移民嫌い(4)

4-4)補足2

 

熊野英生氏の記事は、2023年でした。

 

ここでは、最近の記事も引用しておきます。(筆者要約)

 

静かに続く円売りの正体

 

何かの小規模なドル買いのフローが、断続的に出続けています。

 

対円でドル安を抑制する断続的な買いの主体として、日本企業による海外企業への買収や出資など、いわゆるクロスボーダーM&Aに関連した円売り/ドル買いが、有力視されてます。

 

巨額のM&Aに関連した取引を執行する際は、レートを大きく動かさないよう、時間をかけて少量ずつ買いを入れるのが定石とされます。断続的に出るドル買いのフローが、そうした読みが広がる根拠です。

 

対外直投は今年も過去最大の勢い

 

思惑先行と切り捨てられない理由は他にもあります。

 

 2025年7月以降も米国を中心に海外企業に対する買収や出資は続いています。1000億円を超えるものだけでも、住友生命保険オリックス三菱商事日本郵船ソフトバンクグループ、SOMPOホールディングスと相次いで発表されています。

 

市場では「海外に成長の場を広げるしかない日本企業の大型買収が増えており、当然(円が売られて)ドルの下支えになる」(三井住友銀行市場営業部為替トレーディンググループ長の納谷巧氏)との受け止めが一般的です。

 

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円安を支える「見えざる力」...静かな円売りの正体、80兆円投資と為替の行方は? 2025/09/2 Newsweek

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2025/09/568087.php

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5)メドイン・ジャパンの終わり

 

移民問題を考える前に、エマニュエル・トッド氏流(「西洋の敗北」)に、生産を考えてみます。

 

トッド氏は、経済モデル信仰は成り立たないと主張します。

 

トッド氏は、その原因は、経済モデルが生産を無視している為であると主張します。

 

経済モデルでは、生産は、労働、設備、資金などがあればできると考えます。

 

パール流にいえば、データ表現がないと、データ取得がなく、推論は不可能になります。

 

コンピュータ・サイエンティストは、レシピが大好きです。

 

コンピュータサイエンスのアルファベットスープとも呼ばれる専門用語をならべても、多くの読者とメンタルモデルの供給はできません。

 

レシピ(料理)をつかって、メンタルモデルの共有をはかることは、比喩であり不正確な部分がありますが、その欠点より、メンタルモデルの共有は容易であるというメリットが優ります。これが、コンピュータ・サイエンティストが、レシピが大好きな理由です。

 

ここでも。レシピをつかって、生産を考えます。

 

基本は、次になります。

 

材料+レシピ=>料理

 

経済学のモデルでは、設備と労働を分けます。

 

材料+(設備、労働)=>料理

 

しかし、このモデルには、レシピがありません。

 

美味しい料理と不味い料理の区別がありません。

 

レシピは、調理の手順(アルゴリズム)です。

 

ここで、よい材料(食材)が手に入ったとします。

 

このとき、料理の生産プロセスには、よいレシピをつくる人とレシピ通りに調理する能力のある人が必要になります。

 

トッド氏の生産には、エンジニアが必要であるという主張は、「よいレシピをつくる人とレシピ通りに調理する能力のある人が必要」に対応します。フランス料理のシェフが、日本料理をつくれないように、マスとしての人材の議論には、限界があります。また、よいレシピをつくる人の数は少ないですが、その人の能力の与える影響が大きいです。中国では、双一流政策で、全体大学生の1.6%の優秀な学部に重点的な投資をしています。これは、「よいレシピをつくる人」を確保する政策になります。

 

2025年の 日本の大学卒業生数(学部)は、約59万人で、 工学系学部の卒業生数は、約9.5万人(工学部比率16%)です。

 

定員が減っていないので、エンジニアの数は減っていませんが、次の点による質の変化があります。

 

第1に、18歳人口の減少により、入学試験の倍率が下がっています。これに合わせて、高校生は、勉強しません。とくに、物理の履修率が下がっています。

 

第2に、「新時代の『日本的経営』」によって、第2身分のエンジニアの給与が上がらないので、優秀な人材は、医学部を目指すか、GAFAMに代表される外国企業に流れています。

 

第3に、双一流のような優秀な人材を優先する政策がありません。

 

第4に、新卒一括採用の年功型雇用では、「よいレシピをつくる」と組織内で角がたって、出世できません。勉強するより、協調性を磨く方が将来の所得があがります。

 

これらを勘案すると日本の 工学系学部の卒業生数の能力は低下していると思われます。

 

この低下の評価は、何を基準にするかで異なります。

 

