製造業で繰り返される失敗

(製造業で繰り返された失敗の原因を考えます)

 

1)シェア喪失のプロセス

 

日本がかつて大きなシェアを持っていた分野で、現在は撤退している分野があります。

 

(a)ICとくにメモリ

(b)家電製品

(c)太陽電池

 

これらに共通する特徴は、低価格競争になった時に、安価な価格競争力のある製品を生み出せなかった点にあります。



1-1)モノづくり日本の終焉

 

高度経済成長期に、日本は、世界に工業製品を輸出しました。この時のコンセプトは、安価で質の良い製品を製造して輸出することです。

 

松下幸之助氏は、「商品を大量に生産・供給することで価格を下げ、人々が水道の水のように容易に商品を手に入れられる社会を目指す」という考え(水道哲学)を提唱したと言われています。

 

モノづくり日本の実態はここにあります。

 

少量生産の高級品(高価格)ではありません。

 

「安価な価格競争力のある製品を生み出せない点」は、「モノづくり日本」の終焉を意味します。

 

1-2)戦略の再構築

 

「安価な価格競争力のある製品」を生み出せなくなった日本は、「高機能で高価な製品」を目指(高付加価値戦略)しているのでしょうか。

 

それとも、「安価な価格競争力のある製品」を再び製造(モノづくり戦略)できるように、戦略を練るべきでしょうか。

 

これは、ニ者択一の問題ではなく、課題や分野毎に使い分けるべき経営判断と思われます。

 

とはいえ、戦略は、明確にする必要があります。

 

戦略のない二つの間の中途半端な対応をすれば、生き残りは不可能と思われます。

 

「モノづくり戦略」には、高度経済成長期の成功事例があります。

 

少数ですが、最近でも、分野によっては、モノづくりで、輸出をして、世界的なシェアを獲得している企業もあります。

 

ただ、「モノづくり戦略」で成功している企業の割合は多くなく、撤退している企業の方が多いです。

 

もう一つの「高付加価値戦略」に、成功している事例は更に少ないと思われます。

 

例えば、白物家電は、中国製の安価な家電製品が出て来ると、高機能で高価な家電製品にシフトしましたが、結局、ブランドを中国企業に身売りすることになります。

 

これは、マーケットサイズを考えれば、極めて当然なことです。マーケットサイズは、「単価×販売数」で決まります。高機能で高価な製品は単価が高いですが、販売数は少ないです。販売数が少なくとも、単価が高くてマーケットサイズが大きな家電製品はありません。

 

高機能で高価な製品で、マーケットサイズが大きい製品には、航空機、医薬品があります。高機能テレビでは、そこまでの高い単価にはなりません。劇場用の投影装置はより高価ですが、テレビとはマーケットが被りませんし、航空機と比べれば、マーケットサイズは小さいです。

 

ミラーレスカメラでは、コンパクトデジカメの市場が消失して、各社は、高級機路線に切り替えています。これは、一昔前の家電製品の戦略に似ています。単価を上げれば、製品あたりの利益は増えますが、販売数が減ります。マーケットサイズが小さくなれば、従業員をレイオフしないと赤字になる点は変わりません。

 

新聞やテレビでは、競争力のある日本の伝統的な製品を紹介する記事を多数見かけますが、これらの製品のマーケットサイズは小さく、仮に、販売量が増えたとしても、経済全体への影響はとても小さいです。

 

地方再生では、伝統工芸品を取り上げることが多いですが、地域経済を支えるだけのマーケットサイズはありません。

 

そもそも、新聞やテレビでは、一部の成功事例を誇張して取り上げる傾向が強く、マーケットサイズのような定量的な視点は、乏しいです。

 

航空機や医薬品は、少数の高度人材が開発するタイプの商品です。日本の一部の製薬会社は、外国人のCEOの元で、完全なジョブ型雇用に移行して、国際企業になっています。こうした企業では、高機能で高価な製品を販売できる可能性があります。しかし、多数の日本企業は、そのような国際企業にはなっていません。

 

こう考えると、安価で質の良い製品を販売する「モノづくり戦略」を捨てることは難しいと思われます。

 

2)「モノづくり戦略」の課題

 

バブル経済の後で、「モノづくり戦略」を維持できなくなった理由は、日本の一人当たりGDPが上がって先進国になったからです。単純労働のスキルの高い人材を安価で供給できる中国の製造業に勝てなくなりました。

