1)未来の方角の道路
帰納の二段モデルではなく、パースの三段モデルを使う必要がある場合は、未来の方角の道路が曲がっている場合になります。
それでは、どのような場合に、未来の方角の道路が曲がっていると考えられるでしょうか。
道路が曲がっていると判断できるヒントはあるでしょうか。
実は、多くの場合、この質問の解答は容易に得られます。
その理由は簡単で、道路を曲げたい人がいるからです。
推論の道路の例をあげて説明します。
ある過疎地域の自治体の人口を考えます。
この自治体の人口の過去のデータは、継続的に人口減少が起きていることを示しています。
この人口データを直線のトレンドにあてはめると、トレンド直線が得られます。
道路の比喩で説明すれば、このトレンド直線は、過去の方角の道路です。効果的な少子化対策がない場合には、未来の方角の道路は、このトレンド直線の上にあると思われます。
赤い点線のトレンド直線の上にある未来の道路を進むことは、人口が減少し続けることに対応しています。
過疎地域の自治体の人口の首長(市長)は、人口の減少を止めたいと考えています。
つまり、過疎地域の自治体の人口の首長(市長)は、未来の方角の道路を過去の方角の道路のトレンド直線の上ではなく、曲げたい(人口の減少を止めたい)と考えています。市長は、少子化対策の政策を行って、トレンドに介入して、緑色の点線の方向に道路を曲げたいと考えています。
道路を曲げたい政治家がいて、予算を投じて道路工事に着工しています。
この状況で、未来の方角の道路が過去の方角の道路のトレンド直線の上にあると考える根拠はありません。
予算を投じて道路工事を始めることを介入といいます。介入後の道路は反事実と呼ばれます。
一方、道路工事がない場合、過去の道路のトレンド直線の上の未来の道路は、事実と呼ばれます。つまり、介入によって、未来の道路は、事実から反事実に移設されたと考えます。

整理すると次になります。
介入(道路工事)がない場合:
事実:未来の道路は過去の道路のトレンド直線の上にある。
介入(道路工事)がある場合:
反事実:未来の道路は過去の道路のトレンド直線の上ではなく、工事による移設先にある。
未来のことを事実と呼ぶことは、日常言語の使い方ではありませんが、因果推論の科学では、この用語を使います。
事実(定常過程)帰納の二段モデルが使える
時間 過去→現在→未来
因果モデル A → ・ → A(事実)
反事実(非定常過程):帰納の二段モデルが使えない(帰納の二段モデルの罠)
時間 過去→現在→未来
因果モデル A → ・ → B(反事実)
多くの政策の目的は、現状に介入する道路工事を目指しています。
介入の目的は、既存の因果関係の破壊にあります。
つまり、政策の効果を考える場合には、道路が曲がっているという前提で、帰納の二段モデルではなく、パースの三段モデルを使う必要があります。
現在の日本の社会科学者の多くが、
多くの社会科学者は、未来の方角の曲がった道路を、過去の方角の道路の延長上にあるという(帰納の二段モデルの罠)に嵌っています。
この問題に関する正式な統計はありませんが、Geminiの社会科学研究者を対象にした推定は以下になります。
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近年の学術動向や方法論の普及状況から推測すると、「意識的にパースの三段モデルを用いている人」はまだ少数派(全体の2〜3割程度)であり、残り7〜8割近くの多くの研究者は、実質的に帰納の二段モデル、あるいはアブダクションを「帰納」の一部として混同して運用しているのが現状ではないかと考えられます。
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2)疑似介入
1点、混乱しないように注意をしておきます。
過疎地域の自治体の人口の首長(市長)は、過去に、人口の減少を止めたいと考えていました。
予算を投入して道路工事をしましたが、人口の減少は止まりませんでした。
これは、簡単に言えば、道路工事が失敗して、道路が曲げられなかった場合に相当します。
つまり、介入するつもり(計画)でしたが、介入は失敗しています。
道路工事が成功した場合(介入ができた場合)と道路工事が失敗した場合(介入ができなかった場合)を区別する必要があります。
介入するつもり(計画)でしたが、介入が失敗した場合を疑似介入と呼ぶことにします。
介入するつもり(計画)で、介入が成功した場合を真の介入と呼ぶことにします。
この用語を使うと次の整理ができます。
介入 = 真の介入 + 疑似介入
エビデンスに基づく政策決定(EBPM)とは、疑似介入を排除して、真の介入を抽出するプロセスになります。