1)NHKと新聞
メタ質問は、大きな問いのことです。
例をあげます。
2024年6月25日に発表された2023年度決算で、NHKの受信契約総数が過去4年間で100万件以上減っていることが明らかになりました。
放送に公的な関与が必要な理由は、電波が寡占になるからです。
また、料金を支払わない人に、電波を届けないというビジネスモデルが成立しません。
料金の支払いの有無に限らず、電波が届くので、料金聴取モデルが成り立ちません。
民間放送は、広告収入によって、利益を徴収(広告システム)しています。
広告収入は、視聴率に連動しています。
広告システムは、内容の偏りを生じるリスクを持っています。
NHKは、政治家と官僚に忖度して内容の偏りを生じるリスクを持っています。
BBCは、民営化したので、NHKも、理論上は民営化できます。
視聴者から見て、放送と通信の区別はありません。
視聴者が動画を見る場合、データの転送が放送か、通信かは関係がありません。
You Tubeのような動画の通信システムがあれば、電波の通信システムがなくとも、問題はありません。
You Tubeのシステムは、広告依存と有料コンテンツの2階建てです。
有料コンテンツで、単価の一番高い分野は映画です。
インターネットが出る前には。放送が、映画の仲介販売をしていたこともあります。
画質は悪いが、無料で映画を見ることができるというビジネスモデルです。
現在は、この市場は、動画配信に移動しています。
インタ―ネットが普及する前に、放送がかかえていた市場の多くは、ネットワークに流出しています。
これは、放送だけの問題ではありません。
紙の雑誌は、ネットワークのコンテンツに負けて撤退しています。
紙の雑誌では、データの更新ができませんので、最終的な確認はネットワークで行います。
観光施設に行くときに、臨時休業している場合があります。この情報は、ネットワークでは得られますが、紙の雑誌では得られません。紙の雑誌で、観光施設を選択しても、旅行前に、ネットワークでの営業確認は欠かせません。
読売新聞は次のように書いています。
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受信料で運営される公共放送にとって、契約総数の減少は死活問題。人海戦術に頼っていた契約獲得手法の見直しで、十分な営業活動ができなかったことが主な原因とされるが、インターネット社会の進展で「テレビ離れ」も進む中、減少トレンドを抑えることはできるのだろうか。
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<< 引用文献
NHK受信契約が4年で100万件減、不払いは倍増「テレビ離れがどう影響しているか答えるのが難しい」2024/06/29 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20240627-OYT1T50088/
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<インターネット社会の進展で「テレビ離れ」も進む中、減少トレンドを抑えることはできるのだろうか>という問いは、小さな問いに見えます。
この問いは、NHKの事業の継続性を優先しています。
企業の本来の使命は、消費者に、安価で、質の良いサービスを迅速に提供することであるはずです。
ここには、消費者目線がありません。この問いにある論理は、市場経済ではなく、中抜き経済です。
<インターネット社会の進展で「テレビ離れ」も進む中、減少トレンドを抑えることはできるのだろうか>という問いを発している新聞社自身も、発行部数の減少が止まりません。
新聞社は、紙の新聞だけでなく、有料のネット配信も併設していますが、日本経済新聞以外は、赤字であろうと予測されています。
共同通信は、次のように伝えています。
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輪転機の国内シェア約5割を握っている三菱重工業は2024年6月28日、新聞を印刷する輪転機の新規製造をやめると発表した。
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三菱重、新聞輪転機事業から撤退 人材高齢化と部品の調達難踏まえ 2024/06/28 KYODO
https://news.yahoo.co.jp/articles/090c0181ae9380345c6fdd497bdfa6302c0fe84e
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つまり、今後は、新聞輪転機のコストが上がっていく可能性が高いことを意味しています。
