1)日米関税交渉の主な合意事項
日米関税交渉の主な合意事項が出てきました。
ロイターは、次のように整理しています。
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日米関税交渉の主な合意事項は以下の通り。
《関税》
・相互関税は15%を適用。既存の関税率が15%以上の品目にはかからない。15%未満の品目については15%が上限となる
・自動車・部品は既存の税率を含め15%とする
・半導体や医薬品など経済安全保障上重要な物資は、仮に将来分野別関税が課される際も日本が他国に劣後する扱いとならないと確約
・コメは現行のミニマムアクセスの枠内で米国からの輸入を増やすことが可能
・農産品含め日本側の関税を引き下げることは含まれない
・鉄鋼・アルミ関税は合意に含まれず。引き続き協議
《投資》
・強靭なサプライチェーン構築へ連携。半導体、医薬品、鉄鋼、造船、重要鉱物、航空、エネルギー、自動車、AIなど経済安保上重要な分野が対象
・日本の経済安保の観点から極めて重要な合意実現のため、日本企業が関与する医薬品や半導体などの重要分野での対米投資促進へ、政府系金融機関が最大5500億ドル規模の出資、融資、融資保証を提供可能に
・米国が日本の投資からの収益の9割を確保(米側が発表)
《非関税障壁》
・米国産車の認証手続き簡素化
・米国産自動車・トラックに対する規制を撤廃し、米基準を日本で初めて承認(米側が発表)
《その他》
・為替に関する内容は含まれない
・防衛費に関する内容は含まれない
《農産品》
・日本が米国産コメの輸入を75%増やし、輸入割当枠も大幅に拡大。米国産トウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノールのほか、環境に優しい航空燃料などを含む産品80億ドル相当を購入(米側が発表)
《商用航空機》
・日本が米国製商用航空機の調達を確約、米ボーイング(BA.N)
, opens new tab機100機が含まれる(米側が発表)
《LNG》
・アラスカ産液化天然ガス(LNG)を巡る新たな契約の検討も進める(米側が発表)
《軍事装備》
・日本が年間数十億ドル相当の米国産防衛装備を購入。インド太平洋の相互運用性・同盟の安全保障の向上につなげる(米側が発表)
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情報BOX:日米関税交渉、主な合意事項 2025/07/24 ロイター
https://jp.reuters.com/markets/commodities/3XAR7JRZ3RJ6LICWJV5VY4KN7E-2025-07-23/
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赤沢経済再生相は、対米投資の日米負担割合に関して「双方が負担する貢献やリスクの度合いといったようなものを考え、米国は90%、日本は10%ということでいこうかという合意があった」と説明しました。
意味は、まったく違いますが、上記の「米国が日本の投資からの収益の9割を確保(米側が発表)」が、これに対応すると思われます。
2)「トゥルース・ソーシャル」の投稿
中岡望氏は、トランプ大統領のSNS「トゥルース・ソーシャル」の投稿を紹介しています。
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私たちは日本との間で巨大な取引を完了した。おそらく史上最大の取引であろう。日本は、私の指示によってアメリカに5,500億ドルを投資することになり、アメリカはその利益の90%を受け取ることになる。この取引によって何十万もの雇用が創出されるだろう—かつて例のないことだ。おそらく最も重要なのは、日本が自動車やトラック、コメなど特定の農産物、その他の品目を含む貿易に対して自国の市場を開放することだ。日本はアメリカに対して15%の相互関税を支払う。これは、アメリカにとって、また特に日本という国と今後も常に素晴らしい関係を築いていくという点において、非常に刺激的な瞬間である。この件にご注目いただき、感謝する!
