1)エリート主義の終わり
エリート主義は、政治代表は、国民の利益を代表するという信頼の元に成立します。この信頼が失われて回復が不可能であるという信念はポピュリズム主義になります。
データサイエンスで考えれば、ポピュリズム主義仮説は検証可能です。この検証は因果推論ではありませんが、相関を元に、エリート主義とポピュリズム主義のどちらが成立しているかという問いには、科学的に答えることが可能です。
KYODOは次のように伝えています。
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財務省が2026年度予算の概算要求で、国の借金である国債の償還費と利払い費を合わせた国債費として30兆円前後を計上する方向で調整していることが22日、分かった。長期金利が上昇傾向にあることを受けた対応で、25年度当初予算の28兆2179億円を上回り過去最大となる見通し。国債費が財政を圧迫する構図が続き、企業の成長や国民生活を支援するための政策経費の削減が求められる恐れもある。
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【独自】26年度の国債費、過去最大へ 30兆円前後で調整、財政圧迫 2023/08/22 KYODO
https://news.yahoo.co.jp/articles/7918c5f7c54f1da645a0d9afcfd2b74722fb22e1
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財務省は、財政規律が重要であると主張しています。
財政規律を守る最短距離は歳出の削減です。歳入(税収)には、不確定性があります。一方、歳出は、確定的です。したがって、もっとも確実に財政規律を守る方法は、歳出の削減です。
KYODOは、政策経費は、企業の成長や国民生活を支援するといいますが、この主張にはエビデンスがありません。政策効果はエビデンスに基づいて検証されていません。代わりに、データ取得を拒否する無謬主義が蔓延しています。企業に補助金をつければ、オランダ病がおこって、企業成長は止まります。国民生活を支援するのであれば、税金を徴収して、その一部を配給するよりも、減税をすべきです。
KYODOにかぎらず、マスコミの主張は、データを無視した権威主義に基づいています。エリート(ここでは財務省)は、権威があるので、その主張は正しいというロジックです。このロジックは、法度体制の一部ですが、科学(データ)の無視になります。
ポピュリズム主義仮説は、エリート(権威)は、民衆の利益を無視しているという仮説です。ポピュリズム主義仮説は、権威を受け入れません。
マスコミは、データを無視して、権威に基づく主張を繰り返します。
こうして、ポピュリズム主義者は、マスコミが騒げば騒ぐほど、ポピュリズム主義仮説の確信を深めていきます。
「増税して、政策経費を減らさないという事実」は、財政規律よりも、政治利権が重要であるという仮説(ポピュリズム主義仮説の一部)で説明ができます。財政規律が優先するという仮説では、「増税して、政策経費を減らさないという事実」を説明できません。
国債の金額は、毎年積みあがっています。
歳出、特に、政策経費は、毎年増加しています。
しかし、円安効果のような所得移転効果を補正すれば、日本経済は、ほとんど成長していません。
ドル建てで日本経済を見れば、世界は違ってみえます。
日経平均は、ドル換算すれば、実力がわかります。マスコミは、そのような報道はしません。
円換算のGDPが増えてるにもかかわらずドル換算での一人当たりGDPでは、日本は、先進国の最低になって、台湾と韓国にも追い抜かれています。
この事実は、政策経費の多くが効果の無い政策に投入されていることを示しています。
企業に補助金をつけた結果、経済成長をしたというエビデンスはありません。これは、オランダ病のメカニズムが作用しているという仮説を支持します。
円安が、ドル換算で経済成長をしたというエビデンスはありません。これは、オランダ病のメカニズムが作用しているという仮説を支持します。
法人税減税で、経済成長をしたというエビデンスはありません。これは、オランダ病のメカニズムが作用しているという仮説を支持します。
筆者は、こうした政策を批判しているのではありません。
どのような政策も、実施前にその効果を100%予測することはできません。したがって、ベストな政策の実施方法は、前向き研究で、政策介入前後のデータを取得して、政策効果のエビデンスを計測する以外に科学的方法はありません。
前向き研究とは、介入(ここでは政策の実施)のまえに、データを測定する計画をたてておいて、介入(政策の実施)の前後のデータをサンプリングバイアスが内容に計測する研究手法です。
データの収集計画は、介入の前に立てておく必要があります。
これが、サンプリングバイアスを避けられる唯一の方法です。
問題が発生してから調査をする方法では、介入前のデータは得られませんし、サンプリングのバイアスがあって、科学的な解析に使えるデータは取得できません。
もちろん、科学的方法は、無謬主義の権威の失墜になります。
データがあって初めて、地動説は天動説(権威)を覆すことができました。
権威の保全のためにデータをとらなければ、問題に関する言葉がないので、問題について推論することはできません。
政策を実施する前に、データ収集計画が無ければ、科学的に政策を実施できません。
ここまで、厳密なデータはありませんが、少なくとも、統計学のファクトの範疇でデータを見る限り、エリート主義仮説とポピュリズム主義仮説では、後者の方が正しいと言えます。
科学的に、まちがっているのは、ポピュリズム主義仮説ではなく、エリート主義仮説です。
これが、ポストデモクラシー時代の特徴です。
2)ポストデモクラシー時代の問い
ポストデモクラシー時代の問いで、最大の問いは、仕事がない人の問題です。
トッド氏は、「西洋の敗北」(p.337)で、次のようにいいます。
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アメリカ人労働者は、生産者としての価値観を奪われ、社会的有用性を見失い、アルコール中毒やオピオイドの摂取に陥り、絶望の末に自殺に追い込まれている。
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外国人労働者の増加と工場の海外移転は、アメリカ人労働者(とくに白人)に、生産者としての価値観を喪失させ、社会的有用性を見失わせていきます。
経済学は、消費を中心に考えているので、生産から切り離された労働者という言葉がありません。労働者とは、生産に従事している人のことで、これは、供給をになう生産関数の一部になります。典型は、コブダグラス生産関数です。
失業者という言葉は、その人が、労働(生業)に復帰できる場合に、使える言葉です。
生産者としての価値観を奪われ、社会的有用性を失った外国人労働者は、労働に復帰できる可能性がとても低いのです。
AIの出現により、これから、生産者としての価値観を奪われ、社会的有用性を見失う労働者が急増します。
グローバル化をやめない限り、経済成長を追及しない限り、効率化を止められないので、「生産者としての価値観を奪われ、社会的有用性を見失う労働者」がでることを回避できません。
例えば、日本の窓際族は、効率化を止められないので、次第に減少して、将来は、すべて、失業者になります。
これを前提とするのであれば、仕事がない人の問題が、最優先課題になります。
最大の課題は、人手不足ではありません。