財政問題の論点(3)

1)設計図の問題

 

イラン・イスラエル危機について、アメリカのシンクタンクは、ほぼ100%政治分析を出しています。

 

これは、イラン・イスラエル危機は、誰か(ある組織)の意図(設計図)を実現したものであるという信念を反映しています。

 

意図(設計図)が、100%実現することはありませんが、意図(設計図)のない結果が得られる確率は、宝くじにあたるようなものであると考えられます。

 

したがって、イラン・イスラエル危機は、だれの意図(設計図)に基づいているかを考えることは重要です。これは、政治分析になります。

 

もちろん、この設計図の推定問題に対しては、科学的な検証は困難です。だからといって、推定問題を放棄するわけにはいきません。

 

イスラエルは、イランの核開発の要人を殺害しました。これは、綿密な設計図があって初めて可能になります。

 

イランには、核開発の要人がいました。帰納法で、いくら分析しても、核開発の要人を排除する方法は見つかりません。

 

「イランには、核開発の要人がいる」は、事実です。

 

「イランから、核開発の要人を排除する」は、最近までは、反事実でした。

 

反事実を扱えない推論では、問題解決ができません。

 

アメリカのシンクタンクは、反事実を扱います。次に、イラン・イスラエル危機で、今後、何が起きるかは、反事実の問題です。

 

日本のシンクタンクは、反事実を扱うことができません。日本のシンクタンクは、イラン・イスラエル危機がまるで存在しないかのように、沈黙を続けています。

 

パールの「因果推論の科学」の第3章の冒頭(p.150)には、ホームズの推理の話が出てきます。この中で、パールは次のようにいいます。

ホームズの推理は、このように帰納法演繹法が組み合わったものなのだが、2つの中では、帰納法の方がずっと神秘的で不可解である。ホームズが仕事にあぶれることがないのもそのおかげだろう。

 

この発言から、アメリカでは、原則的には、神秘的で不可解な帰納法は用いられないことがわかります。

 

この発言から、アメリカでは、原則的には、前例が用いられないことがわかります。

 

日本では、行政の継続性(前例主義)が、正義であるという主張がなされますが、アメリカでは、帰納法が用いられないので、行政の継続性(前例主義)という概念はありません。

 

ロケットを開発するときに、設計図の継続性を問題にすれば、技術進歩が止まってしまいます。

 

社会制度の設計図が法律であり、政策です。そこには、問題点の改善と進歩が必要ですが、継続性は不要です。

 

継続性は、身分制度の言い換えであり、この議論は、法度体制の維持を目的としています。

 

イラン・イスラエル危機についてのアメリカのシンクタンクの政治分析は、演繹法になります。

 

イラン・イスラエル危機のような政治的なイベントは、政治的な設計図に基づくと考えれば、帰納法は無効なので、設計図の推定が最大のテーマになります。

 

2)正解のない時代

 

「正解のない時代」とは、過去の経験や常識が通用しなくなり、固定的な「正解」が求められない状況を指します。

 

「正解のない時代」という表現には、2つの問題があります。

 

第1は、パールがいう<数的言語がなければ、「問う」ことができない。「問う」ことができなければ、推論をすることができない>という問題です。

 

「正解のない時代」という発言をする人は、数的言語を持たないので、「問う」ことができない人であることがわかります。

 

この場合、「正解のない時代」という発言は、「問い」ではないので、検討に値しません。コンピュータサイエンスでは、「正解のない問い」はありません。コンピュータサイエンスでは、「正解のない問い」と発言すれば、顔を洗って、出直してこいと言われます。コンピュータサイエンスでは、少なくとも近似解のない「問い」はありません。

 

第2は、帰納法の問題です。

 

「過去の経験や常識が通用」するのは、帰納法が正しい場合だけです。数学のような演繹法は、間違えませんが、帰納法は間違えます。

 

経験則には、価値はありません。

 

データがあれば、AIを使えば、簡単に、経験則を導きだすことができます。

 

