2)数的言語
2-1)ストックとフロー
唐鎌大輔氏は、次のようにいいました。
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対外純資産残高の順位の変動自体に意味はない。思考の順序としては経常黒字が原因、対外純資産が結果であり、結果の変動に大騒ぎしても本質は見えない。
>
経常黒字は、フローで、対外純資産はストックです。
ストックとフローの関係を記述する数的言語は、微分方程式です。
つまり、唐鎌大輔氏の発言をパール流に言い換えれば、「微分方程式という数的言語がなければ、対外純資産残高と経常黒字について、問いを発することができない。問いを発することができなれば、考えることができない」になります。
微分方程式という数的言語のメンタルモデルを持たない文系の有識者は、「対外純資産残高と経常黒字について、考えることができない」はずです。
「フローに介入した時に、ストックがどうなるかという問い」は、微分方程式がなければ、推論できません。
ストックに対応する現象は、貯蔵だけではありません。
自動車には慣性があります。
自動車の速度はストックであり、フロー(加速度、アクセル、ブレーキ)の影響を受けます。
フローの概念には、時間微分が含まれます。
自動運転車は、大まかには、微分方程式を解いて、アクセルとブレーキの効果を計算しています。
アクセルをふかせば、スピードがあがります。
この現象は、時間微分がなくとも、差分方程式で表現できます。
しかし、10秒後のスピードを計算するためには、時間微分が必須になります。
2-2)差分方程式
日本語版のウィキペディアの日本の財政問題には、次のように書かれています。
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日本の財政問題は、日本政府や行政機関において歳出が税収を上回り、公的債務の絶対額及びGDP比の債務比率が拡大し続けていることを問題視する議論である。
>
これを、唐鎌大輔氏流に言えば、次になります。
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公的債務の絶対額及びGDP比の債務比率の変動自体に意味はない。思考の順序としては「歳出が税収を上回る」ことが原因、公的債務の絶対額及びGDP比の債務比率が結果であり、結果の変動に大騒ぎしても本質は見えない。
>
つまり、議論すべきは、「歳出が税収を上回る」ことです。
毎年の「歳出と税収の差額」を、差分方程式で、積み上げれば、公的債務の絶対額が計算できます。
しかし、この方法には、時間微分のフローがありません。
この方法では、いつ財政破綻するかという「問い」を発することができません。
力学の微分方程式で言えば、連続方程式はありますが、運動方程式がありません。
ベンチャー企業は、立ち上げ当初は赤字です。それでも、企業がつぶれない理由は、ベンチャー企業が将来稼いで、赤字を返済できるという期待があるからです。
同様に考えれば、日本の財政が破綻する最大の原因は、公的債務の絶対額ではなく、赤字を返済できるという期待がなくなることです。
筆者は、「赤字を返済できるという期待」の最大の要素は貿易黒字であり、貿易黒字の絶対額とそのトレンドであると考えます。
唐鎌大輔氏が作成した図を再度引用します。

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GDPに続いて対外純資産でもドイツに抜かれた日本、順位の変動以上に重要な論点は「残高」よりも「構造」 2025/05/30 JBPress 唐鎌大輔
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/88606
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日本の貿易収支は、赤字です。トレンドは、2011年以降、減少が続いて、マイナスになりました。
3)確率の数的言語
財政均衡に関する研究は。膨大な蓄積があります。
例えば、次のような文献を見れば、概要がわかります。
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1 財政の持続可能性と財政運営の評価 加藤久和
https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/others/kanko_sbubble/analysis_05_01.pdf
