1)トランプ大統領の発表
トランプ大統領が、相互関税15%で交渉がまとまったと発表しました。
論点は、「15%は、予想可能であったか」という疑問です。
2-1)ベトナムの合意
先に、トランプ大統領は、関税率20%で、ベトナムとの合意に達したと発表しています。
この報道は、混乱していて、最終合意の内容は確認できません。
とりあえず、わかっている情報を並べます。
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トランプ米大統領は2日、ベトナムとの関税交渉で合意に達したと発表した。米国はベトナムからの輸入品に20%、第三国からの経由製品に40%の関税を課す一方、ベトナムは米国製品への関税をゼロとすることで合意したとしている。これは極めて不平等な内容であるが、ベトナム経済は対米輸出への依存度が極めて高く、経済成長率目標実現のハードルを下げる観点から受け入れざるを得なかったと捉えられる。
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ベトナムが米国との通商協議で合意 2025/07/03 第一生命経済研究所 西濵 徹
https://www.dlri.co.jp/report/macro/477079.html
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ベトナムは関税の対米交渉で最も積極的に動いた国だ。「協議の列の先頭」といわれた日本の石破首相より3日も早くトー・ラム書記長がトランプ大統領に電話をかけ、米国と関税協議に入った。ただ、何より大きいのはわかりやすい「利益」をトランプ大統領に用意したことだ。6000億円規模の液化天然ガス(LNG)の購入や、航空機と防衛品の大規模な導入計画、米国産の農作物の大量購入はもちろんだが、トランプ大統領のファミリー企業「トランプ・オーガニゼーション」がベトナムで開発するゴルフ場を中心とした複合施設プロジェクトの認可もそうだ。許認可の遅さはベトナムの「がん」といわれ、こうした開発プロジェクトの承認は通常数年かかるといわれていたが、今回は行政改革の後押しもあってか6カ月という異例の速さで出した。その起工式にはファム・ミン・チン首相も出席している。来年にはホーチミン市に計画されている超高層ビル「トランプタワー」にも特別な認可が下りるとみられている。
各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系である」。国際政治学の名著といわれる「国際政治 恐怖と希望」の中で政治学者の高坂正堯氏はそう述べたうえで、この3つの体系が絡み合う国家間の関係は非常に複雑であると説いた。
国際政治で重要な体系が「力」や「利益」になったとしたら、米国との関税交渉でもその分野で有効な交渉材料が必要なはずだし、実際にベトナムはそれを用意して交渉に成功している。
結局、日本は有効な交渉の材料を何も用意できず、赤沢経済財政・再生相が多くの場合アポなしで7回も訪米しても、待ちぼうけを食らったりして、交渉は進まず、トランプ大統領をはじめ米首脳をいらだたせるだけに終わった。
少なくとも、国際政治の舞台で、いま何が重要かが分かっていなければ、米国との関税交渉の成功など望むべくもない。
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ベトナムと日本で明暗分かれた関税交渉 2025/07/09 日本経済研究センター 清水 泰雅
https://www.jcer.or.jp/j-column/2025079-3.html
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トランプ米大統領がベトナムからの輸入品に対して20%の関税で合意したと先週発表したことは、ベトナムの指導部にとって寝耳に水だった。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。ベトナム側は関税率の引き下げを目指しているという。
非公開の交渉だとして匿名を条件に話した関係者によると、ベトナムのトー・ラム共産党書記長は2日遅くにトランプ氏と電話会談を行った直後、交渉チームに対し、引き続き関税率の引き下げに向けて取り組むよう指示した。ベトナム側はより有利な関税レンジを確保したと考えていたため、20%という数字は予想外だったという。
ベトナムは電話会談前、10-15%の関税水準を求めて交渉を進めていた。
トランプ氏が今回の合意を発表してから1週間以上が経過したものの、ベトナムと米国はいずれも20%関税や迂回輸出と見なされる製品に課される40%関税について、具体的な内容や適用方法などをほとんど明らかにしていない。
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トランプ政権20%関税、ベトナムにとって寝耳に水-税率引き下げ探る 2025/07/11 Bloomberg Stevens、Josh Wingrove、Nguyen Dieu Tu Uyen
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-11/SZ84NXDWX2PS00
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トランプ米大統領は15日、ベトナムとの貿易協定がほぼ完了したと記者団に述べた。協定の詳細を公表することはできるが、その必要はないと考えていると語った。
ベトナムは今月初め、米国との関税交渉で暫定合意に達した。ベトナムからの輸入品に対する米国の関税は当初発表の46%から20%に引き下げられる一方、第3国からの積み替え品には40%の関税が適用される。
ベトナム側はこれまでのところ、具体的な関税率については確認していないが、貿易枠組みに関する共同声明で合意したと述べている。
