限界国家日本(2)社会構造の変化と二重経済

前回、「現在、社会構造の変化が進行中です」と書きました。

 

現在、いろいろな「社会構造の変化が進行中」ですが、将来予測で、クリテイカルな「社会構造の変化」は、二重経済です。

 

経済モデルは、一峰分布(正規分布)を前提としているので、二峰分布である二重経済を解析することができません。

 

2023年まで、コメの価格は、安価なコメから、高級なコメまで、広く分布していました。

 

この状態では、平均的な価格を購入していた消費者が、一時的に収入がへった場合には、より安価なコメの購入に、一時的に収入が増えた場合には、より高価なコメに購入にシフトでいる状態を示しています。経済モデルは、価格が平均値を中心に、連続的に分布し、買い替えができることを前提にしています。

 

2025年のコメ価格は、2023年の基準でいえば、2023年の平均的な価格のコメと、2023年の安い価格のコメが消滅しています。たまに、2023年の平均的な価格に近い輸入米が販売されることもありますが、品切れが多く、何時でも購入できる状態ではありません。消費者の選択は、2023年の基準でいえば、高い価格のコメを購入するか、コメを購入しないかの2択になります。

 

経済学のモデルは、このような状態を仮定していませんので、現在は、経済学のモデルが使えない領域に突入しています。

2025年12月の国産のコメ5kgの店頭小売平均価格は約4400円です。公開されているデータは、平均価格だけです。小売価格4000円未満のコメはあまり見かけないので、コメの価格分布が非常に狭い範囲に集中している状況であると感じますが、コメの価格分布のデータは公開されていません。また、平均値が代表値として使えない可能性もありますが、コメの価格分布のデータが公開されていないので、確かめる方法がありません。

 

所得については、分布データが公開されているので、分布を考えると何が見えるかという例を示します。

 

1)2024年の各国の所得分布の比較

 

次の表は、日本、アメリカ、英国、中国、韓国、台湾、シンガポールの所得のランキングを示しています。ここでは、所得を、人口の上位20%(U20)、中位60%(U60)、下位20%(L20)の3つのグループにわけています。

 

U20の所得としては、上位から20%の所得を、U60の所得としては、上位から50%の所得を、L20の所得としては、上位から80%の所得を割り当てています。



各国の所得代表値 U20, M60, L20 総合ランキング (2024年 / 単位: USD)

 

国名

所得

シンガポール U20

$195,000

アメリカ U20

$165,000

シンガポール M60

$93,000

英国 U20

$93,000

ドイツ U20

$89,000

アメリカ M60

$83,000

韓国 U20

$81,000

日本 U20

$58,000

台湾 U20

$56,000

ドイツ M60

$47,000

英国 M60

$44,000

韓国 M60

$43,000

中国 U20

$35,000

日本 M60

$30,000

台湾 M60

$30,000

シンガポール L20

$26,000

アメリカ L20

$24,000

ドイツ L20

$23,000

英国 L20

$22,000

韓国 L20

$16,000

日本 L20

$15,000

台湾 L20

$14,000

中国 M60

$12,000

中国 L20

$3,500

 

このデータを「二重経済」の視点から分析すると、以下の3つの衝撃的な事実が見えてきます。

  1. アメリカの中間層」は「日本の富裕層」より豊かである

 

最も注目すべき点は、アメリカM60($83,000)の値が、日本U20($58,000)を大きく上回っているという事実です。

  • アメリカで「ごく普通(中央値)」の生活をしている世帯の所得が、日本で「上位20%(エリート層)」に入る世帯の所得よりも $25,000(約370万円以上)も高いことになります。
  • これは、アメリカの二重経済が「超富裕層と、世界標準で見て豊かな中間層」で構成されているのに対し、日本の二重経済は全体が低い水準にシフトしてしまっていることを示唆しています。
  1. 日本の中間層(M60)の「L20(下位層)への接近」

 

日本の中間層 $M60$ ($30,000) の位置を確認すると、その深刻さが際立ちます。

  • シンガポールの下位20%(L20):$26,000
  • アメリカの下位20%(L20):$24,000
  • ドイツの下位20%(L20):$23,000
    日本の「真ん中の人」の所得は、シンガポールアメリカ、ドイツの「所得が低いとされる下位20%の人々」とわずか数千ドルの差しかありません。つまり、日本のマジョリティ(中間層)は、国際比較では「先進国の低所得層」のレンジに飲み込まれつつあると言えます。
  1. 二重経済の質の構成

 

二重経済を「近代的な高生産性セクター」と「伝統的な低生産性セクター」の乖離と定義すると、以下のような違いが見て取れます。

  • アメリカ型(高圧経済): 近代セクター(U20)が強烈に牽引し、その勢いが中間層(M60)までを国際的に高い水準へ引き上げている。ただし、$L20$との乖離は依然として大きく、格差自体は激しい。
  • 日本型(沈殿経済): 近代セクター(U20)の稼ぐ力が弱まり、かつての中間層(M60)が伝統的な低賃金サービス業(L20)の水準にまで「下方硬直的」に沈み込んでいる。