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しかし、ここでは、「問い」が出来ているかという点を問題にしたいのです。
例えば、癌になれば、平均余命が計算できます。
タバコを吸えば、癌になる確率があがるので、タバコを1カートン吸った場合に、平均余命が何日減少するかという期待値が得られます。
唐鎌大輔氏が主張するように、原因は、フローの「支出と税収の差額」にあります。
この差額が変われば、財政破綻するリスクが計算可能なはずです。
この計画によって、50%の確率で財政破綻するまでの日数は、何日、短くなるのでしょうか。
数的言語があれば、こうした問いを発することは可能です。
消費税を減税しなくとも、「歳出と税収の差額」が、マイナスであれば、財政破綻までの平均余命は毎年短くなっているはずです。
なによりも、確率リスク指標が使われていないことは、政府は、確率の数的言語を持たないので、「問い」を発することが出来ていないことを示しています。
政府が、確率の数的言語を理解していれば、プライマリーバランス問題は解決済みのはずです。リスクには、マイナスの利子がつきます。この点を理解していれば、問題を先送りすることには、何のメリットもないことがわかります。
政治家は、次の選挙の投票率のことしか頭にないかも知れません。
政治家は、確率の数的現を理解してないかも知れません。
その場合でも、収入の一部を税金で受け取っている科学者には、正しい情報を国民に提示する社会的な責任があると思います。
文部科学省は、新しい学習観を提示しています。
しかし、そこには、世界標準の<数的言語がなければ、「問い」を発することができない>という基本的な学習観が欠如しています。
世界標準では、数学の試験のない大学入試はありえません。AO入試でも、数学の能力評価は必須になります。
曽野綾子氏は、中学教科書において必修とされていた二次方程式の解の公式を、作家である自分が「二次方程式を解かなくても生きてこられた」「二次方程式などは社会へ出て何の役にも立たないので、このようなものは追放すべきだ」と発言したことを夫・三浦朱門が紹介しています。
三浦朱門氏は教育課程審議会で「二次方程式の解の公式」の削除を主張し、現行中学課程で「二次方程式の解の公式」は必修の事項ではなくなりました。
曽野綾子氏は、ゆとり教育の導入を決定した中曽根政権における臨時教育審議会(臨教審)のメンバーを務めています。
曽野綾子氏は、2013年第二次安倍内閣における教育再生実行会議の第一次有識者メンバーにも選任されました。
曽野綾子氏と三浦朱門氏は、数的言語をもっていませんでした。両氏は、数的言語を持たないので、数学のカリキュラムを変更した場合について、「問い」を立てることも、推論することもできませんでした。
<「二次方程式を解かなくても生きてこられた」「二次方程式などは社会へ出て何の役にも立たないので、このようなものは追放すべきだ」という発言>は、統計学の言語では、サンプリングバイアスのある科学的間違った推論になります。しかし、そのことを理解するには、統計学の数的言語が必要です。
過去の経験が有効である場合は、歴史が繰り返す場合に限定されています。どのような場合に、歴史は繰り返すかという問題は、トランスポータビリティ問題などと呼ばれ、最近の数学の大きなテーマになっています。
また、「二次方程式を解かなくても生きてこられた」は、数的言語をもっていなかったこと指しますので、ここには、数的言語をもっていた場合についての情報はゼロです。したがって、「二次方程式などは社会へ出て何の役にも立たない」は、論理的に破綻した(推論不可能な)推論です。
これは、「二次方程式」を他のキーワードに置き換えれば、すぐにわかります。
コロナウイルスが流行した場合には、次になります。
「コロナウイルスのワクチンを接種しなくても生きてこられた」
「コロナウイスルのワクチンは社会の何の役にも立たないので、このようなものは追放すべきだ」
このように、数的言語がないと破綻した推論を繰りかえすことになります。
この推論には、インスタンスがないので、検討不可能であるともいえます。
ゆとり教育の導入では、このような破綻した推論が繰り返されました。
破綻したカリキュラムでできたゆとり教育の失敗は、始まる前から、予測可能でした。
日本は、中教審の計画通り、科学技術立国から脱落しました。
数的言語を持たない文系の推論は、科学的に破綻しています。
記号操作のできるAIは、数的言語を理解することができます。
これから、数的言語を持たない文系の人材に、何が起こるかは、自ずとわかります。