移民嫌い(2)

4)給与はなぜ減るのか

 

移民嫌いの「問い」の中心は、「給与が増えないこと、生活費が増加すること、利便性が低下すること」です。

 

給与が移民の拡大によって変化するかが、最大の関心事です。

 

マスコミは、エビデンスを示さずに有識者(利害関係者、御用学者)の意見を押しつけますが、現時点で、生活に困窮している人は、こうした押しつけと問題解決の放棄にうんざりしています。

 

データは、給与が下がり続けていることを示していますが、有識者はこの事実を無視しています。

 

時系列は、因果ではありません。しかし、移民の拡大と給与の減少は同じ時期に起きています。

 

この2つの相関係数をとれば、移民の拡大と給与の減少の間には、高い相関があります。

 

そもそも給与は、どうして上がらないのでしょうか。

 

4-1)経済モデルの説明

 

NHK:

 

2024年6月にNHKは次のような記事を掲載しています。

 

日本の賃金を各国と比較するとその差に愕然(がくぜん)とします。日本はなぜこうまで賃金が上がりにくいのか。複雑な構造要因をひもときます。

 

賃金が上がらなかった要因は大きくわけて3つあると多くの専門家が指摘します。

 

【1】労働生産性の低さ

【2】非正規雇用の多さ

【3】転職のしやすさが不十分

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実感なき「給料アップ」 世界比較で愕然… ホントの要因は? 2024/06/23 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240625/k10014490591000.html

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労働生産性の低さは、政府の補助金によるオランダ病が原因である可能性が高いです。

 

これは、経営者が第1身分で、技術者が第2身分であるという1995年の日経連「新時代の『日本的経営』」の結果として必然的におきます。第2身分の技術開発より、第1身分の資金獲得を優先することが、「新時代の『日本的経営』」のポイントだからです。

 

正規雇用の拡大は、「新時代の『日本的経営』」にしたがって、進められた小泉改革の結果です。

 

転職のしやすさが不十分な理由は、年功型雇用にあり、これも、「新時代の『日本的経営』」にしたがって、すすめられた年功型雇用を維持する政府の政策の結果です。

 

裁判所は、解雇規制によって、年功型雇用を維持し、ジョブ型雇用の導入を阻止してきました。一方では、非正規雇用の拡大を認めました。つまり、裁判所の判断は、「新時代の『日本的経営』」にしたがっていました。

 

つまり、賃金が上がらない原因は、政府と経営者の合意に基づく「新時代の『日本的経営』」政策にあります。

 

もちろん、NHKはそのようには、報道しません。

 

因果関係の検証には、エビデンスに基づく検証が必要になります。

 

しかし、設計図があり、設計図通りの現象が観察された場合には、通常、丁寧な検証はしません。

 

60km/hで設計された自動車の走行テストで、63㎞/hの速度が観察されれば、設計はOKになります。

 

走行テストで、50km/hの速度が観察された場合には、原因究明が必要になります。

 

上記の3要因は、「新時代の『日本的経営』」という設計図にかかれた通りに発生したので、丁寧な検証は不要に思われます。

 

NHKは、持続的な賃上げの実現について、有識者の意見を引用しています。

 

今後、日本で持続的な賃上げを実現していくにはどうしたらいいのでしょうか。

 

ニッセイ基礎研究所の高山武士 主任研究員

 

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「日本は原油天然ガスなどのエネルギー資源の多くを輸入に依存しており、商品価格が上昇すると輸出物価よりも輸入物価が上昇し、実質賃金の上昇を抑え込む要因となっています。

 

ドイツはロシアのウクライナ侵攻前はロシアからの安価な天然ガスを調達できたことでエネルギーコストを抑え、実質賃金向上にもつなげてきました。日本も長期的にはエネルギーコストを抑える取り組みが不可欠です。

 

また、日本の上場企業は2024年3月期の決算で最終利益が3期連続で過去最高を更新したと報じられています。利益を人件費にしっかり還元していくことが持続的な賃上げには必要だと思います」

 

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学習院大学経済学部の滝澤美帆教授

 

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「持続的な賃上げには労働生産性をあげることが重要です。経営的に厳しい限界的に小さな企業は合併したり、事業承継をするなどして、生まれ変わることも1つの手段だと思います。

