7)議論の前提
経済学者ではない筆者が、なぜ、財政破綻の話をするのか、疑問に思う読者がいると思うので、ここで、議論の前提を説明しておきます。
経済学は、相関のモデルであり、因果ダイアグラムのような構造変化を表現する数的言語を持っていません。推論の道路の比喩でいえば、バックミラーをみて走っている状態です。経済学者は、アブダクションをしませんので、自動車が崖から墜落して(財政破綻して)から初めて、推論が間違っていることに気付きます。
つまり、経済学者は、バブルや財政破綻を事前に議論する言語(因果ダイアグラム)をもっていないので、事前に財政破綻を予測して、財政破綻を回避することができません。
財政破綻は、推論の道路が曲っている場合に相当します。これは、因果構造の変化に相当します。
AIは、経済学者とは異なり、若干の因果推論ができます。
この機能を使うと次のように、経済の構造変化を調べることができます。
ST1:2013年から2023年のデータをつかって、円ドルレートを推定する因果モデルをAIにつくってもらいます。
ST2:このモデルを2024年と2025年の円ドルレートにあてはめて、経済の構造変化が起きているかを、AIに点検してもらいます。
Geminiは、この質問に対して、明らかな構造変化があると分析しています。
これは、日銀が政策金利をあげても、円高にならない状態に相当します。
経済構造の変化が極限まで進んだ状態が、財政破綻になります。
つまり、2024年から、日本経済には、異変(故障)が起きています。
2026年1月には、財政破綻はしていませんが、財政破綻の入口にいます。
経済学者は、財政破綻の入口にさしかかっているかも知れないと言いますが、その先の議論はできません。これは、経済学は、バブルや財政破綻を事前に議論する言語(因果ダイアグラム)をもっていないので、必然的な結果になります。
Geminiは因果モデルを持っているので、推論の自動車がどれだけ、事実という道路からずれてきているかを論じています。
AIが出て来る前には、今後の円ドルレートを予測する場合には、マスコミが紹介するエキスパートの意見を聞く以外の方法はありませんでした。
エキスパートは、AIとは違って、予測の数字をだしません。
AIは、因果モデルをつくって、シナリオに合わせて、因果構造の変化を反映したモデル計算をしてくれます。
数学的な視点でみれば、AIの推論が経済学者の推論より正しいことは自明です。
ただし、AIは、しばしば、経済学者の集団思考にもどることがあるので、その点は注意が必要になります。
たとえば、コブダグラス型の生産関数には、生産性のパラメータがありません。
経済学者は、全要素生産性というトンデモ用語を使います。
この表現をきくと、経済モデルには、生産性のパラメータが含まれているように思いがちです。
しかし、全要素生産性は、残差項(誤差項)につけたラベルであり、生産性とは論理的なつながりはありません。
このような注意は必要ですが、AIは簡単にモデルをつくって、予測をしてくれます。
8)インフレと円安の効果
家計から企業または政府に所得移転する方法には、2つのパスがあります。
第1は、円安パスで、第2には、インフレパスです。
熊野英生氏は、インフレパスについて次のようにいっています。
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高市氏は、対名目国内総生産(GDP)比で政府債務残高を減らすと公言している。この方針は同時に、家計金融資産や企業の内部留保の価値もインフレによって実質的に低下させる。つまり、大方の円資産をインフレ調整で減価させようとしている。経済学で言う「物価水準の財政理論(FTPL)」と呼ばれるプランを実行しようとしているように見える。このインフレ調整が、通貨の切り下げに波及しやすいことは要注意だ。円資産の実質価値が減価することを予想させて、円安を加速させかねない。
個人の中には財政不安を警戒して、自分の資産の中でドルなど外貨の占める割合を増やそうとする者も少なくない。こうした経済行動の背景には、為替レートはいずれ円安方向に動いていくという予想が働いている。
この論理を裏返すと、円資産だけで運用しているとインフレ調整によって価値が減価してしまうという恐怖感があるのだろう。円だけで運用するリスクこそが、インフレ予想なのだ。このインフレ予想を変化させるには、預金金利を含めた円資産の運用利回りをもっと引き上げなくてはいけない。
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コラム:円安予想が修正されない限り続く円安トレンド=熊野英生氏 2026/01/27 ロイター
https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/74DGGZPT5NKELCHP6WGFJNI6BM-2026-01-26/
>>
熊野英生氏は、「インフレ→円安」という因果関係があるといいます。
「預金金利を含めた円資産の運用利回りをもっと引き上げなくてはいけない」は、完全な論理破綻です。
リフレ派の主張は、「インフレ→経済成長」という因果の主張です。
