インフラの維持管理とヒストリアン~2030年のヒストリアンとビジョナリスト(8)

2022/02/06の日経新聞の第1面に、「インフラ止まらぬ高齢化・トンネル4割寿命 修繕費膨張、年12兆円も」という記事が出ています。

 

その中に、1990年を100としたG7の一般政府総固定資本形成が出ていて、2019年が1990年より減少しているのはG7の中で、日本だけであるといっています。

 

この説明では、一般政府総固定資本形成をG7の他の国並みに増やすべきとも読めますが、そうすると、維持管理費用が増加してしまいます。おそらく、ここで、修繕費と言っているのは、建て替え費用を想定していると思われます。しかし、今後、人口が減るので、利用率の低い施設は、建て替えせずに廃棄すべきだと思われます。

 

一般政府総固定資本形成のグラフは、投資額(公共事業予算)を示していると思われますが、1990年以降、G7でGDPが伸びていないのは、日本だけですから、これは、妥当な投資額と思われます。

 

中身を考えずに、こうした過去のトレンドが、続くべきであると考える発想は、典型的なヒストリアンです。

 

使用頻度の低い道路やトンネルは廃棄して、空飛ぶ車に切り替えた方が、コストがかからないはずです。

 

これは、北海道で、鉄道輸送が、自動車やバスの輸送に切り替わっているのと同じ構造です。

 

つまり、より効率的な新しい技術とシステムがあれば、それに乗り換えるべきです。そしてそのためには、ビジョンが必要ですから、ヒストリアンを追放して、ビジョナリストを登用する必要があります。

 

実際には、国土強靭化という旗のもとに、維持管理は脇において、建設に邁進しています。

 

現在の災害警報システムは、北朝鮮がミサイルを発射したときの警戒システムと同じで、いつまでに、どこに逃げるべきかは、データが皆無の中での自己判断にまかされています。

 

コストパフォーマンスのよい災害リスク管理は、スマホ版の避難誘導システムで、ビジョンを考えれば、土木工事より、こちらを優先すべきだと思われますが、そうはなっていません。



2021年に、Y新日本有限責任監査法人と水の安全保障戦略機構が、将来の人口推計や各自治体の減価償却費の推移などを基に、2040年時点において水道事業が赤字にならないための料金を算定しました。それによると、全体の94%の自治体で値上げが必要であり、18年を起点とした値上げ率の平均は43%にも達します。

 

国土強靭化で新しいインフラ整備をするよりも、高度成長期に整備したインフラを廃棄するか、更新して建て替えをする方が、優先順位が高いと思われますが、そうはなっていません。

 

ゼネコンは、国土強靭化というヒストリアンの視点から抜けられなくなっています。

 

大和ハウス1社の2021年度の営業利益は、スーパーゼネコン4社(鹿島、大成、清水、大林組)の合計を超えています。

 

大和ハウスは住宅だけでなく物流施設や商業施設へも積極的に投資し、ゼネコンのフジタを2013年に完全子会社化して、ゼネコンを内包しています。大和ハウスの売り上げの伸びの大きな部分は、物流施設で、2021年9月末時点で全国に312カ施設(施工中を含む)を建設しています。

 

今までのインフラ整備は、スーパーゼネコンが、主導して、公共事業費予算を確保してきました。

 

しかし、予算額や、一般政府総固定資本形成は、サービスの量と質を表していません。たとえば、今までは、電気が不足しそうになれば、発電所を建設していました。

 

最近では、Googleは、アルゴリズムの改善で、4割の節電ができたと言っています。テスラは、EVをつかって、街全体を発電と充電ネットワークにする構想で進んでいます。

 

こうした状況を、ビジョナリストとして見れば、大和ハウスのような総合ディベロッパーや、テスラのようなEVメーカーが、ゼネコンを呑みこんでしまっても、不思議ではありません。

 

インフラの維持管理では、ヒストリアンの視点を捨てて、問題を新しいコンテクストで、ビジョンを立てて、組みなおして見る必要があります。



-目先の利権を優先してきたインフラはもう限界...日本人が知らない大問題 2021/06/23 ニューズウィーク 加谷珪一

https://www.newsweekjapan.jp/kaya/2021/06/post-146.php

 

-再編も?「ゼネコン」工事多いのに採算悪化のなぜ 利益は4社合計でも大和ハウスにかなわない 2022/02/07 東洋経済 梅咲 恵司

https://toyokeizai.net/articles/-/508694