トッド氏の思考法(1)

1)推論の問題

 

「因果推論の科学」は、科学的に正しい推論の方法を取り扱っています。

 

大学(University)は、色々な学部、学科から構成されています。

 

各学科は平等であるという建前です。

教授会では、各教授が1票を持っています。

 

学科毎に、研究の方法論(推論の方法)は異なりますが、各学科は平等であるという建前は、各学科の研究の方法論(推論の方法)に、優劣はないという前提です。

 

したがって、学問は、学科単位で、タコ壺化(サイロ化)しても、問題がないことになります。(タコ壺モデル)

 

年功型雇用は、タコ壺を固定化しています。

 

日本のタコ(研究者)の生息域は、タコ壺(年功型組織)しかありません。

 

「因果推論の科学」は、タコ壺モデルを否定しています。

 

「因果推論の科学」は、原因と結果の区別のできない統計モデルの推定には、間違いが多いと主張します。

 

1-1)トッド氏の因果モデル

 

トッド氏の推論は、検証が不足しているタイプの因果モデルに分類できます。

 

原因となるドライビングフォースは、宗教と家族制度です。

 

プロテスタンティズムが、勤勉の価値を持った結果資本主義の市場経済が発展したと考えます。勤勉で、貯蓄することは、神の意志にそった行動になります。

 

資本主義が、プロテスタンティズムの教義に従って、勤勉に働き、消費をおさえ、貯蓄をすることで、投資に可能な資金を調達して、経済を発展させました。

 

王侯貴族は、ピンハネ経済によって、大きな所得を得て、贅沢三昧の消費をしましたが、それでは、経済は発展しませんでした。

 

主流派経済学は、「自由市場が実現すれば経済は最適化される」といいます。

 

しかし、モデルの中にある市場経済は、リアルワールドにはありません。

 

自由市場のモデルは、現実を再現できません。

 

トッド氏に言わせれば、自由市場のモデルには、宗教と家族制度という変数が含まれていないので、リアルワールドを再現できるはずがないことになります。

 

経済学者は少子化対策を、経済の変数で説明しようとします。

 

しかし、トッド氏の主張では、出生数に影響する第1の変数は、宗教であるといいます。

 

子だくさんになれば、経済的には苦しくなります。



しかも、将来のことは、誰にも分かりません。

 

神が多産を支持している場合には、神は子だくさんでもサポートすると約束していることになります。

 

地域社会が同じ宗教を信仰している場合には、地域住民が、子だくさんの家族を支援することは、神の意志に従うことになります。

 

こうしたメンタルモデルの失われた社会では、出生数は減少します。

 

宗教という変数を含まないモデルは、交絡因子を無視しています。

 

リフレ派は、「期待インフレ率」を高めることで、消費や投資を活性化できるといいます。

 

トッド氏は、リフレ派について発言していませんが、リフレ派のテーマは、プロテスタントの教義に反する宗教ゼロの状態です。

 

プロテスタントは、何を消費し、何を貯蓄するかは、神の意志に従うことになります。

 

神は、浪費を推奨しません。

 

リフレ派について、トッド氏の発言がない理由は、リフレ派のテーマは、論外だからであると思われます。

 

また、「因果推論の科学」でみれば、リフレ派は、原因と結果の区別が出来ていないことになります。

 

トッド氏の推論は、因果モデルなので、リフレ派の主張を認めることはないでしょう。

 

トッド氏は、「西洋の敗北」で、ドルが基軸通貨であることで、アメリカには、オランダ病が起きたと主張します。これは、エンジニアがモノを作って稼ぐより、ドルを刷って稼ぐ方が容易なことをいいます。

 

「西洋の敗北」は、主に、アメリカ、イギリス、フランスを対象にしています。

 

しかし、これらの国を日本に置き換えてもあてはまる場合が非常に多くあります。

 

例えば、アメリカのオランダ病の原因は、ドルでしたが、日本にいて、ドルを政府補助金に入れ替えれば、同じ論理構造が成り立ちます。

 

補助金を多く投入した政府のプロジェクトは、悉く失敗しています。

 

