トッド氏の正義論(5)

1)スティーブ・ウィトコフ

 

トランプ外交を理解する上では、スティーブ・ウィトコフ氏の活動の理解が不可欠です。

 

英語版ウィキペディア「Steve Witkoff」の一部を引用します。

トランプ大統領は、ウィトコフ氏をロシアのウラジーミル・プーチン大統領への事実上の特使に任命した。 2025年3月までに、ウィトコフ氏はトランプ政権とロシア大統領府との間の主要な連絡係となった。

 

2025年3月21日、タッカー・カールソンとのポッドキャストインタビューで、ヴィトコフ氏は交渉における最大の争点は「いわゆる4つの地域、ドンバス、クリミア、ルガンスク…そして他に2つ」だと述べた。ロシアは2014年にクリミアを占領・併合し、その後2022年の侵攻でさらに4つのウクライナ州を占領・併合した。 ヴィトコフ氏は、これらの州の住民はロシア語を話し、「国民投票が行われ、大多数の人々がロシアの統治下に入ることを望んでいると表明した」と述べた。ロシアは侵攻の最中にこれらの投票を実施し、米国、ウクライナ、そして国際社会の大半から「見せかけ」だと非難された。

 

2025年8月初旬、ヴィトコフはプーチン大統領と再び会談するためモスクワを訪れた。会談中、ヴィトコフはプーチン大統領の発言を誤解したと報じられている。プーチン大統領ウクライナ軍の占領地からの「平和的撤退」に前向きであるという発言を、ロシア軍がヘルソンやザポリージャなどの地域から撤退するという提案だと解釈したのだ。この誤解はワシントンにも伝えられ、トランプ大統領は新たな制裁を一時停止し、プーチン大統領にアラスカでの首脳会談に招待したようだ。批評家たちは、プーチン大統領は「経済を衰弱させる制裁ではなく、会談への招待で報われた」と主張しており、これはこの外交的混乱の余波を反映している。

 

アラスカ2025サミットは2025年8月15日に開催された。会議の報道では、サミットは実質的な進展よりも、上空飛行や写真撮影などの象徴的な華やかさに特徴づけられ、ウィトコフ氏の役割は批評家が偽りの外交の見せ物と見なしたものを強化するものであったことが強調された。評論家たちはさらに、訓練を受けた外交官ではなく不動産会社の重役にそのような責任を委ねたことは、会談を危うくしただけでなく、重要な外交政策交渉で専門知識を疎外する前例を作ったと主張した。

 

トッド氏は、「西洋の敗北」(pp.313-322)で、<「国際問題の専門家」の閉鎖性>を批判しています。

 

英語版ウィキペディア「Steve Witkoff」は、明らかに、「国際問題の専門家」によってかかれています。

 

ウィトコフ氏は、不動産業界の成功者であって、外交の専門家ではありません。国際問題の形式的な儀礼は、完全に無視して、「国際問題の専門家」の批判をうけています。

 

しかし、ウィトコフ氏は、トッド氏の批判する「国際問題の専門家」の村の住民ではないので、トッド氏が問題にする<「国際問題の専門家」の閉鎖性>からは自由な活動をしています。

 

2)ウィトコフ米特使に提示された停戦提案

 

次の節で、CNNの8月15日(アラスカ会談の前)の記事を紹介します。

 

この記事には、翻訳された日本語版と元の英語版があります。解説の文章は日本語版にしかついていません。

 

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プーチン氏が欲するウクライナの重要地域はどこ? 地図で解説 2025/-8/15 CNN

https://news.yahoo.co.jp/articles/2ae09310485f31dcce0c0bb2f936f647b71286fe?page=1

 

Map shows what parts of Ukraine Putin wants

https://edition.cnn.com/2025/08/14/world/video/ukraine-trump-putin-summit-nick-paton-walsh-ldn-digvid

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CNNの記事の紹介は、日本語版の解説の部分です。

 

この部分の日本語には、よくわからないところがあります。

 

先に、一番の問題個所を示します。

 

モスクワでウィトコフ米特使に提示されたと報じられている提案の一つは、停戦と引き換えにウクライナが東部ドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州)を割譲するというものだ。

 

しかし今週、ロシア軍はドブロピリア北東部で大規模な進攻を開始しドネツクでの戦況は急速に悪化した。これにより、ウィトコフ氏がクレムリン(ロシア大統領府)と協議してきた同地域の支配権は揺らいでいる。

 

問題は、「停戦と引き換えにウクライナが東部ドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州)を割譲する提案」です。

 

この文章では、提案者がモスクワのように読めますが、そうすると後半の部分「同地域の支配権は揺らいでいる」と矛盾します。

 

提案者は、ウィトコフ米特使なのでしょうか。

 

CNNは、この「提案は報じられている」といいますが、バックとなる記事がわかりませんでした。

 

そこで、Copilotに聞いてみました。

 

なお、同じ質問をGeminiにしてみましたが、停戦条件の詳細なデータは得られませんでした。

 

Q:2025年8月に、ウィトコフ米特使に提示された停戦提案とは何ですか

 

2025年8月、ロシアのプーチン大統領アメリカのスティーブン・ウィトコフ特使に対し、ウクライナとの停戦に関する包括的な提案を提示しました。この提案は、従来のロシア側の要求から一部譲歩した内容となっており、以下のようなポイントが含まれていました。

停戦提案の主な内容

 

