科学の問題(1)サナエノミクスの問題

(1)サナエノミクスの問題

 

(1)ー(1)高市政策のリスク

 

小幡績氏は、<高市氏の『経済・財政政策』は必ず破綻する>といいます。

 

<<

高市早苗自民党総裁が首相になっても、「『経済・財政政策』は必ず破綻する」と断言できる理由 2025/10/18 東洋経済 小幡 績

https://toyokeizai.net/articles/-/912150?display=b

>>

 

小幡績氏の主張を一言でまとめれば、次になります。



ドルで考える世界の投資家の視点では、積極財政(および異次元金融緩和)の効果はマイナスである。積極財政(および異次元金融緩和)は、インフレと資産インフレを起こすことだけには役に立つ。インフレと資産インフレは、円で考えてビジネスをする株式市場関係者の短期利益に結びつく。これが、生活者と株式市場関係者、誠実な日本国民と日本を利用するだけの投資家の、積極財政、異次元金融緩和に対する意見の違いを生み出す理由の1つである。

 

ジム・ロジャーズ氏は、ドルで考える世界の投資家です。小幡績氏の主張は、ジム・ロジャーズ氏の主張とほぼ重なります。

 

<『経済・財政政策』は必ず破綻する>は、バブル崩壊以上の経済混乱がおきることを意味します。

 

小幡績氏の主張の表現には、重複と2重否定表現が多くわかりにくいので、以下に、筆者なりに、整理をしてみました。編集の間違いがあれば、筆者の責任になります。

 

さて、要約の紹介の前に、整理すべき点があります。

 

小幡績氏の主張が正しいか、正しくないか」以前の問題です。

 

ある経済政策が、正しいか否かを議論できる経済学のフレームワークは存在しません。

 

これは、経済学が利害関係者の利益誘導のためのイデオロギーであって、科学ではないことを意味します。



上記のサマリーの次の部分に対応します。

インフレと資産インフレは、円で考えてビジネスをする株式市場関係者の短期利益に結びつく。これが、生活者と株式市場関係者、誠実な日本国民と日本を利用するだけの投資家の、積極財政、異次元金融緩和に対する意見の違いを生み出す理由の1つである。

 

「日本を利用するだけの投資家の、積極財政、異次元金融緩和に対する意見」が、経済政策になっています。

 

小幡績氏は、この経済学のフレームワーク問題の解決方法を提示していません。



小幡績氏は、「誠実な日本国民の利益になる経済政策」を論じていると思われますが、経済学のフレームワーク問題を解決しないと、その主張は生かされません。

 

このフレームワーク問題は大きくわけて、2つに分かれます。

 

第1は、経済学という学問のフレームワーク問題です。経済学は、自然科学のような仮説の検証プロセスを持っていません。最近では、因果推論を使った経済学もありますが、一部に限定されます。

 

第2は、経済政策のフレームワーク問題です。経済政策の効果を検証して、無駄な税金の使用を減らすメカニズムをもったフレームワーク(EBPM)はありません。

 

この2つがクリアされないと、小幡績氏の主張が、政策に反映されることはありません。

 

とはいえ、「日本を利用するだけの投資家の、積極財政、異次元金融緩和に対する意見」が、経済政策の主流になっている現状を考えれば、小幡績氏の主張は、啓蒙として、非常に高い価値があると言えます。

 

(1)-(2)小幡績氏の主張

 

 

1)経済政策(政治政策、円安政策、アベノミクスの第1の矢)

 

高市氏が主張している経済対策は、経済対策ではなく政治対策(要はバラマキ)である。

 

ガソリン価格が上がっているのは世界でほぼ日本だけで、理由は、円安である。円安が進めば、不動産価値、企業価値、ドルベースで見た日本株の価値はすべて下落する。アメリカ、中国、ロシア、中東、どんな国であっても、日本を買い占めることが容易になる。円安政策は、国富の海外流出政策である。

 

2)物価対策は逆効果の政策

 