技術開発するより、補助金を獲得する方が、簡単に企業利益を増やすことが出来れば、技術開発はおろそかになります。

 

これは、オランダ病です。

 

日本政府の補助金政策は、オランダ病によって、優良企業を次々とソンビ企業に転落させてきたといえます。

 

技術開発の大きな原因のひとつはエンジニアです。エンジニアがいない日本企業は、収益を投資する先を見つけられないので、内部留保がふくれあがっています。

 

シュンペーターをはじめ、経済学者の技術開発の議論は、お金の数字です。そこには、エンジニアという変数がありません。

 

エンジニアの養成には、10年近く時間がかかります。リスキリングでは、生成AIレベルの人材しか養成できません。

 

インテルの業績が悪化しています。かつて、インテルは、盤石の資金をもっていました。しかし、競合する企業が技術開発で先に進んでいるにもかかわらず、技術開発で追いつくことのできるエンジニアがいませんでした。

 

日本の自動車メーカーは、中国のEVメーカーに追いつくでしょうか。

 

ソニーのデジカメが売れています。

 

しかし、ビデオカメラは、中国企業が上位を独占しています。

 

現在の価格com売り上げベスト10には、日本のメーカーの機種は、3種類しか入っていません。

5位 パナソニック HC-VX3

9位 ソニー FDR-AX45A

10位 パナソニック HC-V900-K

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ビデオカメラ

https://kakaku.com/camera/video-camera/?msockid=338104ab96586c45114512e297506d14

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それ以外は、中国製です。1位は、ドローンのメーカーであるDIJで、協力なジンバル(手振れ防止)をもっています。

 

工業用カメラ、監視カメラは、中国企業の独占市場です。

 

日本のカメラメーカーは、静止画を撮影するカメラだけで、生き残っています。

 

今後はどうなるでしょうか。

 

ドッド氏の方法を使えば、エンジニアの人数と能力をみれば、今後がわかることになります。

 

DIJは、独自マウントのドローン用カメラを発売しています。



中国のカメラメーカーは、多くありませんが、レンズメーカーは多くあります。

 

中国のレンズメーカーのレンズの性能は、日本のメーカーと同じ水準にあります。

 

レンズメーカーの間の競争は激しく、劣位のメーカーは、1年程度で性能アップしたレンズを投入して、逆転しています。

 

こうした中国のレンズメーカーは、最近、DIJのマウント用のレンズを販売しています。

 

スノーが指摘したように、エンジニア育成では、教育カリキュラムが圧倒的に効きます。

 

日本語で、中国製造2025に、検索をかけても、教育関係の記述はほとんどありません。

 

広島大学の黄福涛教授が、概要を英文で書いていますが、あまりに総括的です。

 

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New global education power plan sets stage for progress University World News Futao Huang  22 January 2025

https://www.universityworldnews.com/post.php?story=20250122095356554&utm_source=newsletter&utm_medium=email&utm_campaign=COMMNL8019

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「教育強国建設計画綱要(2024-2035年)」については、次の解説記事がありますが、やはり、教育の内容に関する記載が断片的で、よく理解できません。

 

なお、「教育強国建設計画綱要(2024-2035年)」は、2025年に発表されています。

 

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中国:今後10年の教育政策―「教育強国建設計画綱要(2024-2035年

https://qaupdates.niad.ac.jp/2025/03/24/china_education_policy_2024_2035/

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ロイターの記事も、わかりにくいです。

 

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中国、「教育強国」目指す10カ年計画発表=新華社 2025/01/20 ロイター

https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/WZK4VJ26GRJ73I2XM6CUD3UVMA-2025-01-20/

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こうした場合、中国語のWEBを自動翻訳で読むことがよいと思います。

 

次のWEBがわかりやすいです。

 

ただし、この記事は、次のように書かれているので、ここでは、引用はしません。

この記事は「Boge's Real Estate Market」(ID: bgkls2023)のオリジナル記事であり、著作権はBoge's Real Estate Marketに帰属します。無断転載は禁止です。気に入っていただけましたら、ぜひ「いいね!」やシェアをお願いします。ありがとうございます。

 