 

考えられる対策は、次の通りです。

 

2−1)労働生産性を上げて競争する。

 

これは、「機械化、ロボット化を進め、無駄な人材をはぶく」ことが基本です。

 

2−2)無駄な人材を省く

 

「無駄な人材をはぶく」ことは、売上げが減少した場合には、レイオフになります。過去30年間、レイオフせずに、無駄な人材を抱えないですんだトヨタ自動車のような企業もありますが、売り上げが減少しなかったことに注意する必要があります。売上が減少した場合には、レイオフ以外に手段はありません。レイオフをしないために、他業種に手を出したり、子会社に社員を派遣したりする場合もありますが、競争優位になれるノウハウのない業種に手を出しても成功できる理由はないので、レイオフができるのであれば、レイオフすべきです。

 

レイオフは、レイオフされた個人には、ストレスになります。

 

しかし、このストレスは、企業組織を継続的に変化させて維持するために必要な要素です。

 

体内に大きな患部があれば、手術で除去します。体にメスが入れば、ストレスになりますが、手術をしなければ、生き延びることはできません。

 

ペテン師は、手術しなくても、病気が治る方法があると言いますが、エビデンスはありません。実際に、民間療法を信じて、手術を先延ばしにして、ガンで死んだ著名人も多数います。

 

書店の健康コーナーに行けば、「私は手術をしないでガンが治った」類の本が多数見つかります。これらの本の内容は、そもそもガンではなく、腫瘍マーカーの数字の話であるようなエビデンスのないものです。

 

「売り上げが減少する状態では、レイオフしないで、労働生産性を上げられない」という仮説は、エビデンスがあれば検証可能です。

 

統計的な検証であれば、レイオフした企業とレイオフしない企業を比べることになります。

 

日本では、レイオフ規制があるので、直接的な検証はできません。

 

海外の事例は、社会条件が大きく異なるので、日本では、使えないと思われます。

 

しかし、傍証はあります。

 

レイオフ規制の逃げ道として、非正規雇用が拡大しました。非正規雇用は、レイオフ予備軍になります。しかし、正規雇用で、レイオフされない人材は残っています。非正規雇用の賃金は、この本来はレイオフしたい人材のコストも抱き合わせてきまります。簡単に言えば、本来レイオフしたい正規雇用者(窓際族)の賃金の負担の一部が、非正規雇用に上乗せられ、その分賃金が安くなります。これは、同一労働、同一賃金とは、かけはなれた実態です。

 

売り上げが極端に減少した結果、本来は年功型雇用ではあり得ない、中途退職が多発します。日本の家電業界から、韓国のサムスンへの技術流出に、中途退職者が関与したことが知られています。これは、20年近く前の話です。結局、20年間、この問題は放置され、最近になって、中途退職が増えています。年功型雇用の中途退職では、有能な社員からやめていきます。その結果、中途退職を始めた時点で、組織の維持が出来なくなります。

 

ジョブ型雇用では、退職を引き留めるためには、給与を増やすことになりますが、年功型雇用には、このような調整システムはありません。これは、雇用が労働市場から切り離されているためです。

 

労働生産性が低いと給与が上がりませんので、ジョブ型雇用で、より給与条件のよいポストがあれば、年功型組織では、有能な社員から中途退職します。その結果、労働生産性がさらに下がるという悪循環に陥ります。

 

2-3)機械化、ロボット化を進める

 

かつて日本は、「ロボット大国」と呼ばれるほど、進んだロボット産業を有していました。

 

現在、日本のロボット産業は、競争力がなくなりました。

 

国際ロボット連盟(IFR)によると、中国は2013年に世界最大の産業用ロボット市場となりました。2017年には、世界の産業用ロボット販売量の3分の1に相当する12万台を中国内の産業用ロボット販売台数が占めています。

 

2021年の中国の産業用ロボット生産台数は36万6000台、営業収入は1300億元(約2兆6000億円)を超え、2015年の11倍になりました。2021年の中国の製造業における「ロボット密度」は労働者1万人当たり300台を超え、2012年の約14倍になり、中でもサービスロボットや特殊ロボットが教育、医療、物流などの分野で大活躍し、新産業・新モデル・新業態を次々と生み出しています。

 

