コメの価格をさげる方法(8)

1)統計学の言語

 

コメの備蓄制度を少し調べて、頭を抱えています。

 

問題点は、EBPMに似ています。

 

EBPMのエビデンスは、因果推論の世界の証拠になります。

 

これは、統計学で、RCTを使う場合と因果推論の科学に限定された概念になります。

 

エビデンスを理解するには、数的言語が使える必要があります。

 

パールは、ルービンの反事実モデルを因果推論の科学のp.412で説明しています。

 

その式は、Yx(U)です。

 

積分記号のような見慣れないものは、出てきません。

 

反事実モデルでは、Yx(U)という表記に、どのような事実を対応させるかという説明が他にあります。この表記は、その説明が理解できているという前提で使われます。

 

その説明では、反事実の概念が出てきますので、反事実が理解できないと、Yx(U)は理解できません。

ところが、巷には、統計学の言語や因果推論の言語を持たない人が、自分の知識の範囲で、エビデンスを理解したと考えて、説明した文書があふれています。

 

そもそも、解説を書いている人は、理解していないので、説明は曖昧です。

 

こうしたレベルの文献は読めば読むほど、頭が混乱します。

 

コメの価格について考える為には、統計学の数式言語の理解が必要です。

 

この場合でも、問題は数式の記号にあるのではなく。背景の概念の理解が必要になります。

 

2)言語と問い

 

備蓄米制度は、コメの安定供給を目的としています。

 

この問いに答えるためには、安定供給を数的言語で表現できる必要があります。

 

表現できないものは、考えることができないからです。

 

しかし、コメの備蓄制度には、数的言語(問いを表現する数式)がありません。

 

パール流に言えば、言語がなければ、「問い」をたてることができないので、考えることができません。

 

政治家は、コメについて、いろいろな発言をしています。

 

数的言語で問いを表現できる政治家はほとんどいません。

 

政治家の発言は、利害関係者として、利権をまもるためには、何をしたいかを主張しています。

 

しかし、その政策を実施した場合に、何が起こるかは理解していません。

 

介入によって何が起こるかを予測するためには、因果推論の科学が必要です。

 

因果推論の科学は25年前には、存在しないも同然でした。

 

因果推論の科学の数的言語をつかった「問い」をたてることができれば、政策を実施した結果何が起こるかを検討することができます。

 

しかし、政治家は、「問い」をたてることができていませんので、何が起こるか理解できないはずです。

 

「問い」を立てるためには、数的言語を使う必要があります。

 

世界で、日本にしかない文系は、数学が不要であると考えています。

 

大手の経済新聞の社説ですら、経営では、哲学が大事といったトンデモない論調が主流です。

 

考えてみてください。

 

ミサイルを発射した時に、ミサイルがどこに飛んでいくかを予測するためには、微分方程式を解くことが必要です。

 

哲学があっても、ミサイルの軌道を予測することはできません。

 

数的言語が理解できなければ、「ミサイルはどこに飛んでいくか」という問いをたてることができません。「ミサイルはどこに飛んでいくか」という問いは、数式と初期条件と境界条件を持っていれば、解くことができます。

 

日本語で、「ミサイルはどこに飛んでいくか」と書いても、これでは、解くことができる「問い」にはなりません。

 

人文科学の博士課程の卒業生には、就職先がありません。

 

人文科学の博士課程の卒業生は、高度人材だから、採用しないのはけしからんという人もいます。

 

しかし、数学を使わない人文科学では、「問い」を立てることができないので、まっとうな推論をすることができません。

 

日本には、文系という区分があるので、数学を使う人文科学は、絶滅危惧種になっています。

 

話を戻します。

 

日本では、法度制度と段落の論理が蔓延しています。

 

その結果、数的言語ができないので「問い」をたてることができず、何が起こるか理解できない人が、利権の主張を繰り返すニュースばかりが拡散しています。

 

3)マスコミの報道

 

最近のマスコミの報道を眺めてみます。

JAがコメ高騰の主因か 農水省と自民農林族の「トライアングル」元凶 山下一仁氏に聞く 2025/05/22 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/ef699b34c040eabf8fe228d7e58e3365f712eef9

 

