政党の終わり(9)

1)無知と傲慢

 

パールは、「因果推論の科学」(p.443)で、1800年代には、既に過去の病気となっていた壊血病が、1世紀後に復活した事例をとりあげています。そして、正しい治療法が失われた原因は、「無知と傲慢(ignorance and arrogance)」であったといいます。

 

石破茂首相は20日夜に出演したTBSラジオの番組で、第二次世界大戦での日本軍の死者に言及し「兵隊さんで亡くなった方々の6割は戦って亡くなったわけじゃないんです。病死や餓死だったということを考えねばならんと思います。やはりきちんと過去の直視を忘れてはならんのだと思っています」と語った。

 

出演者から「歴史修正主義」について問われ、「歴史を修正する、ということは何を意味するかわかんない」と答えた上で、日本軍兵士の戦病死に言及した。

 

 首相は、戦後80年に関する「首相見解」の発出に意欲を示しており、見解の下敷きとなる歴史認識をにじませたようだ。首相は2日の毎日新聞のインタビューでは「先の大戦がなぜああいう形で行われたのか、文民統制のあり方について私なりに考えたい」と語っていた。

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石破首相「大戦の日本軍死者、6割が病死や餓死」 ラジオで言及 2025/07/21 毎日新聞

https://mainichi.jp/articles/20250721/k00/00m/010/232000c

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しかし、筆者は、この発言に違和感を覚えます。

太平洋戦争の敗因の分析については、膨大な研究が存在します。<戦後80年に関する「首相見解」の発出>は、こうした過去の研究を無視した傲慢にみえます。

 

脇田晴子氏の天皇制の研究、水林章氏の法度体制の研究は、法度体制に基づく自民党の政治が、太平洋戦争の不合理な意思決定の後継者であると説明しています。

 

参議院の結果に関する記事のタイトルを並べると次になります。

5/24 自民・森山氏「参院選敗北なら政権交代

7/20自民・森山幹事長、議席大幅減に「説明不足もあった」「政策は間違っていない」

7/20 自民 森山幹事長「比較第1党として衆参で責任を果たす」

7/21 自民「エッジ効いた政策示せず」 首相、早急に参院選敗因を分析

7/21 自民・臨時役員会で参院選大敗検証委設置へ 月内にも両院議員懇談会

7/21 【参院選】自民・森山幹事長続投は「おかしい」河野太郎

 

なお、前回の衆議院選挙の時にも、同じような対応をしています。

自民党の森山幹事長は、今回の衆院選で落選した議員を対象にヒアリングを行い、敗因を分析する考えを示しました。

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自民・森山幹事長 敗因分析へ 衆議院選挙の落選議員にヒアリング実施の考え 2024/11/7 TBS

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1539956?display=1

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読者は、以上の見出しをみて気が付いたことがありますか。

 

大きな問題が2つあります。

 

第1に、自民党は、選挙に負けた原因が、経済政策の失敗にあるとは考えていないことです。

 

筆者は、太平洋戦争の敗因の分析や、選挙に負けた原因の分析より、経済政策が失敗した原因の分析を優先して欲しいです。

 

しかし、自民党は、経済政策が成功したと考えています。

 

太平洋戦争の時に、日本軍の戦略は、破綻します。しかし、日本軍は、作戦の失敗をみとめず、膨大な被害を出し続けます。

 

大規模金融緩和政策は、生産性をあげず、経済は停滞します。しかし、自民党は、失敗した大規模金融緩和政策を10年続けました。これは、太平洋戦争の日本軍の作戦の失敗の繰り返しのコピーです。

 

しかも、恐ろしいことに、自民党には、更に、大規模金融緩和政策を拡大したい議員がいます。

 

筆者は、経済政策の細かな点は理解できませんが、自民党では、経済政策の効果を科学的に評価して比較する議論ができないことはわかります。

 

これは、太平洋戦争の時に、日本軍が、複数の作戦を科学的に比較検討できなかったことに対応しています。

 

政府は、戦争の作戦に相当する複数の政策の比較検討ができていません。

 

筆者には、「賃上げと物価の好循環」は、1945年1月19日の大本営の全軍特攻化に見えます。

 

両者とも、合意的な因果関係の説明を欠いています。

 

第2は、科学の無視です。

 

森山幹事長は、前回の衆議院選挙の敗因分析で、 衆議院選挙の落選議員にヒアリングを実施すれば、原因がわかると考えていました。もちろん、この方法では、原因がわからないことは自明です。

 

