終わりの始まり~コロナウィルスのデータサイエンス(63)

ゆたかになるためには何が必要か

緊急事態宣言の解除に伴い選挙支持母体へのお金のばらまきがはじまりました。

それは、あたかもコロナウィルス問題は終わってしまったかのように見えます。

バブルのあと、日本の経済はゆたかになれませんした。一人当たりGDPは増えず、OECD先進国の中で、毎年少しずづ、相対的に貧しくなりました。これは、経済のサービス化に対応できなかったからとも言われていますが、この30年年間に経済社会を廻る状況は大きく変化し、延びている企業は、こうした変化に対応して新しいサービスを生み出しています。この30年間に変わらなかったのは、日本だけです。

それでも、相対的に、一人当たり、GDPが高いなど、今までは余力がありましたが、それも、ほぼ、使い切っています。

データエコシステム

豊かになるためには、経済のサービス化に対応して、労働生産性をあげる必要があります。

この30年の間に、技術的に見て、社会経済は、5年毎くらいのステップで大きく変化してきました。

クラウドサービスが出てきて、15年、スマホが出てきて10年、ビッグデータやAIが出てきて、5年くらいです。新しい技術は、ひとつ古い技術を前提に、進んできていて、これらの技術体系は、前提とするユーザーの利用も含めて、エコシステムを形成しています。このエコシステムに適応できた企業や組織は発展できますが、取り残された組織は絶滅してしまいます。データサイエンスは、このエコシステムの中で情報を活用して、組織をエコシステムに適応させて、生き残るための技術です。

このエコシステムに固有の名称はないのですが、以下では、データサイエンスが重要な技術となっているエコシステムという意味で、データエコシステムと呼ぶことにします。これをエコシステムと呼ぶ理由は、スマホ、ネットワークなどのハード、OSやアプリなどのソフト、それを使うユーザーと開発者、その人たちのスキルなどがエコシステムを形成しているからです。

エコシステムに適応する組織は、エコシステムを使って大きくなってきた企業文化をもつ組織です。ここでのポイントは、組織の成長率と、企業文化は対応することです。仕事の仕方と意思決定の仕方が、データエコシステムにあっていないと成長できません。パソコン、スマホ、ネットワークを準備しても、データの集めから、使い方(この辺りがデータサイエンスになります)、意思決定の仕方がエコシステムに適合していないと競争に負けてしまいます。たとえば、Uberのようなシェアリングシステムは、ビジネスチャンスであるとわかれば、競合企業が参入してきますので、競合企業との競争に勝てないところは、淘汰されます。特に、参入するための資金制約はほとんどないので、できるだけ優秀なプログラマを抱えて、できるだけ迅速に意思決定できるところしか生き残りません。少数の優秀な人で迅速に進めることが必須です。

こうした変化には、大きな組織は対応できませんし、大きな組織をかえることは難しいです。大きな組織には、それまでの古いエコシステムに対応した企業文化が根付いていますので、これを変えることは容易ではありませんし、それに、少しでも、余分な時間を使っていたら、競合企業に勝てません。

生き残りの現状

こうしたデータエコシステムの対応できずに淘汰されかかっている組織は沢山あります。というか、逆に、データエコシステムの対応できている企業を探す方が難しいです。

大手銀行は、実店舗を削減して、人員削減する計画を出しています。銀行の業務は、資金をあつめることと運用することです。前半はネットでコストダウンできますし、連携コンビニも多数あります。後半は、データサイエンスそのものですが、90年代までの土地に投資する体質から抜けていません。おすすめの金融商品は、海外の製品がほとんどです。