トランプ氏は、ベトナムとの貿易協定の詳細を公表するのかとの質問に「公表するかもしれない。詳細をどれだけ公表するかは重要ではない。われわれはベトナムとディール(取引)を結び、それは極めてうまくまとまっていると言える」と答えた。
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トランプ氏、ベトナムとの貿易協定「ほぼ完了」 詳細明かさず 2025/07/16 ロイター
https://jp.reuters.com/markets/commodities/X2SI6QSXH5J2PKC7JPRIPFGE7A-2025-07-15/
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2-2)インドネシアとの合意
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トランプ米大統領は15日、インドネシアと貿易協定で合意したと発表した。貿易協定の一環として、米国はインドネシアに19%の関税を課す一方、米国がインドネシアに輸出する製品は無関税になるという。
トランプ氏は「インドネシアは19%(の関税)を支払い、米国は何も支払わない。米国はインドネシアに対する完全なアクセスを得ることになる。今後、こうした協定がいくつか発表される」と述べた。
トランプ氏はまた、インドネシアが米国との貿易協定の一環として、米航空機大手ボーイングの航空機50機のほか、150億ドル相当のネルギー、45億ドル相当の農産物を米国から輸入すると確約したと明らかにした。
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米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=トランプ氏 2025/07/16 ロイター
https://jp.reuters.com/world/us/YF2GBFP76JJKXNY67LDWTHBK3A-2025-07-15/
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2-3)まとめと疑問
中岡望氏は、ベトナムとインドネシアとの合意を次のようにまとめています。
しかし、この2国には、アメリカとの貿易量の差があります。
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ベトナムとインドネシアとの合意から見られる、トランプ大統領が受け入れる条件は明白である。まず①アメリカ製品に対する「ゼロ関税」を受け入れる。②具体的でなくても、とにかく非関税障壁を撤廃すると約束する。③とにかく市場への“完全な参入”を約束する。④農産物や航空機などアメリカ製品の購入を約束するという「4つの条件」を飲めば合意に達することができる。ただし、4つの条件を飲んでも「相互関税」が撤廃されるわけではない。相手国が「ゼロ関税」にしても、アメリカは「相互関税」を引き下げることはあっても、撤廃することはない。こんな一方的な通商交渉が行われたことはないだろう。
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「トランプ関税」の本当の狙い(3):ベトナムとインドネシアとの合意から学ぶアメリカとの”交渉の仕方” 2025/7/23 中岡望
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/80a050266a9bed2d6551d5128023fa5188f7492c
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中岡望氏は、日本との合意について、今後投稿すると予告しています。
疑問は、2つに細分できます。
第1は、「トランプ大統領は、関税率をきめるアルゴリズムを持っているか」という点です。
ベトナムは、対米投資とアメリカへの市場開放を受け入れています。
インドネシアの対応は明らかでありません。
第2は、ディールは、1対1で成立します。ディールでは、複数の関係者の調整はできないので、不公平が生じます。トランプ大統領は、この問題をクリアできるでしょうか。
3)アメリカの貿易の概観
アメリカの貿易収支は継続的に赤字です。
これは、ドルの特権によって持っています。
とはいえ、赤字は拡大の一方なので、放置できません。
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アメリカの貿易収支・貿易輸出入額の推移
https://ecodb.net/country/US/tt_mei.html
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貿易赤字額が大きい国ランキングは以下です。
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順位 国名 貿易赤字額(2025年) 主な輸入品目
1 中国 $295B 電子機器、家具、機械類
2 メキシコ $172B 自動車、トラック、コンピュータ、家電
3 ベトナム $124B 衣料品、電子機器、家具
4 アイルランド $87B 医薬品、機械、電気機器
5 ドイツ $85B 自動車、化学製品、機械類
6 台湾 $74B 半導体、電子機器、機械類
7 日本 $71B 自動車、産業機械、電子機器
8 カナダ $68B 石油、天然ガス、機械類
9 インド $29B 化学製品、機械、繊維製品
10 韓国 $25B 自動車、電子機器、鉄鋼製品
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【最新版2025】アメリカの貿易収支比較:赤字上位10カ国はどこ?
