1)オランダ病の定義
日本語版「ウィキペディア」の「オランダ病」を引用します。
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オランダ病(オランダびょう、英: Dutch disease)またはオランダの罠とは、天然資源の輸出により製造業が衰退し失業率が高まる現象を表す経済用語の一つ。
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英語版「ウィキペディア」の「オランダ病」を引用します。
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経済学において、オランダ病とは、特定のセクター(例えば天然資源)の経済発展の増加と、他のセクター(製造業や農業など)の衰退との間に見られる因果関係を指します。
この用語は、1959年のフローニンゲン天然ガス田の発見後のオランダにおける製造業の衰退を説明するために、1977年にエコノミスト誌によって造られました。
想定されるメカニズムは、成長セクターの収益(または外国援助の流入)が増加する一方で、当該国の通貨が外国通貨に対して強くなる(「増価」する)(為替レートに反映される)というものです。その結果、その国の他の輸出品は他国にとって高価になり、輸入品は安価になり、結果としてこれらのセクターの競争力が低下します。
この用語は主に天然資源の発見を指しますが、「天然資源価格の高騰、外国援助、外国直接投資など、多額の外貨流入をもたらすあらゆる発展」を指す場合もあります。
オランダ病を説明する古典的な経済モデルは、経済学者W・マックス・コーデンとJ・ピーター・ニアリーによって1982年に開発されました。このモデルでは、非貿易部門(サービス業を含む)と2つの貿易部門(好況部門と低迷部門(非好況部門))が存在します。好況部門は通常、石油、天然ガス、金、銅、ダイヤモンド、ボーキサイトなどの天然資源の採掘、またはコーヒーやココアなどの農作物の生産です。低迷部門は通常、製造業または農業です。
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英語版「ウィキペディア」の説明では、「オランダ病を説明する古典的な経済モデル」に当てはまる現象は、全て、オランダ病になります。
日本語版の説明は、数学の言語(オランダ病を説明する古典的な経済モデル)がなく、この点を無視しています。
日本語版の説明は、資源の呪い(Resource curse)になっています。
2)オランダ病のメカニズム
英語版「ウィキペディア」は、次のような説明をしています。
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想定されるメカニズムは、成長セクターの収益(または外国援助の流入)が増加する一方で、当該国の通貨が外国通貨に対して強くなる(「増価」する)(為替レートに反映される)というものです。その結果、その国の他の輸出品は他国にとって高価になり、輸入品は安価になり、結果としてこれらのセクターの競争力が低下します。
例
アナリストたちは、1986年の「ビッグバン」以降、イギリスが金融セクターへの依存度を高めたことが製造業の成長を阻害したと主張している。
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トランプ大統領は、アメリカの製造業の衰退を問題にしています。
例では、「イギリスが金融セクターへの依存度を高めたことが」オランダ病を引き起し「製造業の成長を阻害した」と述べられています。
アメリカの場合には、イギリスに付け加え、ドルの優位性がありますので、成長セクターの収益と非成長セクターの収益の差がさらに大きくなります。したがって、オランダ病によって、イギリス以上に、製造業の成長を阻害したと考えられます。
トッド氏は、「西洋の敗北」で、アメリカの製造業の衰退は、新自由主義にあるといいます。そして、新自由主義の拡大は、プロテスタントの宗教のゾンビ化にあると主張します。
しかし、オランダ病の理論を使えば、同じ現象を説明することができます。
理論は、現象のモデル化(単純化)なので、同じ現象を説明できる複数のモデルがつくれます。
オランダ病の理論では、成長セクターの収と非成長セクターの差が問題になります。
1980年以降、成長セクターの収益(または外国援助の流入)が増加しています。
成長セクターのGAFAMの収益はおどろくほど増加しています。オランダ病の理論によれば、このことが、製造業の衰退につながります。
アメリカの株式で評価する企業価値の多くが、GAFAMに属しています。オランダ病の理論によれば、このことが、製造業の衰退につながります。
トランプ大統領は、GAFAMを温存しながら、製造業を復活させようとしています。
しかし、オランダ病の理論からすれば、この政策には、矛盾があります。
3)オランダ病の評価
トッド氏は、アメリカの1980年頃からの新自由主義のプロセスを平均寿命の伸びの低下のデータをもとに、政策の失敗であると断じています。
1980年頃にレーガン大統領が新自由主義政策を始めるまで、アメリカは、スタグフレーションに悩まされてきました。このとき、インフレはとまらず、経済は成長しません。
新自由主義政策になって、インフレがとまり、GDPが成長しました。
このため、経済学者の多くは、新自由主義政策(オランダ病政策)は、成功した経済政策であると考えます。
野口悠紀雄氏は「20世紀型グローバリゼーションの主役であった製造業中心に産業構造を温存させたままでは、日本の復活はあり得ない」と断言します。
