1)リスクの計算方法
JA出身の野村元農相の発言がネットで炎上しています。
利害関係者の発言には、既得利権を温存したいという意図があります。透明性のない発言を、報道するマスコミには、責任があります。
少なくとも、この発言は、利害関係者の者であるというコメントを付けなければ、報道の中立性が成り立ちません。
さて、野村元農相の発言問題は、共感の論理(段落の論理)になっているので、問題解決とは関係がありません。
そもそも、問題の「問い」が提示されていないので、議論は、全く進みません。
リスクは、条件付き確率です。
リスクの評価は、条件付き確率を計算することで求められます。
この条件設定、つまり、シナリオがないとリスク評価の計算ができません。
個別のシナリオは、「問い」に対応します。
2)不作シナリオ
1993年の不作に対応して、19994年には、200万トンのコメを輸入しました。
不作が、冷害の場合には、作況調査によって、かなり前から、収量減が予測できます。
つまり、時間的な余裕があります。
備蓄米の購入計画がある場合には、それを中止すれば、市場の供給が増えます。
また、19994年のように、冷害の場合には、備蓄米がなくとも、コメを輸入することで、対応することも可能です。
つまり、冷害対策の食料不足のためには、備蓄が必須の条件ではありません。
3)台風、地震シナリオ
台風の水害、風害、塩害で、収量が減ることがあります。
しかし、台風の被害は、局所的であり、日本全体の需給バランスにあたえる影響はほぼ無視できます。
地震シナリオも同様に、局所的です。東日本大震災は、過去最大規模の地震災害でした。しかし、田植えの調整は可能でした。
東日本大震災は、3月に起きました。
6月から8月の間に地震が起これば、収量が減る可能性があります。
とはいえ、その影響は小さいので、冷害シナリオに対応できれば、問題はありません。
JAのある専務理事は「備蓄米の定義は、何かあったときのためのものではないのか」「これだけ放出すると、去年夏のように南海トラフが危ないという話になったらどうするのか。本当に起きたらどうするのか。備蓄米はもうない、となる」と震災時の備えに関して不安を漏らしています。
しかし、マスコミは、確率計算のできない人の話を掲載すべきではありません。
地震の場合には、冷害の場合と同じように、コメを緊急に輸入することで、リスクを回避できます。
地震の場合には、冷害の場合と異なり、準備の時間が短くなります。とはいえ、必要な量は小さいので、準備の時間の短さは問題になりません。
4)戦争シナリオ
スイスは、戦争に備えて、4か月分の小麦を備蓄しています。
この備蓄量は、カロリー換算で決めています。
戦時を考えて、石油を備蓄しています。
同様に、食料も、カロリーベースで、石油と同じ水準の備蓄が計画されています。
スイス流に、食料安全保障を考えるのであれば、石油と同じ水準の備蓄が必要になります。
農業は、石油がないと成り立ちません。なので、石油以上の同じ水準で備蓄をしても、意味がありません。
スイス流に、食料安全保障を考えるのであれば、コメだけをかんがえてもだめです。穀物全体のカロリーを考える必要があります。備蓄は、コメでも、小麦でも、トウモロコシでもかまいません。コストの安い手段を選ぶべきです。
スイスは、小麦を100%自給していませんので、備蓄小麦には、輸入小麦が含まれる可能性があります。
しかし、食料の安全保障の確率計算をする上では、小麦の由来は関係がありません。
食糧安全保障の確率計算では、備蓄量が問題になります。
コメの消費を800万トンとした場合、3か月で、200万トンの備蓄が必要になります。これには。小麦とトウモロコシの分は含まれません。
つまり、現在の100万トンの備蓄では、戦争シナリオの場合には、食糧安全保障には、ほど遠いことがわかります。
かりに、穀物のカロリーベースに占めるコメの割合が半分であると仮定すれば、100万トンでは、50/800=1/16年分=22日分の備蓄になります。
スーパーや家庭にも、1週間分のストックはあるので、その3倍、合わせて30日分のストックになります。
5)需給バランス予測シナリオ
需給バランス予測を間違えると、食料不足になります。
今回は、この可能性が高いですが、このリスク評価は、無視されています。
6)外貨不足シナリオ
外貨があれば、食料を輸入できます。
農家は、輸入した肥料と農薬を使うことができます。
外貨が不足すると、この2つができなくなります。
これは、極端な円安になれば、実現します。
その場合には、食糧安全保障は崩壊します。
これは、高度経済成長前の日本です。
外貨がないので、食料の自給率は100%でした。
食糧自給率は、食糧安全保障とは無関係です。
確率は、直観には反します。
これは、賭博場が、利益をあげられる原理になります。
7)まとめ
筆者は、以上の検討が正しいとは主張しません。
筆者は、食糧安全保障を達成するためには、以上のように、シナリオベースの確率計算(リスク評価)が必要であると考えます。
以上より、マシなシナリオを考えることは可能です。
しかし、シナリオなしでは、リスク評価はできません。
数学のない文系の推論は、破綻しています。