1)なせ、経済政策は失敗するか
1990年代以降の経済政策は全て失敗しています。
その原因を考えます。
2)言語の問題
前回の「西洋の敗北」の分析でみたように、経済学が、「育成されて能力を身につけた男女の集合体」を表す言語をもたないことが原因の1つになります。
この言語の問題は根が深いです。
野口悠紀雄氏は、次のようにいいます。
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日本円は、この数年間で急激に価値が低下した。2021年秋頃までは1ドル=105〜110円の間で推移していたのだが、2022年3月頃から急速に減価し、2022年10月には150円に近づいた。その後円高になったが、再び円安になった。
円安は、日本に深刻な問題をもたらした。輸入物価の高騰により、国内物価が高騰した。日本人の購買力が著しく減少し、海外の高価なものを買えなくなった。そして、外国からの労働者が日本に来ない、日本人が留学できない、などの問題が発生した。日本は急速に貧しくなった。
一体なぜ、このようなことが起きたのか?その原因は何か?ここから抜け出すにはどうすればよいのか?
日本が金利を上げれば問題が解決するということには直ちにならない理由として、「金利を引き上げると、さまざまな問題が発生する」ということがある。
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日本を低成長に陥れ、企業をぬるま湯につけた主犯は誰か? 2025/04/25 Diamond 野口悠紀雄
https://diamond.jp/articles/-/362670
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ここでの問いは、「一体なぜ、超円安が起きたのか?超円安の原因は何か?超円安から抜け出すにはどうすればよいのか?」です。
野口悠紀雄氏は、「金融緩和政策が大失敗」であり、超円安の原因であるといいます。
野口悠紀雄氏の推論は、経済学の言語の範疇に止まっています。
しかし、大規模金融緩和のプロセスを思い出して下さい。問題は、経済学ではありません。
当時の白川日銀総裁は、大規模金融緩和に反対でした。
これに足して、当時の安倍首相は、日銀法の改正をちらつかせたといいます。
つまり、安倍首相が、日銀法の改正をちらつかせたり、黒田総裁の人事をしなけば、大規模記入緩和はなかったと思われます。
この推論は、原因と思われる要素を探す、アブダクションです。
また、「日銀法の改正をちらつかせたり、黒田総裁の人事をしなけば」は、反事実になります。
法律の改正は、法の支配の問題です。
法の支配とは、WASP時代のアメリカであれば、プロテスタントの神の指示を反映する活動になります。法の支配とは神の声を聴いて、法律を改正する行為です。法の改正の背後には、神の声がある前提になっています。宗教の存在を前提としない場合には、人権と憲法を守ることが法の支配になります。
大規模金融緩和を実現するために、日銀法を改正することは、法の支配を逸脱しています。
トランプ大統領はFRBに利下げを求めています。しかし、これは、法の支配の問題です。
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アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、今週、7月29日から金融政策を決める会合を開きます。トランプ大統領はFRBに利下げを求めていますが、アメリカでは関税措置による影響が物価の上昇という形でじわじわと広がっているとの懸念も出ていて、FRBがインフレの再加速などを警戒し、政策金利を据え置くという見方が強まっています。
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米FRB 29日から金融政策決定会合 利下げ見送りとの見方強まる 2025/07/28 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250728/k10014876321000.html
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トランプ大統領は、行政のトップですが、立法権と司法権を持っていません。
戦争などの緊急事態を除けば、大統領に三権分立を超える権限はありません。
トランプ大統領の政策が正しいか、間違っているかは、度外視しても、アメリカでは、法の支配をめぐって、せめぎあいが起きています。
日本では、政治決断の名のもとに、法の支配が破壊されてきました。
つまり、「一体なぜ、超円安が起きたのか?超円安の原因は何か?超円安から抜け出すにはどうすればよいのか?」に対する回答は、アブダクションで考えれば、法の支配の回復になります。
ただし、このような思考法は、経済学のメンタルモデルからは、生まれません。
「法の支配」という言葉なしに、問題を解決できるとは思えません。
日銀法の改正はできます。
しかし、三権分立では、法改正は、国会のマターであり、内閣のマターではありません。
また、法の支配を確立するためには、法改正は、憲法と人勧に沿ったものでなければなりません。
3)迷路のパメンタルモデル
「一体なぜ、超円安が起きたのか?超円安の原因は何か?超円安から抜け出すにはどうすればよいのか?」に対する回答を考える一つの方法は、アブダクションでした。
もう一つの方法に、迷路のパラダイムがあります。
迷路に迷った場合には、先に進んではいけません。
もとに戻って、間違えた地点を探すことが必要です。
これは、ホイッグ史観に対する批判にもなります。
例えば、「日本経済衰退の原因は、IT革命に対応できなかったこと」と分析することができます。
これは迷路のメンタツモデルで考えれば、「IT革命に対応する道」と「IT革命に対応できない道」があり、どこかで、分岐を間違えたことになります。
現在、日本経済が現在ある小道は、「IT革命に対応できない道」であることがわかっても、そのことから、「IT革命に対応する道」にシフトする方法が見つかるわけではありません。
