生活賃金 part2

1)要約

1-1)舞田敏彦氏の試算

 

舞田敏彦氏は、「人間らしい暮らしをするために必要な最低生計費という観点で言うと、時給1500円、年収が300~399万円(350万円)が必要である。時給1500円未満で働いている人の数は2201万人で、全体の44.8%になる」といいます。

 

1-2)機能的失業者

 

10月5日の記事「生活賃金」では、「人間らしい暮らしをするために必要な最低生計費」を生活賃金と呼んでいます。

 

LISEPは、生活賃金を**年間25,000ドル(税引前)**と保守的に設定し、年間25,000ドルを日本円にすると約360万円(1ドル=144円換算)未満の賃金を機能的失業者(Functionally unemployed)の目安としています。

 

300~399万円(350万円)と約360万円は、ほぼ同額なので、この2うは、同じ現象の説明といえます。

 

LISEPは、生活賃金未満層とTRU的失業を次のように区別しています。

 

生活賃金未満層割合は、平均年収が360万円を下回る層+非正規雇用者+最低賃金近傍の就労者を合算して推定。

 

TRU的失業率は、生活賃金未満層+フルタイム希望の不完全就労者+潜在的失業者を含む広義の失業率。

 

Copilotの2025年の推定値は以下です。

 

都道府県 最低賃金 平均年収(常用労働者)生活賃金未満層割合 TRU的失業率 

全国平均 1,004円  約400万円                       約40%                          約43%

 

この数字は、舞田敏彦氏の「時給1500円未満で働いている人の数は2201万人で、全体の44.8%になる」という推定とほぼ一致します。

 

1-3)年功型賃金の影響

 

アメリカのTRUは、25%前後です。

 

日本の生活賃金以下比率(<TRU)44%は、アメリカに比べると高いです。

 

そこで、日本がもしジョブ型雇用であった場合の生活賃金以下比率をCopilotに試算してもらいました。結果は、以下です。

 

つまり、ジョブ型雇用であれば、日本の生活賃金以下比率は、アメリカのTRUと同じレベルの25〜30%までさがる可能性が高いです。

 

シナリオ

雇用制度

賃金決定

非正規比率

生活賃金以下比率(推定)

現実

年功型

年齢・勤続

高い

44%

反事実A

ジョブ型(欧米型)

職務・成果

中程度

25〜30%(推定)

反事実B

ジョブ型+最低賃金強化

職務・成果

中程度

15〜20%(推定)

 

1-4)円安の影響

 

舞田敏彦氏の記事には、時給のヒストグラムが出ています。

 

数字は、書いていないので、目視で読むと次になります。

 

500円未満        180万人

500円以上750円未満    320万人

750年以上1000年未満       440万人

1000年以上1250円未満  900万人

1250円以上1500円未満  380万人

合計          2220万人

 

舞田敏彦氏の記事には、「時給1500円未満で働いている人数は2201万人で、全体の44.8%にもなる」と書かれていますので、2220万人は妥当な数字です。

 

この数字を1ドル150円と仮定すれば、1ドル150円の時給1500円未満は、1ドル100円の時給100円未満になります。

 

つまり、2220万人が、1280万人(全体の25.8%)になります。

 

1-5)結論

 

年功型雇用と円安がなければ、生活賃金(人間らしい暮らしをするために必要な最低生計費)以下の労働者は、1100万人(全体の22%)程度であったと思われます。

 

なお、年功型雇用という用語の取り扱いには注意が必要です。

 

1995年を境に、年功型雇用という用語の意味は全く異なります。

 

1995年に経団連(日経連)は「新時代の『日本的経営』」を掲げて、非正規雇用付の年功型雇用を発明しました。

 

それまでの年功型雇用には、非正規雇用はほとんどありません。

 

アベノミクス以降の円安は、経団連の要望が原因になった政策と思われます。

 

したがって、非正規雇用付の年功型雇用と円安が、生活賃金以下の労働者の増加の原因であるとすれば、その原因をつくったのは、経団連であるといえます。

 

経団連はこの問題についてコメントして、解決の道筋を提示する社会的責任があるのではないしょうか。

 

これは、非正規雇用付の年功型雇用と円安が、生活賃金以下の労働者の増加の原因であるという因果推論の仮説の検証を含む問題です。

 