最近では、TVチューナーを内蔵しないネットワーク専用のテレビも出ています。新聞輪転機と同じように、TVチューナーも生産量が減れば、割高になる可能性があります。
大きな問いは、放送と通信の区別を脇に置いて「消費者に、安価で、質の良いサービスを迅速に提供する」方法に関するものになるべきです。
2)橋の哲学
市場経済よりも、中抜き経済を優先する思考は、「橋の哲学」です。
都知事選でも、討論会に参加した全ての候補者が、給食の無償化(市場経済から中抜き経済への移行)を政策に取り上げる理由は、「橋の哲学」にあります。
市場経済を優先するのであれば、無償化よりも、バウチャーの配布をすべきです。
無償化の補助金は、企業に渡り利権を形成します。バウチャーの補助金は、個人に渡ります。
加谷珪一氏は、次のように指摘しています。(筆者の要約)
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日本では、長期的な成長を妨げる経済政策の誤った認識が2つある。一つは「経済成長は企業や個人の活動が決めるのではなく経済政策が決める」という考え方、もう一つは「企業が労働者を守るべき」という価値観である。
日本では、経済というのは企業や個人の活動ではなく、政策が決めるという誤った考え方が蔓延しており、これが経済の長期停滞を招いている。
もし経済というものが政府の財政政策によって外生的に決まるのなら、社会主義国がもっとも高い成長を実現しているはずであり、それはあり得ない。つまり、経済は、政策が決めるのではなく、企業や個人の活動で決まる。
経済は、政策が決めるという考え方の背景には、企業の新陳代謝には困難が伴うため、無意識的にそれを避け、現状維持を望む心理がある。
本来、労働者を守る責任を有するのは政府だが、日本では政府がその役割を放棄し、雇用の維持を企業に押し付けている。
日本では企業の新陳代謝を活発にせよ、という意見を述べると、必ずといってよいほど「雇用を犠牲にするのか」「企業を支援しないと雇用が失われる」といった批判が寄せられるが、これは明らかに順序が逆である。企業を守って労働者を保護するのではなく、政府が労働者を守り、企業は徹底的に競争させるのが正しい姿である。
(中略)重要なのは「企業を守る」ことではなく「労働者を守る」という考え方である。
今の日本に求められているのは、誤った従来型価値観からの転換である。
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日本で「ゾンビ企業」が急増しているウラにある、経済の間違った考え方…本当に必要な政策は? 2024/02/14 現代ビジネス 加谷珪一
https://gendai.media/articles/-/124247?imp=0
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加谷氏は、「誤った従来型価値観からの転換」が求められるといいます。
しかし、東京都知事選の給食無償化問題に見るように、「労働者を守る」ことを放棄し
「企業を守る」(補助金をばら撒く)ことで、政治献金を得る「橋の哲学」に基づく利権の政治が、法度制度に基づく年功型雇用に組み込まれています。
つまり、経済成長に必要な第1の要素は、解雇規制を解除して、人権無視の年功型雇用を崩壊させて、労働市場を構築することです。それに、あわせて失業補償とスキルアップの財源を政府が手当することです。
こうした経済成長政策を実施すると、現在の政治家と官僚の利権が失われてしまいます。そこで、政治家は「橋の哲学」を標榜して、経済効果のない補助金のばら撒きを繰り返して、経済成長政策を阻害して、赤字国債を積み上げています。
赤字国債が積みあがれば、円安になり、そのコストは、実質賃金の低下という形で、労働者から、企業に所得移転されます。更に、インフレも所得移転を加速させます。
加谷氏のいう「誤った従来型価値観からの転換」が必要ですが、そのためには、利権の政治を優先する政治家と官僚が入れ替わる必要があります。
日本でも、フランスやイギリスのような政権交代が起らなければ、これは困難です。
こうした場合、大切なことは、正しい大きな問いを提示して、検討を進めることだと考えます。
「橋の哲学」は、労働者の利益を損ねますが、同時に、株主(資本家)の利益も損ねます。
これは、「橋の哲学」が、市場経済でなく、レーニン主義の経済政策(中抜き経済)を行なうためです。
強欲資本主義という「橋の哲学」のレトリックは、政治利権を維持するための詭弁であることに気付くべきです。