2)2011年の各国の所得分布の比較

 

次は、アベノミクス前の2011年の「各国の所得代表値 U20、 M60、 L20 総合ランキング 」です。2024年と2011年のデータを比べると、アベノミクス(リフレ派の主張)によって、何が起きたかがわかります。

 

2011年の各国政府統計(家計調査、センサス等)および当時の為替レート(1ドル≒79.8円、1ユーロ≒1.39ドル等)に基づいた推計値です。

 

各国の所得代表値 U20, M60, L20 総合ランキング (2011年 / 単位: USD)

 

順位

国名・所得区分

所得額 (USD)

備考 (2011年当時の状況)

1

シンガポール U20

$150,000

高成長のピーク期

2

アメリカ U20

$102,000

リーマンショックからの回復途上

3

日本 U20

$100,000

円高によりドル換算値が極めて高い

4

ドイツ U20

$90,000

欧州債務危機の中でも安定

5

英国 U20

$72,000

 

6

韓国 U20

$71,000

 

7

シンガポール M60

$68,000

 

8

日本 M60

$54,000

米国の中央値を上回っていた

9

台湾 U20

$51,000

 

10

アメリカ M60

$50,000

 

11

ドイツ M60

$48,000

 

12

英国 M60

$34,000

 

13

韓国 M60

$32,000

 

14

台湾 M60

$26,000

 

15

日本 L20

$25,000

他国の下位層より格段に高い

16

ドイツ L20

$21,000

 

17

アメリカ L20

$20,000

 

18

シンガポール L20

$18,000

 

19

英国 L20

$16,000

 

20

韓国 L20

$13,000

 

21

中国 U20

$12,000

都市部の上位層

22

台湾 L20

$10,000

 

23

中国 M60

$6,000

 

24

中国 L20

$2,000

 

 

日本の中間層が「先進国の低所得層」化した原因について

 

アベノミクスの大規模金融緩和と円安が第1の原因か」という点について、データに基づき分析すると、「国際比較(ドル換算)における転落」という文脈においては、間違いなく最大の要因であると言えます。

以下の3つの観点から、そのメカニズムを整理します。

  1. 「購買力」の意図的な引き下げ(円安の影響)

 

2011年と2024年を比較すると、日本の所得は円建てではほぼ横ばい(約430万円〜450万円)ですが、為替レートが 1ドル=80円から150円へ と約46%も減価しました。

  • 2011年: 日本の M60 ($54,000) > アメリカの M60 ($50,000)
  • 2024年: 日本の M60 ($30,000) < アメリカの M60 ($83,000)

この劇的な逆転の主犯は、アベノミクスの「第1の矢」による通貨安です。政策的に円の価値を下げることで輸出企業の利益を底上げしましたが、それは同時に**「日本人の労働価値と購買力を外貨建てで半分にする」**という副作用を伴いました。

  1. 二重経済」の固定化と賃金停滞

 

アベノミクス期間中、企業収益や株価は上昇しましたが、それが中間層の賃金へと還元される「トリクルダウン」は起きませんでした。

  • 本来、通貨安で近代セクター(輸出企業)が稼いだ利益は、国内の賃金上昇(伝統的セクターへの波及)を促すべきでしたが、実際には内部留保や海外投資に回りました。
  • 結果として、**「近代セクターだけが潤い、中間層(M60)は物価高に直面して実質所得が下がる」**という、二重経済の悪い側面が強調される形となりました。
  1. 他国の「インフレを伴う成長」との乖離

 

アメリカやドイツ、シンガポールなどは、この10年で名目賃金が大きく上昇しました。

  • アメリカの M60 は $50,000→$83,000 と約66%成長しています。
  • 日本は「デフレ脱却」を掲げながらも、名目賃金が他国ほど伸びなかったため、「通貨安(為替)」と「賃金停滞(成長)」のダブルパンチにより、相対的なランキングが急降下したのです。

結論

 

介入による影響度の大きさ(特に国際的な所得順位への影響)で判断すれば、アベノミクスによる為替操作的な円安誘導が、日本の中間層をドル建てで「先進国の低所得層」のレンジへ押し下げた最大かつ直接的な要因になります。

 

補足:

新自由主義が、二重経済と貧困問題の原因であると主張する人がいます。新自由主義は、確かに二重経済の原因になっています。しかし、ともに、新自由主義がの影響を受けた、今回の分析結果のアメリカと日本を比較すればわかりますが、日本の場合には、アベノミクスの効果(円安効果)が卓越しています。