 

すべての中小企業がそうする必要はないですが、企業の規模を大きくして競争を高めることは賃金上昇の上で重要な要素となります」

 

「人への投資、適材適所、仕事をポストで決めていくという考え方を多くの企業が導入していくことが大事です。4月に新卒一括採用という雇用のあり方では、今の時代のスピードについていけません。必要な人材を全員一から育成していくのはコストがかかりすぎるので、必要に応じてキャリアのある人を採用していけば賃金は上がっていくと思います」

 

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NHKは、原因ではなく、要因といいます。

 

Copilotによると、原因と要因の違いは以下です、



項目

原因(Cause)

要因(Factor)

定義

結果を直接引き起こす根本的な理由

結果に影響を与える一つの構成要素

数の傾向

通常は1つ(決定的な理由)

複数あることが多い(複合的な要素)

使用場面

主に悪い結果(事故・病気など)に使う

良い結果にも悪い結果にも使える

英語訳

Cause

Factor

例文

「事故の原因はブレーキの故障だった」

「成功の要因はチームワークと準備の徹底」

 

高山武士氏は、「実質賃金の上昇を抑え込む要因」と、滝澤美帆教授は、「もう1つの手段だ」、「重要な要素」といっています。

 

つまり、これらの指摘は、複数ある複合的な要素について述べているのであって、要因を改善しても、その要因の寄与率が低く、効果が限定される可能性が大きいです。

 

デービッド・アトキンソン氏:

 

菅政権のブレインであったデービッド・アトキンソン氏は、2023年に、賃金が上がらない原因は、労働生産性の停滞にあるといいます。

 

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日本人の「給料安すぎ問題」超シンプルな根本原因 すべては「30年間の労働生産性の停滞」に帰結 2023/05/27 東洋経済 デービッド・アトキンソン

https://toyokeizai.net/articles/-/674402?display=b

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アトキンソン氏は、日本は、観光立国すべきと主張しましたが、オーバーツーリズム問題を無視したアトキンソン氏の主張には、無理があることがわかっています。

 

アトキンソン氏は、菅政権のブレイン(利害関係者)であったので、発言は、参考にはなりますが、無条件で受け入れるべきではありません。

 

アトキンソン氏の主張では、「【2】非正規雇用の多さ」と「【3】転職のしやすさが不十分」の寄与率は無視できることになります。

 

アトキンソン氏は、時系列を因果と解釈する論理展開をするので、そこには、無理があります。

 

「【1】労働生産性の低さ、【2】非正規雇用の多さ、【3】転職のしやすさが不十分」のなかで、「【1】労働生産性の低さ」はデータがなくとも主張できます。

 

これは、経済モデルの中で、利益を最大化するために生産を最適化するためには、生産性の向上が不可欠になるからです。つまり、生産性の向上は、市場経済がベストであるという経済モデル信仰の一部になります。

 

経済モデル信仰は、市場均衡は成り立つという前提を持っています。

 

市場均衡が成り立たなければ、経済モデル信仰は崩壊します。

 

ここまでをまとめます。

 

経済モデル信仰が成り立つのであれば、給与をあげる最大の要素は、労働生産性の向上にあります。

 

NHKの記事では、3要素のうち、「【1】労働生産性の低さ」がトップでした。寄与率を考えれば他の2要素が、トップにくる可能性があります。NHKと滝澤美帆教授は、なぜ、「【1】労働生産性の低さ」をトップに持ってきたのでしょうか。

 

高山武士氏の主張は、「【1】労働生産性の低さ」がトップではありません。

 

NHKと滝澤美帆教授は、経済モデル信仰に基づいて判断したと思われます。

 

アトキンソン氏も、経済モデル信仰に基づいて判断したと思われます。

 

経済モデル信仰に基づけば、要因のトップは、「【1】労働生産性の低さ」になります。

 

「【2】非正規雇用の多さ、【3】転職のしやすさが不十分」は、経済モデルには、簡単に組み込めません。

 

パール流(「因果推論の科学」の哲学)にいえば、「【2】非正規雇用の多さ、【3】転職のしやすさが不十分」には、「データ表現=>データ取得」がないので、考えることが困難になります。これが、順位が落ちた原因であって、寄与率で考えれば、反転する可能性があります。