ルーカス批判と「因果推論の科学」(9)

13)観察モデルと介入モデルの違いのメンタルモデル(後半)

 

観察モデルの理解:

 

Saint-Venant方程式(浅水流方程式)で、自由水面のある流体の保存と運動は表現できますが、Saint-Venant方程式は、観察モデルです。

 

水面にボートをうかべたボートの運動を制御するために、ボートには、スクリューと方向舵がついています。方向舵は、自動車と同じようにハンドルで制御します。スクリューは、クラッチレバーのようなスイッチで制御しますが、これは、アクセルとブレーキに相当します。船は、スクリューを反転させることで、停止しますので、ブレーキはなく、クラッチ入れ替えのバックがブレーキに相当します。

 

船の運転の経験者はすくないので、以下では、自動車のハンドルとアクセルとブレーキ(スクリューの反転)で、船の操作を説明します。

 

ハンドルとアクセルとブレーキを操作すると何が起きるかを予測することは、介入効果の予測になり、このためには、介入モデルが必要になります。

 

Saint-Venant方程式では、ボートの軌道を予測することはできません。

 

ボートの軌道は、主に、ハンドルとアクセルとブレーキで決まります。

 

ホートは人工物なので、スクリューと方向舵の設計は主観になります。

 

スクリューと方向舵の設計は主観ですが、最小回転半径、加速性能、減速性能は客観的に計測が可能です。

 

つまり、最小回転半径、加速性能、減速性能といった性能要件を設定すると、スクリューと方向舵の設計の自由度は制限されます。

 

こうした設計の自由度は、Saint-Venant方程式の制約を受けています。

 

Saint-Venant方程式では、波と流れの方向は変化します。流れは、右から左に向くこともありますし、逆向きになることもあります。

 

ボートはスクリューによって、一定方向の流れを作り出します。

 

ボートのスクリューが、Saint-Venant方程式と同じように、流れの方向が変化して制御できない場合には、ボートの制御は不可能になります。

 

ボートを走らせると波が発生して、波はボートから、遠望に伝播します。この波の方向が定まらない場合には、ボートは、自分で作った波によって転覆してしまうかも知れません。

 

ボートが発生した波は、Saint-Venant方程式に対する介入になります。Saint-Venant方程式の境界条件にボートが作った波(ボート波)を入力すれば、Saint-Venant方程式は、ボート波の伝播を計算できます。Saint-Venant方程式は、ボートが自分で作った波によって転覆してしないことを示すことができます。しかし、Saint-Venant方程式は、どのように、ボート波が起きるかについては、何も教えてくれません。また、ボートの作った波は、しばらくすると消えてしまいます。これは、介入効果は、介入後時間がたつと影響が消えることを示唆しています。このように広い水域におけるボートの運転(介入)は、Saint-Venant方程式の影響をうけます。

 

遊園地のアトラクションのボートのように、ボート周辺の水は、単なるデコレーションで、全体の半分以上がアームで繋がれたボートで形成されている場合には、Saint-Venant方程式は不要です。

 

つまり、全体の空間で、Saint-Venant方程式(観察モデル)の影響をつよく受けるエリアと、ボートの運転モデル(介入モデル)の影響を強く受けるエリアの比率は、ケースバイケースです。また、時間が経過すると介入モデルの影響が消失する(計測誤差以下になる)場合もあります。

 

経済政策との対比:

 

疑問は、経済学は、介入モデルを持っているかという点にあります。

 

経済学者は、金融政策と財政政策が、介入モデルであると主張していますが、これらで使っているモデルは、回帰モデルなどの観察モデルのように見えます。

 

Saint-Venant方程式に相当する観察モデルは、「動学的均衡方程式・価格調整方程式(Walrasian tâtonnement)」になりますが、このモデルの名前もあまり聞きません。

 

金利政策で言えば、政策金利をかえた時には介入になりますが、金利水準は介入ではありません。この2つは、あまり区別されていません。

 

しかし、ボートの速度が変化するときは、アクセルを踏んで、スクリューの回転数をあげたときです。アクセルを踏み込まなければ、定速で走ります。

 

自動車に比べて、ボートの方が慣性項の影響をうけるので、アクセルとブレーキを踏んでから、加速または、減速するまでのタイムラグが大きくなります。

 

政策金利を変更した場合のタイムラグはどれくらいでしょうか。

 

株価の変動を見ると、タイムラグは非常に小さく見えます。

 

株価の短時間の変動は、ノイズかも知れません。

 

しかし、理論的には、ノイズとは、モデルで説明できない観測値成分をさします。

株価変動について、ノイズを分離して論じた話を聞きません。

 

これからすると、経済政策は、介入モデルに基づいていないと考えられます。

 

流体力学       モデルの種類    経済学

 

ボートの設計     介入モデル     ???