カメラメーカーは、街の写真屋さんを取り込んで、記念写真帳の記念写真エコシステムを作りました。現在でも結婚式の写真をカメラやさんでとってもらう人はいます。写真雑誌、写真展示会もこの記念写真エコシステムの一部です。しかし、現在では、写真もデータエコシステムの一部になり、インスタグラムで共有して楽しむものになりました。カメラメーカーはこのデータエコシステムに対応できず、売り上げが低迷しています。街のカメラやさんは、高価なプロ用のカメラできれいな写真をとって記念写真帳を作って売るというビジネスで食べています。この場合には、「高級カメラ=高価=カメラ屋さん以外は買えない=カメラメーカーの高い利益率」という記念写真エコシステムになっています。これを崩して、「安価なカメラ=よく写る」を実行すると、カメラやさんが失業してしまいます。従って、安いカメラは、高いカメラの性能の一部を削って売っています。メインのIC部品は、量産化された共通部品を使うのでどのカメラでも原価はかわりませんが、カメラやさんに配慮して、一部の機能に蓋をして、安いカメラの性能を落としているわけです。一方、スマホメーカーは、カメラやさんの利益には無頓着ですから、安くて写るカメラをスマホに搭載します。スマホの販売個数は非常に大きいので、ソフトの開発費はほぼゼロ、ハードも量産効果で非常に安くなっています。その結果、普及クラスのカメラは、スマホに比べてよく写らない、インスタグラムにリンクしにくいため売れなくなりました。最後は、受注生産で生きていくのかの選択になると思います。

緊急事態宣言の解除は、専門家会議の意見を1日待ってきいて、昨日の夕刻に、テレビで放映されました。これには、目を疑いました。なぜなら、Zoomで専門家会議を併催して、You tubeで発信すれば、3日前に10分で終わっている内容を、聞かされているからです。このどこが、緊急事態なのかと思います。

古いエコシステムに適合し、データシステムに乗り遅れたマスコミが、絶滅するのは時間の問題だと思います。恐ろしいのは、政府や自治体がこのエコシステムから離れられないでいるということです。政府などの公共機関は独占のため競合による効率化が働きません。ですので、レガシーのエコシステムにぶら下がっている組織が多数あります。

コロナウィルスの蔓延は、データエコシステムに対応できない組織の問題をあぶりだしました。

テレワークができない会社、オンライン授業ができない大学、学校、学生、デジタルデータを集められない保健所など、多数の例をあげられます。

データエコシステムの展望

京セラの組織改革は、不況時に行うという話があります。売り上げがあって仕事が回っているときには、組織を変更することは難しい。その結果、非効率な組織、問題のある組織の改編が先延ばしになってしまう。不況時に、しっかり組織を見直すことで、次の好況時への対応をすることが大切であるという話です。

データエコシステムに対応できない組織に対して、膨大なお金のばらまきが始まりました。これは、例えば、パソコンのない学生には、パソコンを貸与するといった政策です。しかし、問題はデータエコシステムです。ハード、ソフト、クラウド、ユーザーは一体でエコシステムを形成しています。データエコシステムのトレーニングに参入する経費は、大学や学校の授業料に比べれば、問題にならないくらい安価です。問題はデータエコシステムの外で生きていくか、否かの選択だけです。パソコンを持っていない学生は、既に、そうした選択をして、そうした大学にいっています。ですから、パソコンの購入費は問題ではありません。

いまでは、数が少なくなり、おそらく絶滅に近くなると思いますが、大学の卒業証書があり、運動部で、体力があれば、雇ってくれる企業もあります。こうした企業に就職するために、大学に卒業証書をもらいに行く学生もいます。これは、個人の自由です。ですが、その企業が、データエコシステムに適応しているとは思えないので、労働生産性は低く、給与はなかなか、あがらないと思います。場合によっては淘汰されるでしょう。そのリスクも考慮する必要があります。

有権者の中で古いエコシステムの下で生きる人の割合が高いと、政治は、古いエコシステムの温存に動いて、変革が進まなくなります。本当は、こうした場合に、政治がすべきことは、エコシステムを乗り換える場合のリスクに対するセーフティネットだと思うのですが。

こうしたお金のばらまきは、変革を遅らせるだけで、中長期的に良いことはありません。短期的な問題の本質は、乗り換えのリスクに対するセーフティネットですが、代わりに、現所維持のばらまきが行われます。しかし、この政策は、その業界が淘汰され、有権者数が減った時点で行われなくなります。典型的な例は農業政策でみることができます。単なる時間稼ぎにすぎません。

本当は、コロナウィルスの蔓延が契機にになって、データエコシステムに対応する組織が増えることを期待したのですが、政治は逆に動くようです。ですが、無駄な努力が、続くことは長くないだろうと思います。

多くのデータエコシステムに対応していない組織にとって、コロナ禍は、終わりの始まりになっていると思います。