国際ロボット連盟 (IFR)2021年の「ロボット密度」(労働者1万人当たりのロボット台数)のランキングは以下です。

 

韓国 1000

シンガポール 670 =>831(124%)

日本 399 =>423(106%) =>448(106%)

ドイツ 397

中国 322 =>386(120%) =>463(120%)

スウェーデン 321

香港 304

台湾 276

アメリ 274



シンガポールのロボット密度は、2016 年以降、毎年平均 24% ずつ増加しています。

・日本のロボット密度は、2016 年以降、毎年平均 6% ずつ増加しています。

・2020年の日本の稼働在庫は374,000台(+5%)

・2020年の中国の設置台数は 168,400 台(+20%)、稼働在庫は 943,223 台 (+21%)。

 

韓国は、年によって、増減しているので、トレンドは読めません。

 

シンガポールを124%、日本を106%、中国を120%とした場合のトレンド予測を右側に入れてあります。

 

これから、2023年中には、中国の「ロボット密度」は、日本を上回ると思われます。

 

以上のように、日本には、もはや、「機械化、ロボット化を進める」を進めることで、中国に勝てるように「モノづくり戦略」を進める余力はありません。

 

中国も急速に高齢化が進んでいますが、ロボットの普及によって、そのマイナスの効果が緩和されています。



3)まとめ

 

このままいくと、マーケットサイズの大きな良いものを安くという「モノづくり戦略」では、日本は勝てそうにないことがわかります。

 

これは、一般論ですから、まだ、マーケットを持てると考えられているEVやロボットにおいても、今後、日本が、「モノづくり戦略」に失敗する可能性が高いことを意味します。

 

「機械化、ロボット化を進める」ことと、「無駄な人材を省く」ことが、独立している訳ではありません。

 

「機械化、ロボット化を進め」ても、「無駄な人材を省」けなければ、それは、無駄な投資になります。そうなると、投資しない(「機械化、ロボット化を進め」ない)という選択に戻ってしまいます。

 

つまり、「モノづくり戦略」において、「無駄な人材を省く」ことは不可避と思われます。

 

この問題を次回に考えます。

 

引用文献

 

China overtakes USA in robot density

https://ifr.org/ifr-press-releases/news/china-overtakes-usa-in-robot-density

 

IFR presents World Robotics 2021 reports

https://ifr.org/ifr-press-releases/news/robot-sales-rise-again

 

ガスト、バーミヤンの猫型ロボットも!日本人が知らない中国製ロボットの驚異 2023/01/06 Diamond 姫田小夏

https://diamond.jp/ud/authors/58abbd687765611bd06b0000

 

2021年の産業用ロボット生産台数、36万6000台に到達=中国 2022/09/07

https://japanese.cri.cn/2022/09/07/ARTIhZkQeh6hjqj3xlydp3bJ220907.shtml

 

急成長する産業用ロボット市場。中国が「世界の工場」と呼ばれるワケ 2019/01/15 ロボット導入.com

https://www.robot-befriend.com/blog/china-marketsize/

 

レンズの価格(5)

5)色収差とレンズ価格

 

フィルムカメラでは、レンズの歪みは、そのままフィルムの上に焼きつけられました。

 

デジタルカメラになって、レンズの歪みは画像処理によって補正が可能になりました。

 

フォーサーズの場合、オリンパスは、レンズ内で補正をし、パナソニックは、カメラ本体で、補正をしたようです。

 

現在は、カメラ本体で補正することが基本です。

 

例えば、Canonのkiss M2は、次のようなレンズ光学補正ができます。

 

レンズ光学補正

    周辺光量補正

    歪曲収差補正

    デジタルレンズオプティマイザ

    色収差補正

    回折補正

 

このうち、歪曲収差補正以外は、デフォルトでONになっています。

 

歪曲収差補正がデフォルトでOFFになっている理由は、厳密には、画角が変わることと、現像ソフトでの補正が容易なためと思われます。

 

なお、レンズ光学補正は、Jpegだけでなく、RAWでも有効です。

 

レンズ光学補正の最大の課題は、色収差補正です。

 

色収差が小さいレンズとしては、人工蛍石が知られており、キヤノンは、EFマウントの最高級のLレンズに人工蛍石を使っていました。

 