疑義があれば、それに答える必要があると思われます。

 

2)舞田敏彦氏の記事の要点

人間らしい暮らしをするために必要な最低生計費という観点で言うと、時給1500円は必要という声が強い。それを裏付ける客観的な試算結果も数多くある。政府も、2020年代のうちに最低時給を1500円にする、という目標を掲げている。

 

現実のところ、時給1500円未満で働いている人はたくさんいる。2022年の総務省『就業構造基本調査』では、「年間就業日数×週間就業時間×年収」のクロス表が公表されている。人数が最も多いのは、年間200~249日(225日)、週40~44時間(42.5時間)働き、年収が300~399万円(350万円)という人たちだ。カッコ内の階級値を使うと週の就業日数は、7日×(225日/365日)=4.3日。1日の就業時間は、42.5時間/4.3日=9.9時間。年間の就業時間は、9.9時間×225日=2228時間。時間給は、年収350万円をこれで割って1571円と見積もられる。

 

時給1500円未満で働いている人の数は2201万人で、全体の44.8%になる。時給1500円未満の割合は男性では33.7%、女性では61.6%にもなる。この中にはアルバイトやパートだけでなく、正社員も結構いる。言い換えると、正社員に絞っても時給1500円未満は少なからずいる。

 

正規職員でも女性では4割以上が時給1500円未満で働いており、非正規職員・フリーランスではその割合はもっと上昇する。

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最低限の生計費である時給1500円を、全国の労働者の約半数が得ていない 2025/10/22 Newsweek 舞田敏彦

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/10/575669.php

>>

 

3)生活賃金(10月5日の記事の要点)

 

LISEPは、生活賃金を**年間25,000ドル(税引前)**と保守的に設定し、それを下回る収入しか得ていない労働者を「機能的失業者」と分類しています。

 

アメリカのLISEPは、2024年基準額として年収2万5000ドル(約360万円。1ドル=144円換算)未満の賃金を機能的失業者(Functionally unemployed)の目安としています。

 

承知しました。以下に、**都道府県別の生活賃金試算(年収ベース)と、それに基づくTRU的失業率の地域別推計(概算)**を示します。これは厚労省総務省の統計をもとに、生活賃金を年収360万円(税引前)と仮定し、各地域の所得分布・非正規率・最低賃金水準を踏まえて推計したものです。

 

🗾 都道府県別生活賃金試算とTRU的失業率(概算)



都道府県

最低賃金(2025年)

平均年収(常用労働者)

生活賃金未満層割合(推定)

TRU的失業率(推定)

東京都

1,113円

約460万円

約25%

約28%

神奈川県

1,112円

約440万円

約30%

約33%

愛知県

1,027円

約420万円

約35%

約38%

大阪府

1,064円

約410万円

約38%

約41%

福岡県

941円

約370万円

約45%

約48%

北海道

920円

約360万円

約50%

約53%

宮城県

923円

約350万円

約52%

約55%

茨城県

953円

約365万円

約48%

約51%

沖縄県

896円

約330万円

約58%

約61%

全国平均

1,004円

約400万円

約40%

約43%



Sources:

厚生労働省 最低賃金データ(2025年)

総務省 労働力調査 都道府県別モデル推計(2025年)

 

🔍 推計ロジックの補足

生活賃金未満層割合は、平均年収が360万円を下回る層+非正規雇用者+最低賃金近傍の就労者を合算して推定。

TRU的失業率は、生活賃金未満層+フルタイム希望の不完全就労者+潜在的失業者を含む広義の失業率。

地方ほど最低賃金が低く、生活賃金未満層が多いため、TRU的失業率は都市部より高くなる傾向。

 

4)年功型雇用の検討

 

4-1)解題

 

労働市場の問題

 

労働市場があれば、人手不足になれば、賃金があがります。

 

これは、筆者の主張ではなく、市場経済の経済学のモデルが、そのように出来ているという意味です。

 

社会の大半が、年功型雇用の場合には、労働市場がないので、人手不足になっても、賃金はあがりません。

 

たとえば、年功型組織では、年齢が増えて、ポストが上がれば賃金が上がります。

 

転職をして、仮に、年功型序列の一番下に組み込まれたら、賃金が大きく下がってしまいます。

 