https://boueki.standage.co.jp/america-trade-balance/
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dotM氏は、アメリカからみた貿易黒字・赤字と輸出額相当を散布図に書いています。
これを見ると、次のことがわかります。
輸出・輸入が共に突出しているのは、メキシコとカナダです。
この2カ国のとの貿易赤字は、輸出と輸入の双方の影響をうけるので、変動しやすい特徴があります。
輸入額が大きく、かつ輸出が小さい国は、中国です。
つまり、中国との貿易赤字を解消しないと、貿易赤字を減らすという目的は達成できません。
これ以外の上記の7か国(ベトナム、アイルランド、ドイツ、台湾 、日本 、インド、韓国)の赤字は、大きくはありません。
ベトナムは、協議済みです。
EUは、アイルランドとドイツが主体です。
アイルランドは、デジタル赤字問題です。
カナダのランキングは、8位ですが、カナダの順位は年によって大きく変動するので、メキシコンに準じて考える必要があります。
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アメリカ 貿易赤字、黒字 トップ20ケ国 2025/03/25 dotM
https://note.com/dotm2025/n/nbfd3c59da25a
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ベトナムの関税率は20%でした。(アイルランド、ドイツ、台湾 、日本 、インド、韓国)の税率は15%にせざるを得ないように思われます。
アイルランドとドイツをEUでくくれば、ベトナムを超える赤字になります。
とはいえ、くくって大きくなったので、20%を超えるという説明には、合理性はありません。
また、アイルランドはデジタル赤字なので、間違えれば、GAFAMにダメージが起きます。
4)経済合理性
トランプ大統領が、関税をかければ、国債貿易は、アメリカを迂回します。
西洋(北米とヨーロッパ)の人口は大きくないので、市場は小さいです。
モンロー主義のように、アメリカは、鎖国しても、自活できるという信念があります。
トッド氏は、「西洋の敗北」で、このアメリカの信念は、成り立っていないといいます。
トッド氏は、関税をかけても、エンジニアがいないので、アメリカの製造業は復活しないといいます。恐らく、この弱点をさける方法は、AIを搭載したロボットが、エンジニアの代わりをする場合だけです。
トッド氏は、アメリカは、食糧の輸入国になるだろうといいます。
この場合、アメリカは、ブラジルやインドネシアから食糧を輸入することになります。
その代金をドルで支払うことができるかがポイントになります。
ドルは、石油とリンクすることで、安定した通貨の地位を得ていました。
しかし、アメリカのイスラエルよりの姿勢が、中東でのドルと石油のリンクを弱めています。
インドネシアは、現在のアメリカとの貿易赤字からみれば、不当に高い19%の関税を受け入れました。これは、今後のインドネシアの経済発展には、アメリカ市場は不要であるとの意思表示にも見えます。インドネシアは、BRICKSに参加しています。
トランプ関税は、アメリカ市場が不安定で、魅力が少ないことを示しています。
現在、アメリカと貿易赤字の対象になっている国を除けば、アメリカとの関税率があがっても、アメリカ市場を相手にしなければ、なんの問題もありません。
多くの途上国の最大の貿易先は中国です。中国経済の今後には、不安がありますが、その場合には、インドやブラジルの経済が中国の代りになると思われます。トランプ関税は、アメリカが中国の台頭によって失った市場を取り戻すことはないと宣言しています。
5)対日本関税
ベトナムと同じように、対日本関税についても、わからない点が多くあります。
23日時点の情報を並べます。
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赤沢経済再生相は、トランプ大統領と70分間協議を行った後、記者団の取材に応じ「日米両方の利益になる交渉ができた」と述べた。自動車関税を当初予定から引き下げたほか、「半導体や医薬品で、将来追加課税される場合も日本が他国に劣後しない確約を得た」と説明。コメの輸入拡大については「現行のミニマムアクセスの枠内で(米国からの輸入を)増やすことはできると話した」という。
一方で、合意に含まれなかった「鉄鋼・アルミ関税を含む一連の措置についてしっかりと議論を続けていきたい」と述べた。今回の合意には、防衛費に関する内容も含まれていないという。
