トッド氏の正義論(6)

1)戦争終結に向けたプーチン大統領の提案

 

テレ朝が、「戦争終結に向けたプーチン大統領の提案」を報道しています。

 

ロイター通信は16日、「戦争終結に向けたプーチン大統領の提案」として、以下のような条件を報じた。

 

(1)ウクライナ東部ドンバス地方(ドネツク州・ルハンシク州)から、ウクライナ軍が完全撤退する。それと引き換えに、ロシア軍は南部ヘルソン州ザポリージャ州で前線を凍結する。また北東部スムイ州とハルキウ州で、ロシア軍が占領している小規模な地域を返還する用意がある。

 

(2)クリミア半島に関するロシアの主権の承認。

 

(3)ウクライナNATO(=北大西洋条約機構)への非加盟。

  ただし、別の形で安全保障の仕組みを持つことは可能。

 

(4)経済制裁の一部解除。

 

(5)ウクライナ全土または一部で、ロシア語の公用語化。

 

(6)ウクライナにおいてロシア正教会が自由に活動する権利。

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【解説】米露首脳会談で何が…プーチン大統領が突きつけた要求の全貌は 2025/08/18 テレ朝ニュース

https://news.yahoo.co.jp/articles/1756842bd6cd6e6e3b35c5f953e28cc5cb02f7cd

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出典は、16日のロイターとありますが、確認できませんでした。



基本的には、「ウィトコフ米特使に提示された停戦提案」になっています。

 

ロイターの論調は、この提案では、プーチン氏が「勝者」というものです。

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焦点:プーチン氏を「勝者」にした米ロ首脳会談、成果には不確定要素も 2025/08/18 ロイター Andrew Osborn

https://jp.reuters.com/world/ukraine/UTF6MFFQ2VLATKKD7DPDGLHXWQ-2025-08-18/

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しかし、イデオロギーではなく、経済で考えれば、他に、落としどころはないように思われます。

 

ところで、やはり、現在も情報が少ないです。

 

2)主要メディアの間違い

 

また、主要メディアは、データ(ファクト)を無視して、イデオロギー優先の論調を繰りかえしています。

 

アメリカはロシアを負かすことができるといった間違った認識があります。

 

ウクライナに、アメリカ、EU、イギリスの軍隊が加勢することはありません。

 

これらの国には、軍隊を派遣する経済的メリットはありません。

 

ウクライナNATOに加盟すれば、アメリカ、EU、イギリスの軍隊が加勢することになります。したがって、プーチン氏は、ウクライナNATO加盟を認めません。

 

EUにとって、ウクライナNATOに加盟させるメリットがあるのは、ロシアが、EUに侵攻する場合だけです。

 

ロシアは、ウクライナよりは大国ですが、EUに侵攻する能力はありません。

 

したがって、EUにとって、ウクライナNATOに加盟させるメリットはありません。

 

EUが、ロシアが、EUに侵攻すると本気で考えているのであれば、NATO加盟の有無にかかわらず、EUの軍隊をウクライナに派遣しているはずです。ロシアは、核兵器をつかうリスクがありますが、ロシア領土内に侵攻しない限りは、そのリスクは低いです。

 

ロシア・ウクライナ戦争は、2014年に始まっています。

 

2014年に、EUは、ウクライナに派兵しませんでしたので、プーチン氏は、EUは、ロシア・ウクライナ戦争を内戦であると考えていると理解していました。

 

トッド氏の指摘は、現在のEUとイギリスの行動には、合理性がないということです。

 

現状で、アメリカ、EU、イギリスの軍隊をウクライナに派遣しても、国内の支持を得ることはできません。これは、トッド氏が、ヨーロッパは、国民国家としての宗教がゼロになったという事実に対応しています。

 

したがって、大前提として、アメリカ、EU、イギリスの軍隊が、ウクライナに派遣されることはありません。

 

この前提の元では、ウクライナは、ウクライナ軍だけで、ロシアと闘うことになります。

 

その場合、2つの問題点があります。

 

P1:通常兵器の不足。ドイツを除けば、通常兵器を作る能力が不足しています。ドイツは、通常兵器を増産する能力がありますが、それをすれば、第2次世界大戦の再来になります。したがって、ドイツは、必要最低限の武器だけを製造します。つまり、通常兵器は、慢性的に不足しています。

 

P2:2022年に、4000万人であったウクライナの人口は、現在2800万人です。つまり、ウクライナの兵士は、絶対的に不足しています。

 

P1とP2から、ウクライナは、ロシアとの戦闘に勝てないことがわかります。

 

実際に、2025年になって、ウクライナがロシアに勝利した戦闘はありません。

 

したがって、ウクライナにとって、もっとも有利な停戦は、現在の戦闘ラインで固定化することになります。

 

トランプ大統領は、ウクライナが、2022年のウクライナ戦争を始めたと主張しています。

 

ここで、どちらが先に進軍したかというファクトは、ロシアになります。

 

しかし、冷静に考えれば、ウクライナには、最初から、この戦争の勝算がありませんでした。

 

ウクライナは、NATOに加盟することをちらつかせて、ロシアを挑発しました。

 

ウクライナは、戦争になれば、NATO軍がくると考えていたのでしょうか。

 

これは、大きな誤解です。

 

ウクライナが、NATOに加盟することをちらつかせなければ、ロシアの進軍はあり得ませんでした。

 

この点を考えれば、トランプ大統領の発言は間違いではありません。

 

因果モデルで考えれば、ロシアの進軍の原因は、ウクライナが、NATOに加盟をちらつかせたことにあります。