AIの推論の正しさは、学習したデータに依存します。

 

経験則が将来も通用するか否かは、学習につかったデータと今後発生するデータの類似性に依存します。

 

学習につかったデータがなければ、その判断はできません。

 

一般に、教養(経験則)には、学習につかったデータが残っていません。なので、教養は役に立ちません。

 

帰納法による推論は、科学的な正解ではありません。

 

イラン・イスラエル危機の前には、「イランには、核開発の要人」がいました。

 

この時のデータ(事実)から、帰納法によって、「イランには、核開発の要人が必要である」という経験則が導けます。

 

もちろん、「イランには、核開発の要人が必要である」という経験則(前例主義)は、科学的な正解ではありません。

 

過去のデータを調べれば、「日本には、女性天皇がほとんどいない」という経験則が導けます。

 

しかし、この経験則は、「イランには、核開発の要人が必要である」という経験則と同じレベルの価値しかありません。

 

この経験則から、「日本には、女性天皇があるべきでない」という結論を導き出すのは、科学的に間違っています。

 

つまり、帰納法による推論は、多くの場合、破綻しています。これが、アメリカでは、帰納法が用いられない理由です。また、これが、アメリカでは、経験の価値を過度に評価しない(ジョブ型雇用をする)理由です。

 

日本では、科学的に間違った帰納法が多用されます。

 

その原因は、パラグラフの論理を否定した、段落の論理(共感の論理)にあります。

 

推論の科学的な正しさより、共感の量の大きさが、推論の選択をする基準になっています。

 

段落の論理は、作文を通じて、義務教育に組み込まれています。

 

3)中央教育審議会

 

教育制度の設計図は、中央教育審議会の答申に基づきます。

 

中央教育審議会は、段落の論理に汚染されていて、科学的な推論ができません。

 

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予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ(審議まとめ)平成24年3月26日 中央教育審議会大学分科会 大学教育部会

https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2012/04/02/1319185_1.pdf

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経済を中心とするグローバル化少子高齢化、情報化といった急激な社会の変化の中、労働市場や産業・就業構造の流動化などによって将来予測が困難になっている今の時代を生きる若者や学生にとって、大学での学修が次代を生き抜く基盤となるかどうかは切実な問題である。予測困難という点は産業界や地域社会にとっても同様であり、変化に対応したり未来への活路を見いだしたりする原動力となる有為な人材の育成を大学に求めるようになっている。さらに、大学が機能別分化を進めつつ学士課程教育の質をどう高めていくかは、高等教育政策の中心課題となっている。

 

このような時代にあって、若者や学生の「生涯学び続け、どんな環境においても“答えのない問題”に最善解を導くことができる能力」を育成することが、大学教育の直面する大きな目標となる。学士課程教育は、学生の思考力や表現力を引き出し、その知性を鍛え、課題の発見や具体化からその解決へと向かう力の基礎を身につけることを目指す能動的な授業を中心とした教育が保証されるよう、質的に転換する必要がある。大学には、その転換に早急に取り組む責務がある。

 

教育効果については、エビデンスに基づく検証が必要になります。

 

中央教育審議会は、数的言語を持たないので、エビデンスに関する「問い」を発することができていません。

 

エビデンスに基づく検証の例は、「因果推論の科学」(p.511)の「媒介に関する研究の実例ーみんなの代数学」にのっています。

 

この実例と文部科学省のHPのエビデンスに基づく教育を比べれば、数的言語を持たないと何がおこるかが理解できます。

 

日本のWEB上にあるエビデンスに基づく教育の表記の90%は、数的言語を持たない間違った表記である点に注意してください。

 

演繹法(設計図)に基づけば、教育の改善は、設計図(中央教育審議会の答申)の改善になります。帰納法で、過去のデータ(事実)を扱っても、そこには、問題解決(反事実)はありません。

 

<経済を中心とするグローバル化少子高齢化、情報化といった急激な社会の変化の中、労働市場や産業・就業構造の流動化などによって将来予測が困難になっている今の時代>で、中央教育審議会は確率のメンタルモデルをもっていないので、状況が理解できないと言っています。