項目

内容

第1段階

ウクライナドネツク州から軍を撤退し、前線を凍結

第2段階

プーチン大統領トランプ大統領が最終的な和平案に合意し、その後ゼレンスキー大統領との合意を目指す

領土要求の変更

従来の「4州+クリミア」から「ドネツク州、ルハンスク州、クリミア」のみをロシアが完全掌握する条件に変更

ヘルソン州ザポリージャ

ロシアはこれらの州に対する主権要求を「凍結」し、停戦条件から除外。ただし放棄はしていない

 

背景と意図

  • 米国の立場トランプ大統領は8月8日を停戦合意の期限と設定し、合意に至らなければ対ロ制裁を強化すると警告。
  • ロシアの狙い経済制裁の回避と、国際的な承認を得た形での領土掌握を目指す。
  • 米露首脳会談の可能性プーチンとトランプの会談がアラスカで行われる可能性が報じられており、和平交渉の次のステップとされている。

 この提案は、ロシアが従来の強硬姿勢から一歩引いた形であり、ウクライナ戦争の出口戦略として注目されています。ただし、ウクライナ側は憲法上の制約から領土譲渡には国民投票が必要であり、実現には多くの課題が残されています。



プーチンの要求はドネツクからのウクライナ軍撤退、ドンバスとクリミアの掌握 2025/08/09 航空万能GF

https://grandfleet.info/war-situation-in-ukraine/putin-demands-the-withdrawal-of-ukrainian-troops-from-donetsk-and-the-seizure-of-control-over-donbas-and-crimea/

 

ウィトコフ米特使、プーチン大統領と3時間会談-ウクライナ協議

Kate Sullivan、Natalia Drozdiak によるストーリー MSN(ブルームバーグ

https://www.msn.com/ja-jp/news/other/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%88%E3%82%B3%E3%83%95%E7%B1%B3%E7%89%B9%E4%BD%BF-%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E3%81%A8%EF%BC%93%E6%99%82%E9%96%93%E4%BC%9A%E8%AB%87-%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E5%8D%94%E8%AD%B0/ar-AA1K1pEI)

 

これを見ると、記事の次の部分は誤りです。

 

しかし今週、ロシア軍はドブロピリア北東部で大規模な進攻を開始しドネツクでの戦況は急速に悪化した。これにより、ウィトコフ氏がクレムリン(ロシア大統領府)と協議してきた同地域の支配権は揺らいでいる。

 

3)CNNの記事

 

CNNの記事は、問題点の整理のお手本のように見えたので、箇条書きに簡略化して紹介します。

 

3-1)現状認識

 

和平合意には、領土面に関する合意が必要となる。ロシアは現在、ウクライナ領の約5分の1を占領している。

 

トランプ氏は停戦合意には「領土の一部交換」が伴う可能性を示唆した。

 

ウクライナは一部領土の譲渡を断固拒否している。

 

ロシアもこの考えを拒否している。(筆者注、意味不明)

 

フランスのマクロン大統領は、ウクライナの領土問題は同国のゼレンスキー大統領抜きに交渉することはできないことを「非常に明確に」述べた。

 

ウィトコフ米特使に提示されたと報じられているロシアの提案は、「停戦と引き換えにウクライナが東部ドンバス地方(ドネツク州とルハンスク州)を割譲する」ことだ。

 

3-2)「交換」はどのようなものになるか

 

ゼレンスキー氏が数万人の民間人と兵士にドネツク州からの自主的な退去を命じれば、政治的ダメージとなるだろう。多くが拒否する可能性もあり、現実的には不可能とみられる。

 

ロシアの譲歩を期待できる妥当な選択肢はほとんどない。ロシアは北部の国境地帯であるスーミとハルキウ近郊を掌握している。プーチン氏はこれらを「緩衝地帯」と呼んでいるが、ウクライナの一部でもあるため、対等な「交換」の対象にはならない。

 

ウィトコフ氏とクレムリンでの会談をめぐる混乱の一部は、プーチン氏が最大限の戦争目標から後退し、ドネツクのみと引き換えに停戦の可能性を認めたのではないかという点だった。

 

ロシアはドネツク州の大部分とルハンスク州のほぼ全域を掌握している。しかし、ヘルソン州ザポリージャ州はそれぞれ3分の2程度しか制圧していない。

 

プーチン氏は一部占領地域4州すべてをロシア領に加えることをこれまでずっと望んできた。

 

プーチン氏は、ウクライナが支配するヘルソン州ザポリージャ州の一部をウクライナ支配下に置くことに同意するだろうか。それはまだ不透明だ。

 

3-3)前線凍結案

 

長年にわたり、欧州とウクライナ、バイデン前政権は、占領されたウクライナ地域に対するロシアの支配を決して承認も容認もしないと宣言してきた。しかし、トランプ政権に変わって以降、ウクライナを支援する欧州各国は、現在の接触線を交渉の出発点とすることを示唆している。

 

CNNの記事は、「現状認識(データの確認)、推論の選択、得られる複数の結果」というパラグラフの論理の形式に従っています。

 

Copilottの説明を読むと、CNNは、ウィトコフ米特使に提示された停戦提案を正確に理解していないように見えます。



ロシアが、アラスカ会談で、「ウィトコフ米特使に提示された停戦提案」よりも、強硬な提案をしていなければ、「ウィトコフ米特使に提示された停戦提案」になるか、前線凍結案になると思われます。トランプ大統領は、前線凍結案を提案したのでしょうか。