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中岡望氏は、日本の合意の疑問点をあげています。その一部を示します。
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① 対米投資5500億ドルの根拠は何か。政府が本来、民間部門が決めるべき対米直接投資を約束できるのか。『NBC News』は「そのような投資がどのような効果があるのか不明である」と書いている(7月23日、「Trump sets 15% tariff on Japanese imports as part of investment agreement」)。
② 対米投資の利益の90%をアメリカが受け取るとは何を意味するのか。
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トランプ関税の本当の狙い(4):合意した日米交渉の中身の検討。問題の終わりではなく、始まりである 2025/07/23 中岡望
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/4b0ee47bde4ce438c8e2cdecc2c7c3572916e1b2
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中岡望氏の分析は、疑問点で止まっています。
3)整理
トランプ大統領が、関税率を決めているアルゴリズムはわかりませんが、貿易赤字の構造がまったく異なる、中国、カナダ、メキシコを除けば、ベトナムと日本の場合のように、貿易赤字額の大きさに準じた関税率になるとかんがえられます。一方、貿易黒字のイギリスの関税率は10%でした。つまり、10%から15%になると思われます。この交渉では、対米投資5500億ドルのように、みつぎものを要求されます。インドネシアのように、みつぎものがすくないと、関税率が20%近くに増える可能性があります。
ドナルド・トランプ米大統領は2025年6月11日、米中の高官が貿易摩擦を緩和するための枠組みに原則合意したことについて、「トゥルース・ソーシャル」で、「合意は成立した」と言及しました。
トランプ米大統領は2025年7月23日、中国との貿易合意をまとめている最中だと述べました。
つまり、中国との貿易合意は、何度も、貿易合意を繰り返しています。
その理由は、簡単です。
2023年時点のデータをもとに、中国と米国の貿易シェアについてまとめると次になります。
中国の輸出における対米国のシェア
中国の輸出全体に占める米国向けの割合は、約13.9%です。これは2017年のピーク(約21.6%)から大きく低下しており、米中貿易摩擦の影響が顕著です。
中国の主要輸出先としては、米国は依然として上位ですが、ASEANやEUなどへのシフトが進んでいます。
米国の輸入における中国のシェア
米国の輸入全体に占める中国の割合は、2023年に13.9%です。これはメキシコ(15.4%)に抜かれて2位となり、2007年から続いていた中国の首位が交代しました。
特に、IT製品や労働集約財(衣類・家具など)の輸入が減少し、ASEANやメキシコが代替供給地として台頭しています。
アメリカは、2014年にロシアをSWIFTから追放しました。ロシアは、SPFSを立ちあげて、SWIFTがなくとも、銀行間取引が出来るようにしました。つまり、ウクライナ戦争が始まった時には、経済封鎖の効果はほとんどありませんでした。また、ロシアをSWIFTから追放したことは、ドル換算でロシアのGDPを評価できなくなったことを意味します。
2017年の米中貿易摩擦をうけて、中国は、貿易の多極化を進めました。米中貿易が完全に停止した場合の経済ダメージは、アメリカの方が、中国より大きいです。
つまり、トランプ・ディールが成立する条件はありません。
レアアースなど、特定の品目に対する記事は多くあります。
しかし、総合的に見て、2017年の米中貿易摩擦以降、貿易の多極化に成功した国は、アメリカではなく、中国でした。
トッド氏は、「西洋の敗北」で、GDP統計の2つの不備を指摘しています。
第1は、金融部門などの何も生み出さないサービス業が数字を水ぶくれさせていることです。
第2は、ドルの特異性で、アメリカだけが、信用創造で富を生み出す特権を持っていることです。
アメリカと中国の貿易を、ドルの金額ではなく、モノで整理すれば、アメリカから中国への輸出はほとんどありません。たとえば、中国は、NVIDEAの半導体を欲しがっていますが、これは、台湾産であって、米国産ではありません。
トッド氏が指摘するように、アメリカは、同盟国への支配を強化しています。
この部分を除けば、トランプ・ディールが成立する条件はありません。
アメリカの同盟国への支配の強化は、同盟国の経済にマイナスの影響を与えています。
つまり、同盟の維持が、次第に困難になっています。
その場合には、同盟国が、事実上の51番目の州なのか、独立国家なのかが、問われることになります。
トランプ大統領は、貿易合意で、ポンコツのアメリカの武器を高額で、セールスしています。
既に、戦闘機は、価値がなくなりました。
ウクライナの戦争では、毎月のように新型のドローンが投入されています。月単位で、新型のドローンを開発できる技術力が最大の武器です。防衛予算の金額には、意味がありません。
例えば、無線傍受ができない光ファイバー通信のドローンは、2024年にロシア軍が、初めて配備し、現在は、ウクライナ軍も使っている主流のドローンです。武器の世代交代は、数か月で起きます。
ポンコツのアメリカの武器を高額で購入すれば、経済が傾くだけで、防衛とは関係がありません。もちろん、そのことを理解するためには、技術の言語が必要になります。
新型ドローンの開発は、相手のドローンの弱点をつくように改良されます。開発の速度を早めるためには、コンピュータ上で対戦シミュレーションをしているはずです。対戦シミュレーションの技術をもって、武器のアルゴリズムの改良を迅速にできない国は、自衛ができなくなっています。
4)追加の議論
幾つかの混乱した議論があります。