分岐で間違えた判断をした原因があるはずです。
分岐点まで戻って、どこで、判断間違いをしたかを点検すべきです。
迷路のメンタルモデルをつかえば、このような推論が可能になります。
迷路のメンタルモデルは、因果推論の反事実に対応しています。
問題を解決するためには、反事実(「IT革命に対応する道」)を選択すべきでした。
しかし、何らかの原因があって、事実(「IT革命に対応できない道」)が、選択されています。
問題を見つけることと、問題を解決することは、まったく、異なる問いです。
4)オランダ病
野口悠紀雄氏は、日本経済が低成長に陥った原因を次のようにいいます。
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金融緩和政策が日本企業をぬるま湯につけてしまったために、企業が生産性を引き上げる努力をせず、その結果、生産性の高い投資ができなくなった可能性がある。
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野口悠紀雄氏の説明は、オランダ病のように見えます。
経済学において、オランダ病とは、特定のセクター(例えば天然資源)の経済発展の増加と、他のセクター(製造業や農業など)の衰退との間に見られる因果関係を指します。
オランダ病のモデルは、2セクターモデルです。
企業の中に、補助金を獲得するセクターと技術開発をするセクターがあったとします。
政治献金の見返りとして、補助金をえたり、円安にすれば、補助金を獲得するセクターを中心に、企業の業績はあがります。
オランダ病のモデルでは、補助金を獲得するセクターの利益の増加と技術開発をするセクターの衰退との間には、因果関係があります。
つまり、円安によって日本企業の業績が空前の数字を叩き出していることは、日本企業の技術開発をするセクターが、壊滅的に破壊されていることを示唆しています。オランダ病のモデルが当てはまる場合には、こうなります。
野口悠紀雄氏は、「金融緩和政策が日本企業をぬるま湯につけてしまった。企業が生産性を引き上げる努力をせず、その結果、生産性の高い投資ができなくなった可能性がある」といいますが、オランダ病であれば、副作用はすさまじいものがあります。
「企業が生産性を引き上げる努力をせず」は、技術革新を怠ったという意味ですが、オランダ病モデルが当てはまれば、技術は買いが進んでいるはずです。
英語版「ウィキペディア」には、オランダ病の例として、ナウルの事例が載っています。
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ナウルはリン鉱石採掘への依存度が高く、税金の不足と多額の政府支出が相まって、埋蔵量の枯渇後に問題を引き起こしました。同国は2000年に破産寸前となり、2004年には失業率が90%に上昇しました。ナウルはかつて世界で最も裕福な国(一人当たりGDP)でしたが、その後117位にまで順位を落としました(世界銀行、2022年)。
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日本の円安は、ナウルのリン鉱石のようなものです。円安は、家計から企業への所得移転を生み出します。家計は、既に、破綻寸前です。少子化は止まりません。
つまり、リン鉱石と同じように、円安の麻薬が切れる時がきます。しかし、オランダ病によって、日本企業の技術開発をするセクターは壊滅的に破壊されています。
ナウルと同様に、日本が、破産寸前となり、失業率が90%に上昇し、一人当たりGDPで世界の最下位レベルになるシナリオも考えられます。
筆者には、日本の企業が、円高になったときに、生き残る戦略を持っているとはとても思えません。トランプ関税は、円高と同じ効果があります。1ドル70円でも輸出ができる企業であれば、トランプ関税は問題になりません。
1985年のプラザ合意の時には、円高が日本経済にダメージを与えるという予測がありました。しかし、円高でも、輸出が続けられた原因には、圧倒的な高品質があったと思われます。しかし、現在では、日本製品が突出して高品質ではありません。
5)経済成長に必要な条件
英語版「ウィキペディア」の「経済成長」には、次のように書かれています。
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人的資本
経済成長に関する多くの理論的・実証的分析は、人口または労働力のスキルとして定義される、国の人的資本の水準が重要な役割を果たすとしている。人的資本は、新古典派成長モデルと内生的成長モデルの両方に組み込まれている。
人的資本は家庭、学校、職場で形成されるため、その水準を測定することは困難である。経済学者はこれまで、人口の識字率、計算能力、一人当たりの書籍生産量、学校教育の平均水準、国際テストの平均点、学校教育への累積減価償却投資など、さまざまな代理指標を用いて人的資本を測定しようとしてきた。人的資本の最も一般的に用いられる尺度は、ロバート・バロとリー・ジョンファのデータ開発に基づいた、一国の就学水準(平均年数)である 。バロとリーは長期間にわたり5年ごとに多くの国に関するデータを提供しているため、この尺度は広く用いられている。
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「IT革命に対応する道」を人的資本で考えれば、「IT革命に対応できる人材」のサイズが、経済成長の制約要因になります。
「IT革命に対応できる人材」がいなければ、金融緩和をしても、経済成長することはありません。
因果推論で考えれば、「IT革命に対応できる人材」は、金融緩和で、経済が成長するというモデルに対する交絡因子になります。
これは、たまたま、見つかった交絡因子ではありません。
「ウィキペディア」に、載っているように、多くの経済学者の合意になっています。
トッド氏は、人的資本のレベルが、識字率から、エンジニア率にシフトしたと考えています。
このシフトは、メリトクラシーに対応しています。
人的資本の評価は、調査によって大きく変動します。
政府は、人数を問題にしますが、生産性は、能力レベルX人数になります。
次回は、トッド氏のモデルを考えます。