物価対策に補助金を配ったり、ガソリン税を下げても、物価を落ち着かせる効果はなく、このお金は、海外の原油の売り手に流出し、純粋に日本以外の利益になる。

 

補助金を通じての物価対策はインフレを加速させる。補助金の分だけ、必需品以外の支出にまわすお金が増え、需要が増加し、さらにインフレが加速する。それを抑えるために、金利を急激に引き上げざるを得ず、投資が抑制され、景気が悪くなる。

 

3)積極財政(アベノミクスの第2の矢)

 

積極財政は、財政破綻以前に、クラウディングアウトを起こす。

 

人手不足、リソース不足の状態で、政府が無理して支出すれば、民間セクターは人手不足がさらに厳しくなり、部材もキーパーツも入手できなくなる。輸送も滞る。政府の財政出動が民間のプロジェクトの邪魔をする本末転倒がおきる。

 

4)産業政策

 

高市氏は、最先端科学分野を中心とする産業政策を主張している。21世紀に成功した政府主導の先端技術のプロジェクトは、日本では1つもない。ラピダスは失敗で、熊本のTSMCでさえ、先行きには暗雲が垂れ込めている。

 

政府主導とは、民間にやる気がない状態をさすので、絶対に成功しない。資本調達がこれだけ容易な21世紀の金融経済の世界では、「民間にはできないが政府にならできる」ことは1つもない。

 

5)アベノミクスとの比較

 

アベノミクスは理論的に間違った失敗である。異次元緩和はいかなる意味でも経済と金融市場を壊す。それでも、アベノミクスは、サナエノミクスよりは100万倍ましである。

 

2013年のアベノミクス開始当時(政権を正式には奪取する前)は、ドル円レートは一時80円割れ、日経平均は1万円割れであった。

 

2025年は、ドル円は1ドル=150円前後(ドルも世界では弱者通貨であるから、日本円の弱さはほぼ世界一)日経平均は4万円台後半でバブルが懸念されている。

 

ここで財政出動金利引き上げ阻止をすれば、日本経済を真っ逆さまに墜落させる。

 

今後、政治および政策が悪い方向に傾けば、円安、債券安の日本売りとなるから、為替と長期金利が日本経済の運命のバロメーターとなる。日本株は、米国株次第であり、アメリカが良ければ、日本売りの影響は小さく、株安・円安・債券安のトリプル安は起きないが、米国株も不調なら、日本株も為替・債券とともに、暴落するトリプル安となる。

 

6)積極財政は日本経済を停滞させる

 

日本経済を停滞させている原因は、積極財政である。

 

6-1)政府債務は経済成長の足枷になる。

 

政府債務のGDP比の水準が200%を超えても、誰かが(日銀が)国債を買い続ければ、政府は財政破綻しない。財政破綻はストックの問題ではなく、フローの資金の詰まりの問題である。しかし、政府債務には、財政破綻以上に大きな問題がある。

 

公的債務のGDP比は、公的部門が、民間経済から寄生虫のように吸い取っている(所得移転)ことを表す。政府債務残高約1200兆円とは、これがなければ、民間に投下できた資金、潜在的な資本額になる。

 

経済成長は、資本と労働の投下量(およびその質)で決まる。資本を1200兆円分、民間が投下する機会を奪って、政府部門に滞留させれば、経済成長しない。

 

事業投資のリターンは、金融投資のリターンより常に高い。事業投資のリターンを米国10年物国債程度の4%とすれば、48兆円の事業利益を政府債務1200兆円で日本経済から奪っている計算になる。GDP600兆円の場合、8%分、GDP成長率を低下させる。これでは日本経済は、活力が失われ、衰弱死する。

 

6-2)世代間所得移転

第2に、2025年度予算歳出総額約115兆円のうち、国債費は28兆円である。もし、過去に日本政府が借金をしていなければ、この28兆円は自由に使えた。過去の人々が、財政支出、減税などによって利益を得た分、われわれは毎年30兆円失っている。