また、このヒアリングには、経済政策の失敗は含まれていなかったと思われます。

 

つまり、自民党は、科学的な因果推論をする言語をもっていません。

 

数的言語のイメージをするために、数字を入れて説明します。

 

消費税を使って、労働者から100単位を徴収して、給付金で、1単位をキャッシュバックしても、生活は楽になりません。

 

政治献金に応じて、大企業に、減税などで、100単位をキャッシュバックして、ベンチャー育成に1単位の補助金を給付しても、ベンチャーは、大企業にくらべ、-99単位のハンディをもっているので、大企業に勝てません。

 

キャッシュバックの効果は、国内だけです。大企業は、キャッシュバックにたよって、技術開発をしませんので、日本企業は、国際競争に負けて、貿易黒字がなくなりました。

 

論理的に考えれば、こうなります。筆者は、大企業に補助金(または減税)をキャッシュバックして、ベンチャーが育ったり、海外の競合企業に技術的に勝てるようになるという、因果モデルを考えることができません。

 

こうした議論は、数字なしには、検討できません。

 

太平洋戦争の兵士の死因は、病死や餓死でした。これはロジスティックの失敗です。

 

アメリカ軍のロジスティックは、ORの専門家のマクナマラが指導して大きな成果をあげていました。

 

数字のない議論には意味がありません。

 

因果推論の科学では、反事実の問いは、可能な科学になります。

 

「大規模金融緩和(円安)政策をとっていなかった場合の日本の経済成長」と「大規模金融緩和(円安)政策をとっていなかった場合の賃金」は科学的に推定できます。

 

これは、政府の大規模金融緩和(円安)政策に対する責任を問うことができることを意味します。

 

政府も、有権者も、科学的な反事実の問いはできないと考えているようにみえます。

 

政治家は、過去の政策の間違いの責任を問われることはないと考えています。

 

有権者は、政治家の過去の政策の間違いの責任を問うことはできないと考えています。

 

過去のデータだけから、この疑問に答えることは簡単ではありません。

 

しかし、前向き研究をすれば、今後、政策の間違いを科学的に問うことは可能です。

 

現在の政治家は、科学的に可能なことを拒否して、責任逃れをしています。

 

有権者は、責任逃れをする政治家と、責任逃れをしない政治家をしない政治家を、科学の基準で判断できるようになっています。

 

もっとも、このことは、現時点では、周知されていません。

 

しかし、このことが周知されれば、政治は大きく変わり、科学の問題になります。

 

2)民主党の失政

 

2009年に民主党政権が成立しました。

 

つまり、2009年に、自民党政権の経済政策の破綻は明らかでした。

 

民主党政権が失敗した原因は、科学の無視にあります。

 

民主党政権は、行政仕分けのような魔女狩りを行ってしまい、分解してしまいます。

 

行政仕分けは、科学の無視でした。つまり、民主党政権は、科学の数的言語をもっていなかったので、どのように、政策を改善すべきかという推論ができませんでした。言語がなければ、考えることはできません。

 

民主党政権が行うべき政治は、行政仕分けの魔女狩りではなく、CB値の計算や、エビデンスに基づく政策決定でした。しかし、民主党政権は、手にした権力によって、傲慢になって、科学を放棄しました。

 

民主党政権が、第1に行うべきことは、個々の政策ではなく、科学的に政策選択をできる制度の確立でしたが、民主党政権は、そのことが理解できませんでした。

 

民主党政権のメンタルモデルでは、政治の世界は、利権で出来ていたのではないかと思われます。

 

3)経済政策の課題

 

自民党は、参議院選挙に負けた原因が、経済政策の失敗にあるとは考えていませんでしたが、公明党も、立民党も、政府の経済政策が失敗したとは考えていません。

 

新興政党も含めて、政府の経済政策が失敗した、経済政策の転換が必要であるという主張はありません。そもそも、政策提言には、経済学の言語がありません。

 

ロイターは、次のように政府(与党+官僚)の反応をまとめています。

 

参院選で自民、公明両党が大敗したことを受け、賃上げを起点とする成長型経済への移行に暗雲が垂れ込めそうだ。物価高、トランプ関税、政権不安の三重苦に直面し、政府内からも政策運営を危ぶむ声が上がる。野党各党は連立入りに慎重で、停滞感が長引くおそれも出てきた。

 

<先はいばらの道>

 

今秋の臨時国会補正予算を編成する場合、野党からの歳出圧力が強まることは避けられそうにない。

 