その後、蛍石に代る異常分散レンズ(特殊低分散レンズ、英:Extra-low dispersion lens 、Extraordinary low dispersion lens )が開発されます。レンズメーカーによりEDレンズ(ニコンパナソニック)・UDレンズ(キヤノン)・LDレンズ・SDレンズなどと呼称されています。

 

キヤノンは、新しいRFマウントの最高級のLレンズには、もはや、人工蛍石をつかっていません。UDレンズで十分な性能が得られています。

 

なお、EDレンズはもはや高級レンズという訳ではなく、パナソニックのキットレンズにも使われています。

 

LUMIX G X VARIO PZ 14-42mm / F3.5-5.6  28千円

LUMIX G VARIO 12-32mm / F3.5-5.6 ASPH.  23千円

 

3万円以下のレンズも、EDレンズが使われていますので、昔のキヤノンのLレンズのように、人工蛍石を使っているから高価なレンズであるという原則は通用しません。

 

とはいえ、EDレンズ使用とEDレンズ未使用を比べれば、まだ、EDレンズ使用のレンズの方が高価に思えます。

 

さて、ここからが本題です。次の仮説が正しいか否かです。



新しいカメラは色収差の補正も優秀なので、EDレンズがなくても 解像さえ優秀なら安物レンズで十分な性能がある

 

解像の優秀さは、MTFで判断できます。

 

通常は絞り開放のMFTしか載っていないので、絞った場合がわかりませんが、そこに目をつぶれば、MFTで判断できます。

 

安物レンズのズームレンズのF値は暗くなりますが、サイズは小型になります。昔のカメラでは、暗いレンズは、光量不足でしたが、デジタルカメラでは、ISOを上げれば、対応可能です。

 

ズームレンズのF値は所詮暗くなりますので、その分は、単焦点レンズを使うと割り切れば、問題はありません。ボケも、単焦点に任せると割り切ります。

 

実は、最近、カメラやレンズの撮影事例を見て考えてしまいました。

 

作例とコメントがかなり怪しい場合が多いのです。

 

MTFにも問題がありますが、作例とコメントよりは、MTFの方がはるかにあてになる気がしています。

 

事実上廃止になったキャノンのEF-Mマウントのレンズを見ると、UDレンズは全く使っていませんが、安価で、MTFは悪くありません。

 

MTFが一番悪いレンズは、中央解像度だけが突出してよい「EF-M22mm F2 ST」です。このレンズは、絞って解像度をあげて使わないと、メリットがなさそうです。ただし、そうすると、F2の明るさが生きてこなくなります。とはいえ、EF-S24mm F2.8 STMが兄弟レンズなので、F2.8まで絞って使うのが基本と思います。

 

EF-Mマウントのレンズは、色収差をデジタル補正することを原則に設計されていると思われます。レンズが小型なので、単焦点を除いては、F値がとても暗くなります。一方、色収差が特に気になることはありません。

 

プロのカメラマンは、失敗が許されないので、20-70mmF2.8のような明るいズームレンズを使います。これで、何でも80点以上の写真が撮影できます。レンズとカメラは大きくて重いです。出来上がる写真は、平均点の高い写真になりますが、尖った写真にはなりません。

 

なお、筆者は、オリンパスのPL-6に、パナソニックLUMIX G VARIO 12-32mm / F3.5-5.6 ASPHをつけて撮影することがあります。実は、OLYMPUSのミラーレスカメラでパナソニックのレンズ用の色収差補正が付いているカメラは、E-M10、E-PL7からです。

 

つまり、E-PL6では、12-32mmの色収差は補正されないようです。今のところ、色収差が気になったことはありませんので、12-32mmにEDレンズを使っている効果は十分出ていると思われます。

 

こうした複雑な組合せまでは、darktableは対応していないと思いますので、RAWのレベルで、色収差補正が可能であれば、使うべきと考えます。




引用文献

 

OLYMPUSのミラーレスカメラでP社のレンズ用の色収差補正が付いているカメラは、E-M10、E-PL7から。

https://sorena.hatenadiary.jp/entry/2016/12/11/203000

ジョブ評価とは何か

(ジョブ評価は、第1に問題解決に必要なスキルで決まります)

 

1)ヘッジファンドのショートポジション

 

海外のヘッジファンドは、いま成立している国債先物価格よりも、将来の時点における現物価格が安くなるだろうと予想している。そこで、先物売り(ショートポジションを取って)をしています。

