1)レイオフの話
パラグラフの論理で考えると理解できないことが多くあります。
2)パナソニックの場合
パナソニックホールディングスは、2025年5月、グループ内の営業や管理部門を中心に早期退職を募るなどして国内・海外それぞれ5000人、合わせて1万人規模の人員削減を行うと発表しました。
2025年3月末時点の従業員数は20万7548人なので、1万人は、4.8%の削減になります。
退職に伴う費用を無視すれば、売り上げがかわらなければ、生産性が4.8%あがります。
3)マイクロソフトの場合
マイクロソフトは2023年1月に1万人を解雇しました。
マイクロソフトがアクティビジョン・ブリザードの大型買収を完了してから3か月後の2024年1月、ゲーム部門でも重複を避けるため1,900人の人員削減を実施しました。
マイクロソフト社の従業員数は2024年6月末時点で22万8000人でした。
マイクロソフト社は、2024年9月に650人の解雇をしました。
マイクロソフト社は、2024年5月に、6000人の解雇を発表しました。
この人員削減については、Chris Westfall氏が解説しています。
<
同社内の情報筋は、この人員調整は、リソースを最適化し、急成長するAIプラットフォームへの継続的な投資資金を確保するための計算されたステップであるという。
ロイターの報道によると、同社が人員削減を行ったのは、AI技術そのものではなく、新たなAI構想への投資のためだという。しかし、サティア・ナデラCEOはシリコンバレーの聴衆に対して、「今日、私たちのレポジトリ上に存在するコードの20%か30%、およびプロジェクトのいくつかは、おそらくすべてソフトウェアによって書かれている」と語った。
ウォール街は今回の人員調整に好意的な反応を示している。マイクロソフトの売上総利益率はここ数年、一貫して60%台後半から70%台前半にあり、機関投資家のお気に入り銘柄となっている。
同社は最近、ウォール街の予想を上回る700億7000万ドル(約10兆3140億円)の四半期収益を報告している。ちなみにナデラCEOは、2025年度にAI関連の取り組みに800億ドル(約11兆7800億円)を費やすと述べている。
アナリストのギル・ルリアは、このような設備投資額を基に考えれば人員削減は当然の結果であり、さらなるレイオフの可能性もあると見ている。ロイター通信によると、ルリアは、「マイクロソフトは毎年、現在の水準で投資を行っており、設備投資による減価償却費の増加を補うためには、少なくとも1万人の人員削減が必要だと考えている」と述べた。
>
<<
マイクロソフトが7000人を解雇、約11兆円の「AI投資資金」確保か 2025/05/14 Forbs
Chris Westfall
https://forbesjapan.com/articles/detail/79135
>>
マイクロソフト社は2025年7月2日、9000人をレイオフすると発表しました。
これは、ルリア氏の予測通りです。
22万8000人から、6000人と9000人を削減すると、6.6%の削減になります。
これは、パナソニックの4.8%を軽く超えています。
パナソニックは、経営効率の改善を目指してしていますが、マイクロソフト社は、更に先に進んでいます。
マラソンに例えれば、パナソニックは、スパートをかけたのですが、マイクロソフト社の加速のほうははやく、差がひらくばかりです。
パナソニックとマイクロソフト社の競合する部分は、あまり大きくありません。
パナソニックとの競争相手は、主に、中国の家電メーカーであると思われます。
中国の家電メーカーのデータは入手できませんが、中国の家電メーカーは、年功型雇用ではないので、マイクロソフト社と同程度のレイオフの自由度を持っていると思われます。
2923年のマイクロソフトのレイオフについて、Jordan Novet氏は、次のように書いています。
<
マイクロソフトは10月に2016年以来最も低い四半期成長を発表した。
マイクロソフトは、収益成長の鈍化に備え、1万人の従業員を解雇すると発表した。
マイクロソフト 同社は水曜日、売上高の伸び悩みに備え、3月31日までに1万人の従業員を解雇すると発表した。同社は第2四半期に12億ドルの費用を計上し、1株当たり利益に12セントのマイナス影響が出る見込みだ。
マイクロソフト株を買い推奨としているエバーコアISIのアナリストらは顧客向けメモの中で、人員削減によりマイクロソフトは今後12カ月で約25億ドル、費用を含めると1株当たり14セントの節約になる可能性があると指摘した。
>
<
マイクロソフトは1万人の従業員を解雇する
Microsoft is laying off 10,000 employees 2023/01/18 CNBC Jordan Novet
https://www.cnbc.com/2023/01/18/microsoft-is-laying-off-10000-employees.html
>
レイオフの費用12億ドルは、「1株当たり利益に12セントのマイナス影響」、「人員削減によりマイクロソフトは今後12カ月で約25億ドル、費用を含めると1株当たり14セントの節約」は、流石にアメリカです。
パナソニックでも、同様の計算が出来ると思いますが、ここまで、シビアに評価している人はいないと思います。
4)生成AIに関する実態調査
