1)ブロッブとシャローステート
トッド氏の「西洋の敗北」には、ブロッブ(Blob)という単語が出てきます。
この単語には非常に多くの意味がありますが、トッド氏は、「外部との知的あるいはイデオロギー的つながりを欠いた指導者集団」という意味で使っています。
ここでは、外交政策をになう「ミクロ社会」を指しています。
トッド氏は、「グロッブは、外交問題の事態が加熱するほど、専門家の空き席が増え、(専門的、職業的)利益になるので、必要以上に脅威を誇張して、軍事力に執着する傾向が生じる」といいます。
そして、官僚によるディープステートはないが、代わりに、ブロッグに暮らす反インテリ集団が、官僚機構の上にまたがって、シャローステートを形成しているといいます。
ここで問題として、取り上げているのは、外交分野です。
しかし、「問題の事態が加熱するほど、専門家の空き席が増え、(専門的、職業的)利益になるので、必要以上に脅威を誇張して、軍事力に執着する傾向」があり、かつその分野の専門家が、グロッブの「ミクロ社会」を形成している分野は、外交に限らないと思います。
随分前から、重大な問題として認識され、その分野について、「ミクロ社会」か形成され、なおかつ、問題の解決がまったく進んでいない分野は、グロップが存在して、ブロッグに暮らす反インテリ集団が、官僚機構の上にまたがって、シャローステートを形成している可能性があります。
日本の経済と社会は、過去30年間停滞していますので、シャローステートがあっても不思議ではありません。
2)社会保障制度に関するアンケート
財団法人経済広報センターは、20年前の2005年に、社会保障制度に関するアンケートをまとめています。一部を引用します。
Q:社会保障給付費が、急増しています。社会保障制度の今後についてどのように思いますか。
A:社会保障制度の今後については、「保険料負担を増やしても給付水準は維持、向上させるべき」との回答が全体の19%にとどまったのに対し、「保険料負担を許容できる範囲内にとどめるためには、給付水準の抑制も仕方がない」との回答は59%と全体の半数を超えた。
Q:社会保障給付費が急増しています。あなたは、社会保障制度の今後についてどのように思いますか。
A:
・年代別では「保険料負担を許容できる範囲内にとどめるためには、給付水準の抑制も仕方がない」の29歳以下の回答割合は47%で他の年代に比べて低く、年代が高くなるほど回答割合が高い。
・「保険料負担を増やしてでも給付水準は維持、あるいは向上させるべき」では、年齢が高くなるほど回答割合が高くなる傾向にあるが、29歳以下は60歳代と同じ24%になっている。
Q:あなたは、ご自身の老後生活において、社会保障制度 (年金・医療・介護保険) をどのように考えていますか。
・自身の老後生活については、68%の方が「社会保障制度を中心にして、個人年金や貯蓄を組み合わせる」と考えている。
・ 年代別にみると、「少子化対策に向けた配分を高めた方がよい」は、各年代ともほとんど同じ回答割合で高い。
・「現在の配分のままでよい」の回答割合は、年代が高くなるにつれて、高くなっている。
・年代別では、年代が若いほど「社会保障制度にはできるだけ頼らず、個人年金や貯蓄を中心に考える」の回答割合が高く、特に29歳以下では「社会保障制度を中心にして、個人年金や貯蓄を組み合わせる」よりも回答割合が高くなっている。また、「ほぼ全面的に社会保障制度に頼る」は60歳代で17%、70歳以上では24%に達する一方、50歳代までの現役世代では10%を下回っている。
Q:2002年度の社会保障給付費 83.6 兆円のうち、年金、老人保健、老人福祉などの高齢者関係給付費は 58.4 兆円であり、児童手当、児童福祉などの児童・家族関係給付費は 3.2 兆円です。社会保障給付費に占める割合でみれば、それぞれ 69.9%、 3.8%となっています。わが国は急激な少子化社会を迎えており、今後のわが国の将来を考えた場合、社会保障給付費の配分についてどのように考えますか。
・「少子化対策に向けた配分を高めたほうがよい」が全体では65%で、男女別にみると、「現在の配分のままでよい」の回答割合は、男性の方が 5ポイント高い。
Q:2004 年 6月に成立した改正年金法に基づき、厚生年金の保険料率については、年収の 13.58%(労使折半)が、毎年 0.354%(同)引き上げ、2017 年度に年収の18.3%(同)に達した段階で固定されます。一方、給付水準については、マクロ経済スライドという年金額の伸びを調整する仕組みを取り入れたことに伴い、年金額を現役世代の手取り収入と比較した場合、改正前の 59.3%から 2023 年度には 50.2%に給付水準が抑制されます。
上記の改正年金法を踏まえ今後の年金についてはどのように考えますか。
・特に、女性よりも男性の方が「消費税を活用した間接税方式へ移行すべきである」の回答割合が高い。
・「このままでよい」との回答割合は13%と低い。
・「毎年の保険料率の引き上げは行うべきではなく…給付水準をさらに抑制するべきである」との回答は年代が若いほど高くなっており、若い世代ほど保険料の負担増加には抵抗感が見られる。
・ 逆に、年齢が高くなるにつれて「間接税方式へ移行すべきである」との回答割合が高くなっている。
