日本のコメの未来

1)政府の政策転換

 

政府は、減反政策をやめて、増産をする計画です。

 

この計画はうまくいくのか考えます。

 

推論のポイントは、以下です。

 

<1>問い(政策の目的)は、何か

<2>トッド氏流に考えれば、生産の条件を検討すべきです。

<3>推論の方法の間違いを継続していないか。

 

これには、以下のような要素が含まれます。

<3-1>データがあるか。データに基づいているか。

<3-2>変数の分布を考えているか。

<3-3>トレンドではなく、構造変化を考慮しているか。

<3-4>政策にフィードバックループ(軌道修正)が含まれているか。

 

まだ、見落としがあるかも知れません。

 

推論をする前に、妥当な推論に必要な条件を点検すれは、推論の間違いを回避できることがあります。

 

さて、これらを、取りこぼしないように推論することは容易ではありません。

 

今回は、一部だけを使った事例を示します。

 

2)問い

 

戦後に食料不足があったので、増産が至上命題(問い)でした。

 

その後、過剰生産になります。

 

減反政策の始まりです。

 

減反政策の目的(問い)は、なんでしょうか。

 

減反政策では、今までの増産(問い)がなくなります。

 

減反政策の前には、過剰米の在庫と大きな財政負担が生じていました。

 

想定される問いは以下です。

 

第1に、財政負担を減らすことが求められました。

 

第2に、農民票を得るために、米作が確実に黒字になる価格を保障する必要がありました。

 

価格が固定されていますので、過剰生産は、財政負担増になります。このために、減反が始まりました。

 

つまり、第1の問いは、「農家に米作が確実に黒字になる価格を保障すること」であり、第2の問いは、「過剰生産による財政負担を最小にすること」です。

 

この方式は、コメの価格を高く維持することで成り立ちます。

 

しかし、コメ以外の食糧には、輸入関税がほとんどかかっていません。

 

このため、小麦の輸入が拡大して、コメの消費が減少します。

 

コメの消費が減れば、価格を維持して生産できるコメの量は減ってしまいます。

 

つまり、減反政策は、短期的にしか、持続可能ではありません。

 

また、トッド氏流にいえば、減反政策には、生産者が考慮されていないと言えます。

 

コメつくりの主流が、兼業であり、時間と技術があまり必要でない場合には、生産量の調整は容易です。

 

生産量の減少は、兼業農家の兼業の減少であり、労働時間の減少であって、失業に結びつかない場合には、減反の強化は、容易に受け入れられます。

 

ただし、米価がよほど高くないと、回転率の悪い農業機械の減価償却が難しくなります。

 

輸入する小麦は、規模拡大によって価格が下がっていきますので、米価を高止まりに設定することができなくなります。

 

3)転換点

 

 生産年齢人口(15から64歳)は、1995年の 約8,700万人をピークに減少しています。

2010年以降、家電製品の価格競争力がなくなり、工場が海外に移転していきます。

 

これは、兼業農家が減少することを意味します。

 

2013年11月26日、政府は減反政策を5年後の2018年に廃止することを決めました。 



価格政策をやめれば、赤字で生産ができない水田が増えます。つまり、生産量は減少します。

 

市場均衡モデルでは、ここで供給不足が起きれば、価格が上昇して、生産量が復活することになります。

 

しかし、供給不足になったときに、小麦等の代替材に、消費が移転すれば、価格上昇は少なく、生産量は回復しません。

 

そもそも、次の年のコメの消費量は、次の年の輸入小麦の価格の影響を受けますので、計画経済で、需要量を設定することは不可能です。

 

また、一旦、耕作を中止した水田を再度耕作可能にするには、追加初期投資が必要になります。コメの価格が、将来も継続して価格になるという予測が可能でなければ、耕作を中止した水田が元に戻ることはありません。

 

また、水田農業以外に、より所得の多い働き口があれば、水田農業をするより、他の働き口を取ります。

 

要するに、減反政策による需給調整は、机上の空論です。

 

コメは、野菜とは違って、保存が効きます。つまり、需給のズレが、数か月の消費程度におさまっていれば、それは、新米の販売時期のズレで調整が可能です。



図表1 コメの価格の推移



 

図表1は、コメの価格の推移を示しています。

 

実は、2019年以前の公開データはありません。

 

左軸が、円ドルレートです。

 