 

近い将来において国債の価格が下落する(金利が上昇する)と、国債のショートポジションを取っていたヘッジファンドは、目論見どおり、巨額の利益を得ます。

 

この利益は、日本の税金かた支払われることになり、国民負担になります。

 

2)日銀の勝率

 

一般には、中央銀行の政策には、資金制約はありませんので、ヘッジファンド中央銀行に勝てることは稀です。

 

ジョージ・ソロス氏は1992年、英国政府が長期に渡って人為的に操作していたポンド高政策が失敗し、ポンドが必ず暴落すると確信していました。ソロス氏は100億ドルの空売り注文を出し、1晩で10億ドルの利益を上げ、最終的には約20億ドルの利益を得ています。

 

ヘッジファンドは、ブラック–ショールズ方程式で有名になった統計確率モデルを駆使して、ポジションを設定しています。その中には、日銀が買い支えできなくなるリミットも織り込まれています。

 

対する日銀は、統計確率モデルを駆使しているとは思えません。

 

これは、アルファ碁に対して、人間の棋士が対戦しているようなもので、データサイエンスで考えれば、勝率は限りなくゼロに近いです。

 

3)統計確率モデルのスキル

 

1976年に、OECDは、調査団報告「文部省の日本の社会科学政策」の中で次のように言っています。

 

「日本の社会科学者の多くは国際水準の研究の進展について行くことができず,西洋の書物から得られた一般的原理を学生に教えるだけで,組織的な経験的研究を欠き,経済学をのぞいては政策形成にも参加していない」

 

経済学は、社会科学の中で、政策形成にも参加しているとう評価です。

 

それでは、最近の経済学は、どのように政策形成に参加しているのでしょうか。

 

筆者には、日銀の金融緩和政策については、継続的に政策形成に参加しているようにはおもえません。

 

金融緩和政策は10年近く効果があがっていません。これは異常な事態です。

 

バブルのあとケインズ政策をとって、公共事業を拡大しても、経済効果が生じなかったときには、ケインズ政策の見直しが行われました。

 

3年または、5年経っても、効果が上がらい金融政策がさらに継続され、それに対して、経済学者が表立った意見を述べているようにはみえません。

 

最近ある経済紙に、著名な経済学者が、次のようなコメントを書いています。

 

ケインズによって葬り去られたはずの新古典派の均衡理論を、浮世離れした数理経済学の世界ならともかく、まさか現実の経済に当てはめる経済学者が現れようとは誰も想像していなかった」

 

この著名な経済学者は、数理経済学を浮世離といっているので、計算科学に対しては、否定的です。まして、データサイエンスの視点でモノをみている様子は全くありません。

 

つまり、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」はないことを意味します。

 

ジョブ型雇用であれば、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」を持っている人を雇用し、スキルのない人はレイオフすることになります。

 

そうしなければ、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗」できません。

 

ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」をにはどれ位の給与を払うことになるでしょうか。

 

香港で簡単にビザが得られる高度人材の給与は、年収4000万円からです。

 

つまり、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」の人の年収は、最低4000万円以上です。

 

この給与レベルを考えると、年功型賃金の日銀や大学に、「ヘッジファンドの統計確率モデルに対抗できるスキル」をもった人はいないと思われます。

 

ジョブ型雇用に移行しなかった結果、1992年の英国政府の失敗が繰り返される確率が高いと思われます。

 

4000万円以上は安くはありませんが、金融政策の失敗によって、国民が支払う数十兆円に比べれば、比較なりません。



引用

 

日本人は国債の投機で誰が損するかわかってない 2023/01/22 東洋経済オンライン 野口 悠紀雄

https://toyokeizai.net/articles/-/646928

 

低度人材国日本

 

1)失業率のバイアス

 

2022年の中国の若年の失業率は20%近いと言われます。

 

韓国も似たような状況です。

 

これを見ると日本の若年の失業率は、より低いので、日本の方が状況が良いように見えます。

 

しかし、この見方には、問題があります。

 

2023年になって、アメリカのビッグテックの株価は下がり、レイオフを進めています。

 

日本の企業は、アメリカの企業のように、2023年に入って、レイオフを拡大しているわけではないので、日本の方が状況が良いように見えます。

 

しかし、この見方には、問題があります。

 

ビッグテックは、レイオフを進めていますが、一方で、高度人材の給与は上がっています。

 