 

少子高齢化、情報化>といったオブジェクト(変数名)のインスタンス(値)は、確率分布です。よく見るほとんどのオブジェクトは、確率変数です。ベイジアンネットワークを使ったAIは確率変数を理解しています。中央教育審議会は、確率変数を理解できないので、AIに勝てないと言っています。

 

中央教育審議会の答申を見ると、中央教育審議会には、演繹法に基づいて、設計図を描く能力がないことがわかります。

 

「将来予測が困難」には、各段の意味はありません。将来は、確率的にしか予測できません。

 

橘玲氏は、「テクリバタリアン」のなかで、マスク氏のようなテクノリバタリアンは、ベイズの定理に従って、意思決定をしていると言います。

 

将来は、確率的にしか予測できませんので、テクリバタリアンは、ベイズの定理(条件付き確率)に基づいて、意思決定しています。

 

確率の数的言語が使えれば、「大学のカリキュラムを、条件付き確率に基づいて、動的に変動させれば、良いか」という「問い」を発することができます。

 

この「問い」には、まだ、問題がありますが、少なくとも「将来予測が困難」といって、カリキュラムの作成を放棄するよりはマシです。

 

この形而上学のカリキュラム(カリキュラムの作成の放棄)では、悲惨な学力低下が起きます。それは、過去の設計図(中央教育審議会の答申)の間違いの繰り返しになります。

 

もちろん、数的言語に基づいて、「問い」を発すると、数的言語のない文系は消滅してしまいます。このため、利害関係者である中央教育審議会は、反対しています。

 

4)骨太の方針

 

さて、話題が遠回りしましたが、テーマは、財政問題です。

 

財政問題の設計図は、骨太の方針です。

 

行政のトップのトランプ大統領が、議会を無視して、大統領令を乱発するのは、憲法違反です。

 

同様に、行政のトップの閣議が、国会を無視して、骨太の方針を乱発するのは、憲法違反です。

 

骨太の方針は、日本の政策の設計図です。

 

コメの価格があがりましたが、それは、骨太の方針の設計図に書かれています。

 

日本経済は、30年停滞しましたが、それは、骨太の方針の設計図に書かれています。

 

石破総理は、「2040年に名目GDP1000兆円の経済」(16年間実質成長1%)を掲げましたが、骨太の方針の設計図に書かれていなければ、それは実現しません。

 

今回の骨太の方針は、日本経済が30年停滞したときの骨太の方針と大差がないので、「2040年に名目GDP1000兆円の経済」は実現しないことがわかります。

 

アベノミクス骨太の方針は、大規模金融緩和でした。

 

小幡績氏は、次のようにいいます。

「資金調達ができなくなったとき」が「実質財政破綻」の定義になる。20世紀であれば、国債発行残高の過半数を日銀が保有している異次元緩和イコール財政破綻とみなされただろう。

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日本の「財政破綻」はすでに始まっているが、それが誰の目にも明らかになる「きっかけ」は何か? 考えられる「4つのシナリオ」2025/05/11 東洋経済 小幡 績

https://toyokeizai.net/articles/-/881357

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つまり、アベノミクス骨太の方針には、財政破綻の設計図が組み込まれていました。

 

設計図に組み込まれた要素(原因)がいつ実現する(結果)かは、ケースバイケースです。

 

しかし、原因がなければ、結果は生じません。

 

USスチール買収をめぐる日鉄と米政府との交渉は、トランプ政権に「黄金株」を譲渡することで決着しました。その交渉の内幕と合意の具体的な内容について、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が、米政府に相当な権限を与えるというトランプ政権の要求に、日鉄側が譲歩したかたちであると伝えています。

 

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米紙が報じた「USスチール“黄金株”をめぐり日鉄が譲歩するまでの内幕」2025/06/17 Courrier

https://news.yahoo.co.jp/articles/2acbcbf889fd52187ad9ea46f728bd5af8be7f49

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USスチールの黄金株に関連して、 野口悠紀雄氏は、S&Pの評価を次のように紹介しています。