与党が抑制的な補正予算案を提出しても、過半数を割り込んだことで衆参ともにそのまま通る見通しはない。専門家からは「野党の協力を得るために与党が妥協し、予算が膨張する展開になることは確実」(東大院総合文化研究科の内山融教授)との声が聞かれる。

 

参院選直後の21日、石破茂首相(自民党総裁)は「政治には一刻の停滞も許されない」と党本部で報道陣に語った。

 

併せて「ここから先は、いばらの道だ」との認識も示した。

 

大連立を前提とする政権運営は見通せず、政策をどう進めるかの道筋は描けていない。参院選に先立ち、石破政権は成長経済の実現を金看板に掲げたが、与党からも「早くも視界不良となった」(自民中堅)との声が出ている。

 

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焦点:賃上げ継続へ「三重苦」、政策停滞長引く恐れ 参院選で自公大敗 2025/07/22 ロイター

https://jp.reuters.com/economy/bank-of-japan/U5EII4NYMBN6HETPD3FO3NTU5A-2025-07-21/

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ここには、「賃賃上げと物価の好循環」(スタグフレーション政策)が間違いであり、訂正すべきであるという視点はありません。

インフレはデータで明確です。因果推論をすれば、インフレの原因を考えます。

 

しかし、ここには、インフレの原因を考える視点がありません。

 

つまり、政府には、経済学の言語がないので、インフレを考えることができないのです。

 

ロイターは、次のように伝えています。

参院選で参政党や国民民主党に躍進をもたらした有権者の「熱」に、霞が関が身構えている。積極財政をうたう両党の発言力が強化されることへの警戒感があるからだ。(財務省を含む)複数の政府関係者は、財政再建への道のりがより険しくなることへの懸念を口にした。

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マクロスコープ:身構える霞が関、「非常によくない方向」 参政・国民民主の躍進で 2025/07/22 ロイター

https://jp.reuters.com/world/japan/ZOWZT2DTTZN5DEQFUQT4NTCAZI-2025-07-22/

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しかし、政府は歳出の削減をせず、消費税を増税して、法人税を減税してきました。

つまり、国民は、政府は、「財政再建への道のり」を目指していないことを知っています。

 

データをみれば、このことは明らかです。

 

1つ前の記事では、「野党からの歳出圧力が強まる」と「予算が膨張する」と、全く反対の予測が出ていました。「歳出圧力が強れば」は、財政破綻がなくなるので、喜ぶべきです。でも、。「歳出圧力が強まり」、その結果、「財政再建への道のり」が近づくことを喜んでいる官僚はいません。

 

「大規模金融緩和(円安)」と「賃賃上げと物価の好循環」(スタグフレーション政策)は間違った経済政策であり、それを、主導してきたのは、財務省でした。

 

「大規模金融緩和(円安)」は、「財政破綻への最短の道のり」でした。その結果、日銀は政策選択が、できなくなりました。

 

政府には、経済学の言語がないので、インフレを考えることができないのです。

 

財政再建への道のり」が、経済学の言語になっていないことにきずけば、問題所在がわかります。

 

4)政治学の問題

 

科学に基づいて考えれば、政党は、政治に必須の条件ではありません。

 

政策を比較可能な形で整理できれば、有権者は、政策ごとに投票することができます。

 

政党が、科学的な政策選択を阻害する要因になっている場合、政党がないという選択肢も考えるべきです。

 

ルービン氏の弟子の政治学者のアンドリュー・ゲルマン氏は、統計的推論のための確率的プログラミング言語Stan(スタン)の開発者です。

 

Stanは、現在、確率的プログラミングの事実上の標準です。

 

ゲルマン氏の政治学は、世界標準の政治学になりつつあります。

 

データをとれば利権が弱くなります。

 

ゲルマン氏のように、因果推論をして、エビデンスをもとめれば、利権は消滅します。

 

政策は、利権より、エビデンスに基づくことになるからです。

 

もちろん、それは、不都合なので、政府は、科学を無視したフェイクのエビデンスの普及をはかっています。

 

2009年の民主党政権時代と決定的に異なる条件があります。

 

それは、AIの出現です。

 

既存の政治学は、既存の政党と同じように、政治の世界は利権で出来ていると考えています。

 

今のところ、新興政党も、利権で世界はできていると考えていると思われます。

 

ただし、新興政党は、既存の政党よりも、変化に対して柔軟です。

 

科学的な議論ができれば、政党の違いが問題になることはありません。

 

ただし、パラグラフの論理(問い、データ、推論、推論結果)は必須の条件になります。