PWCが実施した、生成AIに関する実態調査があります。
この調査では、意外なことに、日本企業のAI投資は、アメリカ、英国と同水準にあります。
図表15は、生成AIを導入している企業の割合と効果が期待以上の企業の割合をしめしています。
日本の企業では、効果が期待以上の企業の割合がとても低くなっています。
PWCは、その原因を分析しています。
因果推論の科学でみれば、この違いは、交絡因子の違いになります。
どの交絡因子が効いているかは、正確には、因果推論モデルを作って検証するまでは、不明です。
しかし、メンタルモデルを使った感度分析をすることは可能です。

<<
生成AIに関する実態調査 2025春 5カ国比較 2025/06/23 PWC
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2025.html
>>
図表15をみれば、日本の企業だけが、効果が期待以上の企業の割合がとても低くなっています。
これは、日本にだけあり、他の国にない何かが交絡因子になっていることを示しています。
そこで、年功型雇用が交絡因子であると仮定してみます。
パナソニックとマイクロソフト社の比較でみるかぎり、年功型雇用とジョブ型雇用に違いが交絡因子である場合には、生産性の向上に大きな差が付くことは自明です。
次に、年功型雇用とジョブ型雇用の違い以上に、大きな影響を与える交絡因子を考えます。
残念ながら、筆者には、年功型雇用とジョブ型雇用の違い以上に、大きな影響を与える交絡因子は、思い浮かびませんでした。
つまり、交絡因子として、第1に疑うべきは、年功型雇用とジョブ型雇用の違いになります。
もちろん、これは仮説なので、検証が必要です。しかし、考え方の道筋としては、妥当であると考えます。
PWCのレポートは、日本と日本以外の国で、効果が期待以上の企業の割合に大きな差が出る原因を分析しています。しかし、分析の道筋は、明らかではありません。また、そこには、交絡因子という概念は出てきません。
もちろん、日本には、年功型雇用をしている企業が多くあります。こうした企業は、PWCの重要な顧客なので、PWCは、顧客の逆鱗にふれるようなタブーを書けなかったのかも知れません。
NRIも、株価上昇、あるいは、企業業績に関するレポートを書いています。
中島済氏は、毎年1本ずつレポートを書いています。
概要は以下のとおりです。
<
株価上昇など明るい兆しもみられるものの、衰退に歯止めがかからない日本。打つべき手はさんざん議論されてきたが、改革は遅々として進まない。日本が成長軌道に戻れないのは、古い非効率的なもの、やり方を捨てられないからだ。スクラップアンドビルドのスクラップができないからビルドに集中できないのだ。 今回の「未来創発センター研究レポートVol.18」では、日本復活に向け今リーダーに求められる覚悟について考察する。
>
<<
壊さないから再生しない日本。足りないのはリーダーの嫌われる勇気 2025/01/09 NRI 中島 済
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/20250109_1.html
>>
<
日本経済は停滞が続き、GDPは世界4位に落ちる。新規事業創出、デジタル技術活用、外国人と女性の活用など、成長への課題は明確だ。依然としていい国日本では社会の変革機運を高めるのは容易でないが、強い危機感を持つリーダーが自組織で改革を進め、その動きを広めていくことが日本の変革への道筋となる。
>
<<
課題認識はすでに十分、日本の競争力復活に向けて試されるリーダーの実行力、IMDの国際競争力分析データから見えてくる日本の課題と処方箋 2024/02/07 NRI 中島 済
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/20240207.html
>>
<
日本経済の地盤沈下が進む。一人当たりのGDPも、給与も全く伸びず、もはや先進国の座から滑り落ちそうな状況にある。それなのに社会の危機感は一向に高まらない。
変革の最初のステップは危機感の醸成であり、このステップを飛ばして変革の成功はない。
リーダーには日本復活に向けたあるべき論を説いて満足するのではなく、社会の危機感、変革マインドを高めるための戦略を練り上げ、実行していくことが求められる。
>
<<
先進国から滑り落ちる日本。復活のカギは社会のマインドチェンジ 2023/03/09 NRI 中島 済
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/20230307.html
>>
NRIの中島済氏のレポートで気になる点が4つあります。
第1は、恐らく、タブーだからだと思いますが、PWCのレポートと同様に、NRIのレポートは、年功型雇用を名指しで、問題視していません。
第2に、推論の方法を問題にしていません。中島済氏のレポートも、パラグラフの論理ではなく、段落の論理で出来ているようにみえます。
データ、推論、推論結果の3つに分けて論じていません。
データ、推論、推論結果の3つに分ける場合の推論は、演繹法になります。
中島済氏の推論の中心は、帰納法に見えます。
帰納法を使っている場合には、交絡因子が気になりません。
一方、演繹法(あるいは、アブダクション)をつかえば、交絡因子の影響がすぐに現れます。
