1)ReadモードとWriteモード
コンピュータのファイルとデータベースにアクセスする場合には、ReadモードとWriteモードがあります。
Readモードでは、エラーを起こしても、ファイルが壊れることはありません。
Writeモードでは、ファイルの内容を書き換えることができますが、エラーを起こすと、ファイルが破壊されるリスクがあります。
トッド氏は、識字率を問題にしています。
識字率とは、ReadモードとWriteモードのどちらを指すでしょうか、
コンピュータサイエンスの世界では、ReadモードとWriteモードは、まったく異なります。
プロテスタントが、聖書を読むのは、Readモードです。
Writeモードであれが、聖書を書き換えることになります。
このことから、トッド氏が問題にしている識字率は、Readモードであることがわかります。
以下で使うReadモードとWriteモードの区分は、コンピュータサイエンスとは少しニュアンスが異なります。
料理のレシピの財用をメモして、スーパーで買い物をする場合は、Readモードに分類します。
食材をアレンジしたり、スーパーに目的の食材がないので、他の食材で代替する場合は、レレピを書き換えるので、Writeモードに分類します。
基準は、紙に書くことではなく、元のレシピの書き換えです。
レシピを書き換えること自体は難しくありません。書き換えたレシピに矛盾がなく、読んで理解しやすいか、作った料理の味が美味しいかという判断基準をクリアした場合のみをWriteモードと呼ぶことにします。この基準では、Writeモードをクリアすることは困難になります。料理でいえば、言語能力だけでなく、食材や調理に関する理解がなければ、Writeモードには達しません。
毛沢東は、毛沢東語録をつくって、暗唱させていました。これは、Readモードの学習です。
Readモードは基本的に、書いてあることは正しいという権威主義につながります。
科学は、Writeモードです。新しいデータを参照して、書いてあることが間違いであることがわかれば、内容を書き換えます。料理と同じように、書き換えるためには、理論に精通し、正しく検証されて結果を参照している必要があります。
法治主義は、法律に書いてあることを順守するReadモードです。
裏金疑惑のある議員は、法律を守っているので、問題がないと主張します。
法の支配は、Writeモードです。政治資金規正法に問題があるのであれば、法律を書き換える必要があると考えます。
2)Writeモードの読書
新しいレシピを作る目標を立てた場合を考えます。
この場合の学習プロセスは次になります。
既存のレシピを、材料とプロセス(調理法)に分解します。
次に、材料またはプロセスの一部を入れ替えます。
ここでは、材料、プロセスを変えたらどうなるか、オリジナルレシピは、なぜ、この材料とプロセスの組合せを選んだかという「問い」が、検討のスタートになります。
その結果、既存のレシピと少し異なる料理が出来あがります。
改変したレシピの料理が、オリジナルの料理より、美味しくなる確率は低いです。
しかし、こうしたトレーニングをするとオリジナルのレシピの作成者が、なぜ、その食材とプロセスを選んだのかが理解できるようになります。
さらに、トレーニングをすると、食材をみれば、異なったプロセス(調理法)ごとに、できる料理の違いを頭の中でシミュレーションできるようになります。
以上は、Writeモードの学習法です。
トッド氏の「西洋の敗北」を、Writeモードの学習法で読む場合を考えます。
「西洋の敗北」の記述を分解して、データ(ファクト)と推論に分解します。
つぎに、データと推論の一部を入れ替えた場合の推論結果を得ます。
一部を入れ替える例を示します。
データの場合:
トッド氏は、宗教ゼロの場合を論じ、その基準に火葬を取り上げています。
トッド氏のこの議論の材料(データ)が、ドイツであれば、プロテスタントになります。
ドイツに住むイスラム教徒の人口は、約400万人(総人口の約4%)と推定されています。この数には、移民としてドイツに渡った人々とその子孫が含まれています。
出生率の高さなどを背景に、2030年にはイスラム教徒人口が700万人(総人口の約8%)に達する可能性があると予測されています。
イスラム教徒は、プロテスタントのように宗教ゼロにはなっていません。
つまり、ドイツでは、イスラム教徒の影響力が増す可能性があります。
トッド氏は、「西洋の敗北」(p.302)で、次のようにいっています。
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「2001年から2020年に米国で博士号を取得した上位10カ国」の表によると、イラン出身者の66%がエンジニア関連の勉強をしている。私は学習意欲に関する社会学の視点からイランの博士課程学生に最優秀賞を授与したい。イランがロシアに軍事用ドローンを輸出している理由も分かる。
