経済学者が使っている経済モデルには、いくつか非現実的な前提が含まれています。
モデル(科学)は、現象を単純化したものなので、どのモデルにも、かならず、非現実的な前提が含まれています。つまり、モデルに、非現実的な前提が含まれていること自体は問題ではありません。問題は、非現実的な前提が含まれていることによってモデルは、単純になり、扱いやすくなる一方で、現実を再現できない限界が発生することです。モデルの利用者が、この限界を理解していて無茶な使い方をしなければ、非現実的な前提の弊害は、表面化しません。しかし、筆者の理解では、経済学者には、無茶なモデルの使い方をする人が多いのです。
非現実的な前提が含まれていることによってモデルは、単純になり、扱いやすくなる一方で、現実を再現できない限界が発生します。この問題を回避するひとつの方法は複数のモデルを併用することです。
以下では、複数のモデルを併用することで、経済学者の無茶な経済モデルの使い方を説明します。
1)補助金と技術開発
経済モデルには、お金を投入すると生産性があがる(技術開発ができる)という関数が組み込まれています。この関数は、科学的に検証されたものではありません。というか、簡単にいえば間違いです。
ある工場のお金の投入を増やせば、モノをより沢山つくることができます。これは、お金があれば、原材料をより多く購入できるので、自明と言えます。
一方、ある工場のお金の投入を増やせば、技術開発ができるとは言えません。たとえば、技術開発のできる高度人材がいなければ、技術開発はできません。
多くの経済モデルは、この違いを無視しています。
分野によっては、高度人材の年収は1億円を超えます。この場合、数千万円のお金の投入では、技術開発はできないことがわかります。しかし、普段使いの経済モデルには、このような条件は考慮されていません。経済モデルでは、企業が数千万千の補助金をもらえば、簡単に技術開発ができることになっています。
2)技術開発ゲーム
この補助金と技術開発の関係は、ゲーム理論でモデル化することができます。
ある企業が、人材・資金をどこに投入すれば、最大のリターンが得られるかというゲームを技術開発の視点で考えます。
技術開発ゲーム:
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ここでは、企業は、2つの戦略の選択ができると仮定します。
第1は、リソースを政府のお薦めにしがって、補助金獲得に割り振る戦略(補助金獲得シナリオ)です。
第2は、政府のおすすめを無視して、リソースを技術開発に割り振る戦略(技術開発シナリオ)です。
企業が、技術開発シナリオを選択するために、必要な条件は以下です。
リターン(技術開発)>リターン(補助金獲得)
企業が、補助金獲得シナリオを選択するために、必要な条件は以下です。
リターン(補助金獲得)>リターン(技術開発)
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企業は、利益(リターン)最大化を目指します。
つまり、「リターン(補助金獲得)>リターン(技術開発)」の時には、技術開発シナリオをいったん停止して、リソースを補助金獲得シナリオに集中することが合理的な経営判断になります。
この技術開発ゲームは、過去のファクトを上手く説明することができます。
例1:太陽光発電パネル
かつて、政府は太陽光発電パネルに膨大な補助金を出していました。その時には、補助金があったので、高価格なパネルが売れました。しかし、日本の太陽光発電パネルメーカーは、技術開発によるコストダウン競争にまけて、市場から撤退して、現在では、中国製の太陽光発電パネルのシェアに圧倒されています。
技術開発ゲームによれば、この現象は、過大な補助金が、「リターン(補助金獲得)>リターン(技術開発)」という条件をひきおこして、技術開発シナリオを封印させたことに原因があります。
例2:経営が傾いた企業の国策支援
技術開発ゲームによれば、国策の支援(補助金)金額が大きいほど、技術開発がとまると予測できます。
企業支援(補助金)金額が大きい国策の企業再生は、ぼぼ、100%失敗しています。該当しない事例を探す方が困難です。
ラピダスは、経営の傾いた企業ではありませんが、日本企業が撤退した分野なので、同じパターンがあてはまります。技術開発ゲームによれば、巨額の補助金が入るラピダスは、技術開発に失敗する可能性が高いです。
例3:アベノミクス
「補助金獲得」は、経済学では、「所得移転」と等価になります。
円安は、家計から、企業への「所得移転」を強化させました。
つまり、アベノミクスの第1の矢と第2の矢は、次の条件を強化させたと理解できます。
リターン(所得移転)>リターン(技術開発)
そのために必要な条件は、次の通りです。
リターン(技術開発)>リターン(所得移転)
つまり、技術開発ゲームによれば、「第1の矢+第2の矢」と、「第3の矢」は、相反する条件で、両立することはありません。
結局、アベノミクスは、「リターン(所得移転)>リターン(技術開発)」を決定的にして、日本の技術開発シナリオを停止させたと理解できます。その場合、企業は、新技術がないので、新規の設備投資は増えて、内部留保が増えることになります。
つまり、技術開発ゲームを使うと、アベノミクスで起こった企業の変化を上手く説明することができます。
経済モデルには、「技術開発」と「所得移転」のトレードオフ関係が組み込まれていませんので、アベノミクスで起こった企業の変化を上手く説明することができません。
経済モデルでは、なぜ、第3の矢が失敗したのかを説明することができません。
失敗の原因がとりのぞかなければ、次の政策でも、失敗が繰り返されると考えることは、合理的な推論です。
つまり、経済モデルをつかえば、失敗が繰り返されます。