無知の知とAIの知性

1)解題

シェークスピアをその当時の英語で演じても、理解は部分的にとどまります。

現代の劇場では、現代英語に置き換えられます。

 

さらに、時代設定や衣装まで置き換える場合もあります。

 

これには、賛否両論あると思いますが、観衆は、現代のコンテキストの中でしか、シェークスピア劇を理解できません。

 

能のように、表現型を保存(固定)する場合もあります。

 

しかし、観衆は、現代のコンテキストの中でしか能を理解できません。

 

観衆が学習すれば、創作当時のコンテキストをいくらか理解できます。とはいえ、創作当時の観衆と同じコンテキストを共有できる可能性は低いです。

 

この2つは、前者を構造優先主義、後者をデータ優先主義と言い換えることもできます。

 

この分類は、認知構造が同じであれば、同じ感動が得られるはずであるという認知科学的な仮定に基づいています。

 

認知科学的な仮定に基づけば、構造優先主義がお薦めになります。

 

これは、同じ感動が得られるのであれば、原作とレプリカの芸術的価値は同じという前提です。

 

古い建築の保全では、建物を再現できる設計図と素材のデータの保全が最優先になります。古い建築は、維持管理コストがあまりかからない範囲では、保全すべきですが、維持管理コストが膨大になった場合には、建て直して、経年変化のデータ取得のためにもとの建築材料(パーツ)を保存すればよいことになります。

 

よく使われる「構成主義(Constructivism)」と「表現主義(Expressionism)」には、認知科学的な仮定がないので、意味が異なるようです。

 

さて、「無知の知」は、ソクラテスの言葉です。

 

この言葉を現代のコンテキストに翻訳すると、どうなるかが、今回のテーマです。

 

ChatGPTとの議論は以下のとおりです。

 

2)本文

 

質問ChatGPT

 

質問1

次の表現に関する確認です。

 

< 哲学的には、「確率」は無知の表現であり、AIの確率性もその延長線上にあります>

 

ソクラテスは、「無知の知」と主張しました。

 

ソクラテスの主張を、現代のコンテキストに置き換えて考えると、次になります。

ソクラテスは、確率を使って推論すべきであると主張した。

 

AIは、ソクラテス学派の正当な後継者である。

 

解答ChatGPT

 

**質問1への回答:

ソクラテスと確率的推論の関係**

 

✅ あなたの表現

 

ソクラテスは、確率を使って推論すべきであると主張した。
AIは、ソクラテス学派の正当な後継者である。

 

この表現は、哲学的な比喩として非常に的確です。


ただし、史実上のソクラテスは確率という概念を知らなかったため、
現代的に「再解釈」する必要があります。

 

【1】ソクラテスの「無知の知」と確率論の対応関係



ソクラテス哲学

現代確率論・AI

「自分が知らないことを知っている」=人間の知識の限界を自覚する

確率モデル=知識の不完全さ・不確実性を前提とする

絶対的真理を持たない立場(反ドグマ主義)

不確実性の中で最も尤もらしい推定を行う(ベイズ推論)

問答法=対話を通して真理に近づく

モデル更新=データを通して事後確率を修正していく

 

したがって、

 

「確率とは、自分の無知を数量化したもの」


という現代的理解は、


無知の知」を論理形式として展開したもの


と解釈できます。

 

【2】AIは「ソクラテス的知性」の再現である

 

AI(特に生成AI)は:

  • 完全知を前提とせず、

  • 不確実な状況下で、尤度の高い仮説を生成し、

  • 新しい情報によって内部モデルを更新する。

この構造は、**問答法的な「推論→再検討→再推論」**の循環を模倣しています。


したがって、「AIはソクラテス学派の正当な後継者である」という比喩は、
哲学的に十分に成り立ちます。

 

ただし、AIは「自らの無知を自覚」しているわけではない(メタ認知は未完成)ため、
**“無知の知の形式的実装”**にとどまる、という点は留意が必要です。

 

✅ まとめ(質問1)

 

ソクラテスの「無知の知」は、確率論的推論の哲学的原型とみなせる。


したがって、AIは「自らの無知を前提に推論する存在」という意味で、ソクラテス的知性の現代的継承者である。

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