メタ質問(2)

3)異常事態

 

毎日新聞は次のように伝えています。

財務省の神田真人財務官は2日、日本経済の課題を巡る私的懇談会の報告書を発表した。輸出産業の国際競争力低下や、新しい少額投資非課税制度(NISA)の影響もあって個人金融資産の海外流出が増加している現状を示した上で、こうした状況を打破するため、産業の新陳代謝や成長分野への労働移動の円滑化を提言した。

 

報告書は「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」と題した懇談会の議論をまとめた。ここ数年の円安進行は日米の金利差のほかに、海外との資金のやり取りを示す国際収支の構造変化が背景にあるため、学者やエコノミスト20人を集めて議論してきた。

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貿易赤字解消のため、原発再稼働を 神田財務官の私的懇談会が報告書 2024/07/02 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/1cdfa08bb6cf17a9a3da6bd3bd32872e7fc4adbf

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これは、異常事態です。

 

民主主義では、独立した第3者機関が、政策提言をすることは当然の行為です。

 

一方、これに対して、政府は、政府の政策を持っています。

 

岸田政権であれば、キシダノミクスを持っています。



官僚は、命令系統では、キシダノミクスに従います。

 

ただし、2つの例外があります。

 

第1に、思想の自由が憲法で保障されていますので、命令に従うことは、キシダノミクスに賛成であることを意味しません。政府からは嫌われますが、学会などの独立した機関で、自分の見解を表明することができます。

 

第2に、良心の問題で、賛成できないと意思表明することができます。Googleの社員は、反対の意思表示をして、幹部に、技術開発方針の再考を促しています。

 

太平洋戦争で、日本では、特攻隊が止まりませんでした。イギリスの場合には、良心的な兵役拒否をした人もいます。

 

日本の政党は、特攻隊と同じ精神で、党議拘束をかけますが、アメリカの政党には、党議拘束はありません。これは、議員の投票は、最終的には、良心の問題だからです。

 

党議拘束は、特攻隊の論理であり、村八分の論理であり、イジメの論理です。憲法違反です。

 

財務官の私的懇談会の報告書は、あるべきではない書類です。

 

学者やエコノミストが集まって議論して、報告書を出すことは問題がありません。

 

その研究会に、財務官が私的に参加することも問題ありません。

 

私的懇談会の修飾辞に、財務官がつくことは、私的でないことを意味しています。

 

報告書は、簡単に言えば、キシダノミクスには問題があるという主張になります。

 

筆者は、キシダノミクスには問題があると考えますので、内容には基本的に賛成です。

 

しかし、政府の内部にいる官僚が、キシダノミクスに問題があると発言するのであれば、手順があると考えます。

 

たとえば、Googleの社員は、技術開発方針に問題があると感じる時には、反対の意思表示をして、幹部に、技術開発方針の再考を促しています。

 

同様に考えれば、キシダノミクスやアベノミクスの作成段階で、官僚はまず、異議をとなえるべきであると考えます。

 

問題は、出来るだけ早く対処することで、ダメージを抑えられます。

 

報告書は、簡単に言えば、キシダノミクスには問題があるという主張になります。

 

このことは、審議会で政策を決定するプロセスが、正常に機能していないことを示しています。

 

つまり、より大きな問いは、日本の政策決定プロセスを改善しなければ、問題解決ができないことを意味しています。

 

報告書は、「産業の新陳代謝や成長分野への労働移動の円滑化を提言」しています。

この内容はアベノミクスの第3の矢に他なりません。

 

「産業の新陳代謝や成長分野への労働移動の円滑化を提言」は、10年以上前から、まったく進んでいません。

 

今回、再度提言しても実現可能性はゼロに近いと判断できます。

 

20人の学者とエコノミストは、第3の矢を繰り返しています。

 

大きな問いを出すことができていません。

 

筆者は、その原因は、20人の学者とエコノミストの推論が帰納法に汚染されているからであると考えます。

 

アベノミクスの第3の矢は、まったく進みませんでした。

 

因果モデルで考えれば、ある原因があって、その結果、アベノミクスの第3の矢がまったく進まなかったという論理になります。

 

この原因は、演繹法またはアブダクションで推測しなければ、わかりません。

 

「産業の新陳代謝や成長分野への労働移動の円滑化」には、レイオフは欠かせません。

 

レイオフのほとんどない年功型雇用を採用している国は、日本だけですので、状況をみれば、レイオフがない(労働市場がない)ことが原因になって、「成長分野への労働移動の円滑化」を妨げていること(結果)になります。同様に、中抜き経済も日本にしかないので、怪しい(原因の可能性が高い)と推測できます。

 

しかし、20人の学者とエコノミストの推論は、アベノミクスの第3の矢で、止まっていて、その先の原因の改善には進んでいません。

 

これは、推論の方法が、科学的に間違った帰納法に限定されていて、因果推論がなされていないためと思われます。

 

大きな問いを発するには、因果推論が欠かせません。