下記のサイトをGoogle翻訳で読んでいただければ、概要がわかります。

 

これを読めば、日本が没落するのは、当然であることがわかります。

 

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新たな教育改革の波が到来!中央政府は大きな動きを見せており、2025年から6つの大きな改革が予定されています

https://www.163.com/dy/article/JME4Q6PF0535AS5L.html

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それにしても、「教育強国建設計画綱要(2024-2035年)」を読んでいる日本人は少ないです。中国について、わからないことがあれば、いつも参考にしている遠藤誉氏も、この件はスルーしているように見えました。




1-2)因果モデルの構造変化

 

トッド氏の推論の2番目の特徴は、因果構造の変化を問題にしている点にあります。

 

トッド氏は、宗教と家族制度の変化を問題にしています。

 

また、変化の可逆性を検討しています。

 

「エリート主義.VS.ポピュリズム主義(Elitism .vs .Populism)」では、エリート主義から、.ポピュリズム主義への変化は非可逆です。

 

エリート主義に対する信頼は失われて、現実のデータを説明できる仮説は、ポピュリズム主義になりました。

 

トッド氏は、「西洋の敗北」(p.164)で、次のように言います。

多数決原理による代表制が機能していない以上、「民主主義」という言葉は使えない。

 

多数決原理による代表制とは、政治エリートの存在です。日本は、エリート主義が崩壊していますので、もはや、民主主義ではありません。

 

 磯山 友幸氏は次のようにいいます。

人事院は8月7日、2025年度の国家公務員の給与について、行政職で月給を1万5014円引き上げるよう勧告した。率にして3.62%。引き上げが3%を超えるのはバブル期の1991年以来の高率の引き上げである。

 

 勧告では、人事院が「基準」とする民間企業の4月時点の月給水準を調査して決めるのだが、今年はここで姑息な細工を施した。比較対象の民間企業の規模を、従来の「従業員50人以上」から「100人以上」に変えたのだ。中央省庁の職員については、対象を「500人以上」の企業から「1000人以上」に変更した。霞が関の高級官僚の比較にする「大企業」の中から従業員500人以上1000人未満の会社を除けば、日本を代表するような優良企業が比較対象になり、当然、給与は上がる。

 

国家公務員は基本的に降格がないので定年まで給与が増え続ける。また、国の財政赤字がいくら膨らんでも給与やボーナスのカットはない。民間企業なら黒字を出すために頑張って働くというインセンティブが機能するが、国家公務員はいくら財政赤字が膨らんでも自身の給与には関係がない。予算を大盤振る舞いして、赤字になっても関係ないのだ。逆に、財政赤字を減らそうと予算執行を厳格化して支出を減らしても何ら評価されることはない。予算を十分に執行できなかったと批判されることはあっても、褒められないのだ。つまり、財政再建に向けたインセンティブがないのである。

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財務省解体デモ」などどこ吹く風か…「民間並み」を建前に公務員給与を引き上げる霞が関に必要な"本当の改革" 2025/08/13 PRESIDENT 磯山 友幸

https://news.yahoo.co.jp/articles/c3888a0c0822ef3b9e38d13e8844ec63cd96a3a9?page=1

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城本 勝氏は、次のようにいいます。

ポピュリズムだ、排外主義だといくらマスコミが批判しても、失われた30年の経済停滞で厳しい生活を強いられてきた就職氷河期世代などの現状への不満が既成政党、なかでも長く政権を担ってきた自民・公明に向けられ、その一部が国民民主や参政党、保守党に支持を移したことは間違いない。

与野党ともに、参院選の結果を見つめ直し、マグマのように動き始めたポピュリズムの台頭が意味するところを考える必要がある。

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高市首相」になっても何も変わらないのに…裏金議員が「石破やめろ」と攻め立てる"自民党の厚顔体質" 2025/07/30 PRESIDENT 城本 勝

https://president.jp/articles/-/99180?cx_referrertype=yahoo&yhref=20250813-00100007-president-pol

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これらの記事は、エリート主義が終わって、ポピュリズム主義になったこと、民主主義が終わったことを示しています。

 

次回は、トッド氏のポストデモクラシーについて考えます。