 

信⽤格付け会社のS&Pは、23年時点の⽇鉄のUSスチール買収計画に対して、買収後、同社の主要財務指標が悪化する可能性が⾼いと指摘していた。特に、買収による財務負担の増加が信⽤⼒に⼤きな影響を与える可能性があるとした。

 

そして買収が進み、かつ投資資⾦の調達が負債を中⼼に⾏われた場合、「クレジット・ウォッチ」(CW)解除時に同社の格付けを1〜2段階引き下げる可能性があるとした(「クレジット・ウォッチ」とは、格付け会社が特定の企業の格付けの⾒直しを検討していること)。

 

さらに5⽉末には、次のように評価していた。

 

「追加での巨額投資により、同社が短期間で⼤きな財務負荷を負うことが確実になれば、同社の格下げは2段階にとどまらない可能性があるとS&Pは考える」(S&P「⽇本製鉄のUSスチール買収、財務負荷増せば信⽤⼒に⼤きな負担」25年5⽉26⽇付)

 

つまり、現在考えられている買収計画は、23年の当初計画に⽐べて⽇鉄の⽴場から⾒て問題を拡⼤したと判断されたのだ。

 

⽇鉄の現在の格付けはBBB+(倒産確率0.3〜0.5%︓投資適格)だが、3段階下がれば、BB+(倒産確率3〜5%︓投機的)となり、⽇鉄の社債はジャンク債になる。これは非常に強い警告だ。

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「鉄鋼50%関税」で日鉄USスチール買収の疑問は氷解!?鉄鋼戦争は「米日vs世界」の構図へ 2025/06/05 Diamond 野口悠紀雄

https://diamond.jp/articles/-/366130

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日本が、いつ財政破綻するかはわかりません。同様に、⽇鉄の社債が、いつジャンク債になるかはわかりません。

 

しかし、演繹法(設計図)に基づけば、黄金株によって、今までなかった⽇鉄の社債がジャンク債になるルートが、経営の設計図に組み込まれたことになります。

 

S&Pは、演繹法(設計図)に基づく推論をしています。

 

日本の企業は、中国で、中国企業との合弁会社を作りました。株式の51%は、中国企業が持っています。これは、黄金株と同じシステムです。

 

過去の売り上げの実績からみれば、中国企業との合弁会社は成功したように見えます。

 

しかし、株式の51%は、中国企業が持っていますので、この方法では、技術流出を止めることはできません。また、最終的な経営権もないので、撤退は困難になります。

 

帰納法で推論しても、リスクは評価できません。演繹法(設計図)に基づけば、中国企業との合弁会社は、売り上げが多くとも、長期的には、技術流出と経営権の引き渡しになることがわかります。

 

実際に、2010年代に入って、日本の家電メーカーは、中国の家電メーカーに負けています。

 

もしも、日本の家電メーカーの経営者が、演繹法(設計図)に基づく推論ができれば、日本の家電メーカーの輸出能力がなくなることはなかったことがわかります。

 

もちろん、そのことは、文系の帰納法(前例主義、成果主義)では理解できません。

 

確率の数的言語が理解できて、演繹法(設計図)に基づく推論ができる必要があります。

 

演繹法(設計図)に基づく推論は、反事実を対象にすることに注意してください。

 

成果主義帰納法)は、無効です。

 

石破首相は、トランプ大統領との対談で、「日本の国会では、もしもの議論はしないルールになっている」といいました。

 

これは、反事実思考の放棄であり、問題解決の放棄です。

 

「日本の国会では、もしもの議論はしないルール」になっていれば、失われた30年を継続する意図があったと言えます。

 

骨太の方針には、失われた30年を継続する設計図が書かれていると言えます。

 

パラグラフの論理では、最初に何について議論するかを決めます。

これは、「問い」の設定です。

 

財政問題の「問い」は、骨太の方針の点検から始めるべきです。