ルーカス批判と「因果推論の科学」(7)

12)観察モデルと介入モデル

 

前回、次のように書きました。

 

相関モデル(観察データに基づくモデル)では、介入効果の推定はできません。

 

観察モデルは、介入モデル(介入データに基づくモデル)の代用にはなりません。

 

しかし、日本語の教科書で、このことを明示するようになったのは、2020年以降のようです。

 

この観察モデルと介入モデルの違い、あるいは、観察データと介入データを別の側面から考えます。

 

パールは、「スイッチを入れると明かりがつく」という例題をあげています。

 

これは、スイッチの状態変化に関するデータはすべて介入データになることを示しています。

 

スイッチがONの状態、スイッチがOFFの状態は観察データですが、スイッチ切り替えのデータはすべて介入データになります。

 

2025年に、日本では、クマの被害のデータが問題になっています。

 

クマの被害対策の代表は、クマ鈴とクマスプレーです。

 

クマスプレーの効果には、エビデンスがありますが、クマ鈴の効果にはエビデンスはありません。

 

クマスプレーの使用は、クマの行動に対する介入になります。

 

つまり、クマスプレーの使用データは、すべて介入データになり、観察データはありません。

 

一方、クマ鈴の使用は、クマの行動に対する介入になる場合とならない場合があります。

 

これは、クマ鈴がクマと離れていたり、クマ鈴を十分に振らない(鳴らさない)場合には、介入が起こるとは考えられないためです。

 

つまり、エビデンスで検証するためには、クマ鈴のデータのうち、介入があったものを選別する必要があります。

 

クマ鈴は、音がする装置で、類似のものは、天然にもあります。

 

たとえば、犬が吠えることでも、類似の効果があるかも知れません。

 

一方、クマスプレーには、類似のものは天然にはありません。

 

つまり、「介入データ <ー> 人工物」という対応が考えられます。

 

人類は、洞窟に住んでいたかも知れませんが、建築は、人工物です。

 

自然に介入して、自然を壊さないと建築は作れません。

 

建築のような人工物は、自然にはないので、その形状は主観になります。

 

介入は、反事実を扱います。反事実とは、現状に介入して、現状を変えることになります。

 

現状が自然であれば、自然に介入して人工物を作ることになります。

 

こう考えると次のような対応が考えられます。

 

観察データ <-> 自然(現状維持、事実) <-> 客観 <-> 観察モデル

 

介入データ <-> 人工(現状破壊、反事実)<-> 主観 <-> 介入モデル



パールは、因果モデルの構造は、主観であるといいます。

 

因果モデルは、人工(現状破壊、反事実)を扱います。これは、反事実を扱うので、観察データからは求められません。

 

この推論は、おおざっぱなので、もう少し、詰める必要があります。

 

現在のアイデアは、スイッチ、クマスプレーといった人工物の周辺には、介入データがあるのではないかという感触です。

 

この方法は、前向き研究ではないので、サンプリングバイアスを排除することはできません。

 

ただし、介入試験が困難な場合には、参考になると思います。