2030年問題(7)

1)多様性

 

2025年6月19日の日経新聞に、投資家の取締役賛否基準の例として、「取締役の多様性の基準を求める機関投資家の数が、2018年の0(ゼロ)から、2024年には、37と急激に増えている」と述べられています。

 

多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長を左右すると主張する人が多くいます。

 

<「ダイバーシティは企業の成長につながる」は本当か?>といった問いを設定して、解説している人もいます。それには、参考文献がたくさんついています。



多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながるのでしょうか。

 

読者が、段落の論理(共感の論理)に洗脳されている場合、読者が「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」という命題を否定するには、勇気が必要になります。

 

しかし、段落の論理は、科学的な間違いです。

安易に、「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」という命題を信じることは、科学的な間違いです。

 

それでは、この問題は、どのように整理して考えるべきでしょうか。

 

チェックのポイントは、3つあります。

 

第1は、パールが言うように、一見すると問いに見える「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」は、問いになっているか、数的言語を使って表現できているかという点です。

 

第2は、第1点の補則で、命題を導く推論に間違いがないかを点検する方法があります。

 

第3は、仮に、命題が正しいとして、トランスポータビリティがあるかという点です。

 

順番を入れ替えて説明します。

 

2)第2点(第1点の補則)命題を導く推論の間違い

 

20年前に出現した因果推論の科学以前の手法では、相関と因果の区別ができていないので、エビデンスレベルでは、ほぼ、間違った論文になります。まず、たいていは、間違いであると考えて検討をスタートすべきです。

 

ジャッジ着き審査に通った論文が正しい、古典の主張は正しいと考える根拠はありません。

 

ジャッジ着き審査に通った論文は、その論文が扱ったデータに対して、相関と因果の区別が不要な場合にのみ正しいと言えます。

 

科学の論文は、論文で扱ったデータに対して、その仮説命題が正しいことを主張するものであり、それ以外のデータについては、何も言いません。論文の仮説命題を、その論文であつかったデータから切り離して考えることはできません。

 

これは、ニューラルネットワークが、学習に使ったデータに依存するのと同じ関係です。

 

A社を調べて、仮に、「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」という命題が正しいことが確認されても、そのことが、B社でも、「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」という命題が成り立つこと意味しません。

 

これは、A社では、「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」という命題が成り立ったという前例を、B社に適用できる科学的な根拠がないことを意味します。

 

前例主義を唱える人には、科学のリテラシーがありません。

 

これは、「因果推論の科学」(p.213)で取り上げられているダイエット法の例題になります。

 

前例主義が破綻する主な原因は、交絡因子の無視に相当します。

 

引用文献は、交絡因子があるので、そのまま使えません。

 

また、古典は、その当時の知識レベルを反映しているので、現代では誤りであることが多いです。

 

パールは、「因果推論の科学」は、ヒュームから始まるといいます。ヒュームは、アリストテレスの4原説を推論に使えないとして否定しました。アリストテレスが正しいという前提で、議論を始めれば、因果推論の科学はありません。また、パールは、ピアソンの相関係数は、因果推論には使えないとして否定しています。フィッシャーのRCTについても、RCTは交絡因子を排除する手法の一つであって、因果推論の唯一の方法ではないと主張しています。

 

科学は、古典の理論を乗りこえることによって発展します。古典の引用を、推論の正しさの根拠として使うことは、否定されています。

 

3)第3点(トランスポータビリティ)

 

トランスポータビリティは、因果構造の概念の一部です。

 

因果推論の科学の言語がない場合には、メンタルモデルがないので、トランスポータビリティを考えることができません。

 

「海外の先進事例では」という人がいれば、「トランスポータビリティがありますか」と切り返しましょう。

 

なお、「海外の先進事例」が使えない原因は、交絡因子であり、交絡因子が取り除ければ、「トランスポータビリティができる」ことが多いです。

 

4)第1点(数的言語を使った問い)

 

ここでは、確率の数的言語を使ってみます。

 

「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」という命題は、問いではありません。

 

筆者は、問題意識は、「どうしたら企業の成長が最大化できる」かにあると考えます。

 

この前提に立てば、「企業の成長が最大化できる(人材の)多様性を求める」が問いになります。

 

多様性は、少なくともベクトル変数です。とはいえ、ベクトルの要素を指定しないと解くことができません。

 

さて、企業の多様性については、確率変数を使った研究が少ないので、ここでは、類似の課題で、この問題のメンタルモデルをつくります。

 

例題は、株式市場です。

 

読者は、手元に1000万円をもっていて、運用益を最大化する投資方法を考えるとします。

 

もっとも多様性の少ない方法は、1000万円で、1社の株式を購入する方法です。

 

しかし、この方法はリスクがあるので、薦められません。

 

分散投資が推奨されます。

 

「多様性(ダイバーシティ)は、企業の成長につながる」という命題は、ともかく分散投資をすべきであるに対応しています。

 

しかし、なんでも良いから分散投資をするのでは、トレーダーは務まりません。

 

一般には、50%程度をETFや債券にあてます。これは、現在業績のよい会社は、将来も業績が良いという仮定を受け入れることになります。EFTには、複数の企業の株式が含まれますので、若干の多様性があります。「現在業績のよい会社は、将来も業績が良いという仮定」には、科学的な根拠がありませんが、時定数が大きな場合には、概ねあてはまります。

 

残りの50%は、将来の設計図に合わせて購入します。これは、将来、どの企業が伸びるかという予測に依存しています。

 

2つの投資先グループの比率は、購入する銘柄は、過去の実績を見ながらモデルをチューニングして決めていきます。

 

こうして、運用益を最大化する投資方法(多様性のある銘柄のセット)は、数的言語を使うことで、コンピュータに実装され、解決可能な問いになります。

 

さて、話を「企業の成長が最大化できる(人材の)多様性解」に戻します。

 

EFTのような時定数の大きな50%の人材は、既存の知識の習得能力に対応します。

 

時定数の大きな人材はOJTで鍛える方法もありますし、既存の知識の習得の能力の高いブランド大学の卒業生を採用すればよいでしょう。しかし、時定数の大きな人材は、生成AIで簡単に代替可能なので、5年もすれば、企業の足手まといになるリスクが高いです。

 

一方、残りの50%は、将来の設計図に合わせて、採用する必要があります。

 

これは、設計図に合わせてジョブを決めないと採用できません。

 

つまり、年功型雇用で、「企業の成長が最大化できる(人材の)多様性解」を求めることは、基本的には、不可能です。

 

米オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は6月17日、マーク・ザッカーバーグCEOが率いる米メタが転職の契約金として1億ドル(約145億円)を提示したと明らかにしました。

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米メタ、オープンAI社員の引き抜きに「契約金145億円」 アルトマン氏が苦言 2025/06/19 CNN

https://news.yahoo.co.jp/articles/6fad3dc603cd1a1183b1172ac73aea4d8b2648ac

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AIを先導的に開発できる数学の天才は、世界中に1000人程度しかいないと言われています。ザッカーバーグCEOの人材の多様性の解は、1億ドルの転職の契約金でした。転職は、成功しませんでした。

 

ザッカーバーグCEOは、数的言語をつかって、人材の多様性の問いを立てることができました。

 

日本のIT企業には、ザッカーバーグCEOのように数的言語をつかって、人材の多様性の問いを立てることができる経営者がいないのではないでしょうか。