1)ドローンの補足
筆者は、「日米関税交渉で合意、相互関税15%(2)」で、次のように書きました。
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既に、戦闘機は、価値がなくなりました。
ウクライナの戦争では、毎月のように新型のドローンが投入されています。月単位で、新型のドローンを開発できる技術力が最大の武器です。防衛予算の金額には、意味がありません。
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この主張のバックになる記事の一部を引用します。
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無人機(ドローン)製造を手がけるスタートアップの米ネロスを率いるソレン・モンロー・アンダーソン最高経営責任者(CEO)は、「買い手が現れてから生産を始めていては間に合わない。難しいのはサプライチェーンの確保だ」と述べた。
民間主導による一連の取り組みは、米国の国家安全保障における喫緊の課題を解消する可能性を秘める。つまり、中国に比べて著しく遅い兵器製造スピードの改善だ。現代の戦争では、自律型ドローンや艦艇、各種ハードウエアをいかに迅速に大量生産できるかが戦局を左右する。米国はこの点で不利な立場にあり、製造体制の抜本的な強化が求められている。
こうした課題に対して、VCやスタートアップ企業の間では強い危機感が広がっており、アンドリーセン・ホロウィッツのアドバイザーであるマット・クローニン氏は、米国の国家安全保障にとって「存亡の危機」だと警鐘を鳴らす。
しかし、防衛関連のインフラ整備はベンチャー投資家にとって大きな賭けでもある。巨額の資金を投じて生産体制を拡張しても、契約が必ず実現するとは限らないからだ。
防衛予算の大半が向かう先は、依然として伝統的な大手請負企業に集中している。具体的には、ロッキード・マーチン、RTX、ボーイング、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクスの5社だ。これらの企業は「ビッグファイブ」と呼ばれ、何十年にもわたり米国の防衛産業を支えてきた存在であり、政界との結びつきも極めて強い。
ワシントンやシリコンバレーの関係者からは、こうした老舗企業は「官僚的な階層構造に縛られ、技術革新のスピードが遅すぎる」との批判も根強い。対照的に、スタートアップは機動的な組織体制や最新鋭の技術力を強みとするが、実績に乏しい場合が多く、信頼性を最重視する政府の調達制度においては依然として高い参入障壁に直面している。
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シリコンバレーが切り拓く軍需新時代、立ちはだかるのは官の壁 2025/07/26 Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-25/SZYNB1GPQQ6G00?srnd=cojp-v2
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学術会議など伝統的なアカデミズムは「科学技術の軍事転用の禁止]を主張しています。現在、中国とアメリカで起こっていることは、この主張の裏返しです。
「科学技術の軍事転用の禁止}の議論には、日本は、侵略され、占領されないという前提があります。アメリカの圧倒的な軍事力の傘は消滅し,、この前提は成り立ちません。
筆者は、「科学技術の軍事転用の禁止}の主張に対しては、中立ですが、前提の変化の確認作業が必要です。特に、効果の乏しい戦闘機の整備に莫大な税金を投入すれば、経済成長が止まる点を考慮する必要があります。
Bloombergの記事は、「中国に比べて著しく遅いアメリカの兵器製造スピードの改善」が可能であるという前提で書かれています。
トッド氏は、「西洋の敗北」のなかで、「中国に比べて著しく遅いアメリカの兵器製造スピードの改善」は不可能であると考えています。
筆者は、この違いは、「AIを使ったロボット工場の実現可能性」を考慮に入れるか、否かにあると考えます。
トッド氏は、「AIを使ったロボット工場の実現可能性」を考えていません。
Bloombergの記事は、「AIを使ったロボット工場の実現可能性」は大きいと考えています。
S&P500が最高値を更新しました。アメリカの株価は、「AIを使ったロボット工場の実現可能性」を評価しなければ、既に割高です。「AIを使ったロボット工場の実現可能性」を評価すれば、まだ、伸びしろがあることになります。
トランプ政権の支持層は、アメリカの自動車メーカーなどの賃金が下がった労働者層です。
「AIを使ったロボット工場」を実現しても、この労働者層の賃上げには結びつきません。
つまり、トランプ大統領の支持層にとって、「AIを使ったロボット工場」を使ったドローンの開発は、受け入れられない選択肢になります。
その結果、トランプ大統領は、役に立たない戦闘機のセールスマンになっています。
.イラン攻撃で注目された「B-2ステルス機」のコストパフォーマンスにも、疑問符がついています。
防衛研究所の相田守輝氏は、次のようにいいます。
