微分のリテラシーとカリキュラム

1)微分の基本

 

データサイエンスなどの科学を理解する上で、必須の数学のリテラシーは、分数と微分です。

 

分数は、2つの値の比を扱います。

 

微分は、2つ値の差を扱います。

 

実質賃金上昇は、名目賃金上昇から、物価上昇を引いて求めます。

 

この演算は、引き算です。

 

しかし、それ以前に、賃金上昇も、物価上昇も、2つの時期の賃金、物価の差です。

 

差をとりますので、2つの時期の区間の大きさが変われば、値の意味が変わってしまいます。

 

微分は、値の差を区間の長さで割って、変化量にします。

 

微分の便利なところは、区間の長さのデータを考慮しなくても良い微係数の1つの値に特性が集約される点です。

 

数学的に厳密に考えれば、この値は、微分ではなく、差分になりますが、区間が大きい場合に留意すれば、この2つが区別されることはありません。(注1)

 

山を登る困難さは、坂道の傾きで表わされます。この坂道の傾きに相当する値が微係数です。

 

ある区間(2地点間)を登る場合、そこには、水平距離と標高差(垂直距離)がありますが、登山の困難さは、第1に坂道の傾きに左右されます。

 

ここで、大切なことは、坂道の傾きという値をイメージできるか否かです。

 

微分の公式(オブジェクト)の暗記は、インスタンスの理解ではありません。

 

坂道の傾きは、微係数のインスタンスです。

 

微分が理解できていることは、インスタンスの操作ができることです。

 

微分の公式を忘れていても、微分インスタンスが処理できれば、微分が理解できていることになります。

 

2)学習のメカニズム

 

1か月後に、期末試験があり、あなたは試験勉強をすると仮定します。

 

筆者は、暗記教育を好みませんが、外国語学習の初期の段階では、単語、特に、名詞の暗記は避けて通れません。

 

期末試験までに、100個の単語を暗記する必要があるとします。

 

これを単語カード(電子カードでも構いません)に書きこんで、10単語ずつ学習するとします。

 

計測してみると、10単語を暗記するのに、30分かりました。

 

これから、期末試験までに、100単語を暗記するのに、最低限5時間かかることがわかります。

 

最初に暗記した単語は、試験前には忘れてしまう可能性がありますので、復習をする必要もあります。

 

このため、実際には、5時間以上の時間が必要になります。

 

暗記カードの学習は次のことを示唆しています。

 

学習は、学習量(単語数)、学習時間、学習速度(10単語30分、微分)で構成されます。

 

このうち、支配要因は、学習量と学習速度です。

 

学習速度は、微分インスタンスの一つです。

 

帰国子女で、100単語のうち、99単語を既に知っていれば、学習量は、1単語になります。

 

ローレンス・サマーズ米元財務長官は、記憶で困ったことはないといいます。

 

サマーズ米元財務長官は一度見れば、暗記出来るそうです。

 

サマーズ米元財務長官の学習速度は、大きく、10単語を30秒もあれば、暗記できるでしょう。

 

学習速度は変化します。

 

評論家の立花隆氏は、新しい分野を学習するときに、最初は、易しい漫画本から始めて、徐々に難しい教材にグレードアップしました。立花氏は、この方法を、学習速度を徐々にあげる最短ルートを考えていました。(注2)

 

100単語の学習時間は、5時間です。1か月先の期末試験の間に5時間を捻出することが難しくありませんが、試験の前日に、5時間を捻出するのは、困難で、一夜づけになります。

 

5時間は、1サイクル30分を10回繰り返す計算です。サイクルの間に、脳の休息が入らないと、学習速度は低下してしまいます。

 

学習を定義して、論ずることは、学習過程(学習量、学習時間、学習速度)をセットにして検討することになります。

 

単語帳の例では、1サイクル30分を仮定しましたが、ベストなサイクル時間は、学習量(学習対象)、学習速度などの条件によって変化します。

 

3)カリキュラムのナンセンスさ

 

学校教育のカリキュラムは、学習過程(学習量、学習時間、学習速度)を無視していますので、実現不可能です。

 

落ちこぼれと呼ばれる学習困難者がいます。

 

学習困難者の本来の定義は、学習速度が極端に遅い生徒になるはずです。

 

授業に出席せず、教科書や参考書も読まない場合には、学習量が積みあがって大きくなります。しかし、学習速度が早ければ、大きな問題ではないと思われます。

 

カリキュラムは、教育の結果の到達度評価には使えると思われます。

 

しかし、学習や教育のプロセス(学習量、学習時間、学習速度)とは無関係です。

 

教師は、授業という時間を与えられます。

 

学校教育は、その時間内に、学習速度で可能な学習量を達成するプロセスです。

 

生徒の学習速のレベルに合わせた可能な学習量が与えられれば、教師は努力できます。

 

しかし、現実には、カリキュラムは、学習不可能な学習量を提示しているだけです。

 

カリキュラムは、落ちこぼれをつくるシステムになっています。

 

カリキュラムには、学習量と学習速度のデータはありません。

 

つまり、現在のカリキュラムを作成しているいる専門家は、微分がわかっていません。

 

現在のカリキュラムは科学的には、ナンセンス(無意味)です。

 

収集しているデータは、到達度だけで、学習過程(学習量、学習時間、学習速度)のデータは持っていません。

 

このため脳科学認知科学が、現在のカリキュラムを検討対象にすることはありません。

 

注1:

 

経済学では、前年同月のデータとの差分をとることが多くあります。

 

この計算処理は容易です。

 

しかし、周波数成分で考えるのであれば、もっとましなフィルタはいくらでもあります。

 

四季の季節変動も補正は可能です。

 

データサイエンティストは、周波数成分に分解しているはずです。

 

つまり、マスコミで報道されているデータと、トレーダーが見ているフィルタリング後のデータには、ギャップがあります。

 

円評価の日経平均の株価が非常に高くなっていますが、これには、円安効果が含まれているので、数学の出来る経営者やトレーダーは、実体経済の指標をみているはずです。

 

こうした指標を理解するには、データサイエンスの理解が不可欠なので、ほとんど表に出ることはありません。

 

数少ない表に出ているデータは円ドルの実効レートです。

 

経済学では、前年同月のデータとの差分をとるように見えるのは、読者のリテラシーのレベルに合わた情報が流通しているためです。目に見えない部分で、より高度な数学が使われています。

 

注2:

 

漫画本には、基本概念の間違いが多いので、筆者は、この方法をお薦めしません。替わりに、最初の3か月は、易しいテキストを時々読んで、どこがわからないかをゆっくり、考える方法がよいと思います。

 

いずれにしても、新しい分野の学習の初期の学習速度は、極めて小さくなります。そのゆっくりさに耐えられないで、内容の理解を放棄して、キーワードの暗記に切り替えると、見かけの学習速度はあがりますが、実体の学習速度は、ゼロになってしまいます。期末試験が、こうして教育効果を台無しにしている場合が多く、見かけられます。

 

読書家で、学校の授業の前に、このゆっくりした学習速度の部分を通り過ぎていれば、新しい分野の学習の初期の学習速度をあげることが可能になります。