1)コメの備蓄制度のシミュレーション
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食糧法の発足時(1995年)のコメの備蓄制度の備蓄水準は、作況指数を元に計算しています。
ステップ1:戦後の不作(作況98以下)の平均92
ステップ2:総需要量1000万トンx(1-0.92)x2=160万トン=>150万トン
※生産調整が始まったS46-H4の作況指数の標準偏差5(50万トン相当)
食糧法発足時における備蓄運営は、それまで以前の平均的な不作が2年連続しても円滑な供給が行えるよう、150万トンを基本として、豊凶等による需要変動に対応し得るよう、一定の幅(プラスマイナス50万トン)をもって運用することとされた。
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「作況指数の標準偏差5」は、作況指数の標準偏差(1σ)を求めたら、5になったいうことと思われます。総需要量1000万トンの場合、標準偏差5は、50万トンに相当するという意味であると思われます。
標準偏差5は、総需要量1000万トンの場合、正規分布近似があてはまる場合には、総需要量が、66%の確率で、950万トンから1050万トンの間に分布することを意味します。
需要変動に合わせて、備蓄の購入量と供給量を変動させた場合、その操作は、中期的な需給バランスに対して、中立(連続条件を満足)です。
流体の物理モデル、流体と同じようにフローを扱う経済モデルでは、連続方程式をと運動方程式を解きます。経済モデルの均衡モデルには、時間の概念がありませんが、フロー(移動量)を扱うので、運動方程式に相当します。お金のフローでは、お金の保存則が前提になっているので、連続方程式(連続)が成り立っています。
備蓄の購入量と供給量の変動は、フローの計算になりますが、ストック量については、連続条件が成り立っている前提があります。
保険は、基本的には、手数料を除けば、掛け金と支払いが等しくなります。
資金の余裕のある人は、手数料分だけマイナスになるので、保険に入るメリットはありません。ただし、イベントの確率が低く、損害が大きな場合には、手元の資金では対応できないので、同じようなリスク対策の希望者を集めて、保険を組みます。
この変動をならす保険の効果は、(プラスマイナス50万トン)になります。
前回、筆者は、次のように書きました。
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コメの需給バランスの変動の要因は、主に3つあります。
第1は、作況指数の変動です。
第2は、収穫面積、あるいは、近似としては、作付け面積の変動です。
この変動は、政府が減反率を変更することによる変動と、減反指示の達成率の変動に分かれます。
第3は、需要の変動です。
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食糧法の発足時(1995年)のコメの備蓄制度の計算は、第1の作況指数だけを問題にしています。
作況指数は、第2の作付け面積の変動を反映していませんので、収量にはなりません。
以下では、作況指数が収量であるという単純なモデルの思考実験をします。
単純化して総需要量1000万トンが変化しない短期の範囲を扱います。
1000万トンが、作況指数100に対応すると考えます。
こうすると、指数1が、10万トンになります。
ここで、備蓄操作のシミュレーションをしてみます。
目標は、作況指数を100に調整すること、つまり、作況指数にかかわらず、コメの供給量1000万トンに制御することです。
これは、生産量が1000万トンをこえる場合には、超過分を備蓄します。
生産量が1000万トンを下回る場合には、不足分を放出します。
コメの収穫は、10月末には終わるので、1年の区切りを10月31日と11月1日の間に設定します。
また、使用する作況指数は、前年のものになります。
また、調整の目的は、作況指数の変動をならすことにあるので、購入したコメは、次の年には、全て、売却します。そして、調整分を補正した新米を購入します。
図1が、シミュレーションの結果です。

検討年は、1995年から2009年です。1994年は、1993年の冷害の影響で、備蓄はゼロになっています。
作況指数は、実際の値をつかっています。
1995年の作況指数は、109でした。作況指数を100に補正するために、指数9分に相当する90万トン備蓄を増やします。
同様に、1996年の作況指数は102でしたので、指数2分に相当する20万トンの備蓄を増やします。
1996年には、1995年に購入した1994年産米が90万トンあります。この1994年産の90万トンは、1996年に売却します。これに合わせて、備蓄量が、20万トン増えるように、1995年産のコメを110万トン購入します。
15年間のシミュレーションで、備蓄の最大量は、250万トンになります。
政府の計画は、「ステップ1:戦後の不作(作況98以下)の平均92」を使っています。
図1では、(作況98以下)の平均は、96です。
また15年間の作況指数の平均は、100.56です。
つまり、作況指数100を基準にすると、バイアスが生じます。

とはいえ、図2にみるように、作況指数が増加傾向にあるとは言えません。
2)作況指数

図3は、作況指数と単収の関係を示しています。
単収は、毎年増加していますが、作況指数は、変化しません。
つまり、作柄に伴う毎年の単収の予測は、次式になります。
単収 = 平年単収 X 作況指数
この平年単収と作況指数は、毎年更新されるベクトルです。
引数に、西暦z年を使えば、次のようになります。
単収(z)=平年単収(z)X作況指数(z)
作況指数の計算の手法は、昭和54年以降の実反収について、気象要因による年次効果を除去し、平年並みであった場合の単収に補正した上で、これを滑らかな曲線で結ぶことにより近年の趨勢を表現するスムージングスプライン方式です。この方法は、1997年産から採用されています。

図4に見るように、スムージングスプライン方式は、平均値と異なり、連続条件をみたしません。
「作況指数の標準偏差5」は、作況指数が、中立でないと成り立ちません。
食糧法の発足時(1995年)のコメの備蓄制度には、アルゴリズムの記述がありません。スカラーとベクトルの区別もありません。
つまり、完全な理解は不可能です。
連続条件を満たすためには、備蓄米のアルゴリズムと、減反のアルゴリズムが、協調する必要があります。
この条件が満たされなければ、備蓄米制度は、破綻します。
実際に、2年目になると破綻が明らかになります。
しかし、破綻の原因の分析では、連続条件やスカラーとベクトルの区別がないので、実現可能な解に達することはありません。この状態が、30年続いています。
次回は、実際の政府のオペレーションのデータをみます。
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水稲収穫量調査のしくみ
https://www.maff.go.jp/hokuriku/stat/data/attach/pdf/suitoukanren-14.pdf
お米のはなし No.54 2021 年 2 月 26
https://www.jaicaf.or.jp/fileadmin/user_upload/publications/FY2020/okome54_210226.pdf
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