例えば、2023年1月15日の現代ビジネスで、 野口 悠紀雄氏は次の事例を紹介しています。(筆者要約)

 

<==

 

アメリカの転職サイトleves fyi によれば、メタ(旧フェイスブック)の、トップエンジニアの給与は、2022年3月には94万ドルだったが、いまは182万ドル(2億4000万円,

1ドル132円で換算)と、2倍近くになっている。グーグルのトップエンジニアの給与は、2022年3月は102万ドルだったが、いまは115万ドルだ。

 

==>==>

 

1−1)母集団のバイアス

 

つまり、労働者を一つ正規分布で考えることは不適切です。

 

データサイエンスに詳しくない人は、恐らく、正規分布と聞けば、キョトンとすると思います。もしも、議論に平均値が出てくるのであれば、それは、母集団を正規分布と仮定していることになります。

 

例えば、失業率が20%が、平均失業率が20%であれば、これは、若年労働者の分布が正規分布であると仮定していることになります。

 

なぜならば、正規分布以外では、平均値は、分布の代表値にならないからです。

 

ビッグテックを見れば、高度人材とそれ以外は別の母集団を構成していると考えるべきです。

 

人間の脳は、複雑な分布を取り扱えませんが、それでも、1つの正規分布で近似するのか、2つの正規分布で近似するのかで見える世界は異なります。

 

筆者は、正規分布の数をラクダのコブに例えて、1コブラクダ、2コブラクダ、3コブラクダと呼んでいます。

 

必要に応じて、コブの数を増やすことで、見える世界が異なります。

 

1−2)若年失業率のバイアス

 

日本以外の国は、ジョブ型雇用をとっています。

 

ジョブ型雇用をとる場合、若年失業率は、年齢別失業率の1つのランクにすぎません。

 

フランスのように、解雇規制が強い国では、若年に特異な意味が付されることがありますが、それでも、年功型雇用特殊性に比べれば、比較になりません。

 

詰まり、条件の異なる若年失業率を比較するのであれば、バイアス補正が必要になります。

 

1−3)適正な失業率

 

ジョブ型雇用で、各雇用に求められるスキルが異なる場合には、失業が必ず発生します。社会システムのレジームシフトが発生する場合には、レジームシフトがない場合に比べて、失業率は高くなります。この高い失業率は、社会システムのレジームシフトには、必要な要素です。つまり、失業率が高いことが悪い条件ではありません。

 

社内失業を抱え、その結果、労働生産性が上がらず、賃金が異様に低下し続ける場合と、健全な失業のある社会を比較して、考えるべきです。

 

失業した人が、リスキリングで新しいスキルを身につけられれば、それは、社会レジームシフトの過程の一部を構成します。

 

失業せずに、社会システムのレジームシフトを起こすことは不可能です。これは、生態学の問題です。

 

問題は、失業した場合の所得保障や、リスキリングにかかる費用の捻出です。

 

2)低度人材の移入メカニズム

 

中国や韓国で、失業した人が、就職口を求めて、日本に移住してきます。中には、優秀な人もいるとは思いますが、基本は、本国で、就職することが困難な人ですから、2コブラクダで考えれば、高度人材以外の人材の母集団です。

 

日本は、能力に見合う給与を払いませんので、高度人材は、移入しません。

 

これは、ビザの高度人材の定義が、香港が4000万円以上であるのに対して、日本は1000万円であることから明らかです。

 

つまり、日本は、年功型雇用で、若年労働者の能力査定をしない結果、中国と韓国から、選択的に、程度人材を集めていることになります。

 

新卒一括採用で、体育会系で、体が丈夫であれば、採用するというのは、低度人材を選択的募集するフィルターです。

 

もしも高度人材を求めるのであれば、そのスキルを明示して、評価すべきです。例えば、ブログラマーであれば、コーデキングさせる、アルゴリズムを作らせるとうをすれば、能力がチェックできます。こうしたテストを通過する人材の比率は、10%以下かもしれませんが、高度人材なしに、ソフトウェアシステムを開発することはできません。

 

3)まとめ

 

低度人材を問題にする理由は、簡単です。

 

世界中が、デジタル社会へのレジームシフトをするために、高度人材の獲得に動いている中で、日本だけが、低度人材を集めています。

 