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B-2 は 1999 年のコソボ紛争や 2003 年のイラク戦争でも実戦に投入されたが23、F-35
や無人機、極超音速兵器といった新技術の台頭により、近年は戦略兵器としての存在感が薄れていました。
B-2 による空爆そのものが航空作戦の歴史において極めて意義が大きかった。
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B-2 ステルス爆撃機によるイラン空爆 NDISコメンタリー 2027/07/01 相田守輝
https://www.nids.mod.go.jp/publication/commentary/pdf/commentary384.pdf
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つまり、相田守輝氏は、B-2 ステルス爆撃機の戦略上の効果が認められたと考えています。
B-2の開発は、1978年から開始され、1989年7月に、初飛行しました。開発当初は132機の製造が予定されていましたが、製造費と維持費があまりに高額であることから結局生産されたのは試作機を含め21機のみです。
B-2は1機20億ドル以上(1ドル150円として約3,000億円)という高価な航空機で、世界一高価な飛行機としてギネスブックにも登録されています。
つまり、設計から、半世紀が経過しています。
1977年に、Apple IIが発売されています。
1977年のPCの性能は、汎用計算機にまったくかないませんでした。
2025年のスマホの性能は、1977年の汎用計算機とスーパーコンピュータの性能の化石にしています。
トランプ氏の戦闘機セールスと防衛庁の戦闘機整備経過は対応していますが、技術進歩を無視しています。
2)5500億ドルの議論
「5500億ドルの議論」を考えます。
ここでの検討のポイントは、2つです。
第1は、議論の前提の点検です。
第2は、推論の見落としです。
パールは、「因果推論の科学」で、言語(メンタルモデル)がなければ、考えることができないといいます。
トランプ大統領は、経済学のメンタルモデルでは、理解不可能です。
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トランプ米大統領は25日、自分が弱いドルを支持することは絶対にないと述べつつ、特に製造業におけるドル安の経済的利点を挙げ、為替政策に関して相反するメッセージを送った。
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トランプ氏、「ドル高だと何も売れない」-自身は強いドル派と主張 2025/07/26 Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-25/SZYMB3GPFHNI00?srnd=cojp-v2
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また、最近のトランプ大統領の関心は、経済以外に偏っています。
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ドナルド・トランプ米大統領(共和党)は22日、バラク・オバマ元政権(民主党)の当局者が2016年大統領選へのロシアの介入に関する情報を操作したとされる報告書をめぐり、オバマ元大統領を国家反逆罪で告発した。
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トランプ氏、オバマ氏を国家反逆罪で告発 2025/07/22 AFP
https://news.yahoo.co.jp/articles/ac626f9836493719b8a1f54d3a317a8b1e7d269e
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ボンディ米司法長官が今年5月、ジェフリー・エプスタイン元被告の事件に関する文書の精査結果をトランプ大統領に伝えた際、資料の中にトランプ氏の名前が記載されていると報告していたことが分かった。
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エプスタイン元被告に関する資料にトランプ氏の名前、司法長官が本人に報告 2025/07/24 CNN
https://news.yahoo.co.jp/articles/00007e8eed79c5eb4231ad57d3e57a8717e8dcf1
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米司法省は16日、ニューヨーク州南部地区連邦地検のモーリーン・コーミー検事を解雇した。理由は明らかになっていない。検事は、性的人身取引の罪で起訴されてニューヨークの拘置所内で死亡した富豪ジェフリー・エプスティーン元被告や、その共犯として有罪になったギレイン・マクスウェル受刑者、ヒップホップ界の大物ショーン「ディディ」コムズ被告による売春事件などについて、捜査を担当していた。
