 日)は、国民主権の原則と国民間の社会的平等を主張し、「すべての国民は、法の観点から平等であり、すべての国民に平等に認められる」と述べた。 「その能力に応じて、その美徳と才能以外の区別なく、尊厳、地位、雇用を与えられる」と定めています。

 

人権思想は、「その能力に応じて、尊厳、地位、雇用を与えられる」と書いています。

 

これは、能力に応じた平等であり、結果の平等ではありません。

 

従って、春闘は、人権侵害になります。

 

春闘には、拡張フット投票がないという前提がありますので、その時点で、「転職は裏切り」になっています。

 

岸田内閣が異次元の少子化対策の一環として打ち出した「こども誰でも通園制度」は、2024年度は試行事業ということで、こども家庭庁はおよそ150の自治体での実施を想定して公募を行っています。

 

この背景には、コロナウイルス対策で、リモートワークが拡大して、待機児童が減って、経営を止める施設や、定員割れを起こし規模の縮小を余儀なくされている施設などが出てきたことがあります。

 

つまり、「こども誰でも通園制度」は、ゾンビ保育園の生き残り対策です。

 

一方では、保育士の給与はほぼ一律で、保育士は、拡張フット投票がない人権無視の状態に放置されています。

 

拡張フット投票がない人権無視は、春闘によって強化されています。

 

リスキリングは、拡張フット投票に結びついています。

 

アマゾンウェブサービスは2024年1月19日、2023年から2027年までの5年間で、日本に2兆2600億円を投資する計画を発表しました。これは、2022年までの投資額に比べて、年間ベースで3.6倍の投資額になります。

 

四元 伸三氏は、アマゾンプライムの価格を紹介しています。これから日本の人件費は破格に安いことがわかります。

アマゾンはヨーロッパでは、イギリス、ドイツなど8カ国でビジネスを展開しており、無料配送サービスを含むアマゾンプライムも提供しているが、年会費は例えば、イギリスの場合、95ポンド(約1万7000円)、ドイツでは89.90ユーロ(約1万4000円)と、日本(年間5900円)の2倍以上に設定されている。



米民間調査会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの今月初めのリポートによると、ハイテク部門の2023年の人員削減は計16万8032人と、全産業で最多でした。アルファベット、マイクロソフト、アマゾン、メタなど大手が数万人を削減しました。

 

ハイテク企業が雇用の優先順位を、AIに変え、新規採用もしています。

 

ハイテク企業の中にはAI人材に多額の給与を与えている例があります。アマゾンが応用科学・生成AI担当シニアマネジャーに最高34万0300ドルを提示しています。

 

<< 引用文献

アングル:ハイテク大手、今年も人員削減継続か AI投資資金捻出で 2024/01/08 ロイター Aditya Soni、Chavi Mehta

https://jp.reuters.com/business/technology/DBBDAGAJABO7TOY6CTV6KWKKZU-2024-01-18/

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恐らく、アマゾンは、ジョブ型雇用で、日本国内で、高度人材を雇用すると思われます。

 

春闘にこだわっている企業は、太刀打ちできないはずです。

 

これは、政府が期待しているリスキリングの効果であると思われます。