右軸が、5㎏の全国平均のコメの価格です。

 

2024年は、9月までの価格データを使っています。

 

この2つのデータから、5㎏のコメのドル価格を計算しました。

 

見やすくするために10倍して、1ドルが、左軸の10目盛になるよう調整しています。

 

ドルでみれば、コメの価格があがったのではなく、5kg20ドルの価格が15ドルまで下がり、その後20ドルに戻ったことになります。

 

これから、1ドルが150円より、円高にならなければ、コメの価格が3000円を切ることはないと思われます。

 

4)構造変化

 

ここまでの分析では、筆者は、生産量推定に、帰納法を使っていません。

 

帰納法をつかった推論の例には、稲垣公雄氏のレポートがあります。

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コメ農家はみんな赤字なの? 2023/07/10 三菱総研 稲垣公雄

https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20230710.html

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稲垣氏は、計算上は赤字になる小規模農家がなぜコメを作ってきたかを考察しています。この推論は、「農家は黒字であればコメを作る」を前提にしています。

 

しかし、この前提は、成り立たない場合があります。

 

次のような場合には、この前提は成り立ちません。

 

<1>より収益(所得)のよい働き口がある。

<2>過疎化によって、道路などの集落の社会基盤が維持できなくなる。

<3>農業労働者がいなくなる。

 

これらの要因は、産業の構造基盤が変化する場合を指します。

 

政府は、米作りの規模拡大を測ってきましたが、水田を借り入れても、水田の所在地が分散して、規模拡大の制約になる例が多くあります。

 

また、規模拡大をすることは、集約化が困難な小さな水田を放棄することにつながります。

 

クロスチェックができていないデータもあります。

 

データ上は、耕作放棄に分類されていない水田で、コメを作っていない場合もあります。

 

政府のデータには、品質保証がありません。

 

集めたデータに対して、検証用のサンプルフィールドを設定して、クロスチェックをかけ、精度を確認しないデータには、大量のエラーが含まれます。

 

自動車学校を卒業すると、免許の取得に対する実地試験が免除されます。

 

自動車学校の教育のレベルを確認するために、免許の受験生から、サンプルをとって、点検が行われます。

 

コメのデータには、こうしたチェックプロセスがありません。

 

さて、コメ農家は、小規模の兼業中心の農家と大規模の専業農家に分かれます。

 

ここでは、販売農家だけを扱います。

 

農家の全てがコメ農家ではありませんが、戸数では、コメ農家の割合が高くなっています。

 

そこで、専業農家は、15トンのコメ生産能力があり、兼業農家は、1.5トンのコメの生産能力があると仮定すると、全ての農家がコメ農家であった場合のコメの生産ポテンシャルが計算できます。

 

この計算は、とても乱暴ですが、構造変化を考えることが目的です。



図表2 コメの生産ポテンシャル





図表2は、こうして計算したコメの生産ポテンシャルです。

 

農家戸数の単位は、万戸です。

 

生産量は万トンです。

 

2024年は、2025年の代用です。

 

2030年は、トレンド推定値を入れてあります。

 

2025年8月5日に閣僚会議で農林水産省が示した資料によると、2024年産の主食用米の需要量は711万トン、生産量が679万トンで、需要に対して生産が32万トン不足するなど最大で44万トン程度不足していました。

 

これから、需要量は、711万トンであることがわかります。

 

2024年のポテンシャルは、650万トンです。

 

政府の推定生産量679万トンより小さいですが、推定はとてもアバウトなので、ほぼ、等しいことがわかります。

 

つまり、減反が問題でなく、そもそもコメの生産ポテンシャルが下がっていることが問題である可能性があります。

 

図表2の2030年のポテンシャルは、415万トンです。

 

つまり、2030年には、減反の問題ではなく、農家戸数が減少して、コメの絶対量を作ることが難しくなります。

 

政府は、コメを増産して輸出するといいますが、高価なコメを輸出した場合には、足りない分を安価なコメで輸入する必要があります。

 

2030年には、コメを輸入するか、外国人労働者に依存するかの2択になると思われます。

 

自給率の問題は、議論の対象外になるはずです。

 

また、貿易黒字がなくなっているので、2030年には、そもそも、コメを輸入できない可能性もあります。

 

今回の考察では無視をした外国人労働者の問題は、トッド氏の「西洋の敗北」の重要なテーマなので、別途考えます。