第3に、問いの問題です。
「古いやり方を捨てる」は、問いではないと思います。
新薬を開発する時には、投与量が問題になります。
薬の多くは、投与量が少なすぎると効きません。投与量が多すぎると毒になります。新薬の開発では問いに投与量がなければ、問いになりません。
変革量がなければ、効果の検証ができません。
ツイッターをXに変えたマスク氏の場合、ツイッターの従業員を「8割削減」しました。強い薬をのめば、それだけ、大きな副作用があります。
良し悪しは別にして、従業員を「8割削減」すれば、副作用ゼロにはなりません。
従業員を「8割削減」して、問題が生じたとしても、Xは動いています。
「古いやり方を捨てる」の内容が、パナソニックの従業員の5%削減と、ツイッターの従業員の80%削減とでは、同じ問いとは言えません。つまり、パール流に言えば、数的言語がないので、問いになっていないと言えます。
年功型雇用では、ジョブ型雇用に比べて、変革量を大きくとることができないと思われます。
第4に、中島済氏の推論は、反事実を扱っていません。議論は、相関関係に止まっています。
NRIには、反事実を扱うレポートをつくる能力のある人がいるかも知れません。しかし、反事実を扱う因果推論のレポートは、経営者の能力をあぶり出してしまいます。
つまり、反事実は、年功型雇用の解消と同様に、カスタマーがそれを受け入れる準備ができていない場合には、レポートに書くことはできません。
<
日本経済の活力を取り戻すための最適な成長戦略、構造改革を競って問う場には、その具体策、いわゆる成長戦略、構造改革を示して欲しい。そして、将来の日本経済をどのようなものにするのかという国家観を提示した上で、それを達成する成長戦略、構造改革の優劣を各党間で競って欲しい。
石破首相は、少子化対策、東京一極集中の是正と結びついた地方創生を掲げている。自民党の公約でもその具体策を提示して欲しかった。さらに、労働生産性向上には、政府の労働市場改革が必要であり、それが成果を挙げるためには俸給制度のジョブ型への転換やリスキリングの拡大など、企業や労働者の取り組みも合わせて必要となる。
政治だけに任せるのではなく、有権者も関わる形で取り組む、日本経済の活力を取り戻すための最適な成長戦略、構造改革を競う問う場として、選挙を位置付けるべきだ。
>
<<
参院選では物価高対策ではなく日本経済の活力を取り戻す成長戦略の優劣を競って欲しい 2025/07/03 NRI 木内 登英
>>
ここでも、年功型雇用の放棄は、タブーになっています。その結果、「俸給制度のジョブ型への転換」という意味不明な表現になっています。
年功型雇用を解体して、ジョブ型雇用にすれば、俸給制度のジョブ型への転換は不要です。一方、年功型雇用には、ジョブの概念がないので、「俸給制度のジョブ型への転換」は不可能です。2030年までには、生成AIが普及するので、リスキリング(資格獲得)すれば、失業します。
最後に、中島済氏は、「課題認識はすでに十分、日本の競争力復活に向けて試されるリーダーの実行力、IMDの国際競争力分析データから見えてくる日本の課題と処方箋」といいます。このタイトルは、問題の所在を的確に表現しています。
このレポートには、次のように書かれています。
<
社会全体で変革の機運の高まりを待っていたのでは、いつまでたっても状況は変わらない。
となれば、意識の高いリーダーが自らアクションを起こすしかないのだ。
具体的にどうするか
では、どうすればいいのか?IMDの競争力分析の中で低位にランクされた項目、課題をひとつずつ、優先順位を決めてクリアしていくしかない。
>
「課題をひとつずつ、優先順位を決めてクリアしていく」方法は、処方箋(設計図)ではありません。
処方箋は、問い(健康に戻したい、病気が治った状態)、データ(患者)に対して、介入(投薬)します。
パラグラフの論理の図式では、次になります。
患者 + 投薬(処方箋、設計図) => 健康になった患者
マスク氏のツイッターでは、次のようになります。
余剰人員 + 人員削除 => 適正な人員規模
中島済氏は、コッター教授の著書「Leading Change」を引用しています。
しかし、この方法では、設計図を作ることができません。
処方箋を作るには、医学のメンタルモデルが必要です。
ツイッターの余剰人員を削除するには、誰が余剰であるか、つまり、IT企業のビジネスのメンタルモデルが必要になります。
「Leading Change」には、医学のメンタルモデルや、IT企業のビジネスのメンタルモデルは、ありません。
経営学や経済学のメンタルモデルでは、設計図(処方箋)をつくることはできません。
これは、パールが、因果ダイアグラムは、主観であるいう理由です。
トゥールミンが、ワラントは、場に依存する場合があるという理由です。
中島済氏は、経済データを並べて、問題点を列挙しています。しかし、経済データには、医学やITの技術の言葉が含まれていません。
パール流にいえば、中島氏(経済学)の方法には、医学やITの技術の言葉がないので、問いを発することができず、推論することができないことになります。
マスク氏は、どうして、削減する80%の人を選別できたかを考えてみてください。
パラグラフの論理や、原型のトゥールミンモデルをつかっていれば、医学やITの技術の言葉が行方不明になることはありません。
結局、段落の論理が、超えるべきハードルになります。