人口規模が日本に近いベトナムと人口の多いインドを例に比べます。



1995年 vs 2025年(日本)工学系卒業生の推移

 

年度

大学卒業生数

工学系卒業生数

工学系比率

1995年

約48万人

約9万人

約19%

2025年

約59万人

約9.5万人

約16%



1995年 vs 2025年(ベトナム)工学系卒業生の推移

 

年度

大学卒業生数

工学系卒業生数

工学系比率

1995年

約10万人

約2万人

約20%

2025年

約45万人

約10万人

約22%



1995年 vs 2025年(インド)工学系卒業生の推移

 

年度

大学卒業生数

工学系卒業生数

工学系比率

1995年

約250万人

約35万人

約14%

2025年

約1,000万人

約150万人

約15%

 

ちなみに、2025年の中国の工学系大学の卒業者数は、500万人です。インドの工学系大学の卒業者数は、中国より小さいので、今後の伸びしろがあります。

 

次は、Copilotによる2025年の推定偏差値です。

 

日本:工学系大学の合格偏差値(2025年)

 

大学名

偏差値(2025年)

備考

東京大学理科一類

74〜75

工学系最難関。全国トップ層の学力が集まる。

京都大学(工学部)

69〜72

理工系の伝統と研究力が強く、関西最難関。

東京工業大学

68〜71

理工系特化型。数学・物理重視の選抜。

東北・大阪大学

65〜70

旧帝大として全国上位。分野によって差がある。

早稲田・慶應(理工)

70〜72

私立最難関。推薦・一般入試ともに高倍率。

地方国公立大学

55〜65

地域差あり。推薦枠や共通テスト利用が中心。



 ベトナム:工学系大学の合格偏差値(推定)



大学名

試験方式

偏差値(推定)

備考

ハノイ工科大学(HUST)

数・物・化(A00)

70〜73

国家試験で28点以上(30点満点)。理系最上位校。

ホーチミン市工科大学(HCMUT)

数・物・英(A01)

68〜71

英語試験を課す学科もあり。IT・電気系が特に人気。

ダナン工科大学

数・物・化

60〜65

中部地域の中核校。建築・機械系に強み。

地方工科大学(例:Can Tho)

数・物・化

55〜60

地域枠や推薦制度あり。倍率は比較的低め。



インド:工学系大学の合格偏差値(推定)



大学名

試験方式

偏差値(推定)

備考

IIT Bombay

JEE Advanced

75〜80

全国120万人中の上位0.1%。世界的難関校。

IIT Delhi

JEE Advanced

73〜78

数学・物理重視。研究力・就職力ともに高評価。

NIT Trichyなど

JEE Main

65〜70

上位2〜5%層。州枠やカテゴリ別優遇あり。

私立(VIT, SRMなど)

独自試験+JEE

55〜65

入試方式が多様。推薦・奨学金制度も充実。

 

以上のデータから、日本には、「よいレシピをつくる人」のレベルのエンジニアが少ないことがわかります。

 

トッド氏が指摘するように、経済学者は、こうした生産者の質(エンジニア)という変数を無視しています。たとえば、リフレ派は、資金があれば、エンジニアがいなくとも生産が可能であると考えています。

 

その方法で可能なレシピは、フライヤーがあれば、誰でも参入可能な唐揚げ店のレベルです。

 

日本では、オリジナルなレシピをつくれるエンジニアが減少して、優秀なエンジニアは、中国、インド、ベトナムなどにいます。

 

政府と企業は、半導体関連工場をインドに移転する計画です。表向きは普及技術の移転になっていますが、実態は、エンジニア不足で、国内生産が困難なためと思われます。技術は常に更新しないと陳腐化してしまいます。この技術の更新ができるエンジニアは、日本にほとんどいなくなりましたが、インドにはいます。したがって、企業として、メイドイン・ジャパンを放棄して、メイドイン・インドに切り替えることになります。

 

今後、日本で、東京大学の工学部を卒業した場合、勤務先は、海外企業か、日本の企業の海外工場、海外の研究所になると思います。

 

技術の更新ができるエンジニアの人材がいなくなれば、メイドイン・ジャパンは消滅します。それなりの所得を得られる人は、海外で働く人、海外企業あるいは生産拠点を海外にもつ日本企業に投資している人だけになります。

 

移民問題を考える上では、現在日本企業に起きている大きな構造変化を前提にして考える必要があります。

 

ドイツは、移民大国ですが、コロナワクチンをファイザーと共同で開発したビオンテックのように、技術開発が出来るエンジニアが国内にいます。

 

日本でコロナワクチンを開発できなったことは、開発が出来るレベルのエンジニアが枯渇していることを示しています。