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社会保障制度に関するアンケート結果報告書 財団法人経済広報センター 2005
https://www.kkc.or.jp/data/question/00000029.pdf
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ここで、行われている質問は、2025年参議院選挙の論点と変わりません。
回答は、明確です。
一般に言われているように、高齢者は、現状維持、若年層は、負担減になっています。
しかし、驚くべきことに、高齢者を含めて、「少子化対策に向けた配分を高めたほうがよい」が全体では65%になっています。
つまり、少子化対策であれば、高齢者も我慢すると言っています。
年金財源は、社会保険料の負担増加に反対で、「消費税を活用した間接税方式へ移行すべきである」が多いです。まとめれば、次になります。
・社会保険料は、負担増加しない。
・年金財源は、消費税を活用した間接税方式へ移行する。
・少子化対策には、所得移転をする。
また、書いてありませんが、現状維持が原則なので、次も前提になります。
・法人税は減税しない。
・円安政策をとらない。
これは、まっとうな政策です。
財団法人経済広報センターのアンケートには、致命的な欠陥があります。
それは、トレンドを前提に質問している点にあります。
質問は、複数の将来シナリオを示して、選択を求めるべきです。
そうならなかった原因は、財団法人経済広報センターには、統計学の数的言語が使える人材がいなかったためです。
上記の質問には、生産性向上に関する質問はありません。これは、レイオフと再雇用に関するシナリオに関する設問になります。簡単に言えば、所得と年金があがるのであれば、どこまでのレイオフをうけいれられるかというトレードオフに関する質問があるべきです。
小泉改革は、こうした国民の意思を無視した乱暴なものでした。
小泉改革は、年功型雇用を温存したので、労働市場ができず、身分制度を強化しました。
⾃⺠党の党員数は、ピーク時の1991年には547万⼈いましたが、2001年に、新⾃由主義を掲げた⼩泉構造改⾰により激減しました。2012年末の第2次安倍政権発⾜時には党員数は73万⼈台まで減少しました。
つまり、コアな自民党の支持層はなくなりました。
いずれにしても、2005年の時点で、アンケートに見る国民の意思は、常識的な正しい政策を選択していました。
トッド氏は、「西洋の敗北」(p.300)で、次のようにいいます。
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高等教育を受けた弁護士、銀行家その他の見せかけの第3次産業従事者が優れた略奪者として群れをなしている。
フランスがなぜ貧しくなっているかを知りたいのであれば、ビジネススクール、経営学、会計学、セールス学の学生の数が、1980年の16,000人から、2022年の間に、239,000人に増加していることに着目すべきだろう。
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つまり、トッド氏は、ブロッブとシャローステートの金融専門家がいると主張しています。
2015年の上期の日銀の議事録が公開されました。
トッド氏は、「西洋の敗北」(p.354)で、直系的家族の日本では、党の指導部が決めたことには、党の議員は投票せざるを得ないといいます。
この論理でいえば、直系的家族の日本では、日銀の会議は、内容にかかわらず、総裁の意見に従うことになります。
しかし、それでは、会議を開く意味がありません。
筆者は、日銀の会議は、段落の論理でできていて、パラグラフの論理を無視している点で、まったく、意味がなくなっていると考えます。
日銀の会議は、パラグラフの論理で行われれば、最初に、問いが問題になります。
「問い」は、政策の目標は「2%のインフレ」か、「経済成長」かになるはずです。
この段階で、「2%のインフレ」が、「経済成長」に優先すると主張するのであれば、根拠となるデータと論理を提示する必要があります。
これは、不可能なので、政策の目標が2%のインフレになることはありえません。
つまり、金融専門家の論理は破綻しています。
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異次元緩和、長期戦の様相に 遠のく2%物価目標―日銀15年上期議事録 2025/07/16 President
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025071600197&g=eco
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金融の専門家は、財政破綻させないことは、難しいといいます。
しかし、財団法人経済広報センターのアンケートに見るように、国民は無い袖は振れないことを冷静に理解しています。
問題を難しくしているのは、問題解決が簡単であると失業する金融の専門家です。