モーリーン・コーミー検事は、2017年にドナルド・トランプ大統領によって解任されたジェイムズ・コーミー元米連邦捜査局(FBI)長官の娘です。
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故エプスティーン元被告の事件など担当の検察官、米司法省が解雇 元FBI長官の娘2025/07/18 BBC
https://news.yahoo.co.jp/articles/2012275da6115403a77dcbe354cbc291bf720fb1
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トランプ大統領が、経済学の論理で、推論していない場合には、分析は困難、または、不可能です。
ラトニック氏が、Bloombergに応じたインタビューは、Bloombergに記事がありますが、より詳細な内容は、TBSにあります。
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5500億ドルの枠組み
一方、合意に盛り込まれた5500億ドル(約80兆7700億円)規模の対米投資の枠組みについては、トヨタ自動車が米国内に工場を建設するといった通常の投資とは異なるとラトニック氏は説明。トランプ大統領の裁量で選定したプロジェクトに日本が5500億ドルを投じるとした上で、現在詳細の詰めや文書化の作業が進められていると述べた。
一例として、150億ドルを投じてジェネリック(後発医薬品)の抗生物質を製造する工場を建設するとしたら、日本が資金を拠出し、米国には支払いが発生しないと指摘。利益に関しては9割が米国に残り、1割は日本の資金回収に充てられると述べた。その上で「この9対1の分配以外に一切支払い義務はない」とした。
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対日自動車関税15%への米業界の批判、ラトニック氏「ばかげている」2025/07/25 Bloomberg
https://news.yahoo.co.jp/articles/44717bb7aa371057a49dcfa6b24d5ae5cb61984a
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インタビュアー: 日本が5500億ドルを投資するという革新的な資金調達の仕組みについてお聞かせください。この基金は具体的にどのような形になるのでしょうか?
ラトニック長官: この基金は非常に画期的なものです。簡単に言えば、アメリカがプロジェクトを選び、日本がその実行に必要な資金を提供するという形になります。例えば、アメリカで抗生物質を製造したいとしましょう。
現在、アメリカ国内では抗生物質をほとんど製造していません。もし大統領が「アメリカで抗生物質を作ろう」と決定すれば、日本がそのプロジェクトに資金を提供します。
インタビュアー: なるほど。資金提供を受けたプロジェクトの利益配分はどうなるのでしょうか?
ラトニック長官: 運営は企業に任せ、得られた利益はアメリカの納税者に9割、日本には1割が配分されます。これは実質的に、日本がこの公約によって関税率を引き下げたことを意味します。「トランプ大統領やアメリカが望む、国家の安全保障上重要なものをアメリカ国内に建設するなら、それを支援し、あなたの味方になります」という日本の意思表示なのです。
インタビュアー: 石破総理はこれを「融資保証」と表現していますが、それ以上のものということでしょうか?
ラトニック長官: もちろん、それ以上です。これはエクイティ(株式)や融資保証など、多様な形態を含みます。日本は、アメリカが選定したプロジェクトを実現させなければなりません。
例えば、アメリカが1000億ドル規模の半導体工場をアメリカ国内に建設したいとすれば、日本はそのプロジェクト全体に、エクイティやローンなど、いかなる形であれ1000億ドルを提供する必要があります。
インタビュアー: それは日本企業が資金を出すということですか?
ラトニック長官: いいえ、違います。誰でもいいのです。日本はあくまで「資金提供者」であり、「運営者」ではありません。ですから、日本の特定の企業が工場を建てるという話ではないのです。
皆さんが混乱しているのは、トヨタのような日本企業が来て工場を建てるような話ではない、という点ですね。これは文字通り、アメリカがジェネリック医薬品、半導体、重要鉱物などをアメリカ国内で作りたいと決めた場合に、日本が資金面で支援するというモデルです。
インタビュアー: こういったモデルは、これまでにも存在したのでしょうか?
ラトニック長官:もちろんです。だから 私が政権に加わったのです。このアイデアを私が1月に思いつきました。日本はドナルド・トランプが望むように「完全に」市場を開放するつもりはないので、別の方法をとる必要がありました。
そこで私は4000億ドルの基金を提案し、日本が大統領とアメリカに対し、国家の安全保障に貢献する物を作る上での資金を提供・支援するというモデルを作り上げました。
(中略)
インタビュアー: 来週、中国のカウンターパートと会う際は何を議論する予定ですか?輸出規制の緩和、あるいはそれ以上のことが議題に上がるのでしょうか?