もちろん、その方針で、日本経済が成長すれば良いのですか、結果を見るかぎり、どちらが正しいかは明白です。

 

ジョブ型雇用で、高度人材の募集が進む中で、年功型雇用で、新卒一括採用をすることは、低度人材を集めることになります。

 

形式的にジョブ型雇用にしても、スキル評価とそれに見合う給与を提示できなければ、やはり、低度人材を集めることになります。

 

デジタル社会で、使える高度人材は、全体の5から10%です。メインはトップの5%です。

 

この人材を抱えない組織は、窓際族だけで構成される組織になります。

 

引用文献

 

これが低賃金・円安の本当の害毒、人材流出は日本の真の危機の始まり 2023/01/15 現代ビジネス   野口 悠紀雄

https://gendai.media/articles/-/104685

 

絵画の逆襲

(写真と絵画の境界は消滅しています)

 

1)19世紀の写真

 

19世紀に写真が発明されると、写真は、画家にとって、脅威になります。

 

それまで絵画は、対象を正確に再現することを理想していましたが、この点では、絵画は、写真に勝てそうにありませんでした。

 

また、現在のデジタル写真に比べれば、19世紀の写真は、非常に大がかりで、高価なものでしたが、それでも、人間が描く絵画に比べれば、驚くほど短時間で、イメージを作成できると思われました。

 

2)21世紀の写真

 

今世紀に入って、写真はデジタルになりました。

 

絵画がデジタルになったと言えるかは、不明ですが、デジタルな絵画を書いている人はいます。

 

写真も絵画もデジタルになれば、RGBの値をもったドットマトリクスです。

 

データだけ、見れば、数字が並んでいるだけです。

 

つまり、データからは、写真と絵画の区別はできません。

 

脳科学の進歩によって、見えるということは、目に入った光の信号を人間の脳が再構築しているプロセスであることが分かりました。

 

ものを見ることは、目で見るのではなく、脳内の再構築で見ていることになります。

 

21世紀には、デジタル写真とデジタル絵画の境界はなくなりました。

 

写真と絵画の関係は逆転しています。

現在では、写真は、証拠となる動かせない事実を記録したものではありません。

 

写真には、常に、加工された写真や絵画の混在した写真という疑惑がついて回ります。

 

この境界に明確な線を引くことは不可能です。

 

朝の霧の中の写真と、人工的に霧を上書きした写真を区別することは不可能です。

 

少なくとも、この境界に明確な線を引くフィルタ―は、確率的なフィルターにとどまります。

 

スマホのゲームをしている時に、それが、ゲームであると認識しているのは、ゲームの画像の出来が悪いからではありません。ゲームをするという準備がコンテクストを構成するから、ゲームは現実ではないと脳が判断する訳です。

 

同様に、メタバースが進めば、メタバースの中の画像データから、実世界とメタバースを識別することはできません。

 

メタバースの中に、CGで作った仮想データと、どこかにカメラを設置して、リアルな世界を写した実データがあった場合、この2つを識別することはできません。

 

したがって、メタバースを仮想現実と考えることは、脳科学を無視しているように見えます。

 

科学は、仮説と検証の枠組みを作って進んでいます。

 

メタバースでも、仮想データと実データを識別できる検証方法があれば、便利ですが、これは、不可能ではないでしょうか。

 

経験科学とデータサイエンスのギャップ

(経験科学とデータサイエンスの間には、ギャップだけでなく、コンフリクトがあります)

 

1)攻守交替

 

最後に扱うべきギャップは、経験科学とデータサイエンスのギャップです。

 

このテーマは書きあぐねていました。

理由は、書くべきことが余りに多いためです。

 

そこで、考え方を変えて、以下では、最小限の内容を書いていみます。



経験科学と計算科学のギャップでは、本来は計算科学で解くべき領域の問題を、計算資源の制約から、経験科学で解いていました。

 

この境界用域が、計算資源の制約がなくなった結果、計算科学にシフトしています。

 

計算科学は、経験科学の問題を解いているのではなく、本来は計算科学で解かれるべき領域の問題を解いています。

 

経験科学とデータサイエンスのギャップは、これとは異なり、データサイエンスが、経験科学の領域に攻め込んでいるイメージです。

 

これは、アルファ碁の例を考えればイメージできます。

 

碁の対戦は、微分方程式で、記載できる問題ではありません。

 