>
この表には、イスラム教徒の多い国として、トルコ(35%)も載っていますが、トルコのイスラム教は、イランのイスラム教より世俗化していますので、宗教の力は、イランの方が強いです。
イランの博士課程学生が、エンジニア関連の勉強をしている原因が宗教にある場合、ドイツ国内でも、同じ現象が起きる可能性があります。
プロセスの場合:
トッド氏の推論は、宗教と家族構成をプロセスにしています。
対象の宗教は、キリスト教です。
日本では、キリスト教徒の人口が少ないので、同じプロセスを日本に当てはめることはできません。つまり、キリスト教の宗教に代わるプロセスを導入する必要があります。
筆者は、その第1の候補は法度体制(神道)ではないかと考えます。
脇田晴子氏と水林章氏は、法度体制が、太平洋戦争の特攻を実現した原因であると考えています。
これは、イスラム教の過激な宗派に似ています。
つまり、法度体制を宗教のプロセスに入れ替えれば、トッド氏の思考法が、日本を対象に使えると考えます。
このように、作品を素材とプロセスに分解してWriteモードを学習する方法は、モーツアルト等の音楽家も常用しています。
この手法は、アウトプットを材料(データ)とプロセス(推論方法)に分解します。
つまり、パラグラフの論理になっています。
Writeモードの学習には、パラグラフの論理が必須になります。
日本の教育では、パラグラフの論理を教えていませんので、Writeモードは難易度がたかくなります。
3)イスラエルの人口
宗教ゼロでない場合の参考に、ここで、イスラエルの人口と超正統派について、まとめておきます。
英語版ウィキペディアの「超正統派(Haredi Judaism)」と「トラト・ウマヌート
」を引用します。
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ハレディ・ユダヤ教(Haredi Judaism、Yahadut Ḥaredit)は、より融通の利いた価値観や慣習に対抗し、宗教的出典や受け入れられたハラハー(ユダヤ法)および伝統を厳密に解釈することを特徴とする正統派ユダヤ教の一派である。その信者は英語でしばしば「超正統派(ultra-Orthodox)」と呼ばれるが、これは多くの信者から軽蔑的な言葉とみなされ、彼らは厳密に正統派(strictly Orthodox)またはハレディ(Haredi)(複数形:Haredim)という用語を好む。ハレディムは、自分たちが拘束力があり不変であるユダヤ教の宗教法と伝統の最も正統な守護者であると考えている。彼らは、現代正統派を含むユダヤ教の他のすべての表現を「神の法からの逸脱」と見なしていますが、他のユダヤ教運動はこれに反対しています。
2020年の時点で、世界には約210万人のハレディムがおり、世界のユダヤ人の14%を占めています。ハレディムは主にイスラエル(イスラエルのユダヤ人の17%、イスラエルの総人口の14%)、北米(アメリカのユダヤ人の12% )、西ヨーロッパ(最も有名なのはロンドンのアントワープとスタンフォードヒル)に住んでいます。異人種間の結婚がなく、出生率と定着率が高いため、ハレディムの人口は急速に増加しており、20年ごとに2倍以上に増えています。
イスラエルのハレディ派ユダヤ人の数は急速に増加し続けており、現在の人口増加率は年間4%です。女性1人あたりの子供の数は7.2人で、20歳未満のハレディム派の割合は2009年には16.3%(ユダヤ人の29%)でした。
2030年までに、ハレディ派のユダヤ人コミュニティはイスラエルの総人口の16%を占めると予測されており、2065年までに非ユダヤ人を含むイスラエル人口の3分の1を占めると予測されています。その頃には、イスラエルの子供の2人に1人がハレディ派になります。
ライフスタイルと家族
ハレディ派の生活は、正統派ユダヤ教全般の生活と同様に、非常に家族中心で秩序立ったものです。男女は別々の学校に通い、それぞれ13歳から18歳の間にイェシーバー(ユダヤ教神学校)または神学校で高等なトーラーの勉強に進みます。若い男性の多くは結婚(多くの場合、見合い結婚)するまでイェシーバーに留まります。結婚後も、多くのハレディ派の男性はコレッル(ユダヤ教学校)でトーラーの勉強を続けます。
イスラエルでは、様々な理由から、男性メンバーの大多数(56%)が働いていません。一方、イスラエルのハレディの女性の約80%が働いています。
