7)パラグラフの論理
パラグラフの論理は、レシピに例えるとわかりやすいです。
料理は、次のスキーマで出来ています。
材料 + レシピ => 料理
添字をつけて、インスタンスを区別すれば、以下になります。
材料(i) + レシピ(j) => 料理(i,j)
「問い」は、理想の料理です。
理想の料理は、多次元の料理空間の点で表されます。
推奨できる料理(i,j)とは、理想の料理にもっとも距離が近い、iとjを示します。
パラグラフの論理に戻ります。料理のスキームを書き換えます。
材料 + レシピ => 料理
このスキームは、次になります。
データ + アルゴリズム => 処理結果
政策であれば、次になります。
政策の対象者 + 政策の実施 => 政策の結果
パラグラフの論理であれば、距離の採り方(評価関数)について、意見の一致ができれば、議論は、なからず収束します。
パラグラフの論理は、科学の基本論理です。
なお、パラグラフの論理で使うデータは、推論(演繹)に使うデータです。
学習(帰納)に使うデータとは区別する必要があります。
薬の開発の場合、学習に使うデータでは、マウスやサルを多用します。
最終的には、人間に対する有効性をチェックしますが、データ対象の生物が死亡するリスクがあるので、初期の学習では、マウスやサルを使います。
シェフがレシピを作る時に、100g10万円の霜降り牛肉を使うことはありません。
レシピ作成中の場合、成功率はとても低いので、極端に高価な素材を使うことはありません。
学習(帰納)に使うデータと推論(演繹)に使うデータは区別する必要があります。
パラグラフの論理で、複数のデータとアルゴリズムの中から、ベストな組み合わせを抽出する方法では、よりよいデータとアルゴリズムの組合せがある可能性を排除できません。
これは、あくまで、近似解を求める方法です。
とはいえ、段落の論理と比べれば、問題が解ける確率が各段に上昇しています。
8)経営問題
段落の論理(共感の論理)を経営に使う方法では、成功事例をまねする、前例主義になります。
パラグラフの論理を経営問題に使えば、次のスキームになります。
経営改善の対象 + 経営改善の実施 => 利益の増加
オブジェクト指向で考えれば、まず「経営改善の対象」があり、それに対して、「経営改善の実施」を行います。
パラグラフの論理では、経営改善の実施(アルゴリズム)があり、学習(帰納)に使うデータと推論(演繹)に使うデータは区別されます。
問題は、ここからです。
ある企業の幹部が、経営改善計画をたてた場合を考えます。
その経営改善計画は、段落の論理、または、パラグラフの論理で作られています。
論理的には、この2つ以外の第3の論理で作られている可能性もありますが、実用上は、この2つで、十分と思われます。(注1)
パラグラフの論理で、計画が作られている場合には、推論をするアルゴリズムと、推論に使うデータと推論結果があります。さらに、前提には、明確な問いがあります。
したがって、消去法で考えれば、この4点セットがみつからない場合には、段落の論理が使われていると判断できます。
アベノミクスが、パラグラフの論理で作られている場合には、推論に使うデータ、アルゴリズム、推論結果、目的とする問いがあるはずです。
アベノミクスが、パラグラフの論理で作られている場合には計画期間の2年が過ぎても、推論結果が起きない場合には、推論に使うデータとアルゴリズムのどちらかが間違っていることになりますので、パラグラフの論理の修正が行われます。
アベノミクスでは、10年間、パラグラフの論理の修正が行われませんでした。つまり、このことから、アベノミクスは、段落の論理でできていることがわかります。アベノミクスの政策は、検証可能な科学ではなかったことがわかります。
日鉄は「USスチール買収」を行いました。「USスチール買収」には、パラグラフの論理の4点セットがありません。つまり、「USスチール買収」は、段落の論理で行われたことがわかります。
共感(段落の論理)という視点をすてて、科学の論理(パラグラフの論理)で考えれば、黄金株のある「USスチール買収」が、成功を生み出すという推論はできません。今後、日鉄に買収されたUSスチールがどうなるかは、将来のことなので、筆者には、予測できません。しかし、「USスチール買収」が、どのような論理で行われたかというメタ問題を検討することは可能です。
筆者が、段落の論理にこだわる理由があります。
それは、段落の論理が、日本の義務教育に組み込まれて、洗脳されているからです。
9)湯之上隆氏の分析
湯之上隆氏は、日本の半導体製造について、次のようにいいます。
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まず、欧米人は、理論が先にある。そして、開発初期に徹底的に議論を尽くして方針を一本化する。その上で、規格、ルール、ストーリー、ロジックをつくる。逆の言い方をすると、欧米人の技術者は手先が不器用で実験が下手である(というより技術者は一切実験をせず、テクニシャンと呼ばれる職種に任せる文化がある)。
一方、日本人の技術者は、優れた感覚と経験を基に、直感的に手を動かして実験を行う。また、決められた枠組みの中で最適化することを非常に得意としている。しかし、規格やルールを作るのは苦手である。
このように、日本人と欧米人では、発想や行動様式がまったく異なる。それが、装置などのシェアの高低につながっていると推測できる。
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半導体製造装置と材料、日本のシェアはなぜ高い? ~「日本人特有の気質」が生み出す競争力 湯之上隆のナノフォーカス(45)2021/12/14 湯之上隆、 亀和田忠司
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2112/14/news034.html
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筆者には、この説明は、欧米人は、パラダイムの論理を使うが、日本人の技術者は、段落の論理をつかっているという事実を示しているように思われます。
パールは、「因果推論の科学」(p.531)で、次のようにいいます。
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一世代前には、海洋科学者がある種の魚について知りたいと思えば、数か月という長い時間を費やす必要があった。だが今では、ほぼどのような生物についてもすでに大量のデータが用意されていることが多い。ある種の魚について知りたいと思えば、ネットワークにアクセスするだけで、その魚の卵や胃の内容物などについてまで瞬時に詳しいデータを得ることができる。つまり、生物学者はデータの収集に手間と時間をかける必要がほとんどなくなったということだ。そのデータを利用して自分なりの新たな物語を作るのが生物学者の仕事になった。
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ここには、生物学は、新たな物語(論理)であり、データの収集に手間と時間をかけることは、必要悪であるという視点が見えます。
なお、パールが、20世紀生物学の金字塔であるというライトの統計的な「パス解析」は、日本の高校教育で教えられていないようです。
湯之上隆氏は、ラピダスについて、次のようにいいます。
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ラピダスが2nmを量産できない理由
第1に、2nmの開発にはとびきり優秀な技術者が500人程度必要である。また、2nmの量産には熟練の生産技術者が1,000人ほど必要である。これら1,500人の超優秀な技術者は日本におらず、ラピダスが集められるとは思えない。
第2に、2nmの開発と量産にはオランダのASMLだけが供給できる最先端露光装置のEUVが必要となる。しかし、ラピダスがEUVを導入するのは24年末になるうえに、EUVを使いこなすことができないだろう。
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日本が世界半導体産業ではたすべき役割とは 日本の製造装置のシェア低下が止まらない(後) 2023/09/19 NetIB-News 湯之上隆
https://www.data-max.co.jp/article/66443
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パール流に言えば、優秀な技術者が必要な理由は、技術開発には、技術の言語を使って「データを利用して自分なりの新たな物語を作る」必要があるからです。
つまり、パラグラフの論理でかんがえれば、ラピダスはありえないといえます。
注1:
トゥールミンのモデルについては、別途、述べます。