(反事実的思考をつかって、日本が経済成長できなかった原因を考えます)
11)反事実的思考
前回の最後は、次の疑問でした。
疑問:日本企業は、どうして、経済成長を放棄したのか
疑問:金融企業は、どうして、金融工学に基づく金融商品を開発しないのか
疑問:金融企業は、どうして、金融工学に基づく、リスク評価に基づく融資をしないのか
これは、常識ではあり得ない仮定です。
そこで、この検討のために、反事実的思考を導入します。
この手法には、心理学の手法と、統計学の手法がありますが、ここでは、心理学の手法を使います。
ここで使う反事実的思考は、アダム・グラント氏の「THINK AGAIN」によっています。
現実では、日本企業では、DXが進まず、労働生産性が上がりませんでした。
しかし、ここで、日本企業でも、米国企業と同じように、DXが進んで、労働生産性が上がったと仮定します。この仮定が、反事実になります。
反事実が実現した場合に、日本の企業はどのような状況になっているでしょうか。
それを想定するには、DXが進んでいる米国企業を見ればよいことになります。
箇条書きで、想定される事態を書いてみます。
(1)金融工学やITの技術者を雇用する。
(2)金融工学を使った商品が開発され、利益に貢献する。
このあたりまでは、多くの人が想定していると思います。
現在、DXを進めるべきだという主張も同じタイプの論理です。
<1>DXのできるITの技術者を雇用する。
<2>DXを使って、労働生産性があがり、利益に貢献する。
問題は、これだけでは終わらないことです。
金融工学もDXも、データサイエンスの一部です。
システムの実装には、データが必須です。
サイエンスですから、手法を習得した人であれば、誰が解析しても同じ結果が得られます。
一方、手法を習得した人でなければ、結果を得られません。
つまり、DXの導入過程では、データ(エビデンス)に基づく、意思決定がなされることになります。
これは、ジョブ型雇用による業績評価に直結して、次のような効果が生じます。
(3)エビデンスを計測してリアルタイムに更新されるデータベースが構築される。
(4)プロジェクトのリルタイムの到達度と達成度評価がなされる。
(5)労働生産性があがる。
(6)労働者の労働生産性の計測結果が出るので、業績に対応した給与、つまりジョブ型雇用になる。
(7)業績の高い人が、CEOなど、企業幹部になる。
(8)労働者は、より高い給与を求めて、企業間を移動する。
(9)企業は、労働者を確保するために、同一のジョブに対して、できるだけ高い給与を支払うように努力する。
以上のように、金融工学、IT、DXの導入は、年功型雇用を破壊し、ジョブ型雇用への移行を促進します。
そうなると、当然、利害関係者が出てきます。
そして、簡単に言えば、損をしそうな人は、IT革命やDXに反対するはずです。
これを考える前に、データサイエンス革命が、経営や社会科学に与えた影響を振り返ってみます。