近年のハレディの報道機関では厳格な慎み深さの方針が特徴であり、女性の写真は通常掲載されません。 2009年には、イスラエルの日刊紙ヤテッド・ネーマンがイスラエル内閣の写真を改ざんし、2人の女性大臣を男性の写真に差し替えました。
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トラト・ウマヌート
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トラト・ウマヌート(直訳すると 「トーラーの学習は彼の仕事」)は、イスラエルにおける特別な政府の取り決めで、イェシーバーに在籍する若いハレディ・ユダヤ教徒の男性が、イスラエル軍に徴兵される前に学業を修了することを認めていた。歴史的に、イスラエルの法律では、ユダヤ人の男性と女性、男性のドゥルーズ派、およびチェルケス人の男性は、18歳になると軍務に就くことが義務付けられており、男性の徴兵者は3年間、女性のユダヤ人の徴兵者は2年間の勤務が義務付けられている。
ハレディ・ユダヤ教徒は、偉大なトーラ学者やその弟子たちがトーラを研究したり暗唱したりする習慣は、軍隊に「祈祷師団」を追加するのと同じように、イスラエル国民を脅威から守る上で非常に重要であると主張している。実際には、トラト・ウマヌート協定により、ハレディのラビとその弟子たちは、4か月という短縮された兵役期間に登録するか、そうでなければ兵役義務を完全に免除されるという 法的ルートが与えられている。
2024年6月、イスラエル最高裁判所は、イスラエル国防軍の徴兵免除の継続は違法であると宣言し、軍はその後数か月間に数千人のハレディ派男性に徴兵命令を出した。
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ハレディ・ユダヤ教徒は、徴兵制のイスラエルで、兵役義務を完全に免除されてきました。
ハレディ・ユダヤ教徒の人口が増えて、この例外規定の順守は困難になりました。
2025年7月15日、イスラエルの超正統派政党「ユダヤ教トーラ連合(UTJ)」は、ユダヤ教神学校生徒の兵役免除を定める法案起草が進んでいないとして、連立政権を離脱すると表明しました。
これにより、ネタニヤフ政権が握る国会(定数120)の議席は61に減り、過半数ぎりぎりになりました。
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イスラエル超正統派が連立離脱、徴兵法案巡り 過半数辛うじて維持 2025/07/15 Newsweek
https://www.newsweekjapan.jp/headlines/world/2025/07/560791.php
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もう一つの超正統派政党「シャス」は16日、議員らが宗教学生の将来の兵役免除を保証しなかったことに抗議し、内閣を離脱すると発表しました。
ネタニヤフ政権は議会で過半数割れとなりました。
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イスラエルで2番目の超正統派政党が政権離脱、ネタニヤフ首相に打撃 2025/07/16 アルジャジーラ
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このように、ハレディ・ユダヤ教徒の懲役免除は、現在、イスラエルの政治の中心課題になっています。
ハレディ・ユダヤ教徒の男性の半分以上が働いていません。
この点について、宮田律氏の資料から、追加説明します。
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イスラエルで黒い服装をする超正統派(ハレディム)は通常7人前後の子供をもつが、間もなくイスラエルのユダヤ人人口の6人に1人が超正統派になろうとしている。超正統派は男女の役割を厳格に峻別し、超正統派の政党には女性の議員がいない。その独自の教育システムでは男子に数学、科学、英語を教えることを禁じ、生涯にわたって宗教教育を義務づけるが、その宗教教育の運営資金を国家にあおぐ。超正統派は男子の半分が職をもつだけで、多くが宗教活動だけで暮らして政府からの補助金で生活している。超正統派は子どもの数に応じた額の補助金を政府から得て、また兵役を拒否する。
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自壊するシオニズム ―イスラエルを離れるユダヤ人たち 2024/07/24 note 宮田律
https://note.com/miyataosamu/n/nd1a15615aaaf