 

Saint-Venant方程式  観察モデル     Walrasian tâtonnement

 

観察モデルと介入モデルのシェア:

 

次に、観察モデルと介入モデルのシェアを考えます。

 

社会主義の計画経済では、市場経済がないので、すべて介入モデルによる経済制御になります。

 

センサーをたくさんつけて、ビッグデータを集めて、AIに、経済を管理させれば、すべて介入モデルによる経済制御は、可能かもしれませんが、今までは、これは不可能でした。

 

資本主義経済では、基本は、市場経済になります。

 

経済の種類  主なモデル

 

社会主義経済 介入モデルのみで、観察モデル(市場経済)はない

 

資本主義経済 観察モデル(市場経済)がメインで、介入モデルは限定的

 



新自由主義では、基本は、市場が問題を解決すると考えます。

 

これは、信念としては理解できますが、エビデンスはありません。

 

そう断言できる理由があります。

 

その理由は、「市場経済」を数的言語で表現できていないからです。

 

たとえば、年功型雇用の日本には、「労働市場」がありません。

 

アメリカについても、ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの経営学教授マシュー・ビドウェル(Matthew Bidwell)氏は、次のようにいいます。

経営者の人員削減に対する考え方は、この数十年で大きく変化してきた。1980年ごろまでは、景気が悪化した際に工場労働者などを一時的に休職させ、需要が回復すれば再雇用するのが一般的だった。ホワイトカラー層の解雇は、あくまで「最後の手段」と見なされていた。しかし現在では、利益が上がる見込みがあれば、人員削減を躊躇せず実施するという発想に変わっている。

<<

アメリカ企業の最新レイオフ戦略は「小規模な人員削減を頻繁に」(海外)2026/11/11 Business Insider

https://news.yahoo.co.jp/articles/e4b51cd960ca7ad2a36d0a9fbbfdd4bd18a72dfe

>>

 

このように、「市場経済」という単語だけでは、何を検討しているのか不明です。

 

これは、「市場経済」という単語がコンテキスト依存性が高いことを示しています。

 

市場経済」という単語をコンテキスト依存性の低い数的言語で表現しない限りは、議論(検討)は成り立ちません。

 

資本主義経済でも、市場が形成されない公共財は、介入モデルを使います。

 

介入モデルの世界では、効率性指標を導入しないと、生産性が落ちこみます。

 

これは、介入モデルである建築を考えると理解できます。

 

建築の設計は、主観に基づき、自由度が高いです。

 

しかし、建設コスト、維持管理コスト、強度、断熱特性などを考えないと、使用に耐えない建築になります。

 

政策の問題点:

 

経済政策は、経済の問題であると同時に、政策(政治)の問題です。

 

政治家は、政策(介入)によって、問題解決ができると主張します。

 

しかし、資本主義では、市場経済の部分があるので、介入によって100%問題を解決することはできません。

 

また、介入によって問題を解決するためには、介入モデルを持っている必要があります。

 

介入モデルとは、自動車でいえば、バンドル、アクセル、ブレーキに相当する制御装置です。

 

制御変数が決まれば、制御可能な条件は制御工学で求められます。

 

そのためには、問題を数的言語で表現する必要があります。

 

変数が2つの場合には、ツルカメ算で答えが求まります。

 

しかし、変数が2つ以上になると連立方程式のような数的言語で、問題を表現できなければ、解決方法を求めることはできません。

 

パールは、データ表現先行パラダイムがあるといいます。

 

2025年には、日本で、クマの被害がひろがっています。

 

クマの個体数を制御するためには、総頭数の制御ではできません。

 

コホートを考える必要があります。

 

データの表現は、コホートを含む必要があります。

 

データ表現が適切でなければ、問題は解決できません。

 

つまり、現在の国の政策では、クマの生態系管理はできません。

 

人間の経済活動は、クマの活動より複雑です。

 

それを考えると、政府の政策がうまくいくと考える根拠は見つかりません。