同様に、現在のわれわれが減税の恩恵を受ければ、将来の人々は、その分、お金を失い続ける。

(技術開発に必要な)科学技術予算が、少ないのは、過去に借金をしすぎて30兆円の利子を(および借金総額を発散させないために元本の一部を)払い続けなければいけないからである。

 

6-3)財政出動による日本経済の成長のファクトはゼロ

 

過去30年間、財政出動しても、日本経済は成長したことはない。

 

高市氏支持の人々も、俺たちが金(カネ)をもらっても、財政破綻はしないと言っているだけで、積極財政で経済が成長していると思っている人は、誰もいない。

 

積極財政出動をするたびに「円売り」「日本国債売り」が出て、世界の投資家たちは、日本破綻にベットしていく。

 

6-4)積極財政はインフレや資産インフレを助長するだけ

 

ドルで考える世界の投資家の視点では、1ドル=80円で日経平均2万円と1ドル=160円で日経平均4万円の間には、日本企業の株価上昇はまったくない。

 

日経平均を売買しているトレーダー(株式投資家)は、日本企業の成長に関係なく、数値上インフレが進むと儲かる。これが、株式市場関係者が、インフレおよび資産インフレを望む理由である。彼らは、インフレで生活者を苦しめ、日本経済を破綻させても、自分たちは儲かるからハッピーである。

 

積極財政(および異次元金融緩和)は、インフレや資産インフレを起こすことだけに役に立つ。これが、生活者と株式市場関係者(誠実な日本国民と日本を利用するだけの投資家)の、積極財政、異次元金融緩和に対する意見の違いを生み出す理由の1つなのである。株式市場関係者は、日本経済が滅んでも、株式トレードで儲ければよいので、積極財政を支持している。

 

 

(1)-(3)問題点の整理

 

問題点を整理するために、ChatGTPと議論して、実質賃金を上げる要因の表を作りました。

 

上記の小幡績氏の主張と並べてみれば、理解が深まると思います。



🔍 各要因の影響力(「実質賃金」への影響を基準に評価)



要因

影響の方向性

持続性

規模のインパク

問題点

総合評価(影響力)

給付金

一時的な所得増 → 実質的に賃金補填

一時的

小〜中規模(額による)

恒常的な生活費には追いつかない

🔸小〜中

消費税減税

消費時の負担軽減 → 実質可処分所得

中〜長期

中規模(税率幅による)

財源確保・逆進性の指摘も

🔸中

賃上げ

名目賃金上昇 → 実質賃金改善

長期

中〜大(業種・規模に依存)

企業収益圧迫、非正規層に波及しにくい

🔹大

円安

輸入物価上昇 → 物価高 → 実質賃金低下

継続的

大規模

制御困難・金融政策の副作用

🔴非常に大(マイナス方向)

 

✅ 結論:もっとも大きな影響を与える要因は「円安」だが、悪い方向に働く

 

  • 物価高・賃金不足を引き起こす最大の要因は「円安」です。

    • 理由:エネルギー、食料、原材料などを輸入に依存している日本では、円安になると輸入価格が上がり、それが生活必需品や公共料金、最終消費財に波及するため、広範囲にわたって物価上昇圧力がかかります。

    • 賃金がそれに追いつかない場合、実質賃金は低下し、生活は苦しくなります。

    • 一方で、円安は輸出企業にはプラスですが、国内消費者にとっては基本的にマイナスの影響が大きいです。

(1)ー(4)政権交代のその先

 

小幡績氏の主張と「各要因の影響力」の表から分かることは、最大の問題は、円安と債務の増加です。

 

このために必要な政策は、円安を抑える政策金利の上昇と歳出の削減になります。社会保障費より、公共投資補助金の削減を優先すべきでしょう。

 

しかし、そのような政策を提案している政党はゼロです。

 

つまり、2回以上政権交代(政治家の総入れ替え)をしないと、議論のスタートにもつけません。

 

なお、小幡績は、「政府債務残高約1200兆円とは、これがなければ、民間に投下できた資金、潜在的な資本額になる」と反事実推論をしています。

 

反事実推論なしでは、問題解決はできません。