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林芳正官房長官は24日の記者会見で、米政府が関税合意に絡み発表した日本の年間数十億ドル(数千億円以上)の米国製防衛装備品の追加購入について、日本の現行の調達方針を受けたもので、新たな計画ではないとの認識を示した。
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「米装備購入」は既存計画 林官房長官 2025/07/24 時事通信 https://news.yahoo.co.jp/articles/8521c36f8d134eda33a3863cd074fdd580fa7552
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林芳正官房長官の発言の主旨は、理解できません。今後、アメリカから、さらなる要求がくるという意味でしょうか。トランプ大統領が、林芳正官房長官の発言を聞けば、そのように反応すると思います。
TBSは、次のようにいっています。
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それ以外もホワイトハウスのファクトシートを読んでみると、「防衛装備品」は毎年数十億ドル買っていく、ボーイングから100機を購入するなどもあります。
ただ、政府が買うわけではないので、全日空や日本航空が買うのをどうするのかという話もあります。
「日本が80兆円投資する」と言っていますが、それは民間がやることです。政府系金融機関から保証するというのですが、そんなに割に合わないものに日本が投資して損したらどうするのか、ということもありますよね。
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「認識の違いはない」赤沢大臣が関税交渉終え帰国、星浩氏「防衛装備品、ボーイング100機、80兆円投資…疑問点は山ほどある」2025/07.24 TBS
https://news.yahoo.co.jp/articles/704a7e115052e64b11238014582004baac2c0666
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赤沢大臣の「認識の違いはない」という発言も、林芳正官房長官の発言に似ています。
ベセント米財務長官は、次のようにいっています。
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ベセント米財務長官は23日、日米関税合意について、トランプ大統領が日本の実行状況に不満であれば、関税率は自動車も含めて25%に逆戻りすると説明した。日本が合意を順守しているかどうか四半期ごとに精査する方針も示した。具体的な基準には言及しなかった。
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「自動車含め25%に逆戻りも」 大統領が不満なら、とベセント氏 2025/07/24 KYODO
https://news.yahoo.co.jp/articles/f119a923a41648284b372f2435b26f6cc62aab0d
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マスコミの議論は、例によって、データを無視しています。
今回の最後の部分に、ファクトシートを添付します。
ファクトシートの一部を引用します。
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アメリカの産業力の回復:日本は、アメリカの中核産業の再建と拡大のため、米国の指示により 5,500 億ドルを投資します。
これは、いかなる国もこれまでに確保した単一の外国投資コミットメントとしては最大規模であり、米国で数十万人の雇用を創出し、国内製造業を拡大し、何世代にもわたって米国の繁栄を確保することになるでしょう。
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この表現と、林芳正官房長官と赤沢大臣の発言の間には、ギャップがあります。
つまり、政府が、国内向けに、発言を捏造している可能性があります。
コメについては、次のようにいいます。
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日本は輸入割当量を大幅に拡大し、米国産のコメの輸入を直ちに75%増加させる。
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2024年度のMA米(80万トン)の国別輸入数量は、米国34.6万トン、タイ28.6万トン、オーストラリア7万トン、中国4.2万トンです。米国の比率は45%です。
「日本は輸入割当量を大幅に拡大し、米国産のコメの輸入を直ちに75%増加させる」にしたがえば、60万トンを米国産米で、輸入することになります。これは、80万トンの内数なので、可能です。
ただし、トッド氏の予測のように、アメリカが食糧の輸入国になった場合には、この政策はは、リスク分散をへらすので、食糧安全保障に反します。
例えば、アメリカからコメが輸入できなくなった場合に、タイ、オーストラリア、中国からの輸入に切り替えられる保証はありません。リスク分散から考えれば、日本国内の自給が困難になっているのですから、タイとオーストラリアかた安定的にコメを輸入する契約を考えるべきです。また、貿易赤字によって、外貨がなくなり、食糧、肥料、燃料を輸入できなくなることが最大のリスクです。つまり、コメの自給政策そのものが、食糧安全保障の障害になっています。
筆者は、この主張が正しいというつもりはありません。確率の数的言語をつかって、リスク計算しないと、食糧安全保障の評価はできないという手法を紹介しています。
政府は、日本が貿易黒字を生み出していた時代の亡霊にとりつかれています。