計算科学の問題の領域はありません。

 

このような領域は、データサイエンスが登場するまで、経験科学の独壇場でした。

 

それが、確率概念でモデル化可能な対象は全て、データサイエンス領域になりました。

 

2)データサイエンスの計算科学

 

理論科学で微分方程式をたてても、計算科学が出て来るまで、答えを求めることは出来ませんでした。

 

統計学は、20世紀の初期には、成立しますが、理論科学と同じような問題を抱えていました。それは、確率分布の計算が可能な分布は、正規分布など、一部の分布に限定されていたことです。このため、多くの確率分布は無理に、正規分布で近似されました。

 

今世紀に入って、任意の確率分布の計算が可能になりました。

 

データサイエンスの計算科学が確立したのです。

 

3)ギャップとコンフリクト

 

スノーの「二つの文化と科学革命」では、パラダイムの違いはすれ違いであって、ギャップでした。厳密に考えれば、科学的文化に属する理論科学のテーマは、人文的文化から分岐しています。

 

例えば、ニュートン力学は、自然哲学でした。

 

天体観測は、占星術と結びついていました。

 

占星術が正しければ、ニュートン力学は、人文的文化に大きな影響を与えたと思われますが、実際には、そうならなかったので、ニュートン力学が、人文的文化に影響を与える(介入する)ことはありませんでした。

 

ここでは、経験科学とデータサイエンスの関係で、最低限考えるべきことを指摘します。

 

第4のパラダイムのデータサイエンスは、経験科学に介入します。

 

天気予報は、確率表現をとります。

 

明日の降雨確率が50%の場合、50%の確率で雨傘を持っていくことはできません。

 

実現可能な行動は、雨傘を持っていくか、持っていかないかのいずれかです。

 

確率は、人文的文化の言語思考では求められません。

 

確率を求めるには、計算が必要です。

 

その計算量も中途半端でなく、コンピュータを使わないと計算できません。

 

つまり、データサイエンスでは、言語を使って、自分の頭だけで考えることは、放棄されています。

 

仮に、誰かが、明日の降雨確率を、試験問題を解くように、紙と鉛筆だけで、計算するといえば、その人は、相手にされません。

 

実際問題として、この方法では、明日になる前に計算が終わることはないでしょう。

 

天気予報は、計算科学で微分方程式を解く方法と統計モデルで確率計算をする方法をブレンドして、行います。この2つのモデルの計算結果が、予想外であった場合には、計算条件を再確認したりします。つまり、コンピュータに全てを任せきりにしている訳ではありません。しかし、コンピュータを使わずに、天気を予測する(考える)ことは正気ではないと見なされます。

 

4)人文的文化とAI

 

巷では、AIが人間を越える時がくると言いますが、AIはデータとアルゴリズムから結果を出します。

 

天気予報の精度が上がったのは、地球環境問題が重要視されて、地球規模のデータ整備がなされてからです。

 

医師は、画像をみて、病気を診断します。

 

顔認識のソフトウェアは数億人分の画像でパターン認識を学習します。

人間は、数億人分の画像でパターン認識を学習できません。

 

天気予報を自分の頭だけで、考える人はいません。

 

パターン認識を自分の目と頭で行うことはありえません。

 

つまり、「AIが人間を越える」という設問はナンセンスです。

 

同様に考えれば、景気予測を自分の頭だけで考える人は、正気を逸脱しています。

 

経験科学のように、人間の目と頭で構成された科学に固執することは、正気を逸脱しています。

 

経済政策や少子化対策を自分の頭だけで考える人も正気を逸脱しています。

 

人文的文化だけの科学があり、自分の頭だけで考えることが正しいと考えている人は、科学的文化のエンジニアから見れば、ストレンジラヴ博士(Dr. Strangelove)のように見えてしまいます。

 

経験科学の有識者会議も、エビデンスと計算結果を示せなければ、ストレンジラヴ博士のように見えてしまいます。



足利フラワーパーク(3)(栃木県足利市)~つくば市とその周辺の風景写真案内(1002)

足利フラワーパーク(3)

足利フラワーパークのイルミネーションの写真の続きです。

今回は、前回より露光を下げています。

露光を下げると、イルミネーションの色が濃くなります。

写真1 足利フラワーパーク

写真2 足利フラワーパーク

写真3 足利フラワーパーク