ラトニック長官: 米中は共に巨大な経済大国であり、お互いにラインを意識した上で貿易すべきだと考えています。
中国はアメリカの農産物や野菜を買いたがっています。彼らは何でも栽培できるわけではなく、アメリカの穀倉地帯のようなものもありません。だから中国はそれらの製品を買いたがっています。そして中国が作る多くのものは、アメリカが買いたがるものであり、棚に安価なものが並ぶことを望んでいます。
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「日本は関税15%を80兆円で買った」「利益の9割は米国で、1割は日本」ラトニック商務長官が明かす日米合意の内幕 2025/-7/26 TBS
https://news.yahoo.co.jp/articles/2f0bc6ace84e7715af66dae4b1ee0b9cb0d8282b
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ラトニック商務長官は、「中国はアメリカの農産物や野菜を買いたがっています」といいます。しかし、トッド氏は、アメリカは食糧輸入国になると予想しています。
移民の労働力を排除すると、アメリカの農業生産は、減少する可能性が高いです。
また、ラトニック商務長官には、労働力という言葉はありますが、労働者という言葉はありません。
トッド氏が指摘するように、労働者不足で、生産ができない可能性が高いと思われます。
3)ウィキペディア
英語版のウィキペディアには、最新の情報を含めて、適切な要約がのっています。
貿易合意に関しては、次の項目が参考になります。
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https://en.wikipedia.org/wiki/Economic_policy_of_the_second_Donald_Trump_administration
https://en.wikipedia.org/wiki/Tariffs_in_the_second_Trump_administration
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英語版のウィキペディアによると、貿易合意の文書は、「Miran, Stephen (2024). 「グローバル貿易システムの再構築のためのユーザーズガイド」 .ハドソンベイキャピタル.」とコカラリ、マイケル(2024)「『グローバル貿易システムの再構築のためのユーザーズガイド』の要約」です。
日本では、「賃上げの物価の好循環」などの政策に、根拠となる理論の解説章がありませんが、アメリカでは、政策には、かならず基本文書があります。
Miran, Stephen (2024). 「グローバル貿易システムの再構築のためのユーザーズガイド」 .ハドソンベイキャピタル.の概要は以下です。全文は40ページあります。
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A User’s Guide to Restructuring the Global Trading System November 2024 Hudson Bay Capitol, Miran, Stephen
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和訳が以下にあります。
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日本語訳 スティーブン・ミラン Stephen Miran 論文(はじめに/理論的根拠/関税)グローバル貿易システム再編のためのユーザーガイド 第1章~第3章 マールアラーゴ合意 ミラン論文要約
日本語訳 スティーブン・ミラン Stephen Miran 論文(第4章:通貨/第5章:市場とボラティリティの考慮/第6章:結論) 翻訳 日本語訳 マールアラーゴ合意 ミラン論文要約
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わかりやすい要約は、熊野英生氏のものです。
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まとめ
ミラン論文には、ドル安誘導についての様々な論理的弱点や副作用が隠れている。この点は、別稿で論じることにする。
とはいえ、トランプ大統領が奥の手としてドル安を検討していることは、このミラン論文からわかってくる。ただ、それは副作用も大きいので、すぐに実行できるシナリオではない。だから、実行に移すとしても。このミラン論文で検討されているよりも、さらに用意周到に考えられるだろう。
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トランプ関税の教科書「ミラン論文」を読む 2025/04/25 第一生命 熊野 英生
https://www.dlri.co.jp/report/macro/442069.html
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詳細は理解できませんが、次のことがわかります。
この政策は、ドル安をねらっています。トランプ大統領は、ドル安とドル高の違いがわかっていませんので、実際の政策は、ラトニック長官とベセント米財務長官で仕切っています。
ドル安になれば、ドルからの資産逃避が起きます。
ドル安政策で、無理をしても、雇用は少ししか回復しませんし、賃金が低下します。
なので、合理的な政策ではありませんが、この政策は、日本の円安政策のコピーのようにも見えます。