アーキテクチャ(17)

文系のテクニシャンと身分制度

(エンジニアとテクニシャンという区分は、ジョブ型雇用基本です)

 

1)文系のテクニシャン

 

テクニシャンという言葉には、語義からすれば、技術のというニュアンスが漂っています。

 

しかし、以上のエンジニアとテクニシャンの区別(次に再度引用)を使えば、文系のテクニシャンもあり得ます。

 

「テクニシャンはプロジェクトの大まかなレイアウトを起案しますが、エンジニアは、プロジェクトを開発、(つまり、明確なアーキテクチャを含む実行可能な設計図を書き込んで、実施、管理)します」

 

例をあげてみます。

 

(1)軍事関連企業の外国資本の買収禁止

 

ウクライナ戦争を受けて、敵対する可能性のある外国企業による軍事関連企業の買収を制限すべきであるという政治家が増えています。

 

これは、プロジェクトの大まかなレイアウトと言えます。

 

一方、ハウステンボスは、軍事施設ではありませんが、主要な軍事施設である米軍基地から至近距離にあります。最近、親会社のHISの業績不振のためハウステンボスが中国軍に近い中国系企業に買収されました。

 

つまり、軍事的な安全性を確保するプロジェクトが効果を上げるためには、軍事施設に限定したアーキテクチャは効果がありません。効果のあるプロジェクトを開発するためには、エンジニアの能力のある人が、効果的なアーキテクチャを含むプロジェクトを設計する必要があります。

 

(2)コロナウイルス対策

 

コロナウイルス対策は、2022年9月時点では、混乱しています。

 

2022年9月6日に、政府は1日100万回を超える接種体制の整備を目標に掲げ、感染者の自宅療養期間の短縮や「全数把握」の全国一律見直しも打ち出しています。

 

はっきりしていることは、今まで、問題が起こるたびに、政府の基本的対処方針分科会などで議論して、その都度対策を決めてきたということです。

 

ここには、アーキテクチャに含まれるロードマップもモジュールもありません。

 

対策は対処療法であり、テクニシャンの発想です。



以上から、文系のテクニシャンという用語は現実を説明できることがわかります。

 

2)総合職とエンジニア

 

なお、テクニシャンとエンジニアという区分は、便宜的なものです。

 

サイエンティストとテクニシャンという区分もあります。

 

検査をかけた結果、エンジニアとテクニシャンの方がサイエンティストとテクニシャンより多く、ヒットしたため、この対比を使いました。

 

テクニシャンに比べれば、エンジニアもサイエンティストも、総合的にプロジェクトのデザインができる能力があることが違いです。

 

つまり、以下では、エンジニアをアーキテクチャを考え総合的にプロジェクトのデザインができる能力のある人、テクニシャンを部分的に最適な問題を解決する能力のある人という意味で使います。

 

現代の科学では、アーキテクチャを考慮した研究計画を立てられないと、まともな研究ができません。このサイエンティストの問題点については、後で、生物多様性のところで論じます。

 

今まで、年功型雇用では、「総合的にプロジェクトのデザインができる能力」は、総合職が分担するものと考えられてきました。文系のテクニシャンという用語は、今までの総合職が機能不全に陥っていると言い換えることもできます。

 

上記のエンジニアの説明に「エンジニアは、その業界に関連する科学の理論に基づいて作業を行います」とあります。

 

「総合的にプロジェクトのデザインができる能力」には、科学の理論の理解が不可欠です。特に、データサイエンスの理解は、必須です。

 

年功型雇用の総合職は法律に触れないプロジェクトができることを優先していました。霞が関文学と呼ばれるような表現も、国会答弁も、法律に触れていないことを重視しています。

 

しかし問題解決をするプロジェクトを作るためには、法律の知識だけでは、十分ではありません。



福岡県中間市の保育園の送迎バスで2021年7月、当時5歳の男児が取り残されて死亡する事件が起きました。これを受け文科省厚生労働省内閣府は2021年8月、「運転手以外の職員のバスへの同乗、子どもの乗降時の人数や降車時に座席に残っていないかの確認、確認した内容の職員での共有」などを求める通知を出しています。

 

2022年9月5日、静岡県牧之原市認定こども園の送迎バス内で、3歳の園児が取り残されて死亡する事件が再発しています。

 

この事例は、法律を守るという通知だけでは事故を防げないことを示しています。

 

病院では、患者の取り違えの事故が過去に起きています。処置をする前に、患者の名前と生年月日を確認することが行われています。病院に入院すれば、患者は、退院するまでの間は、手首にバーコードのついたタグを付けます。処置のデータは、タグのデータとともに一元管理されます。

 

園児の送迎バス内の取り残し問題は、一般化すれば、園児の個人データの管理問題です。エンジニアの発想では、個人データを管理する名札やタグなどのアーキテクチャの設計問題の一部です。園児の体調が悪くなった、けがをした、欠席している、アレルギーで食べられない食品があるなどの問題は、園児の送迎バス内の取り残し問題も含めて共通のアーキテクチャで解決できるはずです。センサーやカメラを付けるにしても、アーキテクチャの一部になるはずです。

 

文科省厚生労働省内閣府の2021年8月の通知は、園児の送迎バス内の取り残し問題に限定した対処療法であり、文系のテクニシャンの対応です。



3)身分制度とジョブ型雇用

 

ジョブ型雇用では、エンジニアが指示を出して、テクニシャンが指示に従って分担します。

 

この場合、問題になるのは、個人の資質ではありません。

 

GAFAの日本法人のトップあるいは、トップに近いポストで働いたことのある文系の日本人が、エンジニアの中で、文系の管理職として働いたかという体験を出版しています。この方はエンジニアではありませんので、著書は、エンジニアでなくともGAFAのトップが勤まるという視点で読まれがちです。GAFAの経営のトップ集団は、半分がエンジニアです。グループとして、エンジニアのアーキテクチャに基づくプロジェクトの設計ができれば、各個人は補完的でもかまいません。企業のトップがグループとしてエンジニア集団として機能すればよいのです。

 

また、ここで、エンジニアといっているのは、科学の理論の理解に基づいて「アーキテクチャを考えて総合的にプロジェクトのデザインができる能力」を指します。

 

大学の工学部を卒業したという資格を指していません。

 

能力とポストが対応しているのが、ジョブ型雇用です。

 

年功型雇用では、ポストは年齢と対応します。

 

その結果、エンジニアの能力のない人(テクニシャン)が、トップに付くことも多くあります。

 

これは年齢による身分制度です。

 

こうなると組織は、問題を解決するプロジェクトを組みたてることができずに、漂流を始めます。

 

ものを言う株主が動いいて、社長が、外国人になって業績が持ちなおした企業、中国、台湾、アメリカのの企業に買収されて業績が回復した企業は、それまで、文系のテクニシャン社長が経営していた可能性があります。

 

こう考えると、エンジニアとテクニシャンの区別は、必要な分業であって、日本では、その区別がないのは、年功型雇用による身分制度が原因であると考えられます。

 

引用文献

 

佐世保基地の目と鼻の先「ハウステンボス」は、香港系投資会社が買収 2022/09/06 Newsweek 練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/09/post-99556.php