JA農協は小泉進次郎を鼻で笑っている…「備蓄米5㎏2000円を目指す」コメ担当大臣でも値段は下げられないワケ 2025/05/25 Presidnt 山下一仁

https://president.jp/articles/-/96113?page=1



コメ価格高騰「われわれも想像できず」JA全農担当役員が会見 備蓄米流通「極力短く」2025/05/21 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/07e9c88ec28f98035b0bb0c8c4c7f48a43614f8f

 

「コメ価格2倍高騰」の裏に“JAの政治力”。元日銀副総裁が明かす「減反政策の真実」と1700万トン生産の可能性 2025/05/21 SPA

https://news.yahoo.co.jp/articles/c336e5e53ed6f9c6e982bde321bad5c0538965be

 

成田悠輔氏 コメ騒動は「日本のオウンゴール」「何やりたいのか意味不明」 2000円台「根拠ない値段」2025/05/25 スポニチ

https://news.yahoo.co.jp/articles/9897a401a4b5a46f5388215c2ce5f93e249253eb

 

備蓄米を放出したのに高すぎる…コメ価格高騰がいつまでも終わらない根本原因 2023/05/23 東洋経済 岩崎 博充

https://news.yahoo.co.jp/articles/354c6ad487c44a3787e76f622cec47a591ce8580?page=1

 

第1に、コメの需給バランスの話と価格の話が混乱しています。

 

コメの供給は、年単位です。コメの需要は、人口、可処分所得の影響を受けますが、こちらも、短期には、あまり変動しません。

 

需給バランスに大きな変化がなくとも、価格は変動します。

 

しかし、この変動は、ノイズなので、フィルターをかければ、取り除くことができます。

 

政府とJAは、価格の変動は、需給バランスではないと主張していましたが、変動が長期傾向になっているので、流通の問題である可能性はほとんどありません。

また、因果関係で考えれば、ノイズの大きな価格ではなく。需給バランスを最初に問題にすべきですが、実は、信頼できる需給バランスはありません。

 

小泉農相は、需給バランスはわからないという一方で、備蓄米の放出を急いでいます。

 

しかし、今までの政府とJAの説明は、価格の変動は、需給バランスではないという主張でした。

 

筆者は、この主張は誤りであると考えますが、仮に、需給バランスが十分な状態で、備蓄米を大量に放出すれば、価格の暴落がおきます。

 

筆者は、そのようなことは起きないと考えますが、仮に、備蓄米を大量に放出すれば、価格の暴落がおきないと考えているのであれば、需給バランスが十分であるという説明を信じていないことになります。しかし、小泉農相は、そのような発言をしていません。

 

山下一仁氏は、「ミニマムアクセス米77万トンのうち主食用米10万トンの輸入枠を30万トンなどと拡大すること」といいますが、この30万トンには根拠がありません。

 

山下氏だけでなく、全ての専門家は、データがなくとも、正しい政策が分かる神通力がないと、マスコミに呼ばれないように見えます。

 

第2に、データに基づかない発言に疑問を提示した点では、 成田氏悠輔の「コメ騒動は日本のオウンゴール。日本が何をやりたいのか意味不明」は、まともな発言、パラグラフの論理に基づく発言です。

 

議論をする前に、「日本が何をやりたいのか」という問いが必須になります。

 

需給バランスが足りない場合には、備蓄米レベルの30万トンで十分な効果がでない可能性があります。

 

岩崎博充氏は、議論されているコメ価格の高騰の原因を列挙しています。

 

■コメ価格高騰のメカニズム

 

 これまでの報道では、2024年の夏以来、コメの供給量が不足し、コメ価格が高騰したとされている。統計から推測すると、少なくとも昨年11月から17万トン、茶碗26億杯分のコメが市場に出回らずに「行方不明」になっているという。コメの価格は需要と供給によって決まるとされ、コメ不足の背景には何があったのか。

 

 簡単に要約すると、次のような要因があると言われている。

 

  • 2023年産のコメは、実質的な減反政策と異常気象で約40万トン不足した。

 

  • 2023年に収穫されたコメは24年に消費されるのだが、スーパーからコメが消えたため、2024年8〜9月にかけて24年に収穫されたコメを「先食い」して凌いだとされる。その結果、2025年1月の時点で、民間のコメ在庫量は43万〜44万トン減少することになった。

 

 

  • 備蓄米の放出に際して、JAに依存したため、備蓄米の流通に支障が出た。

 

恐ろしいことに、これらの原因で、データをもとに、確認がとれたものは、1つもありません。

 