貿易黒字がない状態で、「アメリカの指示により 5,500 億ドルを投資すること」は、外貨獲得の上では、非常に大きなリスクです。簡単にいえば、糧、肥料、燃料を輸入できなくなります。
インドネシアのように、高関税率を受け入れて、アメリカ市場を放棄して、アメリカ以外の貿易で、外貨を獲得する方が中期的には、プラスになる可能性もあります。
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ファクトシート:ドナルド・J・トランプ大統領、前例のない日米戦略貿易投資協定を締結
2025年7月23日
日本との歴史的な貿易投資協定:昨日、ドナルド・J・トランプ大統領は、アメリカの最も緊密な同盟国であり、最も重要な貿易相手国の一つである日本との画期的な経済協定を発表しました。
- この歴史的な合意は、日米関係の強さと、米国が世界で最も魅力的で安全な戦略的投資先であると日本が認識していることを反映しています。
- この合意は、両国が経済的繁栄、産業におけるリーダーシップ、そして長期的な安全保障という共通のコミットメントを再確認するものです。日米同盟がインド太平洋地域の平和の礎であるだけでなく、世界の成長とイノベーションの原動力でもあるという力強いメッセージを送るものです。
- この協定は、5,500億ドルを超える新たな日本と米国の投資手段と、米国からの輸出へのアクセスの強化を伴い、二国間協力の新たな章を刻むものであり、今後数十年にわたり、米国経済の潜在能力を最大限に引き出し、重要なサプライチェーンを強化し、米国の労働者、地域社会、企業を支援するものとなるでしょう。
アメリカの産業力の回復:日本は、アメリカの中核産業の再建と拡大のため、米国の指示により 5,500 億ドルを投資します。
- これは、いかなる国もこれまでに確保した単一の外国投資コミットメントとしては最大規模であり、米国で数十万人の雇用を創出し、国内製造業を拡大し、何世代にもわたって米国の繁栄を確保することになるでしょう。
- トランプ大統領の指示により、これらの資金は、以下を含むアメリカの戦略的産業基盤の活性化に充てられます。
- LNG、先進燃料、送電網近代化を含むエネルギーインフラと生産。
- 半導体製造と研究、設計から製造までの米国の能力の再構築。
- 重要な鉱物の採掘、加工、精製、必須原材料へのアクセスの確保。
- 医薬品および医療機器の生産、外国製の医薬品および供給品への米国の依存を終わらせる。
- 新しい造船所および既存施設の近代化を含む、商用および防衛造船。
- 米国はこの投資による利益の90%を留保し、米国の労働者、納税者、地域社会が利益の圧倒的な部分を享受することを保証する。
- この資本増強は、トランプ大統領のリーダーシップのもとですでに確保されている数兆ドルと相まって、100年に一度の産業復興の重要な要素となるだろう。
予測可能な関税枠組みによる均衡のとれた貿易の確保:この協定の一環として、日本からの輸入品には 15% の基本関税率が適用されます。
- この新たな関税の枠組みは、数十億ドルの歳入増加に加え、米国の輸出拡大および投資主導の生産と相まって、日本との貿易赤字の縮小と米国の貿易全体のバランスの回復にも役立つだろう。
- このアプローチは、一貫性があり、透明性があり、執行可能な貿易環境を確立するための米国の幅広い取り組みを反映しており、米国の労働者と生産者が時代遅れまたは一方的な貿易ルールによって不利益を被ることがなくなるような環境です。
- 日本はこの枠組みに沿うことにより、日米経済関係の強固さと相互尊重を確認し、公正を基礎とした永続的な貿易の重要性を認識します。
米国企業の市場アクセス拡大の確保:米国企業は数十年にわたり、日本市場へのアクセスを求める際に障壁に直面してきました。この協定は、主要分野において画期的な進出をもたらします。
- 農業と食品:
- 日本は輸入割当量を大幅に拡大し、米国産のコメの輸入を直ちに75%増加させる。
- 日本はトウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノール、持続可能な航空燃料など、80億ドル相当の米国製品を購入する予定だ。
- エネルギー:
- 製造業および航空宇宙産業:
- 日本は、ボーイング社製航空機100機を購入する合意を含め、米国製の民間航空機を購入することを約束している。
- 米国の防衛装備品を毎年数十億ドル追加購入することで、インド太平洋地域における相互運用性と同盟の安全性が強化されます。
- 自動車および工業製品:
日米経済関係の世代交代:この協定は単なる貿易協定ではなく、アメリカ国民に利益をもたらす日米経済関係の戦略的再編です。
- 初めて、この協定の条件では、アメリカの産業、イノベーション、労働が中心に据えられている。
- 歴史的な投資を確保し、長らく閉ざされていた市場を開放することで、トランプ大統領は再び、他の誰も実現できなかった合意を実現しました。この合意は、アメリカ経済の再建、産業基盤の強化、そして今後数十年にわたる国力の維持に役立つでしょう。
- トランプ大統領は、米国が力強く先導すれば世界が従い、そして米国が勝利するということを証明している。
長期的な経済連携の確保:この協定は、米国と日本の間の強固で永続的な関係を反映し、両国の相互利益を増進するものです。
- この協定は、経済と国家の安全保障、エネルギーの信頼性、相互貿易を一致させることで、共通の繁栄、産業の回復力、そして技術的リーダーシップの基盤を確立します。
- トランプ大統領は、アメリカ国民にとって再び変革をもたらす成果をもたらし、私たちの労働者、生産者、革新者が世界経済において報われ、尊重され、力を与えられることを保証しました。
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Fact Sheet: President Donald J. Trump Secures Unprecedented U.S.–Japan Strategic Trade and Investment Agreement 2025/07/23 Whitehouse
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