系列企業や子会社に転職する場合には、まえの職場の給与に一番近い年功型序列に格付けされますが、これには、制度的な保証はありません。実際に、定年で、再就職する場合には、このルールは使われません。

 

4-2)本文

 

質問Copilot

 

年収350万円以下、自給1500円以下(生活賃金以下)の労働者の推定比率は、44%です。

 

日本は、2025年には、労働人口が減少して、労働者不足になっています。

 

反事実推論をして、日本がジョブ型雇用社会であった場合と、現状の年功型雇用が中心の社会であった場合を比較すれは、生活賃金以下の労働者の比率が高い原因は、年功型雇用にあると考えられますか。

 

解答Copilot

 

この問いは、非常に重要かつ構造的な問題提起です。反事実推論の枠組みで「ジョブ型雇用社会だった場合」と「現状の年功型雇用社会」の比較を行うことで、生活賃金以下の労働者比率の原因を制度的に特定しようとする試みですね。以下に、制度設計・因果構造・労働市場の観点から整理してみます。

🧠 比較の前提:ジョブ型 vs 年功型の制度的特徴

 

項目

年功型雇用(メンバーシップ型)

ジョブ型雇用

賃金決定

年齢・勤続年数に基づく

職務内容・スキルに基づく

雇用契約

総合職的・職務非特定

職務特定型

採用

新卒一括・ポテンシャル重視

中途・即戦力重視

異動・昇進

社内ローテーション

職務・成果ベース

解雇

極めて困難

職務消失時に可能

労働組合

企業別

職種別・産業別が多い

 

🔍 反事実推論:ジョブ型だった場合の仮定と影響

  1. 生活賃金以下の労働者比率(44%)の構造的要因
  • 年功型では、若年層・非正規雇用者の賃金が極端に低く抑えられがち。
  • 賃金は「将来の昇給を前提とした低賃金スタート」であり、生活賃金を下回る層が多くなる。
  • 正規雇用(パート・契約社員)は年功の恩恵を受けず、制度外に置かれる。
  1. ジョブ型だった場合の反事実的効果
  • 職務に応じた賃金設定が基本となるため、同一労働同一賃金が実現しやすい。
  • 若年層や非正規でも、専門性や職務内容に応じて生活賃金以上の報酬が得られる可能性が高い。
  • ただし、職務が単純であれば賃金は低く抑えられるため、制度だけで格差が解消されるわけではない。

🧩 因果構造モデル(簡略版)

[雇用制度] ─┬─> [賃金決定方式] ─┬─> [生活賃金以下の労働者比率] 

      └─> [雇用の安定性] ─┘

  • 年功型:賃金決定が年齢依存 → 若年層・非正規が低賃金に固定化 → 比率上昇
  • ジョブ型:職務依存 → 若年層でもスキル次第で生活賃金以上 → 比率低下の可能性

🧮 結論:因果的に「年功型雇用」が主因と考えられるか?

限定的には「Yes」 と言えますが、以下の条件付きです:

  • 年功型雇用が「若年層・非正規層の低賃金構造」を制度的に温存している点は、生活賃金以下の比率を高める因果要因とみなせます。
  • ただし、ジョブ型に転換しても、スキル評価・職務設計・労働市場の需給が整備されなければ、低賃金層の構造は残存する可能性があります。
  • よって、制度転換だけでなく、教育・職業訓練最低賃金政策・労働市場の透明性などの複合的改革が必要です。

 提案:反事実モデルの精緻化

もしご関心があれば、以下のような形式で反事実モデルを構築し、政策評価や制度設計の議論を深めることも可能です:

 

シナリオ

雇用制度

賃金決定

非正規比率

生活賃金以下比率(推定)

現実

年功型

年齢・勤続

高い

44%

反事実A

ジョブ型(欧米型)

職務・成果

中程度

25〜30%(推定)

反事実B

ジョブ型+最低賃金強化

職務・成果

中程度

15〜20%(推定)

ご希望があれば、このモデルをCSV政策評価フレームに展開することもできます。どの角度から深掘りしましょうか?

出典
日本におけるジョブ型雇用の展望(財務省)
JILPT 勤労生活に関する調査(2021)
集英社オンライン:ジョブ型雇用の死角
厚労省:日本型雇用慣行の変化

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