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このように、子だくさんの補助金があれば、生活はできるようです。
イスラエルの出生率の高さは、ハレディ・ユダヤ教徒だけではありません。
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イスラエルでは世界のトレンドに反して過去30年間、出生率が上昇しており、2023年には「2.84」にのぼった。
1つ目の要因として考えられるのは、超正統派ユダヤ教徒の出生率の高さだ。彼らがイスラエルの人口に占める割合は12%程度だが、2020~22年の出生率は「6.48」に達している。
第2の要因として挙げられるのは、宗教マイノリティーの出生率の高さだ。イスラエルの人口の約20%を占めるイスラム教徒女性の2022年の出生率は「2.87」。他の先進国に比べるとかなり高い。
一方、超正統派以外のユダヤ人(正統派ユダヤ教徒、世俗的なユダヤ教徒)の出生率も「2.45」と高い点は見逃せない。
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「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエルだけが「子だくさん」の理由【アニメで解説】2025/07/16 Newsweek
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/07/558941.php
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一方、イスラエルは、2023年10月のハマスによる急襲以降、人口流失が増えています。
Copilotに聞いてみました。
Q:最近のイスラエルの人口流出について教えてください。
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最近のイスラエルでは、国外への人口流出が顕著になっており、これが人口増加率の鈍化に大きく影響しています。以下にその動向をまとめます。
イスラエルの人口流出の現状(2024年)
|
年度 |
総人口(推定) |
増加率 |
国外移住者数 |
主な要因 |
|---|---|---|---|---|
|
2023年 |
約1,002万人 |
+1.6% |
約55,000人 |
紛争、政治的混乱 |
|
2024年 |
約1,003万人 |
+1.1% |
約82,700人 |
紛争激化、社会不安 |
出典:イスラエル中央統計局
背景と要因
- 紛争の激化:2023年10月のハマスによる急襲以降、ガザ地区との戦争が激化。これにより安全保障への不安が高まり、国外移住を選ぶ人が増加。
- 政治的混乱:ネタニヤフ政権による司法制度改革に対する大規模な抗議活動が続き、社会的分断が深まっている。
- 経済的・社会的要因:生活費の高騰や住宅問題、若年層の将来不安も移住の動機となっている。
長期的な影響
中央統計局は、戦争の影響が移住傾向に与える長期的な影響は「2024年11月以降に評価されるべき」と慎重な姿勢を示しています。ただし、現時点でも移住者数の急増は統計的に明らかであり、人口動態に変化をもたらしています。
>
流出人口に占めるハレディ・ユダヤ教徒の比率は低いので、人口流出は、ハレディ・ユダヤ教徒の比率を高めることになります。
4)宗教に関する補足
宗教は、Readモードです。正しさの根拠は、権威にあります。
科学で言えば、地動説ではなく、天動説が生きています。
異文化交流で、相互理解ができると主張する人がいます。
しかし、あの人は、天動説を信じているように、Aという宗教をを信じていることがわかっても、その人の信仰(Aという宗教、天動説)に納得できる訳ではありません。
日本は、西洋に先んじて、宗教がゼロに近い国です。
宗教がゼロでなく、異なる場合には、相互理解はあり得ません。
これが、ヨーロッパで、低所得層のキリスト教徒が、イスラム教徒に反感を持つ理由です。キリスト教徒は、イスラム教徒のような異なる宗教の人が異なる文化を持っていることは理解できますが、その文化が、西洋の基準の人権にあっているとは考えられないのです。
Writeモードがあれば、共通の宗教をつくることが可能ですが、科学と違って、宗教には、Writeモードはありません。
同様に、中国では、反日教育がなされています。
反日教育は、Readモードで行われます。
中国人が日本にきて、Readモードで学習した反日感情を書き換える場合もあります。その場合には、相互理解が可能になります。
しかし、Writeモードが機能しない場合には、対立は解消できません。