最大5500億ドルの対米投資については「米国側は医薬品と半導体を重視しているようだ」と指摘。また、対米投資の日米負担割合に関して「双方が負担する貢献やリスクの度合いといったようなものを考え、米国は90%、日本は10%ということでいこうかという合意があった」と説明した。
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米との合意に防衛・鉄鋼・アルミ含まれず、今後も協議を継続=赤沢再生相
https://jp.reuters.com/world/us/UWPHAVRIA5IWZOUJ5LQV432U3I-2025-07-23/
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赤沢経済再生相は、対米投資は、「日本は10%」と言います。
ただし、ベトナムの例とトランプ大統領の個人的な嗜好を考えると、「日本は10%」は、にわかには、信じられません。
実際に、80兆円と報道している記事もあります。
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「日本からの輸入品には15%の関税」トランプ大統領が明かした日米合意の中身 80兆円もの資金が米国投資へ 2025/07/23 クーリエ・ジャポン
https://news.yahoo.co.jp/articles/635e9441bd93bb9cafb2f501aed0710694f39271
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中央日報も、日本は、「5500億ドル(80兆円)を差し出して関税10%P削減した」といいます。更に、踏み込んで言います。
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今月7日にいわゆる「関税書簡」を通じて日本と同様の25%の関税率を突きつけられた韓国政府としては、日本が22日に引き出した15%の関税率と、自動車関税12.5%が交渉マジノ線として作用する可能性が高まった。
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5500億ドルを差し出して関税10%P削減した日本…韓国も「-10%P」がマジノ線か 2025/07/23
https://news.yahoo.co.jp/articles/3defa449bca0c775d1cdcb3cee1a24219c0d93d7
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6)アメリカ国内の問題
アメリカ国内でも、関税率がくすぶっています。
ディールは、時間の問題で、破綻するように思われます。
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米ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N), opens new tab、フォード・モーター(F.N), opens new tab、クライスラー親会社ステランティス(STLAM.MI), opens new tabなどでつくる米自動車貿易政策評議会(AAPC)は22日、米国と日本の貿易合意について懸念を表明した。
同合意では日本に対する自動車関税が15%に引き下げられる可能性がある。一方、カナダとメキシコからの輸入には25%の関税が課されている。
AAPCのマット・ブラント会長は、合意内容をなお精査中としつつも「米国製部品をほとんど含まない日本からの輸入車に、米国製部品を多く含む北米製自動車よりも低い関税を課すいかなる合意も、米国の産業と自動車労働者にとって悪いディールだ」と述べた。
トランプ大統領は8月1日にメキシコに対する関税を30%、カナダに対する関税を35%に引き上げると警告している。
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米自動車業界団体、日本との貿易合意に懸念表明 「悪いディール」
https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/UAB5QJGYE5JZBFDWSAZYRO2YZI-2025-07-23/
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