2030年問題(2)

1)社人研の人口予測

 

前回、出生率の減少率の「ー6.0」を問題にしました。

 

「社人研」の人口予測は、毎回外れまくっています。

 

予測ですので、外れることは止むを得ません。

 

しかし、科学の方法論でみれば、社人研の予測には、致命的な問題があります。

 

天気予報は、予測です。

 

天気予報は、外れることもありますが、科学的な方法を使っているため、次の2つの特徴があります。

 

第1に、予測モデルは随時改善され、予測の精度が上がっています。

 

第2に、予測の外れ方は中立です。

 

例えば、降水確率の予報が、50%で、雨が降る場合と雨が降らない場合の数が等しくなるように調整されます。

 

「社人研」の人口予測には、第1の予測の精度向上が見られません。

 

より大きな問題は、第2の予測の中立性が全くない点です。

 

「社人研」の予測の問題点は、次の2つに原因があると思われます。

 

第1は、外生変数の出生率の設定法です。

 

「社人研」は、トレンド予測を使っています。

 

時系列は、因果ではないので、トレンド予測には、科学的な根拠はありません。

 

トレンド予測が有効になるためには、因果構造が変化していない必要があります。

 

出生率の変化には、実質所得の減少(貧困問題)が関係しています。

 

出生率を予測するモデルを作ることが可能です。

 

例えば、「実質所得の減少(原因)=>出生率の低下」という因果モデルは検討するに値すると思われます。

 

第2は、「社人研」の予測は、ベイズ推定になっていないので、予測が当たる確率が計算できないことです。p値は使えません。

 

2)カッツ氏のモデル

 

リチャード・カッツ氏は、次のように言います。(筆者要約)

税によって消費財の価格が10%上昇し、名目所得がまったく増加しない場合、実質所得は10%減少する。日本の1人当たりのGDP国民所得を構成する要素の一つ)が過去30年間で25%増加したにもかかわらず、1人当たりの実質可処分所得、つまり税引き後の所得はまったく増えていない。ギリシャを除けば、これほど豊かな国でこのような状況にある国を私は他に知らない。

 

人々の所得が伸び悩めば、当然ながら消費は困難になる。では、所得が横ばいであるにもかかわらず、日本の消費者はどのようにして消費を増やしてきたのだろうか?

 

30年前から、2012年までは、日本の消費者は、貯蓄を取り崩すことによって消費を増やしてきた。しかし、2013年以降、貯蓄率は平均で所得のわずか0.7%にまで低下した。(コロナ禍の特異年を除く)その結果、1人当たりの実質消費支出は2013年から2024年にかけてほとんど伸びていない。

 

国民所得が増加しているにもかかわらず、家計所得が増加していない、その超過分の所得の

かなりの部分は、余剰利益を積み上げている企業に流れている。「日本は復活した」と主張する人々は、しばしば企業の利益増加を指摘する。しかし、その利益の大部分は賃金上昇の抑制によってもたらされたものだ。

 

現在の従業員1人当たりの企業収益は、30年前の1996年と比較して2倍になっている。しかし、生産性の指標である従業員1人当たりの売上高はわずか20%の増加に過ぎない。そして、従業員1人当たりの賃金は、実質的にはまったく上昇していない。賃金の抑制は、国民から企業へと所得を移転させている。

 

さらに、社会保障給付費は高齢者1人当たり290万円から210万円に減少し、物価変動を考慮すると30%もの大幅な減少となっている。家計にかかる税負担(消費税、所得税社会保険料)は、税引き前所得の16%から23%へと増加している。自民党は、国民への増税と企業への減税を同時に進めることで、事実上、家計から企業、特に大企業へと所得を移転させている。

 

消費税は過去35年間で着実に上昇し、現在では消費者の可処分所得の9%を奪っている。対照的に、1990年代初頭には、企業は利益の45から50%を税金として政府に納めていた。それが今ではわずか15から18%に低下している。

 

1980年には名目GDPの8%であった企業のキャッシュフローは、現在16%にまで上昇している。にもかかわらず、企業の設備投資は1980年と同じGDPの8%にとどまっている。つまり、企業の過剰貯蓄(キャッシュフローと投資の差)は、GDPの8%という驚異的な水準にまで達している。

 

企業は、消費税の大幅減税の財源として、利益に対する課税を引き上げるための十分な余剰資金を保有している。1990年当時、企業の利益はGDPの8%に相当し、その半分が法人税として政府に納められていた。つまり、法人税収はGDPの4%だった。

 

2023年には、賃金抑制によって企業の利益はGDPの17%近くにまで倍増した。しかし、政府は法人税を引き下げ、法人税率は最高52%から31%にまで引き下げられた。その結果、法人税収はGDPのわずか2.5%にまで減少した。

 

もしこの減税がなければ、現在の法人税収はGDPの8.5%になっていただろう。これは6%ポイント高い水準だ。これは、過去10年間の平均的な財政赤字GDPの5.3%)を解消するのに十分な額だ。あるいは、消費税を完全に廃止し、確実に引き下げるのに十分な規模と言える。2023年のGDPの6%は36兆円に相当する。同年の消費税収は30兆円だ。

 

それでは、なぜ野党は誰も、企業の利益に対する最高税率を52%から31%に引き下げた法人税減税の撤回を求めないのだろうか?

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「消費税で家計が疲弊し、企業は利益を貯め込む」知日派ジャーナリストが嘆く日本の残念な状況 2025/05/20 東洋経済 リチャード・カッツ

https://toyokeizai.net/articles/-/877659

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カッツ氏の主張は、次のように要約できます。

 

「消費税増歳+法人税減税」=>「実質所得の減少(結果)」

 

「実質所得の減少(原因)」=>「経済成長の停滞(結果)」

 

「実質所得の減少(原因)=>出生率の低下」という因果モデルと組み合わせれば、次になります。

「消費税増歳+法人税減税」=>実質所得の減少=>出生率の低下

 

実質所得の減少は、媒介因子です。

 

カッツ氏の反事実を考えれば、次になります。

 

「消費税減税+法人税増税」=>実質所得の増加=>出生率の増加、あるいは、経済成長

 

日本企業が、政治献金をして、法人税減税をしていることは理解できます。

 

しかし、この方法では、日本の人口がなくなります。

 

日本の人口がなくなれば、企業もなくなります。

 

この方法は、SDGsを無視しています。

 

資金と人材の日本からの流出が止まらなくなります。これは、既に、始まっています。

 

企業の経営者は、富裕層なので、日本から脱出すればよいと考えている可能性があります。しかし、そのアイデアは、株主利益を無視していますので、資本主義ではありません。