これが成功していれば、「預金金利を含めた円資産の運用利回りをもっと引き上げなくてはいけない」状態には、なっていないはずです。
つまり、経済学には、科学としての検証プロセスがありません。
「インフレ調整によって(円資産の)価値が減価してしまうという恐怖感があるのだろう」という主張は、過去の実績を無視しています。
なぜなら、円安というパスによって、円資産の価値が減少したという実績があるからです。
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経団連の筒井義信会長は、2026年1月27日の定例会見で「行き過ぎた円安が一定程度修正されたことは肯定的に受け止めている」と述べました。
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行き過ぎた円安の修正、肯定的に受け止める=経団連会長 2026/0/1/27 ロイター 宮崎亜巳
https://jp.reuters.com/opinion/64HEHQY2FNNXRCJXJDLYVYRAPI-2026-01-27/
>>
この発言も、円安というパスによって、円資産の価値が減少したという実績を無視しています。
2013年から2025年の間に為替レートの変更で失われた円の価値をドル換算で整理します。
- ドル建てで見る「日本経済の縮小」
まずは、経済の「体積」そのものをドルベースで比較してみます。
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指標(年平均ベース) |
2013年 |
2025年(推計値) |
変動率 |
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為替レート (USD/JPY) |
約98円 |
約150円 |
約53%の円安 |
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名目GDP (ドル建て) |
約5.2兆ドル |
約4.2兆ドル |
約20%の減少 |
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一人当たりGDP |
約40,000ドル |
約33,000ドル |
約18%の減少 |
この12年間で、円ベースのGDPは微増しましたが、世界共通の通貨であるドルで見ると、日本の経済規模は2割近く「物理的に縮小」しました。 世界の経済が成長を続ける中で、日本だけが逆行し、ドイツに抜かれ、インドに迫られる(あるいは抜かれる)事態となったのは、まさにこの「物理レイヤー」での敗北を意味します。
つまり、熊野英生氏の「円資産だけで運用しているとインフレ調整によって価値が減価してしまうという恐怖感」は、過去の実績を無視しています。
経団連の筒井義信会長の「行き過ぎた円安」という発言は、日本の経済規模が2割近く「物理的に縮小」したという事実を無視しています。今回ではなく、それまでの円安が、行き過ぎではなかったと主張できる根拠はありません。
9)財政破綻を回避する方法
財政破綻問題は、「政府の財政拡張(国債増発)」と「インフレの継続」、そして「日銀の利上げ継続」という3つを同時に実現することができない点にあります。
出口戦略は、次になります。
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財政破綻を避ける「出口戦略」はあるか
この3つの矛盾が爆発し、財政破綻(国債の暴落や極端な円安)に至るのを避けるための「出口」は、理論上いくつか存在しますが、どれも激痛を伴う「毒薬」のような選択肢です。
- 金融抑圧(Financial Repression)
政府と中央銀行が協力して、「インフレ率 > 金利」の状態を無理やり維持する方法です。
- 内容: 物価が5%上がっていても、金利を2%に抑え込みます。
- 結果: 実質金利をマイナスにすることで、国債の「実質的な価値」をインフレによって目減りさせ、借金を「踏み倒す」戦略です。
- 代償: 国民の預金という「物理的資産」の価値が猛烈な勢いで削り取られます。
- 劇的なプライマリーバランスの黒字化(超緊縮財政)
「財政拡張」を即座に停止し、増税と歳出削減を徹底します。
- 内容: 消費税の大幅増税や社会保障費のカットを行い、借金に頼らない財政に移行します。
- 結果: 国債の発行が減るため、金利上昇を抑え、市場の信頼を回復できます。
- 代償: 激しい不況と国民生活の困窮を招き、政治的な崩壊(政権交代や暴動)のリスクがあります。
- 「物理レイヤー」の奇跡(生産性の爆発的向上)
唯一の「正攻法」ですが、最も難易度が高いものです。
- 内容: DXや核融合、AIなどの技術革新により、物理的な生産性が年率5%以上で向上します。
- 結果: 「名目上の借金」よりも「物理的な稼ぎ」が上回るため、高い金利を支払ってもお釣りが来る状態になります。
- 代償: これまでの12年間の失敗が示す通り、金利や通貨操作(名目レイヤー)だけでは実現できず、抜本的な社会構造の改革が必要です。
