5)観察と介入
パールは、観察と介入を区別しています。
そこで、パールのアイデアを踏襲して、モデルを観察モデルと介入モデルに区分します。
基本的には、次の対応があります。(例外はあります)
相関<->観察データ
因果<->介入データ
つまり、観察データを使って相関関係(統計的手法)で作成したモデルは、観察モデルになります。
「観察モデルでは、介入効果の推定ができない」(相関は因果ではない)という視点が、因果推論の科学のスタートになります。
介入データを使って、因果推論の科学で作成したモデルは、介入モデルになります。
パールの因果推論モデルは、介入モデルです。
つまり、ルーカス批判とは、観察モデルは、経済政策の変更の影響の予測(介入効果の推定)には使えないという批判になります。
ウィキペディアには、書かれていませんが、Copilotによると、ルーカス批判は、経済政策の変更の影響の予測(介入効果の推定)には、観察モデルではなく、介入モデルを使うべきであるという批判になります。
このCopilotの解釈には問題がありますが、その点は後で扱います。
Copilotに確認したところ、観察モデルと介入モデルの区分は、一般には、次のように呼ばれるようです。
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あなたの分類 |
一般的な名称(対応する概念) |
備考 |
|---|---|---|
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観察モデル |
記述モデル(descriptive model) **予測モデル(predictive model)** |
データや現象の再現・予測を目的とするモデル。物理モデル、統計モデル、機械学習モデルなどが該当 |
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介入モデル |
制御モデル(control model) **処方モデル(prescriptive model)** |
目的達成のための操作・介入を設計するモデル。制御理論、最適化、政策設計などが該当 |
5)観察モデルと介入モデルのメンタルモデル
表だけでは、イメージがわかないので、筆者の作った例題を載せます。
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数的モデルには、次の2種類があります。
第1は、観察モデルです。このモデルでは、過去の観察値をモデル上で再現し、将来の観察値を予測します。
物理法則など、多くの数的モデルがこの分類に属します。
観察モデルは、観察値を、モデルを通じて情報縮約する装置と考えることもできます。
最適なモデルの次元は、データ量などの影響をうけるため、モデルはひとつには、なりませんが、モデルのグループとしてみれば、モデルはリアルワールドの構造を反映していると考えられます。モデルには、客観性があると考えられます。
第2は、介入モデルです。
介入モデルの典型は制御工学のモデルです。
例をあげます。
介入モデルでは、制御の目的がまずあって、モデルは、制御を実装するためのツールです。
モデル構造は主観できまります。複数のモデル構造の候補の中から、得られるデータにあわせて、チューニングをし易いモデルを選択します。
山をのぼる道を建設する場合を考えます。この道が介入モデルに相当します。
道は、直線でも、ジグザグでも、頂上に着くことは可能です。
しかし、モデルによって、山にのぼるという目的を達成する難易度が変わるので、モデル選択が必要になります。
道の形状は、地形の制約を受けますが、直線かジグザグかという道の基本デザイン(モデルの構造)は、山の地形特性を反映していません。
介入モデルの構造は主観ですが、目的を達成する効率(評価関数)を考えることで、モデル選抜には、客観性があります。
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パールは、「因果推論の科学」で因果モデルの構造は主観であるといいます。
パールも、因果モデルの構造は主観であるというアイデアの受け入れには時間がかかったようです。
つまり、観察モデルと介入モデルの混同はよく起こりがちです。
ルーカス批判は、この混同をしない注意になります。
制御工学系のモデルは、基本的に主観に基づくモデルです。例えば、状態空間法のモデルの構造は主観に基づきます。状態空間法のモデルは介入モデルである点を理解すれば、この点に納得できますが、この点に気づかないで、なぜ、このモデル構造が客観的にきまるのだろうかという疑問をもつと悲惨なことになります。
再度整理しておきます。
観察データ ― 観察モデル ー モデル構造は客観的
介入データ ー 介入モデル ― モデル構造は主観的
制御工学は、オペレータを操作した時に得られる介入データを使います。
これは当たり前の前提なので、制御工学では、介入データと明示せずに、簡単にデータといいます。