(設計の良し悪しは、設計思想に基づいて判断します)
1)設計思想
良い設計図には、設計思想があります。設計思想とは、実務的な概念です。
設計は、製作予算、製作期間などの制約の下で行われます。
全てを満足する設計はできませんので、どこで、バランスをとるかという設計思想を設定します。
設計の評価は、設計思想に基づいて行われます。
コストを下げることを優先すれば、食品は、PETの容器に収納する製品設計になります。
環境問題を優先して、マイクロプラスチック問題を解決するためには、PETをガラス瓶に切り替える設計もあります。
環境に優しい、あるいは、持続可能な設計です。
ガラス瓶は、搬送の途中で割れるリスクがあります。重量が、PETより重いので、コストが嵩む上に、消費者に受け入れられない可能もあります。
一升瓶はほとんどなくなり、牛乳のようなパックを使うことも多くなっています。
設計思想は、市場に受け入れられて、製品が売れなければ、無効になります。
設計の評価は、製品が、どの問題の解決を優先するかという設計思想に基づかなければ行えません。
2)コピー製品
設計思想に基づいて、設計するには、高度な設計能力が必要です。
実際に歴史に残る設計者の数は、多くありません。
カメラのレンズで歴史に残る設計者として、WEBにリストアップされているのは、たった10名で、そのうち2人が日本人です。
設計には、時間とコストもかかります。
前例主義のコピー製品には、設計思想がありません。
日本では、高度な設計をするエンジニアでも、高い給与が支払われません。
日本人の歴史に残るレンズ設計者2名のうちの1人は、存命ですが、30年近く平社員で、転職しています。
設計思想を理解するには、最低でも自分でも設計できるレベルの能力が必要です。会社の幹部に、このレベルのエンジニアがいないと設計思想が理解できません。
今まで、日本製品は、高品質、過剰品質と言われてきました。
これは、製品に設計思想がないことを意味します。
設計思想があれば、製品は、品質を優先してあげる部分と、ほどほどの品質に止めて、歩留まりとコストを優先する部分に分かれます。
つまり、日本企業の製品の多くは、設計図をコピーしたり、リバースエンジニアリングで、復元した設計図のコピーであった可能性が高いです。
コピー製品であれば、時間のかかる創造性を伴う設計は、企業経営の邪魔になります。
企業の幹部は、指示待ち人間を切望しています。
新卒一括採用の面接基準が、大学の成績でないことは、企業が設計思想のないコピー製品の製作を目指している事実を反映しています。
設計思想に基づいて、設計図がかける人材を採用するのであれば、採用時に、設計図を書かせて、設計思想を説明させて、評価します。
実際に、プログラマーの採用では、サンプルコードを書かせて、全体のモジュール設計とのリンクを説明させるような採用試験が常識です。
設計思想に基づけば、設計図の評価ができます。
しかし、ここには、設計思想そのものを評価する手順がありません。
この問題に対しては、複数の設計思想を比較検討することが必要です。
比較検討の対象となる異なった設計思想は、一般には、存在しません。
そこで、クリティカルシンキングで、設計思想の見直しを行ないます。
クリティカルシンキングには、設計図を批判的にみる視点があります。
しかし、設計図のクレームをつければ、設計者との論争になってしまいます。
なので、設計図を批判的にみるのは、あくまで、設計思想の再検討のためであると整理することが必要です。
設計者は、設計思想に基づいて設計していますので、設計思想の見直しは、論争になることはありません。
コスト優先の設計思想のPETを使った製品を、環境優先のガラス瓶をつかった製品に切り替える場合、そこには、設計思想の切り替えがあります。
PETを使った製品の設計図に問題があった訳ではありません。
日本では、クリティカルシンキングは、ご法度です。
これは、設計思想がないこと、つまり、コピー製品が蔓延していることにリンクしています。
設計思想がないと、設計者は、クリティカルシンキングで、設計にクレームをつけられたと感じてしまいます。