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潜在成長率が1%、12年間で、日本の経済規模は2割近く「物理的に縮小」したという実績をみれば、「3. 「物理レイヤー」の奇跡(生産性の爆発的向上)」シナリオはありえません。
「2. 劇的なプライマリーバランスの黒字化(超緊縮財政)」は、1997年に韓国がIMFの指導下で行った政策です。
しかし、韓国の貿易赤字は、民間セクターのものであり、政府の財政は極端な赤字ではありませんでした。
つまり、2026年の日本は、第2のシナリオを採択する場合には、韓国以上に困難な地点にいます。
熊野英生氏の<高市氏は、対名目国内総生産(GDP)比で政府債務残高を減らすと公言している。つまり、大方の円資産をインフレ調整で減価させようとしている。経済学で言う「物価水準の財政理論(FTPL)」と呼ばれるプランを実行しようとしているように見える>は、「1. 金融抑圧(Financial Repression)」に対応しています。
- 金融抑圧(Financial Repression)
政府と中央銀行が協力して、「インフレ率 > 金利」の状態を無理やり維持する方法です。
内容: 物価が5%上がっていても、金利を2%に抑え込みます。
結果: 実質金利をマイナスにすることで、国債の「実質的な価値」をインフレによって目減りさせ、借金を「踏み倒す」戦略です。
代償: 国民の預金という「物理的資産」の価値が猛烈な勢いで削り取られます。
10)金融抑圧(Financial Repression)
金融抑圧政策は、バブル崩壊以来、現在まで継続している政策です。
金融抑圧政策は市場経済より、中抜き経済(レントシーキング経済)を優先する手法であり、資本主義経済ではありません。資本主義を否定すると、生産性の改善がとまり、経済成長はなくなります。この状態では、市場が機能していませんので、経済モデルと経済学がまったくあてはまらなくなります。
つまり、日本経済の停滞の大半の原因は、金融抑圧政策で説明ができます。
熊野英生氏は、次のようにいいます。
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このインフレ予想を変化させるには、預金金利を含めた円資産の運用利回りをもっと引き上げなくてはいけない。こう言うと、日銀があまりに急激な利上げをすると中小企業が苦しくなるという反論が出てくる。確かにそれは重要な論点である。
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「日銀があまりに急激な利上げをすると中小企業が苦しくなるという反論が出てくる。確かにそれは重要な論点である」は、市場経済を否定して、金融抑圧によって、中小企業に資金を流せと言う主張になります。これは、経済成長を放棄して、利権によるキャッシュバックを優先する主張になります。
金融抑圧政策の歴史を整理しておきます。
- 金融抑圧の変遷:救済対象のシフト
金融抑圧の主目的は、時代の要請とともに「民間金融機関」から「国家財政」へとシフトしてきました。
第1期:金融機関の救済(1990年代後半〜2000年代前半)
バブル崩壊で膨大な不良債権を抱えた銀行を倒産させないために、超低金利が導入されました。
- メカニズム: 預金金利をほぼゼロに抑える一方で、貸出金利や国債運用での利ざや(利回り差)を確保させました。
- 結果: 国民の預金利息を「没収」することで、銀行の自己資本を時間をかけて再構築させる「静かなる資本注入」が行われました。
第2期:政府債務の管理(2013年〜2024年)
アベノミクス以降、救済の主役は「政府」に代わりました。
- メカニズム: 異次元の金融緩和とイールドカーブ・コントロール(YCC)により、国債の金利を物理的に封じ込めました。
- 結果: 政府は膨大な借金を抱えながらも、市場実態よりも遥かに安い利息で資金調達を続けることが可能になりました。
第3期:インフレによる実質債務圧縮(2025年〜2026年現在)
現在、私たちは金融抑圧の「最終章」にいます。
- メカニズム: 名目金利(国債利回り)が2.4%程度まで上昇しましたが、インフレ率(CPI)が3%を超えているため、実質金利は依然としてマイナスのままです。
- 結果: 「インフレ > 金利」という状態を維持することで、政府の借金の実質価値を物理的に削り取る「インフレ税」が本格稼働しています。
まとめ:
政府は、 金融抑圧(Financial Repression)政策をとる可能性が高く、高石政権が選挙に勝った場合には、金融抑圧政策の継続が決定的になります。
ただし、生活賃金以下の人が、5割を超えているような状態では、家計が枯渇しています。
結局、ハイパーインフレが起きます。
年金は減額になります。
実質賃金はさらに下がります。
医療費の補助が激減します。
上下水道、鉄道、道路は、一部の都市部を除いて、維持管理の対象外になります。
「1. 金融抑圧(Financial Repression)」よりは、「2. 劇的なプライマリーバランスの黒字化(超緊縮財政)」が、はるかに、まともな政策ですが、「2. 劇的なプライマリーバランスの黒字化(超緊縮財政)」は、利権の完全消滅に対応しているので、政治家と官僚が、シナリオ2を選択する可能性は低いです。