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21世紀型グローバリゼーションへの対応 野口悠紀雄さん 2008/02/28 夕学
https://www.keiomcc.com/magazine/21_2/
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野口悠紀雄氏は、シュンペーターの創造的破壊を述べただけかも知れませんが、筆者には、この発言は、オランダ病政策のすすめに聞こえます。
野口悠紀雄氏にかぎらず、経済学者は、レーガノミクスとサッチャー改革は、成功した経済政策であると考えます。
これは、経済政策を評価する問いが、「スタグフレ―ションを止めるには、どうしたらよいか」であるためです。
トッド氏の問いは、「平均寿命をさげない政策は、何か」です。この問いを基準にすれば、レーガノミクスとサッチャー改革は失敗した政策になります。
この問題は、問いを設定しないと、議論ができないことを示しています。
問いが異なれば、同じ政策の評価が、180度変わってしまいます。
問いを設定して議論する方法が、パラグラフの論理になります。
4)分割
単純な貿易モデルは、国が比較優位を持つ産業に特化すべきであることを示唆しています。つまり、天然資源が豊富な国は、それらの天然資源の採掘に特化することで利益を得られるということです。
単純な貿易モデルでは、国が比較優位を持つ1つの産業を取り上げます。
オランダ病のモデルでは、成長セクターと非成長セクターの2つの産業を考えます。
このように、分割することで、異なった結論が得られることがあります。
コンピュータが使える以前の地球物理学では、地球を1つのかたまりとして考えていまました。このモデルでも熱収支を計算すれば、温室効果は求まります。
しかし、GCMでは、干ばつと洪水のような極端な現象が発生することが予測できます。
1BOXモデルでは、このような予測は不可能です。
コンピュータサイエンスで、コーディングする場合には、2つのセクターは、ベクトルになります。2つのセクターは、sector(1)、sector(2)とかけます。
これは、(secton(n)、n=1,2)とかけます。
セクター数を増やすためには、2を書き換えればよいだけです。
つまり、2セクターでも、10セクターでも同じコードが使えます。
なので、セクター数を2つに限定する必要はありません。
トッド氏の分析は、人口を、超富裕層、富裕層、それ以外の3つのセクターに分けています。
この3つにわけることで、経済学の分析ではみえない点が表現できています。
これは、パール流に言えば、表現は、データ取得に優先することに対応します。
103万円の壁では、連続関数ではなく、テーブル関数で議論がなされています。
しかし、無税世帯をどこで線を引くかという問いを考えるためには、連続関数を使うべきです。テーブル関数は微分ができないので、取り扱いが不便です。
交通機関の料金も、小銭を使わなくなったので、最小は1円単位になっています。
税制もテーブル関数をつかうメリットはありません。
結局、パール流に言えば、テーブル関数という表現に、議論が振り回されています。
竹中平蔵氏は、次のように説明しています。(筆者要約)
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所得税を払っている人は4,000万人で、残りの8,000万人は所得税を払っていません。
4,000万人のうち、所得税率が10%以下の人は、80%(3200万人)です。
つまり、所得税を考えるときに、所得税率が10%以上の800万人、所得税率が10%未満の3200万人、所得税率が0%の8000万人の3つのセクターに分かれます。
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“減税は無意味”竹中平蔵氏があっさり断言するワケ「低所得者はそもそも税金を払っていない」2025/07/25 MINKABU
https://news.yahoo.co.jp/articles/aa8471853feda9600337004dc0d4fe2993388a9a?page=1
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別の説明では、日本では所得税納税者の上位20%(2400万人)が全体の税収の約80%を担っているといいます。
ただし、これは、税金の話で、社会保険料は、所得税を払っている人は4,000万人に、広く負担されています。
つまり、仮に、所得税率が10%以上の800万人、所得税率が10%未満の3200万人、所得税率が0%の8000万人の3つのセクターモデルを考える場合でも、所得税だけでなく、社会保険料、住民税、消費税を並べた、マトリックスデータモデルを考える必要があります。
103万円の議論は、数的言語を使わないので、こうした問題が、推論ができません。
GCMと同じように、1BOXモデルでは、格差が論じられません。
103万円の壁は、問題の一部にすぎません。
憲法では、人権に基づいて、失敗した人にもチャンスが与えられます。
所得の再配分は、このチャンスを確保するためのセーフティーネットになります。
再配分関数はどうあるべきかという法の支配の議論が最初にないと、議論は空回りします。
政府は、年金についてモデル世帯の平均を説明しますが、この表現では、年金の少ない人の問題を考えることができません。