政府とJAは、価格の変動は、需給バランスではないと主張していていますが、政府の需給バランスの推定計算の精度は、一度も検証されていません。ここには、推定精度の概念がありません。

 

4)備蓄米制度の問い

 

根拠のない主張を引用しても、不毛なので、まずは、自分で考えるところからスタートします。

 

そもそも、コメの備蓄制度は、コメの価格ではなく、需給バランスに関する制度です。

 

コメの備蓄制度は、コメの需給バランスの変動を小さくするための制度です。

 

明示されていませんが、中期的には、コメの需給バランスは、差し引きゼロを中心に変動すると思われます。

 

中期的には、コメの需給バランスがプラスを続ければ、供給過剰で、コメの価格は暴落します。

 

中期的には、コメの需給バランスがマイナスを続ければ、供給不足で、コメの価格は高騰します。

 

したがって、消去法によれば、、中期的には、コメの需給バランスは、差し引きゼロを中心に変動する必要があります。

 

1993年の大凶作をうけて、1995年(平成7年)に食糧管理法を廃止し「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(食糧法)が施行され、コメの備蓄制度が発足しています。

 

つまり、このプロセスをみれば、コメの備蓄制度には、年単位の需給バランスを安定化させる目的があります。

 

正規分布が使える場合は例外ですが、統計学は、伝統的に正規分布を基本モデルに教育をしてきました。

 

また、人間の認知には、データのバラツキを無視しがちなバイアスがあります。

 

そこで、バラツキのある現象を正規分布でメンタルモデル化して、その後で、分布を入れ替えて、コンピュータに計算させる方法が常套手段になっています。

 

これは、効率的に考えるノウハウで、科学的に正しくはないので、テキストには書かれませんが、よく使われます。

 

以下は、正規分布ではありませんが、正規分布をイメージすれば、概要が理解しやすいです。

 

コメの需給バランスの変動の要因は、主に3つあります。

 

第1は、作況指数の変動です。

 

第2は、収穫面積、あるいは、近似としては、作付け面積の変動です。

 

この変動は、政府が減反率を変更することによる変動と、減反指示の達成率の変動に分かれます。

 

第3は、需要の変動です。

 

長くなったので、詳細は次回にしますが、要点を一つだけ指摘しておきます。

 

政府のコメの備蓄米の計画は、第2の要因を無視しています。

 

政府は、1971年から減反をしています。

 

コメの備蓄制度は、1995年に始まっています。1993年は、冷害の特異年でした。

 

コメの備蓄制度の参考になるデータは、1971年から1992年のデータです。

 

この時に、作況指数は、政策介入の影響がないデータとして扱われています。

 

実は、この仮定は間違いですが、その点は後で、考察します。

 

「収穫面積、あるいは、近似としての作付け面積」は減反政策の影響をもろに受けています。

 

このデータを使う場合には、減反政策の影響を補正した、減反政策がなかった場合の「収穫面積、あるいは、近似としての作付け面積」のデータを作成する必要があります。

 

なぜなら、将来の「収穫面積、あるいは、近似としての作付け面積」は、将来の減反政策の影響を受けるからです。

 

1971年から1992年の間の減反政策に対して、計画の減反率と、達成された減反率は一致しません。なので、減反政策がなかった場合の「収穫面積、あるいは、近似としての作付け面積」のデータを作成することは容易ではありません。

 

また、減反政策は、水田面積統計の信頼性を著しく低下させています。例えば、ある地区に減反が割り当てられた場合を想定します。その地区には、耕作放棄寸前の水田があったと仮定します。1990年頃までは、政治的にコメの価格が高く設定されていました。コメをつくればもうかるので、農家は実質的な減反率を最少にしたいと考えます。そうなると、減反は、条件の悪い水田に優先的に割り付けられます。ほぼ耕作放棄田でも、水田に登録できれば、減反面積にカウントします。こうなると、水田面積データの精度が低下します。

 

こうして、コメの備蓄制度の設計では、「収穫面積、あるいは、近似としての作付け面積」は、無視されました。

 

ほぼ耕作放棄田が、減反になっているかは、耕作水田と減反水田の単位収量の分布をみればわかります。しかし、政府は、すべてのデータを平均値でしか評価しないので、実態は表面にでません。

 

コメの備蓄制度は、スタート時点から、生産量(供給量)の正確な把握のできない欠陥システムでした。