オブジェクトとインスタンス(1)集合論

1-1)変数

 

中学校の数学では、変数を扱います。

 

変数とは何かを、中学1年生に理解させることは、実は、容易ではありません。

 

タイトルは忘れてしまいましたが、昔、読んだ本では、変数を説明するために。袋の例をあげていました。

 

図1は、変数を理解するための説明です。右の赤い袋では、中身が見えません。

 

左の袋は、透明で中身が見ています。

 

袋の絞り口は、Xの形をしています。

 

そこで、袋の絵を描く代わりに、Xで、袋を表わすことにすれば、便利です。

 

ここで、Xは、袋の中身をグループ化しているだけで、変数名には、各段の意味はありません。

 

以下では、袋Xをオブジェクト、袋の中身をインスタンスと呼ぶことにします。

 

オブジェクトを英語にすると物になるので、オブジェクトという単語は、色々な意味で用いられます。

 

袋の中に入っている物をオブジェクトと呼ぶ場合もありますが、以下では、混乱をさけるために、個別の観測可能は物は、オブジェクトとは呼ばずに、インスタンスと読んで、変数(オブジェクト)と区別します。




 図1 変数の理解



               



1-2)集合論

 

変数Xには、袋の性質があります。

 

この性質は、集合論で理論化されています。

 

変数Xは、集合で書くことが出来ます。

 

集合の表し方には次の 2 通りの方法があります。

 

(M1) 要素をすべて書き並べる方法.

 

(M2) 要素の条件を述べる方法.

 

この場合は

{x | x の条件}

の形で表します。 

 

集合AX の中で考える場合は

{x ∈A |x の条件}

のように表します。

 

集合X を「6 の正の約数の集まり」とします。

 

X を (M1) の方法で表すと,

 

X = {1; 2; 3; 6}

 

X を (M2) の方法で表すと,次になります。

 

X ={ x  | x は 6 の正の約数 }

 

X の元は自然数Nにおける 6 の約数なので、次の様にも書けます。

 

X ={ x ∈N  | x は 6 の約数 }

 

ここで、Xはオブジェクトです。{1; 2; 3; 6}はインスタンスです。

 

オブジェクト名は、他と区別する記号であれば、何でも構いません。

 

オブジェクトが理解できている場合には、インスタンスを示すことができます。

 

逆に言えば、インスタンスを示せない場合には、オブジェクトは理解できていないことになります。

 

ニュートン運動方程式は、F=maと書かれます。

 

Fはforceを連想して、記憶しやすいために、慣習的に使われていますが、数学では、ニュートン運動方程式は、y=axと書いても問題はありません。

 

ニュートン運動方程式が理解できている場合には、F、m、aに、適切なインスタンスを設定して計算できます。

 

自然科学では、法則(仮説)は、可能な限り、実験によって検証されます。

 

実験による検証とは、インスタンスによる点検を意味します。

 

正確ではありませんが、手抜き表現も可能です。

 

例えば、偶数は以下で書けます。

 

X={2,4,6,8,...}

 

変数名は任意なので、X以外の変数名も使えます。

 

ODD_NUMBER={2,4,6,8,...}

 

odd number(奇数)の意味は、{2,4,6,8,...}とは相容れませんが、この変数名でプログラムを組んでも、問題はありません。

 

コンピュータは、変数名の意味を見ることはありません。

 

1-3)普遍論争

 

西暦300年から1300年の間の1000年間、論理学の標準的な教科書として使われていたポルピュリオスのエイサゴーゲーの冒頭には、普遍論争と言われる、次の文章が出ています。

 

「類や種(すなわち普遍)は実在するのか、それとも単に理解のうちに存在するのみなのか」

これは、オブジェクトを問題にする形而上学です。

 

自然科学で問題になるのは、あくまでインスタンスであって、検証の対象にならないオブジェクトが、直接の問題になることはあません。

 

ビッグデータは、インスタンス(観測データ)の集まりです。

 

エビデンスベースの科学のエビデンス(観測データ)はインスタンスを意味しています。

 

オブジェクトを決める集合をどのように設定すると、効率が良いかは、重要な課題です。